女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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Ein Liebeslied(3)

そこは、あまりに寂しく、そして遠い世界だった。

今から遡ること15年前、キャミノは年端もいかぬ子供でありながら、戦災孤児として両親を失った。
孤児院にひきとられたため、餓える事こそなかったものの、両親を失った痛みで、心は砂漠のように乾いていた。

今でも、あの空の青さと、大地の翠を覚えている。
どこまで見渡しても、めいっぱい手を伸ばしても、遠く、一人だった。

寂しさを紛らわすために、キャミノは独り、歌を歌う事が多かった。
と言っても、彼女が知る曲は、父母に教えてもらったものと、孤児院で唄われる讃美歌との数曲しかなかったが。

…それでも、歌を歌えば、この悲しい現実を忘れていられた。
歌の綺麗な世界に没入している間だけは、孤児院のみじめな生活を思い出すことはなかったし、父母が歌っていた曲を追想していた時は、幻ではあったが、脳裏に生前の父母の姿がありありと浮かんだ。

母の作った、ケルビのミルクポトフは、例えようもなく美味しかった…。

曲が終盤に差し掛かるにつれ、脳裏の思い出も薄らいでいく。
意識が現実に立ち返るに連れ、亡くなった父母の事をどうしても思い出し、歌には自然と悲痛な感情が籠る。
もう届かない愛情を込め、幼いキャミノは歌を歌いきった。

彼女がふ、と一息をついたその時。
小さな拍手が鳴った。

髪を頭の横で結んだ少女が、こちらを見つめ、小さな手を必死に叩いていた。

「おねえちゃん、じょうず。うた、すごくじょうず…。」


それから時々、キャミノは時々、その小さな子に、歌を歌ってあげた。
レパートリーがないので、毎回同じ歌を歌うのだが、彼女は毎回顔を真っ赤にして拍手をしてくれた。
逆にこちらが毎回同じ歌で飽きないのかと思うほど。

いつしか、キャミノは、どうやったら歌が上手くなるかを考えるようになった。
同じ歌を毎日聞かされれば、普通飽きる。
でも、お母さんのミルクポトフみたいに、凄く美味しいのだったら、きっと毎日でも飽きない。

そう思うと、毎日の讃美歌の時間が、急に楽しくなった。
口うるさいシスターの指導が、まるで自分を導く言葉のように思え、積極的にシスターに教えを乞うた。
すると、シスターが徐々に自分を気にかけてくれるようになり、時には個人的に授業までもをしてくれた。

「おねえちゃん、じょうず! すごくじょうず!」

キャミノの歌に、その小さな女の子が拍手をしてくれる度、キャミノの心には潤いが戻っていった。
歌を歌うことで、誰かが喜んでくれる。
それが単純に嬉しくて、彼女は何度でも歌った。

気付けば、もう、空は遠くなかった。
頬をなぶる風も、この大地の草萌ゆる薫りも、自分を祝福してくれているように思えた。

そうだ…。 この子、名前なんて言うんだろう?
キャミノが問うと、その女の子は、たどたどしい発音で、自分の名を述べた。

「ゆーふぃあ…。ゆーふぃあ、いくすてぃんぐりぃ」



ギルドの療養所で、キャミノは眼を覚ました。
射し込む朝日と共に、脳裏に浮かんでいた、幼い日のキャミノとユーフィアの姿が、夢とともにかき消える。

夢か…。 
また随分と昔の夢を見てたのね、と思いベッドから体を起こす。
上半身を起こしたキャミノは、一息を吸い、胸に手を当てて発声してみる。

「ぐぇ…。」

相変わらず、喉から漏れるのは不快な呼吸音だけだった。

「あら、キャミノさん、お目覚め? ご飯はいかが?」

ヒーラーシリーズを着た看護師さんが、キャミノの傍に寄ってくる。
「すいません、お願いします」とキャミノが答えようとしたが、代わりに出たのは「ぐぇ…」という言葉だけだった。
看護師は苦笑しつつ、羊皮紙と彩鳥のペンをキャミノに寄こす。
キャミノはそれに「朝ごはんよろしくお願いします」と書いて返事をした。

ほどなく、食事がやってきたが、療養所の食事は全く美味しくなかった。
一人でもぐもぐやっていると、昨日、医師に言われた事が思い出される。


「…うん、やはり、これはオオナズチの毒だ。それに間違いない」
「だったら、何で声が出ないんですかッ!? オオナズチの毒で声が出なくなるなんて、聞いた事ないですよ!それに、薬も貰ったってのに、治らないなんておかしいじゃないですか!」

診察室で、イスに座って呆然としているキャミノと、激昂しているユーフィア。
カルテを見ながら、年輩の医師はその2人を諭すように言葉を続けた。

「いや、Dos時代のオオナズチはね、疲労ブレスにチャット不可の状態異常が付いてたんだ」
「チャ、チャット不可?」
「あ、いや失礼、医学用語だよ。古くから生きているオオナズチの中には、声すら出させなくする疲労ブレスを吐く物が居たんだよ」
「で、でもそれは分かっている事なんですよね?」
「もちろん。オオナズチがギルドによって発見されてから、この毒にやられる者は多かったが、当然解毒剤も開発された」

そこで、医師はキャミノたちに向きなおると、眼鏡をかけ直して言葉を続けた。

「だが…原因不明なんだ」
「原因不明?」
「オオナズチの毒は、前述したとおり二種類のが存在する。しかし、文献によれば、現在の製法の薬でどっちも治るし、そもそも、一日寝てれば回復する程度の軽い物なんだ」

だが、医師の説明に反し、キャミノは、実はもう1週間入院している。
その際に、解毒薬、漢方薬、元気ドリンコ、秘薬、いにしえの秘薬、いろいろな物を何度も試した。
それこそモルモットのように、いろんな薬をガブ飲みしたが、ここまで全く回復の様子を見せなかった。
最終的に、医師は別の毒なのではないかと疑ったが、検査の結果はやはりオオナズチの毒だった。

「正直、全て手は尽くした。後は…もう、君自身の回復力しだいだが、あるいは…。」

医師は、重く口を開いた。

「…もう、このままかもしれない」
「そんな!『天使の詩』の声が、もう戻らないかもしれないなんて…ッ!」


療養所の食事は、マズい…。
腹は減っているのに、キャミノはどうしても食欲が出ず、スプーンを皿に戻した。

エトワール音楽祭はあと1週間後だ。
それまでに何か、歌詞のストックでも作ろうと思い、さっき看護師に貰った羊皮紙に、いろいろなイメージの単語を書きつけるが、ロクな単語が出てこない。

「…ッ!!」

腹たち紛れに、キャミノは羊皮紙を丸めると、近くのゴミ箱に投げ捨てた。
いつも温和な、彼女にしては珍しい光景だった。

…自分でも分かっている。

キャミノ=フェルプンクト。
「天使の詩」の二つ名を持つ、この世界で最も有名なハンター。
しかし、彼女のハンターとしての能力は、お世辞にも一人前とは言い難かった。
彼女の住む城だって、ハンターとしての稼ぎではなく、歌姫としての稼ぎで手に入れたものだ。

…もし、このまま声が戻らなかったら?

彼女は、そんな想像をしてみる。
城にはまた100万z以上残っているが、金は嫌でも出ていく時には出ていく。
多分、ほどなくして彼女は、ユーフィアと同じように「必死に働いてなんとか口に糊する生活」をする事になるだろう。
とても今のように、優雅な生活を続けられるとは思えない。


それに…。
眼の前に看護師が通り過ぎたのを見て、キャミノは声をかける。

「ぐぇ…。」

しかし、看護師はそれと気づかず通り過ぎていく。
あるいは、もしかすると意図的に無視したのかもしれない。

会話にわざわざ紙とペンが必要なこの患者は、看護師からすると非常に面倒なだけの存在だった。
死ぬ心配はないのだから、キャミノの事は後回しでも良い。
彼女らは自然と他の緊急患者に手を掛ける。

最初の頃、かの有名な「天使の詩」が入院したという事で、彼女の回りには恐ろしい人だかりが居たが、彼女の声が聞けないどころか、意思疎通も満足にできないと分かってからは、彼女に話しかける人間は、恐ろしい勢いで減っていった。

そう、この2、3日ほど、彼女は殆ど独りで過ごしていた。

だからか…。
だから、孤児院時代の夢を見たのだろうか。
無力だった、自分に何もなかった時代の頃の夢を。
あの時、ユーフィアが自分に話しかけてきてくれなかったら、自分の才能はきっと目覚めないまま終わっていただろう。

…。

…そうだ、ユーさんはどうしたんだろう?

…逢いたい。

彼女に、逢いたい…。


キャミノがそう思ったと同時に、いきなりバーンと扉を開けて、ユーフィアが走りこんできた。

「ありましたよ!キャミさん、買ってきました!」
「…ぐぇ!?(ど、どうしたの、ユーさん!?)」
「えっへっへー。実はですね、ギルドの方にお願いして、すっごい良い薬を売ってもらったんですよー。これ、きっと効きますよー」
「ぐげげっ!?(えええっ!?)」

登場の仕方もかなり唐突だったが、話も急展開だ。
最近お見舞いに来なかったのは、その、キャミノの症状に効く薬を探していたせいだったのだろうか?
ユーフィアはキャミノに背を向け、背中に背負ったリュックから、ごそごそと何かを取り出す。

「ちゃ~らっちゃら~♪ はいどうぞ、これ」

自作のジングルとともに、ユーフィアはキャミノの目の前に、何やら紫色の液体が詰まった瓶を差し出した。

「…ぐげ?(…何これ?)」
「超凄い薬なんですよー。まぁ、騙されたと思って飲んでみて下さい」

ユーフィアの持ってくる物は、大抵信用のならない物が殆どなのだが、キャミノはその瓶の蓋を開けてみた。
…す、凄いアルコールの匂い!!
多分、何かを漬け込んだ薬酒なのだろう。
お酒は苦手なキャミノだったが、ここはユーさんを信じて、とりあえず半分だけ飲み下した。

…。

なんか、口の中がザラザラするんだけど…。

「…くく、かるこーるきくい…。(うう、アルコールきつい…)」
「やった!」

ユーフィアに言われて、キャミノも気づく。
カエルの様だったキャミノの声が、まだ完全ではないが、元に戻りつつあった。

「わ、かにこれくこい! かにこれ!?(わ、何これ凄い!何これ!?)」

慌てて、残りの半分を喉に流し込もうとするキャミノ。
褒められたユーフィアは無い胸を逸らして、えっへんと自信満々に説明を始めた。

「それはですね、『霞龍の宝玉』を砕いて漬け込んだ薬酒なんです。通称、『霞龍の塵酒』」
「へぇー…。こんなこんがあったなんて、くこい(そんな物があったなんて、凄い)」
「でも、すっごい高いんですよー。100,000zしました」
「!!」

…思わず、大事な薬酒を吐き出しそうになった。

「こ、こんなこ金、ここにかったの…?(そ、そんなお金、どこにあったの…?)」
「もちろん、キャミさん家の金庫から拝借してきました」

泥棒かッ!!

「…っていうか、100,000zって高過ぎない? ユーさん、以前もガノトトスとヴォルガノスを間違った事あったでしょ? ちょっと、金額確認してみて?」
「えー、金額間違ってないと思うんだけどなぁ…」

ぶつぶつ言いながら、ユーフィアは領収書の金額を確認するが、多分間違っている。
それは今までの経験から分かる…って、そういや、ユーさん、カエル声になってた自分と普通に会話できてたな。

「…あ、間違ってました、すいません」
「でしょ。0が多かったりするんじゃない?」
「あ、そうですー。0が1個多かったです、本当の値段は1,000,000zでした」

今度こそ、キャミノはぶほっ、と薬酒を吐き出した。

「ああ、勿体ない!! せっかく薬買ってきたのにッ!!」
「泥棒かッ!? 100万zだなんて、あたしの全財産ほとんどじゃないの!!」
「で、でも、ちゃんと声出るようになったじゃないですか! ほら!!」

そう言われて、キャミノは我に返る。
そういえば、以前のとおりの声が出るようになったような…。

「ああ、あーあー…。」

一通りの音階を出してみる。
声量こそやや小さくなったものの、以前と同じ質の声が出るようになった。
もしかしたら、あの吐き出した分がなかったら、完全に元に戻ったかもしれない。

「…! 出てる…! 声、出てるよ、ユーさん!」
「よかったですね、キャミさん」
「ありがとう、ユーさん…。おかげで、本当にホッとしたよ…。元気出たよ!!」

だが、ユーフィアは、首を振る。

…そして、キャミノの頬にゆっくりと右手を当て、ゆるやかに振りぬいた。
頬を張られた訳ではないのに、何故か痛みを感じたキャミノは、思わず頬に手をあてた。

「…まだです」
「…え?」
「何か肝心な事忘れてませんか、キャミさん」

そう言われて、急速にユーフィアの言わんとする事に気づく。

「…。 ヴェロニカさんの、事だね…。」
「…そうです。あの人もキャミさんと全く同じで、声を失ったまま、ずっと入院してるんですよ」

誰のせいか。
それは言うまでもなく、ネコ狩りなんてものを考えだした、キャミノのせいだった。
あのクエストに彼女を連れていかなかったら、喧嘩別れで一人にしなかったら、彼女は声を失う事など無かった。
幸いにして、自分は高価な薬で助かったが、彼女は…。

「ヴェロニカさんの所に行きましょう。キツイかもしれないですけど、体の回復したキャミさんは、そうする義務があると思います」
全く正論だった。

「…そうだね、分かったよ、ユーさん」

<続く>
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始めまして、丼$魔さん。
姫神と言います。塩さんのブログから、
このブログにとんできたわけですが、
文才がすごいですね。虜になっちゃいます。
小説もある分全て読ませていただきましたが、
俺もこんな小説を書きたい、と思うぐらいストーリー性がありました。
攻略記事も参考にさせてもらってます。
新人のガンサーである俺にとっては、すごく勉強になりました。
これからも頑張ってください。
(余談ですが、俺もブログを持っていて、このブログをリンクに追加させてもらったのですが、宜しかったでしょうか?)
  • posted by 姫神 
  • URL 
  • 2009.10/18 16:31分 
  • [Edit]

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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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