女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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リヴァイアサンズ・メルヴィレイ(27)

DATE : H27.1.23
TIME : 7:04
STID : 00941724


「恵方海苔巻き?」
「そう、コンビニバイトで、ノルマで15本売らなきゃいけないんだよ」

下宿での朝食の際、俺はちょうど同席したあかり姉に、昨晩の件を相談してみた。

「なぁ、あかり姉、よかったら買ってくれない? 1本500円。 何本でも良いから」
「いや、礼雄が困ってるのは分かるけど…」
「けど?」

そう言うと、あかり姉は罰が悪そうに俯いた。

「…」
「どうしたのさ、あかり姉」
「礼雄くん、あかりちゃんをあまり困らせないの」

そう言って、小夜子叔母さんが朝食のアジの塩焼きと味噌汁を台に並べていく。

「困らせるって、そんなつもりは…」
「ごめんね、礼雄。 今月、就職活動が厳しくて、手持ちが殆どないの…」
「そ、そうなの? じゃあ、そう言ってくれれば良かったのに…」
「だから、女の子に恥をかかせるもんじゃないよ、礼雄くん。 そこは察してやりなさい」

と、小夜子叔母さんがまたもそんな事を言いながら、お茶を湯呑みに注いでいく。

「ところで、その、恵方海苔巻きって何だい?」
「えっ? 小夜子叔母さん、知らないんですか?」
「毎年、テレビのCMではちょっと見るんだけどね」
「恵方海苔巻きは、つまり太い巻き寿司なんです。 でも普通の海苔巻きと違って、いろんな具が挟んであるんですよ。 それで、『恵方』って言う、その年のラッキー方角に向かって一本まるごと食べ終えると、その年1年が幸せに過ごせるんだそうです」

小夜子叔母さんは、俺の説明を聞くと、ふーんと腕組みをした。

「私も巻き寿司は好きだけど…」
「じゃあ、買ってくれます!?」
「自分で作った方が安上がりだし、私好みの味になるからね」

うぉい、と思わずツッコミそうになった。
いや、そんな話してないじゃん、叔母さん…。




「あかりちゃんは食べたことあるのかい?」
「一度だけ。 ピリ辛焼き肉の恵方海苔巻きを食べたことあります」
「焼き肉!? なんだい、巻き寿司とは言いながら、結構何でもあるんだねぇ」
「友達はカニとアボカドとワサビの奴を食べてましたよ。 カリフォルニアロールみたいな感じで、美味しいらしいですよ」
「あんなのが美味しいの!? う~ん、やっぱり若い子は感性が違うね~」
「回転寿司にもありますよ、今度一緒に試してみません?」

この後も、小夜子叔母さんと、あかり姉ちゃんの「恵方海苔巻き」を題材にした女子トークは、途切れないのが不思議なくらい、長々と続いた。

「…ごちそうさま。 食器、流しに置いときますね」

話の終わりどころが見えなかったので、俺は朝食をさっさとかき込むと、小夜子叔母さんとあかり姉に礼を言い、学校に行く準備をすべく、部屋へと戻る事にした。


DATE : H27.1.23
TIME : 12:18
STID : 00941724

今日は火曜日。
俺にとっては最もしんどい日だ。
何故なら、5限中4限を講義で埋めているからだ。

午前が必修の「マクロ経済学」と「福祉経済総論」。
午後から一般教養の「天体物理学」、と「英語」。

そして遂に、教授が試験の事を口に出し始めた。
大学の後期試験は、ウチの大学では2月10日あたりからなのだが、それ以前にレポートを提出させ、その内容で試験代わりとする教授も良くいる。

「福祉経済総論」の伊庭(いば)教授もそのクチだ。
今日の講義で、

「今日(こんにち)、現在日本の医療費及び介護保険料は、国の財政支出を逼迫(ひっぱく)させていると言えるほどに増大している。 現状を改善し得る方策として、終末期における在宅医療、認知症サポーターの増加と地域連携、二次予防事業対象者の早期発見と対策、特定検診の推進など様々な制度が導入されているが、これらの制度の今後の展望と、財政節減効果をより高めるにはどうすれば良いかを考え、それをレポート用紙10枚にまとめてきなさい」

というレポート課題が出た。
正直、もう何を言ってるのかすら分からない。

多分、講義ではこの内容を一つ一つかいつまんで説明し、なおかつ教授の私見も提示されていたはずだ。
つまり、授業で話されていた事をまとめるだけで、及第点に達するはずだ。

俺みたいに、ネトゲにハマってサボってたりしなければ。

「くっそ…。 誰か、ノート持ってる奴は居ないかなぁ…」

俺は教室を後にしながらそう一人ごちるが、残念なことに俺に学部の友達は殆ど居ない。
大学に入学した6月にデジ研に入部、あとはネトゲ三昧だったので、学部の友人は世間話をする連中が2~3人程度なのだ。

高校の時の試験は明瞭な回答があり、かつ途中の点数が悪かろうが、最終的に、模試や入試で良い点を取ればそれで良かった。
だが、大学の試験はこれという回答がなく、不親切で、なお悪い事に、一つ一つが進級に直結している。
単位が取れなければ、留年あるのみ。

「絶対、地元にゃ戻らないからな…。」

だから、試験も可能な限り落とせない。
教授が何言ってるか分からなくても、なんとかするしかないのだ。

「そうだ、先輩がノート持ってないかな」

南原先輩たちはどうだろう。
…まぁ、あの先輩たちが真面目に講義に出てる訳ないけど、誰かからノートを貰ってうまくやり過ごしている可能性はある。
それに賭けてみよう。

そう思った俺は、近くのコンビニでメロンソーダとチリドッグを買い、デジ研の部室へと向かった。


DATE : H27.1.23
TIME : 12:18
STID : 00941724、00060863、00053289、00122351


「おおー、無課金の勇者、レオくんのおでましでーす! はい、拍手ー!」

デジ研の部室に入るなり、南原先輩、西川先輩、東先輩から一斉に拍手され、俺は目を見開いて固まった。

「え…なんですか、皆さんも、ネージュ村の、あのイベントに参加してたんですか?」
「みんなROMだけだけどな。 賭けだけ参加してた」
「てかお前、課金しとけば、キリエ倒せたんじゃねぇの? しかし、流石に鶴羽の一番弟子だな~」

「…はは」

俺は何も言えず、ただ愛想笑いだけして、コタツの前に座る。

…何でこの人たち、イベントチェックしてたんだ?
先の街に居るから、ネージュまで戻るのは手間、って言ってたのに。

「礼雄、1万手に入れたんならさ、何か奢ってくれよ」
「俺は条助燕(じょじょえん)の焼き肉が良いなぁ」
「バーゲンダックのアイスクリームも良いな、あの業務用のクソデカい奴」
「バッカ、贅沢するんなら、駅前のラーメン三郎しかないっしょ! あそこのチャーシューメン、マジ旨いんだぜ!」

…なんだこの展開。
この人たち、マジで俺にたかる気なのか?

「あの、すいませんが、今日はその話じゃなくて、別にお願いが」
「おお? 何だよ? 何でも良いぜ、先輩方にドーンと言ってみたまえ、勇者レオよ」
「伊庭教授の、『福祉経済総論』のノート持ってませんか」
「…伊庭の? てか、今年のレポートのテーマは何よ?」

えっと、何だっけ…

「えーと、確か在宅医療とか、認知症対策とか、そんなでした」

すると、同じ経済学部の南原先輩と西川先輩は、共に渋い顔をした。

「悪い、じゃあ無理だ。 俺たちの時は、レセプト点検と診療報酬の合理化について、ってテーマだった」
「お前の学部の真面目そうな奴にお願いするしかねーな」
「いやぁ…そんな知り合い、居ないんですよ…」

だって、俺このサークルに入りびたりだったじゃん。

「てか、真面目に講義に出てればよかったろ」
「先輩がそれ言うんですか!? てか、南原先輩と西川先輩こそ、真面目に授業出てたんですか?」
「バッカお前、俺と西川が分担して授業出てたに決まってるじゃん」
「そう、俺と南原は2人で一人!」

ああなるほどね、お互いで計画的にノート補完しあってたのね。

「「合体変身! マスクドファイターW!」」

と言って、2人揃って日曜朝のヒーロー変身ポーズを取る。 うえに、俺に向かって謎のビームを発射してきた。

「はいはい」
「ってめ、Wナメんなよ! お前の食ったパン数えさせるぞ!」
「いや、俺本当に困ってるんですって! 誰かマジで知り合い居ませんか…?」
「バッカ、俺らのぼっち具合もナメんなよ」
「そうそう、横の繋がりとか期待すんな」

まぁそりゃそうだ。

「…いや、そんな簡単に納得されてもな」
「ま、そんな訳で、俺たちはお前の気分転換の役にしか立たない訳だ、勇者レオよ」
「はぁ」

「…で」

そこで、西川先輩の目が、僅かながら剣呑な光を帯びた。

「あのオリオンって奴、何なの? アイツが、お前を殺した奴?」
「え、ええ、そうです。 アイツが、俺をいきなりPKしてきた奴なんです」
「具体的に何か知らないか? 喋りの特徴とか、普段居る場所とか」

ふと、保科の事が頭に思い浮かぶが、俺はそれをあわてて打ち消す。

「いえ、確かに対戦はしましたけど、あまり会話した訳じゃないですから、そういう個人情報は、殆ど知らないです…。 すいません」
「そうかぁ…」

はぁ、と先輩方はため息をつく。

「? どうかしたんですか?」

「どうかしたも何も、あんな豪快なPK野郎、恐ろしいに決まってるだろ」
「できるだけ目をつけられたくないもんな」
「お前が何か知ってたら、用心しようって思ってたんだけど…何も知らないんじゃ、手がかりなしだな」

「…すいません、役に立てなくて」

この3人がビビるんじゃ、アイツ相当なんだろうか。
まぁ確かに、かなりゴツい装備だったけど…。

「良いよ。 ところで、どうだよゲームの方は。 マクロには慣れたか?」
「ええ、まぁ。 もっと剣技に目覚めれば、ブレードアーツも充実するんでしょうけど」
「ブレードアーツ、ねぇ。 剣だけじゃないんだけどな」

…あ、そういや、デジ研の人たちは『マクロ』って言ってただけで、ブレードアーツに対する認識はあるんだった。

「ブレードアーツ以外にも、何かあるんですか?」
「もちろん。 魔法スキルの『マジックスペル』、農業・釣りスキルの『カルチベイトアーム』、鉱夫・鍛冶スキルの『クラフトワークス』、盗賊スキルの『ローグツールズ』、それと…」
「おい、南原」

西川先輩が、南原先輩の肩を掴んで止めた。

「あ、ああ。 まぁ、とにかく沢山あるぜ」
「ゲームが進めば、機能アイコンの『マクロ』の下に、スキルタブが出来てるはずだから、そこでチェックできるぜ」
「あ、分かりました」

スマートタブレットは、鞄の中に入れている。
だけど、今、何かイヤな予感がして、先輩方の目の前で取り出す気にはなれなかった。

「…ところで、先輩は、今どこの街に居るんです? どんな稼ぎ方をしてるんですか?」
「前言ったろ? 別の街に居るって」
「でももう、その街の定例イベントも終わったんじゃないですか? だからネージュに居たんですよね」
「…お、なかなか勘が鋭いな」

南原先輩は一瞬、無表情になった後、薄く笑った。

…なんだよ、この腹のさぐり合いみたいな会話は。
なんで同じサークルのメンバー同士で、こんな事になるんだ。

「何か、他に稼ぎ方があるんですか?」
「んー…。 何か奢ってくれるなら、教えてやるよ」
「奢れって、まさかマジで条助燕ですか?」
「いや、妥協して『てっかもん』のミックスで良いぜ。 俺らもそこまで鬼じゃない」

「てっかもん」ってのは大学近くにあるお好み焼き屋だ。
ミックスは旨いんだけど、700円するんだよな…。
しかもウチのサークル、「お好み焼きはプラスでコーラ」って謎ルールあるし。
それも含めて言ってるんだよな。

「…分かりました、『てっかもん』で手を打ちます。稼ぎ方に何があるんですか」
「固定イベントだよ」
「…固定イベント?」
「簡単に言えば、宝探しイベントだよ。 案外数はあるんだけど、いつ、どこで、どんなイベントが発生するかを知らないとチャレンジできないから、定例イベントより難易度高いかもな」
「それ、ネージュ村の近くにあるんですか?」
「ほら、村の近くに湖があって、その中に小島があるだろ」
「あります…。 あの島に、やっぱ何かあるんですか?」
「あそこに廃屋があるんだが、その地下にちょっとした迷宮が広がってる」
「マジですか!?」
「ああ、鶴羽情報だから間違いねーよ。 ただ、鶴羽は『クソみたいなアイテムしか出なかった』って言ってた」
「クソですか…」

あの痩せた、口の悪いメガネ先輩の声で再生余裕だった。
でもあの人の場合「エクスカリバー」くらいじゃないと、良いアイテムだとは言わないだろうしな。
アタックしてみる価値はあるかもしれない。

「よし、じゃあ行こうぜ、『てっかもん』。 続きはそこでじっくり話してやるよ」
「おお、良いなー」
「礼雄、ゴチになりまーす」
「誰か、部室の鍵持ってっか」

え、みんな今から行く気なの?
っていうか俺、昼飯買ってるし、今から行ったら午後の講義に遅刻しちまうよ。

「えー、マジかよ、せっかくお好み気分になったってのによ」
「す、すいません…」
「じゃあ、晩飯をお好み焼きにすっから、終わったらサークル来いよ」

確かに、今日はバイトないからサークル来れるけど…。

「…」

バイト、と言えば。

「あの、先輩方」
「何だよ」
「せっかく奢るんですから、もっと良いものあるんですけど」
「もっと良いもの? 何だそれ? 最近何か店出来たっけ?」
「いえ、そうじゃなくて」

俺は鞄の中から、バイト先の恵方海苔巻きのチラシを見せる。

「どうですか、恵方海苔巻き。 きっと美味しいですよ」
「…。」
「今なら格安の、250円で良いですよ」

差額は俺が出すから。

「…。」
「どうですか?」

「ワールド」チラシを見ながら、南原先輩。
「バースト」同じく、西川先輩。

「…エクストリームッ!!」

と言って、南原先輩と西川先輩は、2人して俺の頭に呼吸ピッタリのチョップを繰り出してきた。
それが結構痛くて、一瞬、目の前が真っ暗になった。


DATE : H27.1.23
TIME : 18:47
STID : 00941724、00060863、00053289、00122351

「すいません、先輩方、コーラどうぞー」
「おう、礼雄悪いな」

夜は「てっかもん」で、久しぶりのデジ研メンツによるお好みパーティになった訳だが、

「でさ、今後の『まじかる☆あーじゅ』、どんな展開になるって思うよ?」
「あの『星の守護騎士』ってイケメンが全員不要だよな」
「俺はブヒれればストーリーはどうでも良い」
「でも、『てれびっこ』読んだら、これから逆ハーレムになるみたいだぜ。 カメリアたんをイケメンの皆で取り合う、腐女子悶絶展開」
「「「うえー、いらねー、誰得だよそれ」」」

最後だけ全員ハモった。

…じゃなくて、肝心な「還魂のリヴァイアサン」の話にはならなかった。
話に混ざって方向を変えようとしても、混ざる隙がない。
というか、先輩方が現在放映中のアニメ「魔法少隊まじかる☆あーじゅ」の話で楽しく大盛り上がりなのに、それを崩してしまうことはちょっとできなかったのだ。

で、周囲のお客さんの、俺たちに対する異物を見るような視線の痛々しさがハンパない。
俺も多少はマシになったとは言え、半年前はこんなんだったんだろうなぁ。


しかし、店はボロだけど、ここのおばちゃんが作るお好み焼きは相変わらず美味しい。
近くに「カラマール」という広島お好みの店があって、人気はそっちが高いのだが、俺は「てっかもん」が好きだ。

「3,520円になります…。 ちょうどですね、ありがとうございましたー」

ちなみに、この店はウェブパース(※「リヴァイアサン」でも使用されている電子マネー)が使えない。
現金の支出はかなり痛いが、まぁ仕方ない。

「ういーす」
「ごっそさんでーす」

そう口々に礼を言って、俺たちは店を後にした。

「あの、先輩」
「ん? 何だ、礼雄?」
「その、リヴァイアサンの話は…?」
「ああ、それならまた今度話してやるよ、部室来たらな」


DATE : H27.1.23
TIME : 18:47
STID : 00941724

俺はサークルメンバーと別れた後、下宿に試験勉強で帰りが遅くなる旨を伝えた。
小夜子叔母さんは、頑張ってらっしゃいと俺を激励してくれ、そして俺が向かったのは龍真の家だった。

「…珍しいな。 お前が自ら、僕の家に来るなんて」
「いや、ちょっとお願いしたいことがあって」
「お願い? ま、立ち話もなんだから、中に入らないか」

お願いしたい事はいくつかあるのだが、とりあえず、当たり障りのない所から聞くことにした。

「あのさ、リヴァイアサンのプレイヤーで、『bara』って知ってる?」
「『bara』? …何だか聞き覚えがあるな、ちょっと待て」

俺は応接室のソファに座り、例のプレイヤーノートをめくる龍真の姿を眺める。

本当なら、恵方海苔巻きの相談とか、テストのノートの話とかしたいのだ。
だけど、朝から断られ続けで、ちょっと気持ちがヘコんでる。
「bara」はデジ研の南原先輩のアバターだ。
あの先輩のキャラだから、どんなプレイなのかは想像がつく。
そんな分かりきってる事を聞いたのは、恵方海苔巻きをお願いするための助走みたいな、そんな感じだった。

そのつもりだった。

「『bara』居るぞ、完全に思い出した。 凶悪なことで、かなり有名な連中だな。 そいつがどうした?」

「…えっ!?」

…今、凶悪とか言ったのか?

「ああ、正確には『bara』『GunーBlaze』『バストーク』で3人1組の、ソロプレイヤー狩り専門のパーティだ。 今はネージュを卒業して、他の街に行ってるみたいだが」
「ソロプレイヤー狩り…!?」
「なんだ、もしかしてまた狩られたのか?」
「いや、そういう訳じゃない。 でも、ソロプレイヤー狩りって、どういう事なんだ…?」

龍真は、プレイヤーキラーのことに決まってるじゃないか、と言いながらノートの内容を音読する。

「最大の特徴は、その完璧なコンビネーションだ。 まず、怪しいところに一人で先行して、PKプレイヤーをおびき出す。 すると即座に残りの二人が現れるんだ」
「まぁ、PKプレイヤーもソロが多いからな…」
「で、後はPKプレイヤーを取り囲んで叩く、と。 不思議な事に、彼らはタイムラグなしの完璧な連携を誇る。 ちょっと太刀打ちできるソロプレイヤーは居ないんじゃないのかな」

…あれ、でもそれPKK(プレイヤー・キラー・キル)じゃん。 手段はともかく、むしろ善い行動なんじゃないのか?

「いや、判断基準がかなり独善的なんだよ」
「独善的?」
「相手がPKプレイヤーだから狩ってる訳じゃなくて、気に入らない相手を選ばず囲んでるだけなんだ。 だから、子供やカップルなんかもターゲットになってる」

カップルって、まさか。

「…ああ、僕も12月の年末にやられた。 クリスマスは過ぎてるのにイチャイチャすんな、…死ね? ちねーとか言われて根こそぎやられたぞ。 のぞみを泣かせた奴らを、僕は許す気になれないな」

でも、「bara」は…いや、南原先輩も、西川先輩も、レッドプレイヤーじゃなかったはずだけど…。

「『バストーク』がレッドプレイヤーだ。 それに、連中の手口は、殺す直前で寸止めして、そこから交渉に持っていくパターンが多い。 だから名前が赤くならない」
「そういう事か…」
「ちなみに、誰かを攻撃してオレンジになっても、教会に寄付して禊ぎを受けるか、時間が経てば名前は元に戻る。 パーティでない人を間違って切る場合があるからな」
「…なるほど、な」

ちょっと、ショックだ。
あまりにも行動が残念すぎる。
ゲームの中ではただのチンピラじゃないか、先輩…。

「積極的に弱いものイジメをする訳じゃないんだが、どんな行動を起こすか読めない上に、あの連携には誰も太刀打ちできない。 だから皆、フィールドで彼らを見たら即座に逃げていたよ」

まぁ、同じコタツに座って遊んでる訳だから、連携はそりゃ鉄壁だろうな。
例え不利になっても、リザーブがそこらでダベってる訳だし。

しかしそれなら、先輩方と組めば、PKを受けることはまずない。
昼間の話からすれば、相当先の街に進んでるはずだ。
なんだかんだ言って、信用できる人たちだし…。

…あれ?

「どうかしたも何も、あんな豪快なPK野郎、恐ろしいに決まってるだろ」
「できるだけ目をつけられたくないもんな」
「お前が何か知ってたら、用心しようって思ってたんだけど…何も知らないんじゃ、手がかりなしだな」

いや、昼に言ってた先輩方の話…。
あれは、嘘だ。
俺からオリオンの情報を聞き出そうとしたのは、まさか奴を狩る気だからか。
もしかして、キリエが「海図」を持っていて、それを奪われた事を知っているから、とか…?

「そういや、キリエさんとアマダムさんからのメールが来たぞ」
「どうなった!?」
「一言で言えば、資材や金を寄越せ、という恐喝めいたメールだった。 だから丁重にお断りした」
「…いいのか、それ」
「大丈夫、角が立たないように断っているからな。 実際、僕らより彼らのパーティメンバーに相談した方が、よほど現実的だろ」
「まぁ、そりゃそうだけど…」

…しかし、なんだこれ。
たかがゲームだってのに、何でこんな事になるんだ。

「以前に言っただろ? これはただのゲームじゃない。 貨幣という、現実との共通接点を持った事で、もう一つの現実になりつつあるコンテンツ、だ」

なんか大仰に言ってるけど、皆、金が懸かってるからマジになり過ぎてるだけなんじゃないのか。

「まぁ、そうとも言えるな。 賭け事が広く社会に蔓延すれば、生産活動に悪影響を及ぼすのは、過去の歴史からも明らかだ。 だから賭博は禁止されてる。 公的なのを除いてな」
「じゃあ、将来『リヴァイアサン』も法律で規制されるんじゃないのか?」
「可能性はある。 ま、法規制される前に、サービスが終了するのが先だろうが」

ふう、と俺はため息をついた。
ゲームでマジにプレイするのは楽しい事だけど、のめりこみ過ぎるのも考えもんだ。

格闘ゲーム隆盛の時代、ゲーセンで勝敗を競ってリアルファイトになった光景は良く見たし、巻き込まれた事もある。
でも、ゲームは本来「楽しむ」もの。
皆でワイワイ騒いで、同じ話題を共有することが一番楽しいのだ。
だからこそ、暴力行為とか、ゲーマーにとっては最低の態度なんだけどな。

「ところで、話はそれだけか? 電話で済むような話を、わざわざ僕の家まで来てしようと思った訳じゃあるまい?」
「あ、それなんだが…」

俺の態度から何か察したらしい龍真が、自分から助け船を出してくれた。
なので俺は言葉に甘えて、恵方海苔巻きの事を相談してみた。


「…という訳なんだ。 良かったら、買ってくれないか、龍真」
「まぁ、買うのは別に構わないが、ノルマは15本なんだろう? あと13本、どうするんだ」
「え、いや、それは自腹で買わなきゃな、と…」

龍真は、ふう、とため息をつくと「お茶とジュース、どっちが良い」と聞いてきたので、「じゃあお茶で」と答えると、しばらくして暖かい煎茶を持ってきてくれた。

「なあレオ、こないだの連中…キリエやオリオンを見てて思ったんだが、たかがゲームでも、本気で勝とうとする連中は違うよな」
「なんだ、いきなり?」
「まず、勝つという姿勢からして違う。 そしてそれに費やす努力も凄い。 ベクトルは真逆だが、あの態度に学ぶべき所はある、と思わないか」

…?
まぁ、確かに廃人プレイヤーは凄いけどな。
いろいろな意味で。

「で、だ。 お前は恵方海苔巻きを売るために、何か考え、何か努力をしたのか?」

そう言われて、俺も流石にカチンときた。

「いや、こうやって営業してるだろ? それで何も考えてないって、メチャクチャ言うなよ」
「そうじゃない」

だが、俺の反論を、龍真は聞きもせず却下した。

「まず何事も『情報』が必要なんだ。 情報こそが力だと、僕はこの間確信したよ」

おいおい、龍真も何か悪い方向に影響されてんじゃねーのか。 そもそも、情報と恵方海苔巻きがどう関係すんだよ。

「分析して、攻略するんだ。 恵方海苔巻きを」

…それを聞いた瞬間、俺はこの人バカなのかな?
と思ってしまった。

「礼雄、そもそもお前は、恵方海苔巻きが何か知ってるのか?」
「当たり前だろ! 海苔巻きの一種で、恵方っていうラッキー方角に…」
「そんな表面的な事を聞いている訳じゃない! ネットで『恵方海苔巻き』を検索してみろ!」

と怒鳴られ、俺は慌てて携帯…スマートタブレットを取り出す。

「恵方海苔巻き…大阪発祥の習慣で、節分に食べると縁起が良いとされる太巻き寿司のこと。 1998年に、コンビニエンスストア『セブンス-へブン』が全国発売を始め、『恵方海苔巻き』というネーミングは、セブンス-ヘブンが商品名として採用した事に広まった」

(中略)

「…の調査による恵方巻の認知度は、『食べた経験』に関して増加傾向となっているが、『実際に食べた』と答えた人の全国平均は2006年(平成18年)の時点で54.9%である。 また、「実際に恵方海苔巻を食べるか」についての地域差は大きく、2008年の12月後半に行われた調査では、関西・中国・四国にて『実際に食べる』が半数以上占めたのに対し、関東では6割が『食べない』という結果が出ている」

「どうだ、これで分かっただろ」
「何がだよ」
「『恵方海苔巻き』をどこに売り込めばいいか、だよ」

…? どこ?

「今調べたとおり、大阪以外で恵方海苔巻きの歴史は比較的浅い。 そして、恵方海苔巻きの認知度は、食べた経験に比例している」
「だから、どういうことだってばよ」
「恵方海苔巻きを知っていて、かつ食べる人間は、比較的若く、かつコンビニを良く利用する層、だという事だ」
「で、それが?」
「逆に、コンビニを利用する機会の少ない人とは、誰だと思う?」

それは…高齢者、だろうか? 
宇園市が田舎という事もあるかもだが、俺の経験上、スーパーはともかく、コンビニで老人を見かける事はそれほどない。

「そうだ、いい発想だな。 高齢者は数が多い。 でも恵方海苔巻きを知らない人も多い。 ここがミソだ」
「え、まさか…」
「そうだ。 恵方海苔巻きを売るには、高齢者の集まっている所を狙え。 グループホームとかな」
「いや、場所知らねぇよ!」
「調べろ。 宇園市、高齢者、施設で検索すれば十分だろ」
「にしても、見ず知らずの所にいきなり乗り込め、っての? 無理だろ。 お前だったら、不審者の押し売りとか買うか?」
「買わないな」
「だろうが! いきなり飛び込み営業したって、売れる訳ないよ!」

すると、龍真はお茶を一口飲んで言う。

「心配するな。 パーティシペイティッド効果、ってのがある」
「…何だそれ」
「営業の前に、『俺は売れる…売ってみせる…売り切れる…!』と念じて、自信をもって訪問すると、本当に売り上げが30%アップする、という統計があるんだ。 これをパーティシペイティッド効果、と言う」
「え…ま、マジで? それ、本当?」


だが、しばらく間を置いてから龍真は返答した。

「嘘だ」

「はぁ!?」
「真っ赤な嘘だ。 そんな統計結果はないし、パーティシペイティッド効果なんて物も存在しない」
「何だそりゃ!? 何言ってんだよ、お前!」
「だが一瞬、僕の言うことを信用しかけただろう?」
「そ、そりゃ、博学なお前が言うから、もしかしてあるのかな、とはちょっと思ったけど…」
「だろう? この通り、人間を動かすのは『信用』だ。 美味しいものを食べる時に、雑誌じゃなくてネットの口コミを信用したり、友達から来たチェーンメールをうっかり回してしまうのは、これが原因だ」
「はぁ…」

まぁ、確かに、俺も新しいジャンルのゲームやマンガを買う時は、先輩のオススメを聞いてしまうしな。
そっちが確実だし、ハズレないし。

「そう、『この人の言うことなら間違いない』は、人を大きく動かす。 礼雄、今のお前は信用0だ。 確かに営業には向いていない」
「龍真、お前、言って良いことと悪いことが…!」
「だから、信用のある人間を連れていけば良い。 お前の周辺で、そういう介護関係に詳しそうな知り合いは居ないのか?」

…え? 
えっと…。
小夜子叔母さん、とかかな?

「まだ分からねぇ…。 けど、思い当たる人は居るから、相談してみる」
「そうしろ。 お前の不毛な営業より、10倍マシだぞ」
「不毛は余計だよ。 それと…」
「何だ、まだあるのか」
「ちょっと、言いにくいんだが…」

俺はダメ元で「福祉経済総論」のノートを持ってないか聞いてみた。
「経済の講義など履修してない」が、龍真の答えだった。

そしてもちろん、礼雄、お前はそもそも、大学生にもなって何故マジメに勉強しないんだ、とこっぴどくお叱りを受けた。

ネトゲのせいだとは言えなかった。

<続く>

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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

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