女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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リヴァイアサンズ・メルヴィレイ(プロローグ)

DATE : H27.1.07
TIME : 20:23
STID : 00023421


「…ううっ、ぐうぅっ」

「くそっ、このぉっ!」

「ちくしょう、てめぇっ…!」

場面は、学生用アパートの部屋の中。
青年男子がただ一人、こたつに入ったまま奇声を上げていた。

長身痩躯に、洒落っ気のないパーカーとジーパン姿。
髪の毛は洗ってないのかボサボサで、頬骨が出た細面の顔に重度の黒縁メガネと、マイク付の軽量ヘッドセット。

だがその表情は鬼気迫っており、顔は湯気が出そうなほどに紅潮して汗ばんでおり、両眼は限界まで見開かれていた。

「おうっ…! ぐあっ…! 死ね…! 死ねよっ…!」

こたつの天板には、湿気を吸って柔らかくなったポテトチップスと、炭酸の抜けたコーラ。
だが彼はそれに全く気を払う事なく、体を震わせて奇声を上げ続ける。


「くそがっ、やめろよっ…! なんだよこれ…!!」

その理由は、彼の両手にある高機能携帯端末「スマートタブレット」の画面を見れば一目瞭然だった。
そこには雷雨降りしきる中、大海原で荒れ狂う巨大海竜と、それに立ち向かう一人の戦士の姿が描き出されていた。

「ちくしょう…! あとどれだけ攻撃すれば倒せるんだよ、こいつ…!」

そう、彼の肉体は、この狭いアパートの一室に鎮座しているだけだが、その魂は、剣と魔法が司る戦闘の世界で、魂同士がせめぎ逢う、極限の戦いを繰り広げていた。
彼の表情は、死地に臨んだ戦士の苦悶そのものだった。

「…鶴羽(つるは)! 絶対そのリヴァイアサン、倒せよッ!」

ヘッドセットから、彼とは別の声が小さく漏れ聞こえる。

「…そうだ、負けるなよ! 俺たちが投資した分まで無駄になっちまうからな!」

タブレット画面の左上に、顔を模したと思われるアイコンが3つある。
ヘッドセットから声が漏れると共に、その顔アイコンに「フキダシ」がポップアップして、顔アイコンが一瞬明滅するが、色調は全体的に暗く、「×」マークが被さっている。
それは彼と共に戦った仲間3名が、既に全員死亡している事を意味していた。

「…誘ったのはお前だからな! それだけは忘れんじゃねぇぞ!」

彼のヘッドセットからは、そんな悲鳴にも似た声が断続的に聞こえてきた。

「分かってる! 気が散るから、黙ってろぉっ!」

コタツに座っている青年・鶴羽は、苛立ちのあまり声を荒げる。

画面の中に描かれた大海にて、彼の魂を宿したアバター「アーツクルス」という名の白鎧の剣士は、船から「飛行」の魔法で一気に陸上へと飛ぶ。

アバターのHP(体力)を回復させるアイテム「回復薬」の残りがあと2個しかなかったため、大海竜から距離を取って、安全に回復しようという思惑だった。

画面右下にセットしていた「回復薬」のアイコンをタップすると、アイテムメニューが高速で回転し「回復薬」が瞬時に選択され、間髪入れずにアバターは回復薬を飲んだ。

アバターが回復行動を取ると同時に、彼はタブレットをこたつに置き、滲む手汗をパーカーの腹で拭いた。 その時だった。

「何ッ!?」

沖合から急速接近してきた大海竜が、海中で大きく一回転したかと思うと、巨大な尾で海面を叩き、激しい水しぶきを伴う高波攻撃を繰り出してきたのだ。

「…ああっ!?」
「…ひいっ!」
「…鶴羽ッ!」

回復行動を取っていた剣士アバター「アーツクルス」は、沖合からの高波攻撃に飲まれ、「うっ」というダメージボイスを自ら吐いて転倒し、回復途中だった体力ゲージは、回復前よりも下がった。

「なんだそれ…。 そんな攻撃あんのかよ!? ふざけんなよ!」

「アーツクルス」を操作する、鶴羽と呼ばれた青年はタブレットを取り戻しつつ毒づいた。

今の攻撃は、初めて見た。
予想外のパターンの攻撃だった。

「…鶴羽ぁー!」
「…おまえェェ…!」

ヘッドセットから、今の油断と失態を非難する声が重なって聞こえてくる。

「…うるせぇ、黙ってろって言ったろうがッ!」

彼は再度アイコンをタップし、回復薬を使う。
敵に連続する同じ攻撃パターンはない、そう直感しての行動だった。

だが沖合に居た大海竜は、頭を海中に沈めたかと思いきや、次の瞬間には海面に巨大な水柱を上げ、しかもその水柱を突き破って垂直に飛翔し、僅かな滞空の後、画面をドンと揺らすエフェクトと共に、画面の真上から落下、上陸してきた。

「ああ…あ、そんなぁ…!!」

またもの新パターン。
もしかして、敵の体力が一定割合を切ったゆえの攻撃パターン変更か。
最後は、陸上での決戦になる仕様なのか。
彼にはもう回復の方法がないというのに、海から上がってきた敵の体躯はあまりにも巨大で、もしもその大海竜が実在の怪物なら、その総全長は、ゆうに100mを越していた。
そして、この巨体の攻撃判定が見た目どおりなら、まともなヒットアンドアウェイはまず通用しない…。

そんな思考が、彼の脳裏をめまぐるしく駆け巡る。
だが、画面の中の大海竜は鎌首をもたげ、彼のアバターを追い立てるかのように、口腔から凄まじい勢いの水ブレス攻撃を仕掛けてきた。

「!!」

レーザーのような水ブレスは、彼にとって既知の攻撃だった。
反応が一瞬遅れたが、それでも慣れた動作で避けた。
だが、水中ではなく陸上だと地面が砕かれ、飛び散った岩石がスプラッシュダメージになるのは知らなかった。

飛んできた岩石をとっさにガードするものの、ガード上からも僅かにHPが削られたのを見て、彼の心中を絶望が蝕んでいく。

今までのゲームの経験からして、この状態から助かった例は一度もない。
おそらく、この攻防は予定調和のまま、徐々にHPを削りきられて死ぬ。
そんな予感があった。

「いやだ…」

そんな心の声が、彼の口から漏れた。

「…鶴羽ェ…。」
「…頼む、勝ってくれ…。」
「…お願いだ…。」

ヘッドセットから漏れるパーティメンバーの声にも、もはや絶望と悟ったのか、祈りの色が混じり始めた。

「黙れ…。 黙れよ…。 俺は絶対に勝つんだ…」

それでも鶴羽青年は、今まで培ってきた経験を総動員して戦い抜いた。
海竜の周囲を旋回しながら、体躯の末端…攻撃の届きにくい部分…前足が弱点だと即座に割り出し、敵の攻撃の直後に切り込み、直後に退避するというパターンに唯一の勝機があると見いだした。
そして確かに、この攻略パターンは正解だった。

「…ぐっ!」

だが、慣れないパターンでヒットアンドアウェイを正確にこなすのは難しく、僅かでも遅れると、敵の巨体を生かしたタックルから逃げられない。
間一髪でガードしても、大幅に体力を削られることになる。

「やめろ…。 テメェ、やめろ、死んじまう…」

鶴羽青年は我知らず、ゲームの中の大海竜に向かって、そう呟いていた。

死ぬ。 

もう死ぬ。

その確かな予感は、鶴羽青年の心を、飲み込むようにどんどん浸食していく。
彼が魂を共にするアバター「アーツクルス」の死の刻が近づいてくるのが、プレイヤーである自分自身にとっては、これ以上もないほどに分かる。

そして、その時は遂に訪れた。

再び敵の攻撃を避けて前足に切り込んだ瞬間、汗で反応がコンマ一ミリ秒…いや、それよりも短い時間かもしれないが、反応が僅かに遅れた感覚があった。

しまった、という予感。
次は、懐に入り込んだアバターをはね飛ばすためのタックルが確実に来る。
このタイミング、この距離では、逃げられるかどうか分からない。
ガードで耐え凌ぐにしても、残りの体力では、ガードの上から潰されるかもしれない。
どうしたらいい?
回避とガード、どっちを選択すべきだ?

刹那すら長く感じるその一瞬で、彼は幾重にもそんな思案を重ね、結果「ガード」を選択した。

おそらく、あと一撃までならなんとか耐え凌げる。
それから反撃だ。
そう判断してのガードだった。

だが、結果は無慈悲だった。

「…あああーーっ!!」
「…ひいっ!」
「…あぁああっ!」

タブレットの中で、剣士アーツクルスは大海竜の巨体タックルをガードしたものの、その圧力に耐えられず、小石のようにはね飛ばされて地面に転がる。
ヘッドセットから漏れるパーティメンバーの叫び声は、さながら彼のアバターの断末魔の如くだった。

『アーツクルスは 力尽きました』

「嘘だ…」

鶴羽青年は放心したまま、タブレットの画面を眺めている。
だが画面の中では、グランドピアノの旋律…アバターデッドジングルと共に、セピアフィルタを掛けたカメラアイが、地に伏すアバターを俯瞰に捉えたまま天に昇っていった。

「おい、嘘だって言ってくれよ…! 嘘だろ、これ…!」

鶴羽青年はタブレットを握ったままそう叫んだが、その画面には、クエスト失敗の烙印とアバターの死、それに伴うデスペナルティ…所持金と装備の消失を知らせるメッセージが、次々に表示されていく。

「あんなに、あんなに投資したのに! その結果が、これかよっ!!」

そして、画面はゆっくりと暗転していく。

「畜生! 畜生ちくしょう畜生ッ!」

だが、彼は最後まで画面を見ることなくスマートタブレットを放り投げ、仰向けに転がって叫んだ。
コタツの中で足が当たり、天板の上のペットボトルが横倒しになる。
中身がしゅわしゅわと情けない音を立てながらこぼれ、液体がこたつ布団を見る間に無惨な茶色へと染めていく。

「う…ううぅ…あぁぁ…」

だが彼はそれに気づくことなく、あろうことか嗚咽をあげて泣き始めた。

「ぢぐじょう…! ぢくじょう、ああぁっ…!」

「なんで…! なんで、ごんなごとに…!」

そして床をドンドンと大きく叩き、頭を抱え、こたつの中で身悶えするかのように転がって暴れ回った。

「ぼぐの…。 ぼぐの、みらいがぁ…」

しばらく経っても、彼は泣き続け、喚き続け、床を叩き続け、頭をかきむしり続けた。


「ぼぐの…! いっぜんまんえん、がぁぁ…!!」

その後も彼は、部屋の中で泣きながら、一人で奇態を演じ続けた。


<続く>

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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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