女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#3(8)

「(…助けてくれ…。 誰か…。 助けてくれ…)」

俺、マルク=ランディッツは、変なうめき声のせいで、夜中に眼を覚ました。

「何だ…? 誰か、居るのか…?」

だが、周囲を見回しても、誰もいない。

…なんだ、空耳か。 寝よう。

「(助けてくれ…!)」

だが、眼を瞑った瞬間、ドスファンゴがこっちめがけて突っ込んでくる映像が、目の前にいきなり現出したのだ。

「うほおっ!?」

ハンターの条件反射で、慌ててゴロゴロと寝返りを打つ俺。

「…な、なんだッ!?」

ゴロゴロの衝撃で眼が覚め、同時に頭も冴えて、この映像が何なのか、唐突に理解した。
これは鎧の「共感性」だ。
ドスファンゴに襲われたことで、王子は再び鎧の力を起動させたらしい。
今のドスファンゴは王子の見た映像。
俺は今、再び王子と感覚を共有しているのだ。

「何だって、こんなクッソ眠い時に…」

と思わなくもなかったが、これは再び降って沸いたチャンス。
俺は神経を集中して、脳裏のイメージを余すことなくくみ取ろうとする。

すると、存外簡単に、相手の感覚にのっかるというか、被さるというか、一体化する事ができた。
(※悪いが、俺にあの感覚を適切に表現できる語彙はない。 すまん)

そして、しばらく宿主…。
ドスファンゴに襲われたクリス王子の戦いぶりを体感していたが、スタミナの切れた王子は満足に回避すらできず、ドスファンゴに突き飛ばされ、はね飛ばされて…を繰り返していた。

もちろん、「自動防御」は反応していて、ドスファンゴの大きな牙による刺突攻撃から王子を護っている。
だが、突進する巨大な肉の圧力までは受け流しきれず、突き飛ばされて何度も地べたにすっころがされているという状況だ。

「(助けてくれ…)」

どうしたもんかな。
あいにく、ガンナーである俺には、剣士に対する的確なアドバイスができない。
いや、ドスファンゴは全体的に絡め手に弱い。
どんなにヘボい剣士でも、雷属性の武器とか、麻痺剣とか罠があれば瞬殺できるのだが、クリス王子はそれを持っていなかった。
そもそもアイテムポーチを所持していないから、回復薬すら持っていない。

…しょうがない。

「おい、逃げろ」

俺はそう声に出して呟いた。
シャルルの話では、考えを脳裏に思い浮かべただけでは、高度な精神活動は通じないそうので、自分で発した声を自分の耳で聞くことで、相手の感覚に訴えかけられないか、と思ったのだ。

「(…誰だ、お前!?)」
「誰でもいいだろ、とにかく逃げろ!」

即座に反応があった所を見ると、俺の考えは当たっていたらしい。
クリス王子は突如響いて来た俺の声に動揺しつつも、木立を盾にしてなんとか逃げ始めた。

「(逃げて…どうするというんだ)」
「いいから、そこから10時方向を目指して、まっすぐ進め」
「(…何があるんだ!?)」
「多分岩棚がある。 それに乗れ」

クリス王子は半信半疑で歩みを進めるが、俺の予感どおり本当に岩棚が見つかって、ひどく驚いた様子だった。
王子は必死に岩棚をよじ登ろうとするが、尻をドスファンゴに突かれて岩棚の上を転がる。 おいおい…。

「大丈夫か、お前…」

うっかり声に出してそんな事を聞いてしまった。

「(乗ったぞ! それで、これからどうすれば良い!?)」

そんなもん自分で考えろよ、と言いたくなったが、親切な俺は、さらにアドバイスを重ねてやる。

「そこらへんにある岩を脳天にお見舞いしてやれ。 体力が減れば、ドスファンゴも参ってどっかに撤退するはずだ」

崖下で暴れるドスファンゴに向かって、王子はそこらの石ころや、頭大もある岩を拾って次々と投げ落とす。
そのうち、頭にちょうど良く連続ヒットした岩がスタンを奪い、ドスファンゴは仰向けに転がった。

「(…チャンスだ!)」

「おいバカ、やめろって! 岩棚から降りるな! 撤退を狙え!」

だが、王子の狙いは別にあった。
黒龍の鎧の力を発動させ、「棘」をドスファンゴの腹に突き刺したのだ。

「…うっ」

王子は、なんと鎧を使って、ドスファンゴの血液を抜き取り始めた。 体力回復が目的だったのか。
たちまち、密造酒を飲んだ時のような違和感が、俺の全身を覆う。

「うぇ、なんだ、これ…」

正直、メチャクチャ気持ち悪い。
だがそれでも、消耗しきった王子の体には必要なものだったのだろう。
俺の全身にまで、暴力的なまでの高揚感と、漲る意志が伝わってきた。

再び、ドスファンゴが起きあがった時には、ドスファンゴは相当量の血液を奪われたのか、怯えたようにこちらを見ると、きびすを返してスタコラと去っていった。

「…!!」

モンスターの移動速度は早い。
たかがドスファンゴではあるが、スタミナ切れでフラフラの王子が追いつける相手ではなかった。

「(…くそぅ。 くそっくそっくそっ!)」

森の奥に消えた獲物の後ろ姿を眺めながら、悔しそうに膝を叩くクリス王子。

さて、これからどうしたもんか…と思ったが、とりあえず王子が鎧の力を鎮める前に、俺は彼に話しかけた。

「おい、お前…。 いや、クリス王子。 俺が誰だか分かるか?」

すると、しばらくして返事があった。

「(…一国の王子に対して、随分な口を聞くもんだな、『マルク=ランディッツ』)」

おっと、やっぱコイツ俺のこと知ってたのか。
それに「自分の発声を認識する」という方法を即座に理解、順応した所をみると、割と頭いい奴だ。

「お前も、命の恩人に対して、随分な口の聞きようじゃねーか」

そう言って強がってみるものの、王子が俺のフルネームを知っている…つまり俺が、既に王家の中で「お尋ね者」扱いされている事には戦慄を覚えた。
これでは仮にヴォーデンを倒したとしても、その後に王家の連中が俺を襲ってくる事が確定しているはずだ。

マジでヤベェな、どうしたらいい、これ?
俺はどうすれば、連中の手から逃れられる?

「(…マルク。 お前をハンターと見込んで、頼みがある)」

そんな思案にくれている最中、王子からの唐突な要望。

「な、何だよ?」

「(…僕は今、とにかく体力を回復させたい。 だけど、この周りにある草やキノコが、食用になるかどうか分からないんだ。 教えてくれ)」

王子は、そんな事を俺に問いかけながら、手に取った草とキノコを見て、ブルブルと震えていた。

「(…教えてくれ。 これは何なんだ。 食べられるのか)」

こいつ、人の都合とかお構いなしだな…。
俺が襲われてるのは誰のせいだと思ってんだよ。

しかし、ここで恩義を掛けておくという選択肢は間違いではあるまい。
本当は、今すぐコイツを拉致してしまいたい。
そうすれば、少なくとも対ヴォーデン戦における切り札(人質)になる。

だが、周囲のこの森は、さっきの地形からして、ノーブル城の北、カーベッジ丘陵のどこかとしか推測できない。
それに、明日の決戦まで時迫る今、カーベッジ丘陵まで往復している時間はない。
王子が今すぐ馬に乗って街まで走ってでもこない限り、今の時点で拉致を試みるのは無理だろう。

「王子様、悪いがな、それはアオキノコとネンチャク草だ。 どっちも食用にはなんねーぜ」

「(…そ、そうか)」

「だけど、アオキノコは、『薬草』と調合すれば、『回復薬』の材料になる。 そこらへんを回ってみろ、俺が判別してやる」

「(…あ、ありがたい! 助かる!)」

「その代わり、しばらくこの鎧の力を切らさないでくれ。 サバイバルの知識は可能な限りあった方が良いだろう?」

「(…わ、わかった)」

溺れる者は藁をも掴む、とはこの事か。
俺は王子の感覚から流れ込んでくる風景で、カーベッジ丘陵のどこらへんかを抜け目なく探していく。

「(…これはどうなんだ)」
「それはニトロダケと火薬草だ」
「(…食用になるのか?)」
「ならねーよ」

「(…これはどうだ)」
「王子、それはマヒダケとペイントの実だ」
「(…食用になるのか?)」
「あんたアホだな、名前でもうダメって分かるだろ?」
「(…く)」

お互い極限状態のせいもあるだろうが、俺たちは市民と王族という身分にも関わらず、そんな忌憚のないやりとりを繰り返し、丘陵をうろつきまわる。

そして捜索の甲斐あって、俺たちはなんと、薬草とアオキノコの群生地を見つけた。
しかも隣に、ハチミツの巣もあると来たもんだ。
こりゃハンター生活が捗るぜ、と俺までちょっと嬉しくなってしまったが、注意の一言は忘れない。

「おい王子、今から調合の仕方を教える。 近くに水のある場所はないか? それと、アオキノコと薬草は一つずつ残しとけよ? 見本があれば他の草と間違える事はないからな」
「(…わ、わかった。 ところで、これは何だ?)」
「お、それ『落葉草』じゃねーか、レアだぞ。 ハチミツと調合して『元気ドリンコ』が作れるから、それも回収しとけ」
「(…分かった! …これも一つ残すんだな)」
「そうだ。 ハンター生活は甘くねぇからな、一度で覚えろよ」
「(…ああ)」

かつて、ハンターアカデミーで言われていた事を偉そうに講釈してる自分に、思わず苦笑してしまう。

その後、王子は俺の指示に沿って河原を見つけ、思う存分水を飲み干した後、調合を開始した。
素人なので失敗もあったものの、なんとか王子は「回復薬」と「元気ドリンコ」を複数作り上げ、手に乗せてぞろりと飲み下した。

「(ふう…)」
「一息つけたか」

…さて、ここからが本番だ。
俺と王子様との交渉タイム。
口先八丁、手八丁で生きてきた俺の真骨頂だぜ。

「王子、ちょっと聞いてもいいか」
「(…何だ)」
「何故こんな事になった?」

だが、返事がなかった。

「おい、聞こえてるか? 何でお前、家臣に襲われて城から逃げ出してきたのか、って聞いてるんだけどよ」

「(…それを聞いて、どうする)」
「場合によっちゃ、協力する方法があるかもしれないぜ」

だが、またもしばらくの間があった。

「(…ふん。 そんな甘言は、城の中で腐るほど聞いた。 協力する方法? どうせ貴様も僕を利用しようとしているだけだろう?)」

…おっと、拒否された。
こいつぁ予想外。
これだけ追い込まれているなら、一も二もなく乗ってくるはずだったのだが、よほど城の中で痛めつけられたらしいな。
理解はあるようだから「うまい話」ではなく、「取引」に持っていくべきか。

「いや、俺も困ってるんだ。 ユリウス王子から預かったこの『黒龍の小手』…。 正直、俺には無用の長物以外の何者でもない。 平穏無事に過ごしたいってのに、明日俺は、アンタの部下のヴォーデンとの生死を賭けた決戦なんだよ」
「(…。)」
「俺が死んだら、鎧は奴に奪われちまう。 それはアンタにとっても望ましくない展開のはず。 そうだろう?」
「(…。)」
「でだ、何とかして、ヴォーデンの奴を止めてくれないか? そして、人質…俺の友人を取り返せるように働きかけてくれ。 そうすれば、俺はアンタとの、鎧の返還交渉に応じる」

黒龍の鎧と、俺とビアンカの身の安全、その交換。
この取引は、けして悪い話ではないと思っていた。

だが、間をおいて発せられた王子の返事は、諦観に満ちたものだった。

「(…それは、無理だ)」

「何でだよ!?」

絶句した俺に、ボソボソと王子の回答が続く。
内容をまとめると、まずヴォーデンは、正確には王子の配下ではなく、黒幕イルモードの配下であること。

次にヴォーデンは鎧の適性があるため、どんな揺さぶりをかけようとも、俺を殺して鎧を奪い、「共感性」で王子の居場所を察知できること。

最後に…。
これが、俺にとって決定的な要素だったのだが、「王子は鎧の解除方法を知らない」こと。

「お前にはどうやら、鎧の装着者としての、最上級の適性があるらしい」

王子はそう言った。
何でも、普通の人間なら鎧は「古龍の血」で外れるが、その方法でも外れない場合…当の王子がそうなのだが、その解除方法は知らされていないとのこと。
だが、その説明の半分も、俺は頭に入らなかった。

「何てこった…」

俺は思わず天を仰いだ。
じゃあ、「王子を誘拐したぞ、居場所は俺しか知らない」的な交渉は、ヴォーデンには通用しないのか。
結局俺を殺して鎧を奪えば問題ない訳だし。

それに、当の王子が鎧の解除方法を知らないんじゃ、俺の鎧を引き渡す事も取引の材料にならない。
つまり、これで交渉タイム終了、取引市場は閉鎖だ。

同時に、俺は死ぬまで王家に狙われる事も決定した。
自力で鎧の解除方法を見つけない限り、俺に待つ運命は死あるのみ、だ。

なんだこのバカヤロウ、と急に喚き出したい気分になったが、それをすんでの所で飲み込んだ。

「そうか…」
「(ところでマルク、もう一つ教えてもらいたい事があるんだが)」

俺の悲憤極まる胸中なぞ、クリス王子の思慮の中には全くないんだろうな、と思わせる鷹揚な口調だった。

「なんだよ」

こっちはテメェを助けるメリットはもう無くなったってのによ。

「(肉の焼き方を教えてくれ)」
「…は?」

気づけば、王子は森の中にずんずんと分け入っていた。
俺に伝わってくるこの空腹感…。
たぶん、ブルファンゴを探しに行っているのだろう。

「(もっと体力を回復させないと、十分に動けそうにない。 血と肉が必要だ)」

と、なんだか物騒な台詞を吐きながら、クリス王子は片手剣…アサシンカリンガを握りしめて、森の中を散策する。
あいにくブルファンゴは居なかったが、ほどなくして特産キノコをほじくってるモスが居た。
それを見つけるやいなや、王子はモスに疾風の如く襲いかかる。

「ピギャー!」

八つ当たりで放たれた剣は、それでもモスを簡単に絶命させた。
足下に転がるモスの遺骸を見下ろしながら、王子は俺に問いかけてくる。

「(で、これをどうしたらいい? 解体と採肉の方法を教えてくれ)」
「…あのな、王子、もうそろそろ朝なんだ。 俺、もうヴォーデンとの対決があるから、あれこれ教えてる暇ねーんだけど」
「(時間一杯まで教えてくれ)」

こいつは…。
どんだけ唯我独尊なんだよ、そんなんじゃ他人に嫌われるぞ。

「じゃ、簡単な方法で。 モスの両脚を縛って木につり下げて、その下に穴を掘りな。 …って、前足じゃねぇ、後足だよ!」

俺ってどんだけお人好しなんだろうな…。

「そしたら、足首に傷入れて放血な。 で、肛門の周辺をぐるっと切り取って…そうそう、腸に傷つけんなよ」

「で、腹を一気にかっさばく」

すると、ドサドサとモスの内臓が掘った穴に落ちていく光景が見えた。

「そうそう、上手いじゃねぇか」

俺がそう誉めると、クリス王子から喜びの感情が伝わってきた。 

ユリウスの奴は、モスも同じ価値ある魂だと言っていたけど…。 

「後は四肢の腱を切って、足を外していく」

違うよな、こいつは…。

「(腱の場所はどこだ)」
「付け根の部分にある。自分の腱をイメージしてみろ」
「(そうか)」

王子の片手剣は、暗殺者の名の通りにバスバスとモスの体内に入り込んでいく。

そう、クリス王子は、モスを同じ魂どころか、ただの食糧としてしか見ていない。

王子はモスの四肢を、意外に手際よく外す。
肉を切り刻む度に伝わる、この「喜び」…。
どうやら、奴さんは刃物で相手を切り刻む事に、精神的な抵抗は全く無いらしい。
その魂のドス黒さに、俺は一抹の不安を覚えたが、今はそんな事を考えてたってしょうがない。

「よし、じゃあ肉を焼くか」

生肉が回収できた所で、俺は王子に命じ、Y字の枝を2本採取させると共に薪を拾わせ、さっきの岩棚に戻らせると、岩を積んで簡単な焼き肉セットを作らせた。

「(なぁ、どうやって火を起こせば良いんだ)」
「さっき、火薬草を採取しただろうが」
「(…火薬草? これか?)」
「そう、それだ。 火薬草は衝撃で発火するから、枯れてる奴を石で叩いて薪に焚きつけてみろ」

俺は王子の作業を眺める傍ら、今後の算段について思考を続けていた。

「王子の居場所は俺しか知らない」という、この降って沸いた状況は、確実に俺だけのアドバンテージだ。

これをどうにかして生かしたい…と思っているのだが、先に結論が出たとおり、王子を廃嫡したい側との交渉は無意味だ。

なら、発想の転換。
王子を擁立したい側との交渉に役立てるのはどうだ。
シャルルを始め、エイグリル将軍、ユリウス王子。

…うん、それはイケそうな気はする。
少なくとも、この現実を餌にすれば、シャルルが今後、王家の連中からの盾になってくれる事は確実だろう。
エイグリル将軍や、ユリウス…JJからの印象も悪くはならないはず。

ただ、今回の戦闘では直接役に立たないだろう。
城の中に、クリス王子側の重鎮が居れば話は別だが、そんなのが居れば王子は身一つで城から抜け出してきたりはしない。

なので、ヴォーデンとの直接対決だけは、どうにかして凌ぐ必要がある。

…待てよ、そういや、ヴォーデンとクリス王子の連絡体制はどうなっているのだろう?
王子が城を飛び出たこの状況でなら、俺が策を巡らせても、ヴォーデンには知られない可能性は高いんじゃないのか。
だとしたら、今のうちに罠を準備すべきだ。

「(おい、まだか!? これは焦げてるんじゃないのか!?)」
「え?」

王子の声に呼ばれ、意識をクリス王子の視覚へと戻すと、モスの生肉は、すっかり炭化しきったコゲ肉へと変化していた。

「うわちゃ、これ失敗だろ! 削っても食えねぇよ! …てか、なんでもっと早く上げない?」
「(初めての焼き肉でそんな事分かるか!)」

いや分かるだろ、どんだけ調理した事ねぇんだよ、と思ったが、あっそれは王子さま故か、と思い直した。

「もう一つ焼くぞ、ほれ」
「(…分かった。 今度はしっかり見ててくれよ)」
「ああ、それとな、肉をくるくる回して両面をちゃんと焼けよ。 お前片面だけ焼きすぎだろ」
「(こんな感じか)」
「そうそう、そんな感じだ。 フン! ハッ! ホッ! ハッ!」
「(…何だその歌)」
「ハンターに伝わる伝統の肉焼き歌だ。 ハンターはこうやって、肉が上手く焼けるように、リズムをとって、タイミングを計ってるんだ」
「(止めろくだらない。 それに気が散る)」

くだらないって、お前…。

俺は肉焼きソング…「女の肉焼き機」のそれを脳裏に思い浮かべながら、タイミングを取っていく。

「…あっはん♪」
「(な、何だ?)」
「何だじゃねーよ、肉もう焼けてるぞ。 それとも、もっと焼くか?」

そう俺が指摘すると、王子は慌てて支柱から肉を取り上げた。

「(…こ、これでいいのか?)」
「ああ、ウルトラ上手に焼けてんぜ」

無事に焼けたと分かったとたん、王子は凄い勢いで肉を頬張った。
だが、こんがり肉をペロリとたいらげてもまだ物足りないらしく、即座に次の生肉をセットする。

…もういいかな。
俺は王子の食事風景から意識を外し、目を開けて自分の肉体へと意識を戻す。
部屋の時計は、3時半過ぎを示していた。
もうそろそろ、ヴォーデンとの決戦の時間だ。
ここらが頃合いだな。

「おい、王子…。 そろそろ時間だ、俺は行くぜ」
「どこにだ。 まだ教えてもらいたい事はある」

ヴォーデンとの決戦に決まってるだろうが。
しかも、それさっき言ったぞ、もう忘れてんのかよ。
そりゃ、俺の生死とか、お前に取っちゃとるにたらない出来事かもしれねぇがよ!

王子の発言に流石にカチンと来た俺は、いらだち混じりに語気強く言い放った。

「ヴォーデンとの決戦だよ! 忘れんな、テメェのせいで、俺の命は危うくなってんだからな! 心配なら、俺がヴォーデンとの決戦で生き延びられるように祈ってろ! 俺が死ねば、ヴォーデンがお前を喜々として殺しにくるのは間違いねぇんだからよ!」

王子は、一般の平民から投げつけられたその言葉を聞いてしばらく絶句していたようであったが、

「(…悪かった)」

一理あると思ったのか、意外にも、素直な謝罪の言葉を返してきた。
っていうか、王族から謝罪の言葉があるとは思わなかったので、謝られた俺の方が慌ててしまう。

「わ、分かれば良いんだよ。 ところで、もう一度確認するぜ。 本当に、鎧を外す方法は知らないのか?」
「(申し訳ないが、知らない。 普通の人間は、古龍の血などで鎧を外せるが、僕たち黒龍の神官だと、鎧と一体化してしまうから外せないんだ)」

一体化してしまって、二度と外せない。
それは俺の右腕の状況と全く一致する。

「…でも、俺はその黒龍の神官なんかじゃないぜ。 どういう理屈で、俺と鎧は一体化してるんだ?」
「(それは…分からない。 やはり適性だとしか)」
「そうかよ」

まぁ、鎧の解除方法を知っているのなら、王子も命を狙われる必要まではなかったはずだしな。
これは、本当に知らないんだろう。

「んじゃ、もう鎧の力を鎮めていいぜ、今から準備があるからな」
「(わかった…。 僕がこんな事を言えた義理じゃないが、頑張ってくれ、マルク)」

全くだぜ。
しかし…妙な成り行きだよな。
王様と平民で、こんな会話には普通ならねぇよ…。

「(それと…良ければ、もう一つ聞いておきたいんだが)」
「何だよ!」
「(勝算はあるのか)」

おいおい、全ての原因のお前がそれを聞くかよ…。

「分からねぇ、やってみなけりゃよ」
「(死にに行くようなものなのに、それでも行くのか)」

…コイツ、せっかく戦う気になってんのに、萎えさせんなっての!

「(この世は全て…弱肉強食だ。 僕は、それを嫌というほど思い知らされてきた。 ハンターである君も、当然それを知っているはずだ。 弱ければ…。 他者の理不尽を、涙と共に無理矢理飲み込まされるだけ。 だのに、君は何故立ち向かえる?)」

「…」

その発言は、俺がハンターのヒエラルキーの中で、比較的「弱者」の立ち位置に居るという事を知らないと出てこないはずだ。
俺が弱いって事を知ってるってことは、よほど長く観察されてたんだな。

だが、それは同時に彼自身の事でもあるのだろう。
弱者同士だから理解できたとは思いたくないが、王子のその問いは、あまりにも切実で、哀切に満ちていたように聞こえたから。
おそらくは、城の中で、自分一人の戦いを続けていたのだろう。
報われるかどうかも分からない、先の見えない戦いを、たった一人で…。

「(なぁ、どうなんだ。 教えてくれ)」

こんな極限状態でも、自分の問題ばかりを優先する姿勢にはイラッとは来る。
だが、まだ若いし、気持ちも分かるから見逃してやる。

「ま、長い人生、逆風の時はある。 寒くて暗くて辛くて…。 いつまで続くんだろうな、って思う時は確かにあるよ、誰でもな」
「でも、必ず夜は明ける。 風もいつかは凪ぐ。 その先に、楽しい人生が待ってんじゃねぇのかと考えたら、泣き言ばっかり言ってる訳にもいかねぇだろ? それに…」

廊下の先から、ガシャガシャと金属音混じりの靴音が聞こえた。

「ハンターは、一人じゃない」

そして、ノックと共に部屋の扉が開いた。

「おはよう、マルク。 …もう起きてたのか? 体調はどうだ? 行けそうか?」

そこには、全身を白銀の鎧に包んだ、見目麗しき大剣の姫君が居た。
新調したカブレライトソードと、ハイメタSシリーズ。
薄暗い部屋の明かりを煌々と反射させるその姿は、まるで宗教画に登場する、神託を受けた女性騎士のような、幻想的な佇まいだった。

「ああ、残念ながらプレッシャーで眠るどこじゃなかった。 おかげさんでいつでも出撃できるぜ」

ニヤリと笑って、俺は立ち上がった。
それを見て、シャルルが柔らかく微笑む。
そして、その光景を見ていたクリス王子が、ごくりと息を飲む感覚が伝わってきた。

そう、王子と違って、俺は一人じゃない。
一人では狩猟できない相手も、複数でかかれば倒せるかもしれないのだ。

「よし…。 ならば行こう。 勝つぞ。 そしてビアンカを取り戻す」
「ああ、もちろんだ。 必ず勝つぜ!」

俺たちは白い息を吐きながら、レストランの宿を出て、馬と資材の準備を始めた。

準備の最中、王子が何か言うかと思っていたが、王子は鎧の力を鎮めたのか、それとも俺が高揚していたせいか、声は全く聞こえなくなっていた。

それでも、こちらの声は届くだろう。
だから俺は、ロスターの詩集の一節を、あえて口に出して呟いた。

「誰もがそうであるように…。 嵐は、必ずくぐらねばならない…。 それを拒んだとき、失うのは命ではなく魂だから、な」

<続く>
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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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