女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(11)-5

「あの、王子。 でも、先にお願いしておきたいんですけど、よろしければ『無礼は死を以て詫びろ』ってのは勘弁して頂けます?」
「はは…。 宰相のような事を言うつもりはない。 君の顔を立てて、今回の件は不問にするよ」
「さすがです、ありがとうございます、王子」

…だが、彼らは本当に強かった。
彼ら自身の仲裁によって引き分けに終わったが、元々、二人の職種は、ランサーなのである。
本来の武器を手にして攻めてこられれば、不覚を取って捕縛、あるいは殺害された可能性は極めて高い。
負けるつもりこそなかったものの、正直、先ほどの戦いは、相当に危うかった。

「(…いや、あの銃さえあれば)」

一瞬、胸中をよぎった敗北の可能性。
だがそれに対し、生来の負けん気が、王子の愛銃を想起させる。
店売りのボーンシューターではなく、永い間使い込んで、血肉の一部と呼べるほどに至ったあの銃ならば、このような結果にはならなかったはず。

あの麗しき「漆黒の決闘銃」さえあれば、自分は誰にも負けない…。

「(…何を考えているんだ、僕は)」

そこまで思った所で、王子はそんな事を考えた自分に苦笑し、首を振った。

戦場で「もしも」はあり得ない。
目の前に今ある全てを駆使して最善を尽くさなければ、生き延びる道は開けない。
「自分の愛銃があれば」なんて考えるのは、もはや負け惜しみ同然、自ら進んで敗北を認めているようなものだ。

「(…そうだ、目の前の結果だけが、全てなんだ)」

王子は気持ちを切り替え、胸に熱くわだかまった闘気の残滓を、改めて大きくゆっくり吐き出した。

「…それでは、改めて交渉に移らさせて頂きたいと思います。 その黒龍の鎧…。 右腕しかないようですが、それをお譲り頂けないでしょうか、王子」

シュバルツェ=カッツェが、にこやかにそう言った。



ここで、場面はビアンカと謎の女性片手剣使いに移る。
ビアンカの攻撃を苦もなく弾いた女性剣士は、男性用イーオス装備の口元の留め金を外し、自分の素顔を露出させる。

「…お前は!」

その顔は、ビアンカの予感どおり…。
どういう因縁なのか、そのヘルムから覗く端正な顔は、唯一彼女に比肩した相手、あの酒場の受付嬢、リズその人だった。

「何で…!?」

見間違いではない。
だがあの時の酒場の受付嬢が、何故この部隊に存在し、再びこうして対峙する事になったのか?

…もしかすると、彼女はそもそも、受付嬢などでは無かったのではないか?

ビアンカがそう考えた時、場面は急展開を見せた。
女性剣士リズは、けむり玉の煙が晴れてゴッドフリートの姿が見えるようになるやいなや、リロードの隙をついて、ゴッドフリートに襲いかかったのだ。
体躯に合わないであろう鎧を身につけているのに、彼女の襲撃は神速にして静寂、ゴッドフリートは棒立ちのまま、後頭部に剣の柄頭による一撃を受ける。

「あがぁあっ!?」

そのまま流れるような動作で、ボウガンごと右腕を抱え込んで、肘をゴキッとへし折り、相手を引き込み倒して肩を極める、までが一瞬だった。

「がひぃいいっ!?」

敵のはずだったこの女性剣士・リズが急にゴッドフリートを攻撃したのを見て、ビアンカは一体何がどうなっているのかと、この状況を判断しかねる。

「(…そうや、マルクは!?)」

白煙が完全に晴れた中から姿を現したのは、血の海に倒れ込んでいるマルクだった。
その右腕からは、細い海草のような棘が無数に収縮を繰り返している。

「マルク!」

そう言ってビアンカはマルクに駆け寄ろうとしたが、

「駄目! 彼に近づかないで!」

女性剣士リズの制止。

「うおっ、何やこれ!?」

マルクの右腕から伸びる「棘」が、ざわっと音を立てて一斉に伸張し、直線を描いてビアンカに襲いかかってきたのだ。
間一髪で距離を取れたが、制止の声が無かったら、この棘に全身を貫かれていたかもしれない。

「その鎧は危険よ! その棘は、本人の意志とは無関係に、自動で反応するの! うかつに近づくと、あなたも攻撃されて血を吸われるわよ!」
「血を!?」

そういえば、確かにマルクはこの鎧を外すため、古龍の血に腕を浸していた。

「でも、自動で攻撃されるっちゅうなら、どうすればええねん! このままじゃ近づけへん!」
「私なら近づけるわ、この人をお願い!」

自動で攻撃されると言ったのに、何故自分だけは近づけるのか。
そんな疑問を抱いたビアンカだったが、状況が不明過ぎたため、とりあえずは敵ではないらしい、この女性剣士・リズの発言に従う事にし、ゴッドフリートを代わりに拘束した。

「貴様らぁ…。 一体、何者だッ…!? これはどういう事だッ…!?」
「さぁ、それはウチも知りたいわ」
「とぼけるな! 説明しろ! 貴様等、マルクに雇われたのか…? 下衆どもが、許さん、許さんぞ…!」
「うるさいわ」

そう言って、ビアンカはゴッドフリートの極めた右腕を軽く捻る。

「あぐわぁッ!」

へし折ったかに思えた右腕は、脱臼だけで済んでいた。
自分だったら確実にブチ折っていた所なのに、何とも心優しい剣士様である事だ。
そう思いながらビアンカは、リズの挙動を見ていたが、彼女は全身の気を極力平静にし、まるで瞑想の時のような、いわゆる「無の状態」でマルクの方へと歩んでいく。

「(…!?)」

そんな対応で良いのか、と思ったビアンカだったが、しかしマルクの右腕から伸びた棘は、次々とリズに襲いかかる。
驚くべきはその強度で、棘はリズの鎧を簡単に貫いた。
棘が鎧を貫通するたび、リズの全身が衝撃に揺れる。
そして、血を吸っているのか、棘が僅かに脈動しているのが確認できた。

「(…自分なら大丈夫、じゃなかったんか!?)」

たが、それでもリズは歩みを止めず、棘に刺されるがままの状態で、ごくゆっくりとマルクに近寄り、おそらくは「生命の粉塵」なのか、何かの粉を気絶している彼にそっと振りかける。

すると変化があった。
ゆっくりとマルクの傷が癒えていくにつれ、リズの鎧に無数に突き立った棘が、次々に抜けてマルクの右腕に戻っていったのだ。
それを確認してから、女性剣士リズは、マルクを抱き起こすと、小荷物のようにひょいっと背負う。
互いの鎧の重みでかなりの重量のはずだが、彼女の足腰がふらつく様子は見えない。

「おい、大丈夫か!?」
「大丈夫、彼は生きてるわ」
「いや、アンタも!」
「私は平気よ。 何せ、この鎧からは嫌われてるからね」

それが何の事を意味するのか不明だったが、

「それよりも、この場を離れましょう。 紅龍騎士団の残党が戻ってきたわよ」
「…ホンマや」

ビアンカでも言われれば気づかないほど微かに、だが確かに残党の足音が近づいてくるのが聞こえる。
そのため、彼女の「鎧に嫌われて」発言の真意を聞く事はできなかった。

「で、このゴッドなんちゃらはどうすんねん」
「名誉ある人の名を、貴様ら平民どもが軽々しく呼ぶな! Herr(尊称)をつけろ! ゴッドフリートだ! ピスカードル家六男、ゴッドフリート=ピスカードルだッ!」
「はいはい、ゴッさんはちょっと黙っといてなー」
「ぐわがぁっ!」

会話に割り込んで来たゴッドフリートだが、ビアンカに再度腕を捻られ沈黙する。

「連れていくわ、盾として必要なの。 無用な戦闘は避けたいから」
「それは良かった、コイツにはいろいろ聞きたい事があるからな」

リズがマルクを担ぎ、ビアンカはゴッドフリートを縛り上げて、マルクのボウガンを回収する頃には、紅龍騎士団の残党が続々と姿を表していた。

「き…手前らァ! 何者だッ、隊長に何してやがる!」
「さぁ、何者かしらね!? 案外、正義の味方なのかもよ? 大人しくしていれば、隊長の命までは取らないわ! そのまま隊を固めて待機してなさい!」
「ウチらが無事逃げきるまでは、こいつは離さへんからな! そこらへん、おまえらの足りん頭によーく叩きこんどけや!」

だが、ゴッドフリートを人質に取る事で、残党の強襲を抑止する。

「何をしている、貴様らッ! 殺せ! こいつらを殺せッ!」
「しかし、隊長が…!」

元々、犯罪者で構成された部隊は志気も忠誠心も低い。
そのため、シャルルとビアンカは苦もなく包囲を脱出する事ができた。

「助けろッ! 私を助けろ! 何をしている、この役立たずどもがッ! こんな…こんな屈辱を…この私がっ…!」
「あーハイハイ、もうホントうっさいなー」

途中でゴッドフリートが人質という身分も弁えずに助けを求めて叫んだため、後頭部を打って気絶させる。
郊外まで逃走した所で、完全に追っ手を撒いたのを確認し、岩陰で休息を取る二人。


「…これで当面は大丈夫ね」
「それはそうと、まず、アンタ何者や? やっぱ、受付嬢なんかじゃなかったんやな」

だが、女性剣士リズは、イーオスヘルムを外すと、同じ女性でも息を飲む、輝くような笑みをにっこりと浮かべて言った。

「これも、軍神のお導きなのかしら…。 また、貴女と逢えると思ってなかった。 再会できて嬉しいわ、ビアンカ」
「アンタ…?」
「ずっと、本当の事言えなくてごめんなさいね。 貴女の想像どおり、私は受付嬢なんかじゃないわ。 本当の名前は、バルベキア三国王直属近衛兵『黒龍騎士団』団長、シャルル=サンドリオン」

「なんやて…!?」

「話せば長くなるんだけど、私、この国のクーデターに巻き込まれてね、国を離反して出奔してる最中なの」

「な、なん…やてッ…!?」

「それで、解決のためには、黒龍の鎧が必要なの。 そのマルクさんが装備してる黒龍の小手を、私に譲ってくれないかしら」

「なな、なん…やてぇぇえええっーーっ!?」

…ってかウチ、驚き過ぎやろ!
思わず内心でツッコんでしまうが、だが眼前の怒濤の展開に、驚愕の「なんやて」は隠せないビアンカだった。


  *   *


「何だと…!?」

場面は代わり、ここはムッシャー丘陵。
戦闘こそ中断となったものの、その後の交渉において、「黒龍の鎧を譲ってもらえないか」という予想外の提案を受け、困惑するユリウス王子。

「カッツェ、それは本気で言っているのか!?」
「ええ、申し訳ありませんが、本気です」

しかしながら、黒龍の鎧は正統なる王位継承者の証明である。 先王は、次代の後継者に、ユリウス王子を選び、鎧を託そうとした。
それを自ら手放す事は、譲られた王位を放棄しろと言っているも同然である。

「確認したい。 カッツェ、お前は、このクーデターの経緯を知っていて、なおそれを言うのか」
「無論でございます」

だがそれを聞くと、ユリウス王子は語気強く言い放った。

「見損なったぞ、カッツェ! イルモードと同じ言葉を、貴様の口から聞くとは思わなかった! 王位の座が惜しいのではない! あの害悪が、この国の頂点に座する事が、どれだけの災厄を招くのか想像が付かないのか、貴様には!」
「容易過ぎるくらい、容易に想像はつきます。 …ですが、エイグリル将軍を失う方が、よりこの国に取っての損失なのです」

そう言うと、カッツェは言葉を続ける。

「暴君の治世など、民に見放されれば、所詮は短命で終わります。 …しかし、国を良く導く者は、希有な存在です。 今、エイグリル将軍を失う訳にはいかないのです」

カッツェは、真正面からユリウス王子の目を見返す。
その目の光からは「エイグリル将軍さえ居れば、イルモードに一時的に王権を奪われようとも、奴を打倒できる」というニュアンスが感じられた…ように思えた。
バリルとリンデの前だから、直接的な表現は避けたのか。

「…つまり貴様は、この『黒龍の小手』を、エイグリル将軍の、解放の取引材料にしたいと考えている訳か」
「その通りでございます」

もしかすると、カッツェとウィルがこの軍務を承諾したのは、エイグリル将軍の命と引き替えに…という条件が付いていたのかもしれない。

「…王子、貴方が兄上様を縛る鎧の解除方法を探すために、各地を回っているのは存じております」
「ああ、どう見ても兄上は、あの鎧の圧倒的な支配力に毒されている…。 以前の兄上は、あそこまで冷酷非情な男ではなかった…」
「私もそのように記憶しています」
「だから僕は、鎧を外して、イルモードの傀儡となった兄上の目を覚まさせたい。 …なのに、それを邪魔する理由が貴様にあるのか?」

ユリウス王子は、カッツェへの返事に、王家の問題、まして兄弟間の事に、臣下如きが立ち入る余地があるのか、というニュアンスを込める。

「理由を申せば、ユリウス王子の試み…。 鎧を外す方法を誰彼構わず聞いて回るという方法、それが果たして結実したのか、という事です」

だが、カッツェの想像外の答えに、王子は思わず息を飲んだ。

「…この先同じ事を続けて、果たして誰かが、鎧の解除方法を運良く知っておるものでしょうか?」

自分の行為は全くの的外れ。
続けたところで成果が見込めるのか。
そんな質問を投げかけられ、今までの結果を振り返り、王子は返事に窮する。

「(…だが、僕の行為が無意味であるのなら、兄上を救うためには、どうしたら良い…?)」

そう考えた矢先、カッツェがまるで助け船のように話を継いできた。

「鎧を外す方法ですが、このバルベキアの祖先、太祖レニチェリアは、鎧を一度全て身につけた、という話があります」
「何ッ!?」
「しかし、太祖には子供、先王アルムード公がいらっしゃいます。 …つまり『黒龍の神官』でも、鎧を外す方法はあるのです」
「それは、ただの作話ではないのか? 貴様も、兄上のあの姿を実際に見ただろう? 神官が全ての部位を装備して、生きていられるとは到底思えない」
「…かもしれません。 しかしながら、王族の誰もが、一度とて鎧を全身に装備していないのなら、今日まで、鎧の素性が伝承される事もなかったでしょう」

そして、一拍おいて、ユリウス王子に諭すように言う。

「方法は、あるのかもしれないのです」

カッツェのすがるような視線は、またも「エイグリル将軍なら、鎧の解除方法を知っているかもしれない」と、言外に含ませていたような気がした。

確かに、エイグリル将軍であれば、鎧の解除方法を知っているかもしれない。 だが、その解除方法がイルモードに知られれば、兄は鎧を剥がされて殺される。 なので、エイグリル将軍は知らないフリをしている。

それでも辻褄は合う。
なら、鎧の解除はイルモードを倒した後でも良い、まずそのために、エイグリル将軍の救出が不可欠、という事か…。

「言いたい事は分かった。 流石に若獅子達らしい発想だな」
「…では、鎧をお譲り頂けますか?」

「断る」

王子の結論は、簡潔にして迅速だった。

「な…!?」

「僕が提案を拒否する理由は3つだ。
理由その1、イルモードがお前達の言う取引に、素直に応じるか?
理由その2、仮に応じたところで、あの海千山千の連中を相手に、お前たちは十分な要求を通す交渉ができるか?
理由その3、お前達はエイグリル将軍を過大評価し過ぎだ。 あの鎧の力に、たかが一人が加算されただけで、本気で立ち向かえると思っているのか?」

王子の弁舌に絶句するカッツェ。

「お前達を侮辱したい訳じゃない。 だが、策謀に長けた連中に対して策で挑むのは、無策で鎧を献上するのと、何ら変わらない」

「…」

カッツェは、全身に怒りをわななかせている。

…だが、王子の予想が正しければ、これは演技のはずだ。
そう信じて言葉を続ける。

「戦場にあっては、自らの堅を以て敵に当たるべき…。 お前達も、そう学んだはずだ。 元より、賊と交わすべき国論など何かあろうか? 正義は、常に天のみが知る。 邪悪断罪すべし、それが我ら王侯貴族に課せられた使命だ。 賊の詭弁や策に弄される必要など、全くない!」

王子の喝破に対し、カッツェは、震える声で抗弁する。

「王子、一言言わせて頂けますか。 王子の言うことは非情にもっともで、暗愚な自分にも良く納得できました。 我らに交渉が可能かと言われれば、確かに難しいかもしれません…」

そして再び、カッツェは王子を正面から見据える。

「しかし王子、貴方に将軍との確執があったからかもですが、我々は、エイグリル将軍の評価が小さいなどとは、全く思っておりません。 将軍の功績を間近で見てきた者として、それは全く以て同意しがたいお言葉です!」

その瞳の中には、抑えては居たが、明らかな怒気の炎が燃えていた。
どう考えても、演技とは思い難い態度。

「いや、僕は過去の確執を根に持っている訳ではない。 そして、将軍を不当に貶めた訳でもない。 ただ、鎧の圧倒的な力の前では、個人的な力の差など、微差に等しい…そう言いたかっただけだ。 それがお前達の敬意や忠誠を傷つけたのだとしたら、すまない」

「いえ、それが分かれば、我らとて言う事はありません」

ユリウス王子は、内心で嘆息する。
エイグリル将軍の件は、一度条件を飲んでしまえば、無制限に譲歩を必要とする。
「人質策は通用しない」という意味でも理由に挙げたのだが、そこに喰いかかられたのは予想外だった。

…だが、これで良いはず。
自分の予想が合っているなら、この場で自分が「鎧を返さないと自己主張する事」を、カッツェとウィルは望んでいるはずだ。

しかし、カッツェとウィルに、安堵したような表情の緩みは一切見えない。

「ですが…。 ですがそれでも、鎧をお譲り頂きたいのです。 道理が通らないのは分かっています。 これは、私、シュバルツェ=カッツェ個人の意志です!」

なおも震え声で主張するカッツェ。
個人の要望を君主相手に通そうなど、ともすれば自らの首が飛びかねない行為。
だが、彼は命を賭けて、そう主張した。

隣に居たウィルフィーが、カッツェの肩を叩き、同じくユリウス王子の瞳を正面から見返す。

「ウィル…」

ウィルフィーは何も言わずに、ただ静かにうなずく。
それに背を押されたかのように、カッツェは言葉を続ける。

「王子…ご存じかもしれませんが、エイグリル将軍は、孤児だった我々を、我が子として扱い、尊厳と、安息と、希望をもたらして下さった方です…。 実の父親でこそありませんが、戦いの中で結ばれた我々の絆は、本物の親子以上だと、常々誇りに思っているのです…!」

そして、カッツェは顔を伏せた。
微かな嗚咽と、頬を伝う滴を見て、ユリウス王子は内心衝撃を受ける。

「父を慕わぬ子が、この世におりましょうか…? まして、その危機に駆けつけぬ子が…!?」

彼らのエイグリル将軍に対する、敬慕にも似た忠誠にも驚かされたが、何よりもこれは演技ではなかったという事に。

彼らが鎧を所有し、交渉に挑むとなれば、彼らの双肩にかかる責任は想像以上に巨大なものとなる。
この問題は、自らの命だけで済む話ではない。
国民全ての命と生活が懸かっているのだ。
その比類なき甚大な責任は、到底家臣に負えるようなものではない。
それは王族であり、次代の王である自分が担うべき、と確信していたからだ。

確かに、エイグリル将軍は、鎧に関わる秘密を何か知っている可能性があるのは分かる。
その懸念があるからこそ、イルモード宰相もエイグリル将軍殺害に二の足を踏んでいるのだ。

「お願いいたします…! これは我々に、将軍を救い出すために与えられた、もしかしたら最初で最後のチャンスなのかもしれないのです…!」

しかしながら、もう状況に変化が起こりつつあるのかもしれない。
例えば、宰相がハンターズギルドの力を使って、鎧の素性を知る人間を捜し当てたため、エイグリル将軍の知る知識は不要になったとか…。

「王子、何とぞお願いいたします!」

カッツェは膝を折り、地面に座り込む。

「…おい、何をしている!? カッツェ、ウィル!」

そして、カッツェは頭を泥土に擦りつけ懇願した。
ウィルもそれに倣い、頭を泥に擦りつけ土下座する。

この瞬間、王子は、完全にやられたと直感した。
イルモードが、この二人を刺客に選んだのは、その実力もさる事ながら、年上の武人達への「情」を引きだそうと狙ってのものだったのか。

王子は、しばらく雨の中で土下座する二人を見ていたが、それも長い事ではなかった。

「二人とも、頭を上げろ」

だが、二人は玩として頭を上げようとはしない。
その姿を見て、王子は遂に自ら折れる事を決意する。

「…鎧を賜わす」


<続く>
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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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