女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

Entries

「GUNNER'S HEAVEN」#3(3)

「きゃっ!? な、何されるんですか、王子様っ!?」
「うるさい! 食事を下げろ! 僕は、食べないと言っているだろう!」

クリス王子は、侍女シャノアの足下に、食事の膳をまとめて叩きつける。
派手な音と共に、食器は粉々に砕け、食事が床に散乱した。

「でも、あまり食事を取らないと、体を壊して…」
「やかましいッ! さっさと下げないと、貴様を殺すぞ、シャノアッ! 出ていけっ!」
「ひぃっ!?」

ビアンカがさらわれ、シャルルがノーブル城下まで戻ってきた日の朝。
ちょうど、マルクが安堵して眠りについた頃、クリス王子は精神的に不安定の極致にあった。

「(貴様、何を考えている、ヴォーデン…。 場合によっては許さんぞ…!!)」

共益関係を結んでおきながら、突然の裏切り。

クリス王子は、ヴォーデンに対し、メッセンジャーとシャルルの援護を依頼していた。
マルクの鎧を通じて監視を続ける中、鎧が外れない事と、シャルルと共にゴッドフリートの包囲網を突破した時には王子も困惑した。
だが、偶然にもアラティゴに3人が居るのを知った王子は、ギルドのフレンドメール制度にて、待機していたヴォーデンに居場所を伝えた。
手紙が届くまでの2時間、その短い時間で、ヴォーデンは首尾良くマルクたちへの奇襲を成功させた。
そこまでは良かった。

だがヴォーデンは、人質交換の要員に、マルクだけではなくシャルルも加えてきたのだ。

鎧さえ奪えば事足りるのだから、要員はマルクだけで良いはず。
なのにシャルルまでをも指名したという事は、彼女を殺害し、イルモードに取り入ろうとしているのに違いない。

ヴォーデンは人質を取る際「覇道を護るものも、また騎士」と言っていた。
それがイルモードの事をを指すのはあまりにも明白だった。

「(ゴッドフリートの脱落を確信して、調子に乗ったか…?)」

ヴォーデンの突然の翻身は、運が彼に向いたが故の行動か。

「(くそ…! 手下は与えられた物だけで、満足していれば良いものを…!)」

加えて、至急連絡を寄越すように書いた手紙も、まだ返事がない。
今まで平行だった天秤の傾きが、全くの第三者である、ヴォーデン如きの手に左右されている。
どうしたら、と王子が思った所で、突然、自室の扉が開かれた。

「ご機嫌うるわしゅう、王子。 体調はいかがでしょうか? 本日は、お伺いしたい事がございまして…」

イルモードとカルネラが、ノックもそこそこに、いきなり部屋へと入ってきたのだ。

「何だ、お前等」

イルモードは、王子のすげない挨拶を聞いている様子はなく、室内を眺め回し、その散乱ぶりを確認している。
そして床に散らされた食事に目を留めたまま、無表情に口を開いた。

「今日は、喜ばしい報告がございます」

表情と台詞が一致していないイルモードの言葉を継いで、カルネラが一歩前に踏み出す。
そして胸に抱いた包みをほどき、内容物を王子に見せる。

「それは…!?」

カルネラ大臣の手中から現れたのは「黒龍の小手」。
何故そこに、と一瞬考えたが、よく見ればそれはマルクの持つ「右腕」ではなく「左腕」だった。
という事は…。

「ウィル将軍とカッツェ将軍が、ユリウス王子から、鎧を取り返してまいりました」
「何ッ!? ユリウスから、鎧を!? まさか、殺したのか!?」
「いえ、弟殿はご無事です。 両将軍は、説得にて鎧を拝領してございます」
「ユリウスが、説得で、鎧を渡した…?」

それは、弟の性格を良く知る兄として、到底信じられない返答だった。
ユリウスなら、自分の意志を絶対に曲げる事はない。
自ら信じるもののために、とことんまで突き進む奴なのに…。

「代替条件として、エイグリル将軍の存命措置を呑む事にはなりましたがね」
「そうか…」

詳細は分からないが、人質交換の結果なのなら、一応理解はできる。
まがりなりにも、師であるエイグリル将軍の命と引き替えとなれば、鎧を渡してしまう事はあるかもしれない。

にしても、愚に尽きるのはウィルとカッツェだ。
存命措置と言っても、所詮、戴冠式の日まではエイグリルを殺さない、というだけの口約束に過ぎないはず。
奴らのような悪鬼の言葉をどうやって担保する?
そんな貧弱な約束と引き替えに、鎧を渡してしまうとは、なんという弱腰、なんという浅薄か!

恐ろしい事に、これで全ての鎧の在処が判明した。
残る鎧は、もう、マルク=ランディッツの右腕だけ。
それをイルモードが入手すれば、もう連中は行動を起こすだろう。
鎧が、全て揃うこととなる。
つまりは、ヴォーデンの行動に、この国の運命が左右される事になったのだ。

なんだこの冗談のような状況は、と考えた王子は、軽い目眩に襲われた。

「つきましては、王名にて全員を召集、緊急会議を開きたく考えておりますが、よろしいでしょうか?」
「何の命令でだ」
「諸大臣たちへの、鎧奪還の報告及び、ユリウス王子の今後の処遇にございます」
「…好きにせよ」

この時のクリス王子は、絶望に打ちひしがれ、もはやまともな思考をする気力すら残っていなかった。
おそらくは、ユリウスを殺すか捕縛するかの算段をするつもりなのだろうが、そこまで徹底的に、今まで奉職してきたはずの王家の者に対して、家臣が皆、これほど無慈悲になれる事が信じられなかった。

「ありがとうございます。 ときに王子、侍女より報告を受けましたが、食事を取らないと体に障りますぞ」

だが、クリス王子には返事する気力すら湧いてこなかった。

「体調がよろしくないようですので、代理で私が会議を開催したいと思います。 報告は後ほど、どうかご養生なされませ」
「お部屋の片づけは、後に侍女を向かわせます。 今後は癇癪を起こされませんよう」

イルモードとカルネラは、それぞれ言いたい事だけ言って、さっさと部屋を去っていった。

「(シャルル…。 シャルル、僕はどうしたら良い?)」

目を瞑ると、脳裏におぼろげながら、さっきのシャルルのイメージが伝わってくる。
それは、マルクと会話していたシャルルの姿。
喋っている内容は、互いの声が小さくて分かりにくかったが、二人は何故か「強くなること」の話をしていた。

シャルルと会話する際に感じた、マルクの興奮。
だがそれは、決して劣情混じりの嫌らしいものではなく、むしろすがすがしく、希望に満ちた胸の高鳴りだった。

王子にも覚えがある。
シャルルに片手剣を学んでいた頃の気持ち。
あの頃抱いていたひたむきな気持ちに、ひどく良く似ていた気がする。

強さへの道筋として、エイグリル将軍との邂逅を示されたマルクは、満足して眠りについた。
絶望の淵に立たされながらも、強くなるために、生きようと決心して眠りについた彼。

「(僕より、遙かに年上なのに…)」

年を取っても、まだ強くなるとか、そんな希望を持っている事が羨ましかった。

「(そんな、ありえない希望にすがって、どうするって言うんだよ…)」

狩人や兵士の頂点は、体力が最も充実する25歳前後だと言われている。
常識的に考えて、もう彼に、一流ハンターとしての道は残されていない。
なのに、彼は、まだその夢を諦めていない。

「(…どうして、そうまでして頑張れるんだ、君は)」

不可解な疑問と、一抹の寂寥感。
だが、眠りに落ちたマルクの心にいくら問いかけようとも、相変わらず何の反応も返ってこなかった。


  *    *


「何ィィーーッッ!? ビアンカァァ…様がさらわれたァァァッ、だと!?」
「…。」
「ちょっ、声デカすぎにゃん、ニボシさん!」

目の前で老人が絶叫し、慟哭する。
その様相に、シャルルは絶句するより他なかった。

ここは「雲龍の宴」亭の道を挟んで対岸、「荊竜の微睡」亭、その2階。
ヴォーデンに居場所を察知された場所ではあるが「一度看破された所に舞い戻っているとは思うまい」という算段の元、シャルルは利便性の高いここを根城に選んだ。

「なんという事…! あれほど注意をと申し上げておったのに、なんたる不覚か!」
「まぁまぁ、ビアンカ殿とて人間、誰しも油断はあるでござる」
「何が油断か! それは決して我が流派を語る者にとっては許されん言葉…! ああぁ…!」

シャルルが仮眠をとってしばらくの後、昼前にヤチヨ、ディルガーウェン、フレンディの3人が戻ってきた。
そう、「荊竜の微睡」亭は、この3人との合流場所でもあったのだ。

…だが、その後にまさかの4人目がしれっと付いてきてたのである。
それに気づかず、シャルルが3人に対しビアンカがさらわれた事を説明した途端、隠れていた4人目のご老人が激昂して、その存在に初めて気づいたのだった。

「賊めが、許さんぞ! 必ずビアンカ…様は救い出す! ぬぅぉおおぉぉーーーッ!!」

どう見ても、ただの老人ではなかった。
年に似合わぬ血気盛んな怒りっぷりもそうだが、何よりも、ただならぬ量の気が、火山の如く噴火している。
その量たるや、BAD=KINGや、ビアンカと同レベルの練気。
それすなわち、鍛え抜いた武人である事の証明だった。

さらにその老人を観察してみる。
白くなり果てた長めのゲネポスショートに、額から眉にかけての刀傷の痕。
装備はごく簡単な麻布の服(インナー)で、手甲だけを装着しており、紐に通した小さい角笛を、肩から腰に掛けている。
身長は160足らず、年齢は70歳過ぎだろうが、その肩や胸元は老人とは思えないほどにブ厚く、背筋もしゃんとしている。
顔こそ深い皺が刻まれているが、腕や足の肌の張りは、壮年のそれと全然遜色がない。

「あの、もしもし? 貴方、どちらさま?」

白髪の老人の怒りが収まったのを見計らって、シャルルは問いかける。
この老人は、一体何者なのだろうか。

「ああ、こちらは『ニボシ』さんだにゃん」
「『イイボシ』と申します」

だが、シャルルの問いに答えたのはフレンディだった。
それを訂正する白髪の老人。

「ニボシ…? あの、ニボシさんと皆は、どういうご関係?」
「『イイボシ』です」
「ニボシ殿は、笹神龍心殿の国選使用人だそうでござる」
「えっ!? 笹神って、あの『弓皇翁』の!?」
「そうでござる」
「笹神殿の捜索に出かけた際、運良くこの方と邂逅する事ができたのだ…!」

それを聞いて、シャルルはまたも我が身に降って湧いた幸運に感謝した。
軍神の導きか、この窮地において、まさか笹神龍心ゆかりの人物に遭遇できるとは。

…あれ? 
この人さっき、ビアンカの事知ってるような事言ってたよね?
そして流派がどうのこうの。
じゃあ、ビアンカも、笹神龍心ゆかりの人物…?

「ご、ごめんなさいニボシさん、挨拶が遅れました! 私、このバルベキア三国にて、王の近衛兵、黒龍騎士団長を勤めます『シャルル=サンドリオン』と申します!」
「…ニボシじゃなくて、飯干(イイボシ)です」

そして一つ咳払いをすると、

「東方の名前は発音しにくいでしょうから、公用語読みの『ハンカーン』でも結構です。 『ハン』とでもお呼び下さい」
「ど、どうも」

黒龍騎士団長という役職が、この国でどれだけ偉いのか理解していないのか、ハンは上から目線でそう促す。

「と、ところで、さっきのお話にあった、国選使用人って何なのかしら?」
「分かりやすく言えば、国から選ばれたエリート執事、みたいな感じ」
「その仕事は、笹神殿の身の回りの世話と、いざという時の影武者役、と聞いている…!」
「へぇ…」

笹神龍心の執事兼、影武者。
なら、やはり彼の事を知っているはず。

「それはもう僕らが、聞いて聞きまくったにゃん」
「何でアンタらが先に聞いてるのよ」
「だって拙者たち、リズ殿と違って純粋な笹神リスペクトでござるからな」

シャルルがハンに笹神龍心との関係性を問うたところ、彼は隠す様子もなく、あっさりと全てを語ってくれた。

ハンカーンは、笹神龍心と、その孫娘(養子)ビアンカに永く仕えてきたこと。
エイグリル将軍の救援要請に応え、3人でこの国に(空路で)密入国してきたこと。
諜報活動に勤しもうと別々に行動し始めた矢先に、笹神龍心の消息が途絶えたこと。
危険を感じ、連絡を取ろうとした際に、気になる情報を酒場の掲示板で見かけたこと。

「気になる情報?」
「僕ら、笹神殿を探すために、彼あての手紙を書いて、掲示板に貼ってもらってたんだにゃん! 探すんじゃなく、逆に来てもらえば良いと思って!」
「そのアイデアを思いついたのはこの私だ! 狩猟の貴公子・ディル・ガー・ウェンだ! ゆめ忘れるな! 貴様等は批判するだけだったろうが…!」
「うむ、ムチムチプリンの女の子が待ってます、って頭悪い手紙を書いたのは、間違いなくディルガーウェン殿でござる」

「…そんなので」

そんなアホそうな手紙でハン氏は釣られたの?
とシャルルが当のハンカーンに視線で問うと、ハンカーンは多少顔を赤くし、咳払いをしながら

「いや、何…。 ムチムチプリンの女というのが、もしかしてビアンカ様の事か、と思ったのが一つ」
「なるほど」

ムチムチプリンでビアンカ。
彼女のグラマラスなスタイルを思い出してみれば、さもありなんという気がしないでもない。

「もう一つは、手紙に記された指定の場所が、我々が降り立った砂漠の近くだったのでな」

お互いの消息が途絶えた場合、ともあれ皆が共通して知る場所に戻ろうとするのも、行動としては筋が通っている。
偶然が重なったことで、運良く関係者が釣れた訳か。

「やるじゃない、お手柄よディルガーウェン!」
「リズ殿のためなら、至極当然の働き…! ところで、ご褒美を頂戴するのは…?」
「ああ、笹神さん本人じゃないからダメ。アウト」
「なっ…! それは約束を違えてるのでは!?」
「違えてないわよ、だってこの方は笹神さんじゃなくて、ニボ…ハンさんだから」
「その通りにゃん! さすがリズにゃん、公平な判断!」
「ざまあみろでござる!」
「はあああああ!」

そう言って、ディルガーウェンは踊るように床に崩れ落ちた。

「頑張ったのに…。 頑張ったのに、これほど酷な仕打ちがあろうか、リズ殿…」

ディルは床を掻きながらシャルルを見上げたが、

「いいえディル、約束は継続中よ。 笹神さんを連れてきたら、何でも言うこと聞く、ってのはまだ生きてるわ。 でも、約束を守るからこそ、約定を動かしたりはしないの」

と、シャルルは優しく返した。
約定という役人言葉の意味がディルには掴み兼ねたが、要は「約束は額面どおりに守るから、変に譲歩したりしないよ」という事らしい。

「ま、リズにゃんに誉められただけでも良しとするにゃん、ディル」
「そうそう、正直、拙者たちはこの作戦、最初から失敗するもの、と思ってたでござるからな」

「…正直、主(あるじ)の偽物が、あんなに居るとは思いませんでしたがの」

そこで、ハン氏が3人組+シャルルの会話に割り込んできた。

「…主(あるじ)の偽者? 一体どういう事?」
「えっとね、リズにゃんも笹神龍心さんの偽者の話は知ってるでしょ? で、ディルの手紙、案外に沢山の偽物が釣れたんだにゃん」
「オアシスは、まさに笹神龍心のバーゲンセールであった…!」
「ところが、このハン殿が、偽者の群れに激怒され、全員叩きのめしてしまったのでござる」
「へえ…。 武器は?」
「笛でござる」
「…ふぇぇ!?」

笹神龍心の関係者だから、ビアンカ同様に弓かと思ってたら、全然違ってて動揺した。
確かに、ハン氏は角笛を腰に下げている。
よく見れば、それは「鬼人笛」「解毒笛」「回復笛」の便利角笛3本セットだ。

狩猟笛使いだと角笛を上手く吹けるから、マストアイテムとして所持している者は多い。
まぁ、ビアンカと笹神の使用人のハン氏が、サポートのために笛を使うというのは、十分に考えられることだ。

「まぁ、主を護るためには、それなりの武の心得がない事には話にならんのでですな」

ヤチヨとディルは、どうやってハンが笹神の偽者を豪快に倒していったか、目撃した武勇伝を熱く語っていたが、ハンはそれを咳払いで中断させると、シャルルに話を促した。

「それで、先ほどの…。 ビアンカ殿がさらわれた経緯を、もう一度よく聞かせて頂きたいのですが」


  *    *


それから30分、シャルルの説明をじっくり聞いたハンは、言われた事を確認するように問い返す。

「その、ヴォーデンなる賊の目的は、隣で寝ているマルク殿が持つ鎧の奪還。 ビアンカ様の解放条件は、シャルル殿とマルク殿でシュゲール平原に赴く事。 しかし…」

ハンは、コキコキと首を鳴らして、困ったように言う。

「相手は大軍を抱えて、シャルル殿とマルク殿を包囲し、一斉射撃で抹殺するつもりであろう事…。 つまり、ビアンカ様の命もない、と」
「そうなの、正直、手も足も出ない状態で、一体どうしたら良いのか、検討もつかないのよ…」

「ここまで絶望的なのも、拙者初めてのシチュエーションでござる…!」
「…鬼人薬と間違えて、ホットドリンクを無駄に飲んでしまうのと同じくらいの絶望!」
「たかがドリンク如きが、どんだけもったいないにゃん」

相手はこの2日の間に、銃と兵士を準備してくるだろう。
それまでに対抗策を考えなくてはならない。
ただし、マルクの右腕に装備された「黒龍の小手」の特殊能力によって、こっちの行動は筒抜けになるという弊害がある。 そのため、逃亡は不可能。
シャルルが率先して策を練り、首謀者であるヴォーデンを倒さない限り、永遠に追跡される事となる。

「リズにゃん、提案!」
「どうぞ、フレンディ」
「マルクさんだけをヴォーデンに引き渡す、というのはどうかにゃ?」
「多分、そういう折衷案は無駄だと思うわ。 ヴォーデンはこれを機に、私も抹殺しようと考えているみたいだし。 それに…」

シャルルを真剣な目で、フレンディを見据えた。

「そんな卑怯な方法は、この私が許さないわ。 例え力及ばず、地に伏す事になろうとも、軍神の正義だけは絶対に汚させない!」
「分かってる、分かってるにゃん、可能性を一応検討しただけぇ! ああっ、リズにゃん、睨まないで!」

「となれば、やはり寡兵にて大軍を倒す方法を考慮しないといかん訳でござるが…。 リズ殿には、何か考えが?」
「…ごめんなさい。 それが、全く思い浮かばないのよ」
「…」
「…誰か、いいアイデアござらんか?」
「…」

部屋の中に、沈黙が漂う。

「ここに、盤戯はございますか」
「へ?」

だが、部屋の中に垂れ込めた沈黙を破ったのは、ハンだった。

「寡兵にて大軍を破った例は、戦史にはいくらでもございます。 盤戯にて、それを検討いたしましょう」
「それは分かってるわ、私とて数多く戦場に出てるもの…! だけど、シュゲール平原は、策略が通用するような地形じゃないのよ」
「ならなおのこと、盤戯を使いましょう。頭であれこれ考えるよりも、実践を繰り返した方が早いものですよ」

シャルルは、その言に多少納得できないような表情を浮かべたが、素直に戸棚から盤戯を取り出すと、ハンの前に駒と共に置いた。

「シュゲール平原の地図はありますか?」
「地図はないけど、頭には入ってるわ」
「じゃあ、その地形を盤面にて再現して下さい」
「…なら、大盤面を使わせてもらうわ。 シュゲール平原は、山岳と海に囲まれたバルベキア三国が唯一、大軍で戦える場所なの」

シュゲール平原は、かつては肥沃な土地だったらしいが、度重なる戦乱によって、現在は半ば砂漠と化している。
唯一目印になるものと言えば、砂漠中央に横たわる岩石地帯くらいか。

「…なるほど、山岳に囲まれた盆地。 周囲には伏兵できる谷も森もない。 これでは純粋な戦力勝負ですな」
「だから、そう言ったでしょう? これでどうするっての?」
「では…」

そう言うと、ハンは駒をじゃらじゃらと集め、盤の上に置き始めた。

「私はそのヴォーデンとやらの立場で戦いましょう。 そうですな、私なら…」

        ③
       ③
      ③
 ※① ② ③    ④⑤
      ③
       ③
        ③

①=ビアンカ(仮)
②=ヴォーデン
③=狙撃兵
④=マルク
⑤=シャルル

「こんな感じの陣を組むでしょうな。 同士討ちを避けるため、またヴォーデンの盾とするために、ヴォーデンを主体として半円を描く陣にします」
「…半円の陣? 後ろからの狙撃がないのなら、対応策はあるわ。 マルクに盾を持たせて突っ込み、私がけむり玉を投げる。 とすれば、敵は同士討ちを恐れて、発砲を控えるはず。 その混乱に乗じて、ヴォーデンを討つわ」
「ふふ、すんなりと対応策が出てきたではありませんか」
「う…。 そ、そうね」

だがそこで、3人組がそれぞれ自策を披露し始めた。

「ちょっと待つにゃん、けむり玉を投げたら、こっちも相手の場所が分からなくなるにゃん? それに、敵はすぐ効果範囲の外に出ようとするはずにゃん」

「なら、ペイント弾で狙撃すればどうか? けむり玉の効果範囲から逃れようとするなら、逆にけむり玉で追い立てる事も可能なはず…!」

「いや、この地形で、遠距離狙撃が可能な地形はなかろう? そもそも、これではビアンカ殿の配置も重要でござらんか? ヴォーデンが騎馬を使っていたり、ビアンカ殿を人質としていれば、こちらは手も足も出ないでござる」

「こ、こらっ! そんな一遍に言われたって、整理しきれないわよ!」

シャルルは一喝して会話の流れを止め、慌てて今言われた事をまとめようとしたが、

「なるほど、あなた方の発案も至極もっともですな」

ハンは3人組のアイデアをすんなりと理解し、むしろ3人組とああでもない、こうでもないと作戦の検討を始めた。
目の前で、作戦が飛ぶように流れ推移するのを、呆然とした様子で眺めるシャルル。

「ちょ、ちょっと待ってよ…。 せっかく私も作戦に参加したいのに…。 ふぇぇ…」


<続く>
スポンサーサイト

*Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

プロフィール

丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

最近の記事

月別アーカイブ

FC2カウンター

右サイドメニュー

ブログ内検索

ブロとも申請フォーム