女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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リヴァイアサンズ・メルヴィレイ(12)

DATE : H27.1.20
TIME : 18:30
STID : 00941724、00187632、00187839


のぞみさんと龍真は、6時過ぎにちょうど二人して帰ってきた。

彼女が晩飯の準備をしている間、俺と龍真は雑談しながら「リヴァイアサン」をプレイし、三人で仲良く晩ご飯…お客様仕様なのか、やたら大量の豚肉の生姜焼きを頂く。
生姜焼きの味の濃さと、千切りキャベツのシャキシャキ感が絶妙で、大変美味かった。

のぞみさんが全員の食器を下げ、洗い物を始めようとしたので「特に手伝えること無い?」と申し出たが、何故か「特にない」と龍真に一蹴され、7時のイベントとやらをログインしながら待つ事になった。

「…で、そのイベントって、何なんだ」
「口で説明するより、実際に見た方が早い。 そろそろだぞ」

俺は龍真に連れられ、ネージュ村の中央広場に設置されている掲示板へと向かう。

…すると、こんな人数が一体どこに居たのかというほど、大量のプレイヤーが掲示板の前に集まっていた。

龍真の部屋の壁掛け時計が、7時の鐘を打つ。

それとほぼ同時に、やたらハイテンションなインフォメーションウインドウが、エキセントリックなサウンドともに画面に飛び込んできた。

「はーい! レディースあんど、ジェントルメーン! おっまたせー! こんやも、ていれいイッベントの、じっかっんっだよー!!」


ウインドウの中では、紙吹雪と共に、画面の奥から誰かが走り込んでくるアニメーションが展開される。
…何だ?

「タップで全画面になる」
「ほいな」

画面の中に居たのは、ネットで有名な「ポップロイド」…ダンスと音楽を作成できるソフト…のマスコットキャラ『響希カノン』だ。
チャームポイントの金髪ツインテールをふりふりしながら彼女がマイク片手に叫ぶ。

「今回のイベントは『剣闘士たちの祝宴』! 内容は、闘技場での対人戦よ! 血で血を洗う戦場に、最後まで立っていられるのは誰なのか!? 開始時間は明日の午後7時! 場所はここ、掲示板前にてご案内! バトルマニアの君、是非ご参加よろしくね! 詳細は掲示板をちぇけらー!」

と言って、あっと言う間にインフォメーションウインドウは画面奥へと回転しながら去っていく。

なんじゃこれ、と俺が思うより早く、携帯からは人のざわめきが伝わって聞こえ始めた。

「キターー!!」
「よっしゃ、久しぶりの大型!」
「よーし、俺の腕前見せてやるぜ!」

画面の中では、多数のキャラに混じってポポポポーンと「大型」「来た」「闘技場」などのフキダシアイコンが湧きまくり、掲示板前のプレイヤーが皆、一様に色めき立つ。

このゲームでは、エリアチャットがそのままボイスで聞こえ、遠くに居るプレイヤーほど音量が小さくなるという仕様なので、「集団の喧噪」という表現が実にリアルだ。
もちろん相手をタップする事によるシングルチャットもあるので、秘密の会話もできる。

「…このイベント、僕はパスだな。 礼雄、お前はどうだ」
「どうだって言われても、何がなんだか」
「掲示板をタップしてみろ。 明日のイベントの詳細が見られる」

言われるがままに、俺は掲示板をタップする。

ーーーーーーー

「剣闘士の祝宴」

日時:平成27年1月21日(日) 19:00~
場所:ネージュ村中央広場に集合
内容:今回のイベントは、闘技場でのバトルだ! 剣風逆巻く戦場で、勝ち残って栄光を掴むのは誰なのか!?

参加条件:装備できる武器防具は、露天商での販売品のみになります

報奨金:優勝者:500,000c 準優勝者:100,000c

提供:株式会社vamaha

※カノンちゃんのムービーを見たい人はここをタップ!

ーーーーーーー

「…500,000Cen!?」

50万Cen。 現金にすれば5万円。
俺のバイト一ヶ月分の給料じゃねーか。

「これは、久しぶりの大型イベントだな」

龍真の感想に「たった5万円で大型なの?」と思わなくもなかったが、それよりも「賞金が出る」という話が事実だという事を目の当たりにし、思わずゴクリと喉が鳴った。

「おい、これ、どうすれば良いんだ!?」
「書いてあるだろ? このイベントに参加する連中を全員斬り倒して、最後の一人になれば良い。 そうすれば、賞金50万cだ」

ただ、トーナメントなのか、バトルロイヤルなのかは、明日にならないと分からん、という龍真の言。

「こいつら全員…?」

画面をパッと見、20~30人は下らない。
掲示板を見ればイベントの概要は掴めるらしいから、ここに来てない連中も多いはず。
というか、そっちの方が多いだろう。
一体、どんな死闘になるってんだよ。

ヘッドセットから伝わる熱気は未だに収まらず、

「5万手に入ったら、旅行に行きたいねー」
「プレイギアフォース買いたいなー、気合い入れなきゃなー」
「焼き肉食いたいお、絶対に勝つお」

なんて声が続々と聞こえ続けている。

…こいつら全員を倒すとか、絶対無理だろ。 
申し訳ないが、龍真から貰った装備は本当に初期装備よりマシな程度だ。 勝ち目は万に一つもない。

「どうだ? 自信のほどは?」
「いやいや、自信じゃなくて、どう考えても無理ゲーだろ、これ。 絶対に相手がスゲー装備持ってきて、一瞬で切り倒される」

すると、龍真は一瞬呆れた顔をして、

「参加要項はよく読め。 闘いは参加の時点で始まってるんだぞ」

と言った。

…え、どういうこと?

「『武器と防具は露天指定の物を購入』とあるだろう? こっちに来い」

すると、掲示板からそう遠くない所の道脇に、いつの間にかテントの店が出来ていた。

「明日のイベントでは、公平を期すべく、この露天でのレンタル装備で戦う事になる。 店をタップして、メニューを見てみろ」

言われるがまま、俺は店をタップすると…。

ーーーーーーーーー

レンタルソード(黄)+ 0:    0c(∞)
レンタルソード(橙)+ 1:  500c(462)
レンタルソード(茶)+ 2: 1,000c(282)
レンタルソード(赤)+ 5: 2,000c(175)
レンタルソード(紫)+ 7: 5,000c(100)
レンタルソード(青)+10: 10,000c(50)
レンタルソード(緑)+15: 50,000c(15)
レンタルソード(白)+20:100,000c(3)
レンタルソード(黒)+30:300,000c(1)

ーーーーーーーーー

「なんだこりゃ!?」
「左から武器名、攻撃力加算ボーナス、価格、残数だ」
「いや、そういう事じゃなくて…!」

ツッコミ所が多すぎる。
これ、購入じゃなくてレンタル価格だよな。
そして、全然公平じゃないよな。

特に一番下の(黒)剣、レンタル価格がリアルマネーで3万円、しかも一本しかありませんよー、ってどう考えてもナメてるだろ、オイ!

「何が公平だ…! 揃ってアホの子かよ、運営は!」
「いや、運営曰く『腕に自信のない人は、武器防具を充実させてお望み下さい』ということらしいぞ」

確かにある意味公平じゃないか、と龍真は苦笑した。
どこがだよ。

「先も言ったが、礼雄、もう闘いは始まってるぞ。 どの剣を買う? お前は、どれが一番お得な一本だと思う?」

だけど、正解らしき声は、ゲームの中で既にささやかれていた。

「絶対赤の剣にするお!」
「だよな、ボーナス+5で2,000c」
「割れば+1あたり400c、一番お得だね」
「金額もお手頃だもんな」

正面から、龍真がそっと自分の携帯の画面を差し出してくる。

ーーーーーーーーー

レンタルソード(黄)+ 0:    0c(∞)
レンタルソード(橙)+ 1:  500c(472)
レンタルソード(茶)+ 2: 1,000c(279)
レンタルソード(赤)+ 5: 2,000c(135)

ーーーーーーーーー

「赤が40本近く売れてる。 多分、ここに来てない連中から、お使いを頼まれてるのかもしれん」
「…」
「どうした、礼雄? お前は何を買う? 早く決定しないと、場合によっては売り切れてしまうぞ」

早く買わないと売り切れるって、テレビショッピングかよ。

「…お前も、赤の剣を買えってのか? それが正解だと言いたいのか?」

だが、龍真は静かに首を振る。

「いや、この場合の正解は、おそらく緑か白だ」
「!? 何でだ?」

5000円か1万円の奴!?

「皆が、数値のお得感だけで『赤』がベストだと判断したからだ。 全員を倒して勝ち抜くつもりなら、最低でも、ここに居る連中より高威力の剣を買うべき…そうだろ?」

画面をタップするたび、ショップの品揃えが再表示され、数字がみるみるうちに減っていくのがわかる。
7時を過ぎて後から集まってきた連中もいるのか、掲示板の前の人数はさらに増え、おそらくは50人を越していた。

「…」

俺は、0cの「レンタルソード(黄)+ 0」をタップした。

「おい、お前今、何を買った?」
「黄色。 無料の奴」
「それで勝てるのか? 自信があるのか?」

龍真の疑問に、俺は苦笑いをしながら首を振った。

「いや…。 俺は、いいや。 まだゲーム始めて2日目だし、今回はきっと勝てねぇよ、腕試しで行く。 課金はしない」
「それで良いのか、お前? 課金した方が、勝つ確率は大幅に上がるんだぞ」

金なしの俺に課金させる気かよ。
それに…。

「いや…。 こいつらの態度見てたら、逆に冷めちゃってさ」
「冷めた?」

俺は、さっきから感じていた事を口にする。

「こいつら…分かってんのかな? 自分が養分になってるって事に」
「養分って、メーカーのか?」
「そうだよ。 もうスゲェ金額が注ぎ込まれてるじゃねーか」

一番手頃な、赤の剣が200円。
これがもう70本近くが売れている。
これでメーカーは14,000円の課金収入となる。

「明日には、賞金の6万円以上の金が注ぎ込まれてるんじゃねぇかな」

このペースがいつまで続くか分からないが、お得な品が売り切れたら、残った連中は、さっき龍真が言ったように、それより強い剣を無理してでも買う事だろう。
賞金以上に課金するゲームとか、自ら望んでメーカーに金銭を献上しているようなものだ。

「明日じゃなく、今みたいだがな」
「え?」
「今、3万円の黒の剣と、1万円の白の剣が一本ずつ売れた。 それを見て、緑や青の剣を購入するプレイヤーが、少しずつ出始めたぞ」

龍真は、携帯の画面をリタップしながら言う。
剣の残数を細かくチェックしていたらしい。

「…本当に黄色の剣でいいのか? チャンスを目の前にしているというのに、可能な限りの努力をしないでどうする」

このまま時間が経てば、本当に高威力の剣は無くなるぞ、と龍真は言い添える。

「いや、俺はチャンスとか、そういう事を考えていた訳じゃない。 ただ、嫌悪感っていうのか…。 そもそも、こういうシステムってアリなのか?」

龍真は、このゲームを悪魔のようなゲームだと言っていた。
儲かるのは、ユーザーじゃなくメーカーだと。
それを今、実感し、納得できた。
賞金を餌にして、プレイヤーにずるずると課金させる。
これは…ある意味、無限の利殖システムじゃないか。

だが、龍真はため息を吐くと、出来の悪い生徒に諭すように言った。

「何がおかしい? 利益の無限追求は、企業の究極目標だ。 金を稼ぐ事こそが…いや、それのみが、この資本主義社会の本質だぞ」

絶句した俺に、龍真は続ける。

「昨日も言ったが、このゲームにおける賞金はあくまでも、僕たちを釣るための『撒き餌』だ。 慈善で配布されている訳じゃない」
「だけど、許されるのかよ、こんな事が…」
「このゲームの中で行われているような事は、現実にだって行われているぞ」

え、現実で…?

「そうだ。 知らないうちに財布から金銭をすっぱ抜かれているような利殖システムも、この世には存在するだろ? しかもそういうのは、素人には一見では分からないような作りになってる。 このゲームなんか、仕組みが目に見えるだけ、まだマシな方だぞ、礼雄」
「でも、それだけじゃないんだ、龍真」

龍真の言葉には徐々に熱が入り始めているし、俺もそうだ。
知らず、お互い熱くなりはじめてる。

「正直、俺もちょっとは心が動いた。 みんなが課金しているなら、自分も…って少しは思った」
「じゃあ、なぜ課金しない?」
「この『同調圧力』が恐ろしいんだ。 何というのか…。 『取り残されるぞ、それでいいのか?』みたいに迫られてる感じで、無理矢理にでも課金しなきゃいけないような気分になって…」
「だから、課金の何がおかしいんだ」
「だって、これはゲームじゃないか。 最初から、そんな課金をしたら、もうこれはゲームじゃないと認めてしまうような気がするんだ」

そこで、龍真はため息をつく。

「…お前がそんな叙情的な考えをする奴だとは思わなかったな。 もっと、論理的に考えた方が良い」
「論理的?」
「僕も最近知ったが、『オンラインゲームの課金分布』っていうのを知っているか?」
「…何だそれ?」
「ビジネスでいう『8:2の法則』と同じだよ。 商売は常に、2割の存在が8割の利益を生み出している。 これはオンラインゲームでも例外じゃない」

龍真は、ノートの余白にサラサラと図を描いて、俺に見せてくる。

「『オンラインゲームの経営は、7割の無課金者と、2割の課金者、1割の重課金者で成り立っている』そういう図式だ」

…なんだ、無課金者も結構多いんじゃん。

「だが企業の立ち位置からすれば、この3割のみが正しい顧客だ。 オンラインゲームの経営は、彼らこそが支えている。 残る7割は課金予備群、あるいは見物客だ」
「…おい」
「そして、この課金分布は、ゲームの性質によって異なる。 プレイ時間がゲームの成否を決めるものは、課金率が下がるが、課金の度合いでゲームの成否が決まるものは、当然ながらこの課金率も上がる」

龍真は、今まで描いた棒グラフの横に、矢印ともう一つの棒グラフを描き、真ん中に線を引いた。

「このゲームは、18歳以上推奨…つまり、経済力のある社会人が対象だ。 そして重度の課金重視型のゲームだ。 僕も社会人プレイヤーには何人かに出会ったが、彼らも大半が課金していたぞ」

さっきのノートにあった、ヨウスケとかいうサラリーマンプレイヤーの事だろうか。

「課金する人間だって、大勢居る。 別にそれは特別な事でも、何でもない」
「でも、だって…。 これはやっぱり、ゲームだろ」
「僕はこれをただのゲームとは捉えていない。 言ったろ、ゲームの究極は、リアルの再現。 通貨という現実との共通要素によって、これはゲームとしての枠を越え、もう一つのリアルを構成しようとしてる」

何だそれ。 意味わからん。
ゲームはゲーム、リアルはリアル。
全くの別物だ。
そもそも、金を積まないと勝てないゲームとか、もはやそれはゲームじゃないだろ?
仮にもゲームだったら、無課金でもある程度進めるようにデザインされているべきだ。

「いや、違う。 リスクを払った人間こそが、正当なリターンを得るべきだ。 ノーリスクで勝ちたいなんて甘えた理屈の方が、よっぽど社会の原理に反してる」

龍真も、主張を譲らなかった。

周りから見れば、この論争は、俺に課金させるかさせないか、そしてこの「リヴァイアサン」というコンテンツは、ただのゲームか、それともリアルの一種か…で言い争ってるだけの、至極どうでもいい話だ。

だけど、お互い相当に頭に血が上り始めている。
やはり、金が絡んでいるせいだろうか。

「龍真、ちょっと待った。 頭を冷やそう」
「…そうだな」

お互い深呼吸して、気持ちを落ちつける。
龍真は、天井を見上げて何事かを考えている様子。
俺の言った事をかみ砕いて考えているらしい。

「どうするんだ、礼雄」
「いや…俺は、やはり課金しない」
「そうか」

龍真は、深いため息をついて言った。

「…出費が必要な時の対応が、これほどこじれるとはな」

様子は冷静だったが、口調には怒りが混じっていた。

「なあ、礼雄。 課金しないというのは、ゲーマーの矜持とか、そんなものか?」
「…」

それは、考えた事がなかった。
ただ、課金する事に対して、俺はそこはかとない嫌悪感を覚えていて…。
どうしても、ゲームに必要以上のお金を掛ける気にはならないのだ。

「礼雄、お前は今コンビニで働いてたな? 時給は…720円だったか?」
「そ、そうだけど」

良く知ってるな。

「どう考えてもこのゲームでは、課金した方が効率的だ。 1時間をバトルに費やしてパラメータを上げるより、720円を課金した方が遙かに強くなる。 実際に確認済みだ。 それに、人として健全で、かつ生産的だぞ」

そして、これは僕の個人的意見なんだが、と前置きして、龍真は主張を続けた。

「何千時間、何万時間も、無課金でプレイし続けられるオンラインゲーム、ってのがあるだろう? あれ、何のために存在するんだろうな? 非生産も甚だしい。 企業として正しい位置に立つならば、もっと回転率と収益率の高いモデルを模索、構築すべきだろう? 何であんなものを作ったのか、意味が分からない」
「何だそれ…ネトゲをバカにしてんのか?」
「そうだ。 より正確な言い方をすれば、人を長時間、無為で非生産な事に拘束するコンテンツは、社会的、労働力的に、害悪でしかないと言いたい」

いや、ゲームってのは…娯楽だろ。
娯楽に生産性とか関係あるものか、と言いたかったが、何故か俺の口は、それを言わせてくれなかった。

「なら、ゲームなんてプレイしなきゃいい。 そうだよな。 だけど、あえてそれを口にしたのは、礼雄、君に僕の考え方を知ってほしいからだ」

龍真の…考え方?

「僕は、時間こそが全ての人における、唯一の『平等な資産』だと考えている。 とにかく、無駄な時間は1秒とて使いたくない。 その意味で、このゲーム…『リヴァイアサン』は僕がまだ理解、容認できる範疇にある」

そこで、龍真は俺の方を見た。

「だが、お前の考え方は理解できない。 無為無益な回り道をする事に、何の意味がある? 条件が全て分かっているのなら、より良い選択肢、つまり近道を選ぶべきだろう?」
「あ、ああ…」

僕は基本的にこういう考えをするんだ、と龍真は念押ししてから、さらに続けた。

「はっきり言う。 僕はお前が戦力になると思って、このゲームにスカウトした。 それは、僕がこのゲームを進めたいからだ。 ショートカットしたいからだ。 だが、これほどまでに僕と違う考えを持っているのなら、礼雄、お前とは一緒にはやっていけない」

そう言って、龍真は俺の目を見て、言葉を切った。

龍真は忙しい。
だから、無課金でダラダラとプレイなんて事は到底許せない。
常にベストを尽くせ。 
労力的にも、金銭的にも…と、いう事か。

俺がここで意地を張れば、龍真は俺を切って、別の奴をネットとかで探すだろうな…。
事実上のクビ宣告か。
まさか、店長より先に、龍真から言い渡されるなんてな。

…だが、その時、ふとあかり姉の声が聞こえた気がした。

日本の社会は人情で出来てる。
チームワークが一番大事。
相手の意見や立場を思いやり、自分が譲歩する。

出来の悪い従姉弟を諭す、あの可愛らしい困り顔が浮かんで、内心苦笑する。

…そうだな。 相手の主張を汲み取るのも、また必要な事なのかもしれない。

「龍真、俺は課金するのがイヤなだけで、別に先に進む事がイヤな訳じゃない」
「…何?」
「俺だって、効率的にプレイしたいんだ。 以前みたいに、時間が沢山ある訳じゃないからな」
「じゃあ何故、課金しない」
「それは、今の俺がそんなに裕福じゃない事が一つ。 もう一つは、お前が言うように、ゲーマーだから、かもしれない。 課金したら、何か…。 俺の中で積み上げてきたものを壊してしまうような、そんな不安があるんだ」
「なら、どうしたいんだ」
「ぶっちゃけ、俺が課金しないルールを認めてもらえるなら、それ以外はお前の言う事を極力飲む。 それでは妥協点にならないか」
「…」

龍真は、しばし瞑目していたが…。

「なら、自主的な課金は一切しないというだけで、状況がそれを強いれば…例えば、課金しないと先に進めない場面が出てきた時とか、僕が強制的に課金装備を渡すなりするのは、OKという事か?」
「ああ、OKだ。 その時は、お前の言う事に従う」

訳がわからん、と龍真は小さく呟いた。

「…明日、このイベントには参加するんだよな、礼雄」
「ああ、もちろん」
「なら、その時に判断させてくれ。 お前がそういうリスクを払ってでもリターンをもたらしてくれるのか、見極めたい」
「…分かった。 じゃあ、今日はもう帰るよ」
「そうだな、気をつけて帰ってくれ」

龍真も、苦笑しつつ同意した。
せっかく誘われたのに、今日のリヴァイアサンは、殆どプレイせずにお開き…か。


DATE : H27.1.20
TIME : 19:53
STID : 00941724


龍真のマンションから帰りしな、俺は自転車を漕ぎながら、今日のことを考えていた。

本当に、人間は金が絡むと豹変する。
龍真の場合、どちらかというと金以外の目的の方が大きいようだが、利害関係が絡むと、長年の友情も瞬く間に崩壊しかねない。

そういや、ウチのコンビニの店長なんかも、とにかく金の事ばかり言う。
どうやったら儲かるか…って事しか口にしない。

そして、それは俺も例外じゃない。
龍真にはああ言ったが、やはり、ふつふつと胸中に沸き上がるものはあるのだ。

賞金を賭けての剣闘士大会。

テレビで、賞金を賭けてのクイズ大会なんてのはよく見るけど、出演している芸能人が100万円貰ったって、彼らにとっちゃ端金だろ、と常々思ってはいた。

ああいうのに参加して、自分こそが勝ち抜いてみたい。
栄光と金銭を手にしてみたい。
そう思う気持ちがあるから、ああいうクイズ番組は一般の人にも視聴され続けているのだろう。

だが、遂に俺たち一般人にも、規模こそ全然小さいが、似たようなイベントに参加する機会が与えられたのだ。

現実には存在しない、一攫千金を賭けての闘い。
それが、あの世界にはある。

それを考えると、否応なしに冒険心というか、闘争心が沸き立ってくるのを、俺は抑えられなかった。

<続く>
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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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