女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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Ende der welt(10)

絶望というものを形にするなら、まさに目の前のそれが最もふさわしいと思った。
轟竜ティガレックス。
しかし、眼の前に居るのはただのティガレックスではない。
骨と皮だけの、まるで骸骨のような巨躯、それにはまるで狩人たちの墓標の如く、剣や槍の残骸が突き立つ異様。
涎が溢れ零れる顎からは、臭気あふれる吐息が噴き出され、眼は爛々と輝いていた。

自分を捕食する喜びに震える色に。


この、異形のティガレックスは、雪山の生ある者全てを喰いつくす暴君だった。
オトモアイルー・リュウは、ご主人であるアスカの故郷を探して、一人雪山にやってきた所、不運にもこの暴君に捕捉される。
喰われまいとして何度も脱出を試みたが、その度にこのティガレックスは、自分を追跡してきた。
ここに来て、ようやっとリュウはその違和感に気づいた。

「(…こいつ、何で僕の事を正確に追尾できるんだニャ…!?)」

今まで座っていた岩陰が、ティガの攻撃で跡形もなく砕けた。
もちろんその前に脱出したが、ズキリとわき腹が痛む。

リュウはこのティガと対峙した際、脱出のために雪の中に潜ったり、閃光玉を使った。
普通はそれで首尾よく逃げられるし、事実、目の前のティガレックスも、一時は自分の姿を見失っていた。
だが、視界や目標の姿を失ってもなお、このティガは自分を追跡してきた。
つまり、視覚以外の何かを使い、自分の存在を感知しているのだ。

「(視覚以外って…何だニャ!?)」

眼の前で、ティガの雪弾が炸裂する。
雪山の麓に降りられる小道は眼の前にあるが、ティガレックスはそこに陣取っていて、決してリュウを出さない構えだ。
雪玉を飛ばして近寄らせず、距離を取らせた所で、ティガは再び突進してきた。

「うおおーッ! なんていやらしい奴ニャッ!!」

このティガは、自分を逃げ場のない頂上付近まで誘導しようとしている。
自分の、絶対強者としての圧力を武器に、リュウの望む逃げ道へ攻撃を加え、退路を断とうとしていた。

「(…そういえば、この雪山は、妙な形で地形が変わっていたニャ。それは、もしかすると、コイツが意図的に、地形を…)」

それが本当かどうかは分からないが、この雪山を揺るがすほどの突進、そして獲物は絶対に逃がさない執拗さから感じるに、あながちその思いつきも外れているようには思えなかった。
少なくとも、このティガレックスは、この雪山での「狩り」に慣れていた。

「…モンスターのくせに、ハンターを狩ろうなんて、生意気ニャ!」

リュウはふと策を思いつくと、全力で山頂への道を疾走し始めた。
逃げ出す事を考えていた獲物が山頂に向かうとは思っていなかったのだろう、ティガレックスの動きが一時止まる。

とにかく、少し時間が欲しい。
ティガレックスの執拗な攻撃を受けながらでは、考えもまとまらない。

「(視覚以外で僕を感知できるとなれば…。)」

いわゆる五感には「視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚」がある。
このうち、敵の捕捉に役立つのは「視覚、嗅覚、聴覚」で、視覚を失っても自分を追跡できるのであるから、残るは「嗅覚」と「聴覚」。
つまり、あのティガレックスは、臭いか音かで、自分の存在を感知している。
リュウはそう仮定した。

「(…僕、お風呂にはちゃんと毎日入ってたんだけどニャ)」

ご主人がネコ臭くならないよう、一応身だしなみには気を使っていたつもりだったのだが。
でも、相手はもはや理外の存在。
多分、自分にすら分からないほどの匂いを感知できる能力を持っているのかもしれない。

後の可能性は、音。
確かに、こっちの方は、自分の着ているどんぐりメイルがカシャカシャ音を立てている。
しかし、これも追跡されるほど大きな音とは思えなかった。
なら、あのティガレックスは、そんな小さな音でも聞こえる能力を有してる、という事か?

だけど…。
そもそも、この考えは、合っているのだろうか?
この雪山では、時々吹雪く。
普通、匂いも音も、吹雪の中では全くかき消されてしまう。
それでもなお、匂いか音かで、自分を追跡できるものなのか?

嫌な予感は消えてくれなかったが、でも、やるしかない。
戦場での躊躇は死に繋がる。

リュウは山頂近くに辿りつくと、例の穴倉に潜り込み、雪人形を作って自分の鎧をその人形に着せた。

「(…来た!!!)」

ティガレックスが予想より早く…というか、ある意味予想通り、自分の居るエリアにやってきた。
自分の居る穴倉の比較的近くに降り立った事から察するに、奴は本当に理外の能力を持っている。
しかし、厳密な位置までは特定できないのだろう。
もし、細かい場所まで分かっているなら、自分はすでにズタズタになっているだろうから。

リュウは穴倉の柔らかい所から雪の中に潜り込む。
奴が「匂い」か、「鎧の音」かで自分を感知しているなら、匂いの付いた鎧を脱いで影武者を作れば、どちらの問題もクリアできる。
さっきの例で考えれば、奴は穴倉の影武者に向かって攻撃を始めるはずだ。
その隙に、雪の中を潜って、この雪山を脱出する。
それがリュウの考えた作戦だった。

「(ぐっ、鎧なしで雪の中を掘り進むのは、かなり来るニャ…)」

新雪の中を装備なしで掘り進むと、毛皮が濡れ、体温が急速に奪われて手が痺れる。
しかし、悠長な事は言っていられない。
ティガレックスが影武者に攻撃をしている間に、山頂から脱出…いや、この雪山から脱出しきらなくては、自分が喰われてしまう。
リュウは、冷たさで痺れる体に鞭打ち、必死で雪の中を移動し始めた。

「…?」

そろそろ、影武者に対し、ティガレックスの攻撃が始まる頃だ。
雪の中では妙に足音も響く。
リュウはティガレックスが、穴倉まで歩いて行った足音は聞こえていた。
だが、攻撃をする様子がない…。

胸のうちに嫌な予感が膨れ上がり、リュウは急いで山頂を脱出しようとした、その矢先。

「バオオオオオオオオオーーーーーーーッッ!!!」

ティガレックスの天をつんざく咆哮が、轟音となって辺りに響き渡った。

「…!!!」

その音は、リュウの掘り進んだ穴にも反響して伝わり、まるで耳元でティガが吠えたかのように轟いた。
耳をふさぐこともできなかったため、あまりの音量に視界が反転し、失神しそうになった。
だが、間一髪意識を繋ぎとめると、リュウはがむしゃらに穴を掘り進み始めた。

失敗。
死。

そんな単語が、脳裏をかすめる。
本能的な恐怖に突き動かされ、リュウは必死で雪の中を掘り進んだ。
しかし…。

地鳴りとでも言えば良いのか、まるでこの大地が砕けていくかのような破砕音が、頭の上で次々に発生し、それがリュウの耳を直撃した。

「(~~~ッッッ!!!)」

先ほどの大音量が、連続して頭の中に鳴り響く。
猛烈な吐き気が込み上げ、眼の前が再び暗転しかけた。

「(…だ、ダメニャ!! もう、限界ニャッ!!!)」

がば、と雪の中から顔を出すリュウ。
幸いにして、ティガレックスは少し離れた所に居た。
雪玉攻撃を所構わず撒き散らしている事から、それがさっきの破砕音…万年雪を砕いた音だったのだろうと想像が付いた。

ティガレックスがこちらを振り向く。
リュウは、再度麓に向かって全力疾走し始めた。

「うおおお! ニャーッ!!」

息があがるのも構わず全力疾走する。
刹那、自分の策が何故成功しなかったのか?という疑問がわき上がるが、後ろから除雪車のように突進してきたティガの攻撃を避けるだけで精いっぱいだった。
再び、麓に降りる小道の前に、ティガが陣取る。

また、さっきと同じ状態になってしまった。
降り積もる雪のように、リュウの心をどんどん絶望が侵食していく。

「(な…何でニャ…。 何で、こうなるんニャ…? ご主人、僕は何を間違えていたんだニャ…?)」

アスカだったら、このティガレックスの謎をどう分析したものだろうか。
こんな時にも関わらず、楽しかったあの頃…。
モンスターを狩りに行くたびに、集会所で楽しく談義していた頃の事が思い出される。

「あたしは、……が弱点だと思うな」
…の部分は、当然聞こえない。

さっきと同様、ティガレックスはこちらに雪玉攻撃を連発、離れた所で突進。
なんとか攻撃を避けてはいるものの、徐々に息があがりはじめ、同時に体力が落ち始めた。
鎧を脱いだのが体力の消耗を速めているのだ。

脚がもつれ始める。
同時に、朦朧とし始める意識の中で、リュウはふと思っていた。

「(…何で、僕はこんなに必死になってるんだニャ…?)」

生きる意味を見失っていたのだ。
別にここで戦い敗れて死んでも、それはそれで、狩人として本望ではないのか?

「(嫌だニャ)」

何故?
自分の生きる意味、帰る場所、全て失っているのに?

「(あるニャ)」

すんなりと、心の中からその返事が出てくる。
ならば、どこに? どこに帰ると言うので?

自問自答の中、リュウは、心の中に一つの姿を思い描いていた。
それは、彼のご主人の姿。

帰りたい。
なんとかして、彼のご主人の元に帰りたい。
そもそも、喧嘩して必要ないって言われたからって、無駄にいじける必要などなかった。
理由を聞けば良かった。
自分の意気地のなさが、あんな事態を引き起こしたのだ。
だから、自分には勇気を振り絞って理由を聞かなければならなかったのだ。

「(ご主人…。もし、無事に帰り付けたら、もう一度謝らせてほしいニャ。許してくれるまで、ずっとずっと謝り続けるからニャ)」

眼の前を、さらに細かい雪弾が弾け飛ぶ。

「…ニャぐっ!!」

そのうちのいくつかが、体にヒットし、容赦なくダメージを与えてくる。
ティガレックスの膂力で放たれた雪片は、最早本物の散弾と同然の破壊力を有していた。
奴は、こちらの体力を絞り取った上で、なぶり殺しにするつもりのようだ。
徐々に、距離が狭まってくる。

「(死にたく…ないニャァ…。)」

絶望に浸された心の中に、ついに諦観までもが侵入し始めてきた。
刹那、思い出されるのは、懐かしいご主人との思い出。

「リュウ、お待たせ、遅くなってごめんね~」
「一体いつまで待たせるニャ! 今日はアカムとの決戦の日ニャよ!?」
「分かってるって! だから、きっちりと『ガンチャリオッツ』を整備してきたんじゃない!」
そう言って、思い出の中のアスカは自慢げに銀銃槍を見せつける。
「なら良いけどニャ…。 ところでご主人、アカムと戦う覚悟は決めたのかニャ?」
「もちろん。アレから一応練習してきたし、アンタも居るしね! 多分大丈夫よ!」

次々と、彼女との思い出が浮かんでは消えた。
温かい懐かしさと共に、悔恨の痛みが胸を締め上げる。

「(ダメニャ…。 やっぱり、死ねないニャ…。)」
「(だって…。僕は今まで、ご主人と心が通い合っていたって思ってたから…。)」
「(この思い出が嘘だったなんて、信じたくないニャ…。)」
「(こんな思いを抱えながらじゃ、死んでも死にきれんニャ…!)」

「ご主人…。」

ボロリと漏らした一言と共に、涙が出てくる。
眼の前では、ティガレックスが獰猛な殺気と雪玉を放ちながら、こちらの気力が尽きるのを待っている。
その姿が、涙で徐々に霞んできた。
刹那。

「…!!」

ついに、雪玉の直撃がリュウを捉えた。
氷と化した万年雪が砕けながら、リュウを吹き飛ばす。
リュウは人形のようにゴロゴロと転ばされ、動かなくなった。

「…!!」

かろうじて、意識はあった。
だが、全身が物凄い痛みに苛まれ、動く事ができない。
眼の前では、ティガレックスがこちらに来ようとしているのに、ピクリとも体が動かない。
自分の脚が吹っ飛んだのか、骨折しているのかすら分からない。

「(ああ…。)」

ティガレックスが、来る。
圧倒的な死の予感と共に。

「(…死にたく、ない…!!)」

リュウは、もつれる口を必死に開けて叫んだ。

「ご主人…。」

「ご主人、ご主人!!」

その懐かしい言葉を口にすると、もう止まらなかった。
涙が滂沱のように溢れ、押し殺していた最後の感情までもが流れ出た。

「たす…けて…!」

ティガレックスが、雪煙を上げながら突進してくる。
自分の体は、もうピクリとも動かない。
だけど、全ての力を振り絞って、あらん限りの声で叫んだ。

「…助けてニャッ、ご主人ッ! ご主人!!」
「ご主人ッッーーー!!!」

刹那、リュウの視界が光に包まれ、白く染まる。

これが、死か…と思ったその際、聞こえたのは、ガギンという鋼を打ち鳴らす音と、邪魔を受けた獣の怒号。

…? え?
もしかして…。 
…この光、閃光玉?

その考えを裏付けるように、徐々にリュウの視界が戻っていく。

その眼に映るのは、異国の衣装に身を包んだ女性と、よく見知った白銀の銃槍。
「エンデ=デアヴェルト」を装備したその人が、こちらを振り向き、にっこり微笑んで言った。

「リュウ、お待たせ。遅くなってごめんね」

<続く>
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*Comment

良いお話だ~ 

感動しますた( ;∀;)
  • posted by PECO 
  • URL 
  • 2009.08/15 21:14分 
  • [Edit]

はじめまして 

小説シリーズ胸にグッときました。
リュウに幸あれ

あ、いつも見てます。
  • posted by 餅太郎 
  • URL 
  • 2009.08/16 05:14分 
  • [Edit]

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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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