女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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Ein Liebeslied(あいのうた)~Das ende~(2)

「…ごきげんよう、『ミス・ヴェロニカ・ラ・クォルヴァディス』」

衣装棚に隠れているユーフィアは、眼前で繰り広げられている光景が、信じられなかった。
キャミノが呼んだ、「友達になりたい相手」が…、まさか、あのヴェロニカだったとは。
まがりなりにも、一月前に、殺し合いの死闘を演じた相手だ。
…人違いではないのか?

奇しくも、部屋に入って来たヴェロニカの格好は、別人のように酷かった。
元々の眼鼻立ちが作る美貌と気品こそ失われていないものの、彼女らしからぬ地味な服装であり、髪の毛はボサボサで、目の下には露わなクマが出来ている。心なし、頬もこけているように思えた。

「ごめんなさい、わざわざご足労頂いて…。どうぞ、おかけになって」

キャミノは一礼をし、ヴェロニカに座るよう促す。
ヴェロニカは、物憂げな視線をそこにあったソファに投げかけ、無造作にボスッと座る。

「飲み物や、軽食なら今すぐにでも用意できますけど、いかがです?」
「…無用ですわ」
「分かりました」

キャミノが、パンパンと手を打つ。
すると、部屋の扉が静かに開いて、サルサが温かいダージリンティーを二つ持ってくる。
キャミノはそれをテーブルに置くと、椅子を持ってきて、テーブルを挟むように、ヴェロニカの真向かいに座った。

「今日は、本当にありがとう。わざわざ来て頂いて…」
「そんな挨拶も、無用よ。 そもそも、何のために私を呼んだの? 敗者の無様な姿を見て、勝者の愉悦にでも浸りたいのかしら?」
「ううん、そういう事ではありませんわ。もっと、別な用事です」
「…何ですか、それは? そういえば、貴女、まだ被害届を提出していないそうね? そのせいで、まだ私の裁判が始まらないのですけど…」

…何だってー!?
衣装ケースの中で話を聞いていたユーフィアは、一人派手にコケそうになった。
…キャミさん、さっき「被害届出した」って言ってたじゃん!
アレ、嘘なの!?

「…私から、弁明や謝罪の言葉でも、引き出したいのかしら?」
「?」
「私が土下座して謝罪すれば、被害届を出すのを止める、って言うんじゃないでしょうね」

何言ってんのバーカ、謝っても許す訳ないじゃない!
自分が何したか分かってんの!? 
乙女の肌を、傷ものにしといてどういう言い草よ、それ!?
…と、衣装棚の中のユーフィアは一人、心の中で人毒づいた。

「まさか、そんな事はしませんわ」

「なら、何で提出しないの!? 今日、私をここに呼んだのは、それ以外に考えられないじゃない!」
「歌姫として勝利して、闘いでも勝って…。 そして、今日ここで私のプライドまでも根こそぎなぎ倒した上で、牢屋にブチ込めば、さぞかし痛快でしょうね、キャミノ!!」

だが、キャミノは返事をしない。
静かに、ヴェロニカの目を見つめる。
すると、強気だったヴェロニカの瞳に、急に恐怖の色が入りこみ、怯えたように委縮する。

「ご、ごめんなさい、言い過ぎましたわ…」
「最近、あまり寝てないものだから、つい…。 ぶ、無礼な発言を許して下さい、ミス・キャミノ…」

まるで、借りてきた猫のような豹変ぶり。
それはそうだ。
現時点で本当に被害届を提出していないのなら、ヴェロニカの運命は、キャミノの気持ち一つで大きく左右される。
もしもキャミノが被害届に「自分たちは軽傷だった」と、万一にでも書いてくれれば、刑期は大きく短縮される可能性が高い。

…だが、反対に、キャミノを怒らせ「自分たちは殺される所だった」と書かれれば、30年、あるいはそれ以上の刑期となるのは間違いない。
彼女は確かに強気で誇り高い女性だが、プライドと自らの破滅とを同じ天秤に乗せるほどの愚か者ではなかった。

「さっきも言ったけれど、被害届の件で貴女を呼んだ訳ではないんですのよ、ミス・ヴェロニカ」

じゃあ、一体何なのだ、とヴェロニカは声に出さず訴える。
心なし、その瞳は泣きそうに潤んでいた。

「何から話せばいいのか…。ええと、そうね、まず、貴女をここに呼んだ目的なんですけど…」

「…はい」

「…私と、友達になって欲しいの」

…それを聞いたヴェロニカは、まるで魂が抜けたような表情をした。
衣装棚の中に居るユーフィアも、その表情を見て、思わずうんうん、と同意した。
ヴェロニカの顔に、コイツは果たして何を言っているのか、というセリフがありありと書いてある。

「…い、意味がわかりませんわ…。 私と友達に? どういうこと?」

全くその通り、1から10まで意味不明だ。
ユーフィアも、あんたコレ一体どういう事?ってキャミノを小一時間問い詰めたい気分だった。

「ミス・ヴェロニカ、貴女は、ギルドが調書を取った際、『キャミノとユーフィアを襲ったのは、私です』って内容の、加害届を書かされましたよね?」
「…そうです、その通りですわ。それが、何か?」

今さら確認するような事ではない。
キャミノとユーフィアを襲ったのは、確かにヴェロニカ自身ではないか。

「そうね、確かに、私たちを襲ったのは貴女…って事になってるわ」
「ええ、そうです」

しかし、次の瞬間、キャミノが妙な発言をした。

「…ですけど、もしも、私たちを襲った犯人は貴女ではなかった、としたら?」
「…は? 何をおっしゃってるの、貴女?」

そう返されると、キャミノは、しまったという表情で、天を仰いだ。

「あ、いや…。これは表現が悪かったわね、そうね、ええと…」

天を仰いだまま、必死に頭をフル回転させ、適切な言葉を紡いでいるようだ。

「…そう、これはあくまでも想像の域を出ないわ。 確証も何もないのを承知の上で言うけれど…」
「何ですか」

「…この事件を引き起こした、真の要因となる人物は、『ムッシュ・シエロ』ではありませんこと?」

…その瞬間、ヴェロニカの瞳に冷ややかな気がこもり、表情が心なし固くなる。

「…何を言ってるんですの、貴女は…。 ムッシュ・シエロが、この事件の何に関わっているって言うんです。 彼は、無関係ですわ」

「ごめんなさい、ちょっとニュアンスが違ったかもしれない…」
「えっと、そう、貴女が、私たちを排除する事を考えついたのは、ムッシュ・シエロが原因なんじゃない? 彼に恐喝されたか、何かの圧力があった、とか…」

ヴェロニカは、何も言わなかった。
キャミノは、その様子を見て、多分この推測は是である、と内心で確信し、言葉を続けた。

「あくまでも、実力で私を追い抜こうとしていた貴女が、物理的に私を排除しようとした心変わりの理由…」
「それは例えば『エトワール音楽祭までに、キャミノに勝てなければ、パトロンを止める』と彼に言われたんじゃないかと、私は推測するの」
「…面白い想像ですわね。 …なぜ、そう思ったんです?」
「ちょっと、違和感があったの」
「…違和感?」
「どうして、あの森丘で、いきなりヴェロニカさんが襲ってきたのかって事…。 あの時、貴女は、私を排除して自分が歌姫の女王になりたかった、って言ってたわね」

…だが、それにもヴェロニカは、返事をしない。

「…でも、私にはそんなイメージがなかったの。 だって、定例会の際に貴方は言っていたわ。『歌い手の誇りにかけて、私を追い抜いてみせる』と…。 そんな人が、殺人なんていう、安易な方法を選ぶかしら?」

森丘での激闘で感じた、ヴェロニカの恐るべき強さ。
彼女は、ハンターとして、地道な訓練を続け、あそこまでの強さに至ったのが嫌でも分かる。
自らを克己できる人間が、殺人という安易な方法を選ぶ…というのが、キャミノにとっては腑に落ちなかった。

「…選ぶかもしれませんわよ? その人の魂の拠り所が、お金や地位ならば、金のために体を鍛えたり、誰かを殺害する、というのもあるかもしれません」
「…あまり私をバカにしないで、ミス・ヴェロニカ」

その瞬間、ヴェロニカが、はっと息を飲む。
少し、キャミノは語気強く答えた。

「…貴女は、そんな人じゃない。 確かに、自己顕示欲は過ぎるかもしれないけど、貴女は、歌が何よりも好き、それが分かるわ」
「貴女こそ、ふざけないで! 私が歌を好きかどうかって、そんなもの、どうやって証明するというんです!?」
「見ればわかるわ」
「な…!?」
「…正直、他の事はあまり自信ないけど、私、歌の事なら、大抵の事はわかる、って自負はあるの…」

「貴女は、歌が好き…。」

「だから、そんな事で『女王』の座を得たとしても、きっと自身で納得しないわ」
「自分の歌が、本当に素晴らしいものかどうかを曖昧にしたままではいられないはず。違う?」

ヴェロニカは、まじまじとキャミノを見ていたが、やがて、眼を閉じると、がくりとうなだれた。

「…参りましたわね、貴女には…。」

だが、今度は彼女の方から質問があった。

「…でも、それは、ムッシュ・シエロが、私を恐喝したという理由には、なりませんわよね?」
「私は、確かに歌が好きですわ。 でも、それ以上に、地位を得る事に拘っていた…。 だから、貴女を襲いに来たのかもですよ?」

「…あまり自分を貶めないで、ミス・ヴェロニカ」

確かにこの二人は歌姫としての1位と2位であったが、その実力には天地の開きがあった。
それは、客の反応や表情を見るだけで分かる、歴然とした事実。

それは二人とも、暗黙に了解している。
この力関係は当分の間揺るぐ事はなく、すぐさま、何かのきっかけで簡単に覆ったりはしない。
それは当事者含め、関係者なら誰もが知っている事でもあった。
だからこそ、ヴェロニカもキャミノを格上の歌姫と認め、いずれ…と言ったのだ。

それに、さっきから、ヴェロニカは、自分が殺人を行ったという事を強調しているが、本来、この状況下では、殺人はリスキーな方法だった。
何故なら、1人で2人を倒さなければならないこと、うち1人は、一撃で戦闘力を奪わなければならないこと。
しかも、切り傷・刺し傷をつけてはならないし、ランスの不得意とする、打撃だけで相手を殺しきらなければならない。
ちょっと考えれば、これだけのリスクを負うのは、あまりにも不具合に過ぎる。

それに、何もせず、療養所のベッドで寝ているだけで、解毒剤はキャミノが持ってくる。
それで状況は以前の状態に戻るし、万一、キャミノ達がG級特例申請で死亡すれば、ヴェロニカにとっては万々歳。

…つまり、普通に考えると、ヴェロニカにとっては、殺人を行うメリットが、殆どないのだ。
そう、彼女の本来の望みは、殺人ではなかった。

では、何故このような突発的な事件が起こったか?
それは、この二人の力関係を正確に理解していない、第3者の圧力があったからでは。
そして、それに最も該当する人物と言えば、ムッシュ・シエロ以外には考えられない。

…それがキャミノの推理の根拠だった。

「…半分当たりで、半分外れですわ」

ヴェロニカは、うなだれてソファにもたれかかりながら返事をする。

「…半分?」
「私は、貴女の想像するような、そんな立派な人間ではないですわ、ミス・キャミノ…。」

「…シエロに、貴方の想像どおりの圧力をかけられた事は確かですけど、その原因を作ったのは私です」
「貴女とネコ狩りに行った際、私は「疲労玉」を持ってきていましたわ。…隙を見て、貴女の声を奪おうと思いまして」
「…そもそも、オオナズチが出るクエストを選んだのも、私ですもの」

…疲労玉? だが、森丘でキャミノが喰らったものと違い、あの疲労玉は、効果が長時間続いた。
「…あれは、リオレイア亜種の毒をブレンドした、改良型ですの。『アイテム使用強化』の効果が付属されてますから、一か月は声が戻りませんけど、代わりに、時間が経てば自然治癒しますわ」

「…疲労玉を使おうと思ったのも、誰かの差し金?」
「いいえ…これは、私の意思です。 結局、私は、単に女王になりたかっただけなんです」

「…でも、一度だけで良かった」
「貴女は、エトワール音楽祭で新曲を作る気はなさそうだったし、解毒剤である『霞龍の塵酒』を作るのは容易でした、私は」
「一度だけでいいから、貴方にはお休み頂いて、私が栄光のスポットライトを浴びる…。」
「…その後に善人面で、貴女に『苦労してギルドから購入した』薬を持ってきてあげて、代金を頂き、『天使の詩』にも感謝される…、そんな段取りだったんです、最初は」

「ですが、状況を中途半端に知ったシエロは、激昂しましたわ…」
「私の声が出なくなって、貴方の声だけが元に戻った…」
「私のパトロンであったシエロは、大損だと言って、貴方の想像どおり、パトロンを降りると言ってきたんです」

「…魔が差したが故に、私は全てを失いそうになりました…」

…これでようやく、合点がいった。
先に自分だけが声が戻り、薬を持ってくるから…って事でヴェロニカに謝罪に行った時、彼女は、キャミノの想像を遥かに超えて怒った。
歌姫なら、少しなりとも、自分の声が戻る事を喜ぶはず。
事実、キャミノはそうだった。

だが、あの時のヴェロニカに、そんな様子は全くなかった。
それは、あの声が出なくなる症状を、自分が引き起こしたものだと知っていたから。
自分で治せる症状なら、キャミノが別に薬を持ってくると言った所で、どんな感慨も起こるまい。

そして、あの異常な怒りっぷりは、運命の逆風が、自分へ吹いてきた事への八当たりだった。
あの時にこそ、ヴェロニカは、シエロから歌姫としての最後通告をなされたに違いない。

「そうです…。 私は、あの時、自分の掛けてきた全てが水泡に帰すと分かって、深く絶望しましたわ…」

歌姫として、全てを失うことになったヴェロニカ。
自分のめぐらした策が、全くの裏目に出て、どうしようと、毎日のように療養所のベッドでずっと悩んでいた。

自分が歌姫として復帰できる方法は、キャミノに勝つしかない。
しかし、「天使の詩」と称賛される、あの化け物じみた歌姫に勝つのは、不可能だ。

…どうすれば、どうすれば良い。
どうしたら、あの人に勝てるの…!?

「…そんな矢先、貴女は、口外を禁じられてるはずの、G級特例申請クエストに出る、と仰いましたわね」

「その時、私の心の中で、そっと悪魔が囁きました…」

あの無法地帯を上手く利用すれば、自分が女王になれる。
それしかない。
「天使の詩」と言われるキャミノを超えるには、彼女を殺害するしか、ないのだ…!!
全てを失うくらいだったら、この手を血に染めるくらい、何でもない…!!

ヴェロニカの告解を聞きながら、キャミノはその心情に、深く同調していた。
キャミノも、ユーフィアとともにオオナズチに挑んだ時、一度資材が尽きかけて諦めそうになった事がある。
あの時の、全てを失いそうになった時の気持ちと、涙を忘れるはずもない。

自分には、ユーフィアが居たが、彼女は一人あの絶望感に浸されていた。

「ごめんなさい…ごめんなさい!!」

ヴェロニカの声が、震える。
気丈な彼女が、自らの犯した罪に怯え、許しを求めている。

「そんな…。そんなつもりじゃ、なかったの!! ただ、ほんの少しだけ…、少しだけでいいから、夢が見たかっただけ…!!」
「許して…。 許して、キャミノ、フェルプンクト…。」

彼女はキャミノから顔をそむけ、決して泣き顔を見せようとしない。
だが、その許しを乞う声は、嗚咽と涙にまみれていた。

「…よかった」
「貴女の本音が聞けて、よかった…。 やはり、貴女は、私の最初の印象通りの人よ、ヴェロニカさん…」
「もう、貴女は怯えなくていい。 今日から、きっとゆっくり眠れるわ」

そういうと、キャミノは、テーブルの下から、1枚の羊皮紙を取り出し、サラサラと何事かを書く。
そして、それをヴェロニカの前に置いた。

…ヴェロニカの目が、驚きに見開かれる。

それは、事件の被害届。
だが、その内容には「キャミノとユーフィアは、襲われはしたが、2対1という数の利を活かして、無傷でヴェロニカを撃退した」と書い

てある。もちろん、既に署名済み。

「…あなたは、確かに私達を加害したけど、それで私たちが被害を受けてないのなら、事件にはならない」
「ギルドは、この内容に疑いは持つでしょうけど、内容は妥当だし、G級特例申請内で起こった事を、あまり引きずりたくはないはず…」
「高い確率で、この届は審査を通ると思うわ」
「…多分、貴女は長くても数年、良ければ、罰金刑くらいで済むわ」

ヴェロニカの全身が、衝撃に震える。
眼の前の出来事が信じられないかのように、眼の前の羊皮紙を穴が空くほど見つめていた。

「…ただ、これを出すには、条件があるわ」
「…条件!? 何? 何なの、それは!?」

「…私だけじゃなくて、ユーフィアさんにも、謝ってほしいの。 …できる?」

それを聞いたヴェロニカは、絶句する。
まがりなりにも、ヴェロニカが最初に殺そうとした当人だ。
書類の上では撃退された事になっていても、自ら犯した行動は消えない。
彼女にどんな謝罪をした所で、許されるはずもない。
だが…。

「…はい、もちろんです…!! 何年かかっても、何十年かかっても、彼女が私を許してくれるまで、謝罪し続けます…!!」
「…ありがとう。そして、もし、彼女から許しを貰えたら…。私と…ユーさんの友達に、なってくれる?」
「と、友達…ですか?」
「そう、友達。 多分、私と貴女は、歌姫としても、ハンターとしても、お互いを高めあっていける…そんな気がするの」
「だから、是非帰ってきてね。 ライバルが居ないステージは、何か物足りないから」

キャミノは、おもむろにテーブルのハンドベルを掴むと、衣装棚を見ながら、ちりんちりんと鳴らす。

「それで…いい?」
「はい… はい…!!」これは、ヴェロニカ。

…少し間があって、衣装棚から返事があった。

「…にゃーにゃー」

「…ありがとう」

ありがとう、ユーさん。やっぱり、貴方も素敵な人…。


「…お願いします」
「え?」

ヴェロニカが何事か言っていたが、気がユーさんの方に向いていたので、気が付かなかった。

「え、何? ごめんなさい、もう一度言ってもらえる?」

「私に…。」
「私に、何か罰を与えて頂けませんか…? お願いします」

「…罰って言われても、別に…。」

キャミノには、罰を与えるとか、そんなつもりはサラサラ無かった。
おそらく、この事件は偶発的なものではないか、と理解してからは、彼女の真意が確かめられればそれでよかった。
それに、彼女の気持ちが痛いほど分かった今となっては、ユーフィアはともかく、キャミノは別に彼女に恨みは持っていない。

「でも、私は、まがりなりにも、貴女を殺そうとしたんです…」
「それが、何も罰されないまま、貴女の温情で見逃されるのは、やはりおかしいと思うんです」
「貴女は、わざわざこの話合いの場を作って、私の気持ちを理解を理解して下さった。 その深い気持ちには、到底叶いそうにありません

…」
「でも、私の誇りに慈悲を掛けて頂けるなら、どうか、罰を」
「人から許されるだけでこの罪を済ませるのは、自分に我慢がならないんです」

温情ではない。
キャミノが、かつて犯していた自らの過ち。
他人から、声を掛けられることを、人と繋がっていると捉えていた傲慢。
自ら人と繋がる事を疎かにしていた事。
それを、彼女は自ら克服しなければならないと再認識した。

それを最も、求めるべき相手が彼女だったのだ。

だから、キャミノは、罰を与える代わりに、ヴェロニカに理解を求めた。

「…ミス・ヴェロニカ」

「はい」

「リオレウス…あの空の王は、何故あんなに気高い姿をしているのか、分かる?」

「は…? い、いえ…?」

「リオレウスだけじゃないけど、他の、この星に生きる生物全て…」
「彼らは、毎日のように他者を殺害して、喰らい、それを自分の血肉に変えている」
「…でも、そうでありながら、彼らの魂は穢れない」
「大空の王の、野生の魂は、どこまでも気高いまま…何故だと思う?」

ヴェロニカから、答えはない。
代わりに、キャミノが答えを継いだ。

「それは、彼らが他者の命を継いでいるから。 皆の命を、自らの命に継ぎ、自ら墓になることで、皆の魂と共にあるからよ」
「…誇りは、決して失われない。その血肉に、その者の記憶が刻まれているなら」

「ですが、ですが…! しかし…!」

「…分かるはずよ、貴女も…。 常に野生に立ち向かう『モンスターハンター』なら」
「だから、彼らの魂は、穢れない。そう、」

その時、風が吹き込み、カーテンが静かにはためいた。
夜気を含んだそよ風が、優しく二人の頬を撫でて行く。
その風は、あの青い…どこまでも青い、あの遠い空から吹いてきたものだった。

「…神は、誰も罰したりしないから」

<了>

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*Comment

はじめまして 

お邪魔します。

以前からこちらのブログは拝見しておりましたが、初めてコメントさせていただきます。

「Ein~」一気読みさせていただきました。すごくいいお話ですね。目から大量の汗が(ry

それにしても丼$魔様はすごいですね。怒涛のような更新頻度でありながら記事の内容はどれも密度が濃く、おまけにクオリティーの高い小説までアップしてしまう。すごい分泌能力、もとい文筆能力でうらやましい限りです。

これからも楽しみにしております。

では、また。
  • posted by キリロクブ 
  • URL 
  • 2010.03/15 16:18分 
  • [Edit]

NoTitle 

面白かったです。それ以外の感想が言えません!
素晴らしい物語をありがとうございました!

ああ・・・明日から何を心の糧に仕事を乗り切ればいいのか・・・
  • posted by 塩 
  • URL 
  • 2010.03/15 19:22分 
  • [Edit]

ご無沙汰してます。 

ギャラクシィです。

めちゃくちゃ遅くなりましたが、
「未知なる挑戦」の記事をブログに書きました。

良かったら読んで下さい。



NoTitle 

執筆(?)お疲れ様でした^^

とっても面白かったです!
色んなところで撒いてきた伏線も終盤でしっかり拾ってて、
「Ein Liebeslied」はとても良い作品だと思います。

次回作にも期待してます(ぉ
  • posted by Chara 
  • URL 
  • 2010.03/15 23:12分 
  • [Edit]

NoTitle 

完成お疲れ様でした。
これは是非書籍として手に取って読みたいですねえ。

レッツ有明!
ブースを取るのは任せて下さい( ^ω^)
  • posted by TAP 
  • URL 
  • 2010.03/15 23:38分 
  • [Edit]

お疲れ様でした 

こんばんは、そして小説完成お疲れ様でした。
オオナズチの疲労ブレスでチャット不可や、加勢してくれるチャチャブー等
MH好きなら思わずニヤリとしてしまうモノが上手く物語にマッチしていてとても印象に残りました。
毎日更新が楽しみでこれだけ物語に引き込まれたのはダイの大冒険以来ですw
次回作のガンナーのお話も楽しみにお待ちしてます!
  • posted by Sasaming 
  • URL 
  • 2010.03/16 01:53分 
  • [Edit]

NoTitle 

おおおおぉ!
素晴らしすぎる!

美しい話だ・・
しかも登場人物がすごく「人間」だ!生きている!

本当にお疲れ様でした!
  • posted by 者武 
  • URL 
  • 2010.03/16 03:45分 
  • [Edit]

NoTitle 

楽しく拝見させていただきました。

1話から改めて読んでみましたが
やはり面白かったです。

ありがとうございます。
  • posted by kiyo 
  • URL 
  • 2010.03/16 11:21分 
  • [Edit]

NoTitle 

丼$魔 様。

お仕事、更新お疲れ様です。
Ein Liebeslied 脱稿お疲れ様でした。
とても重厚な内容で、感激いたしました。

願わくば、次回作に期待したい我侭をw

乱文失礼いたしましたm(_ _)m
  • posted by mk 
  • URL 
  • 2010.03/16 13:14分 
  • [Edit]

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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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