女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(11)-1

シャルルに命じられた笹神龍心の捜索と、飛行船の捜索が不調に終わり、ボナウザース渓谷の片隅で途方に暮れるヤチヨ達3人組。

ここで場面は、渓谷から「黄昏の紫煙」亭、外テラスに居るマルクとビアンカへと移る。
二人は、マルクが金を借りた闇ギルドの使者が現れるまで、ビアンカの目的「笹神龍心探し」へと話題を移していた。


「で、そもそも何で、笹神さん…いや、笹神翁とは、別行動になった訳なのさ?」
「当時な、クーデターの詳細が、ウチらも分からんかってん。 だから、ウチと『飯干』で情報集めをしよう、って事になったんよ」
「この国には3人で入ってきたのか? てか、『飯干』って誰?」
「ウチらの国選使用人。 爺ちゃんの無理難題に的確に応えるんやから、たいした奴やで」

国選使用人…国が選んだお墨付きメイド、って事かな。

「『飯干』って、女性?」
「いや、飯干も爺ちゃん。 見た目はウチのとどっこいやねん」
「なんだよ…で、笹神翁は今、何をしてるんだ?」

それを問うと、ビアンカは微妙に渋い顔をした。

「『この戦いは、大軍を相手にしたゲリラ戦になる。 軍団に対抗する力を身につけねばならん』とか言って、どっか行ってもうてん。 今更、お山で修行って年でもないやろ…」
「連絡の方法はどうする予定だったんだよ」
「それはな、皆で偽名使うてハンター登録して、フレンドメールでやりとりする予定やってん」
「なるほど」
「何も進展なくても、2日に1度は連絡する。 もしも緊急の用があって、集合する場合は『○○集合! 一狩り行こうぜ!』って内容で呼びかける手はずやってん」

うん、やり方にそんな問題はなさそうに思える。

「ところが、しばらく前から『飯干』の連絡が途絶えた。 それどころか、ウチの爺ちゃんに至っては、最初から連絡すらない」
「マジかよ」
「まぁ、ウチの爺ちゃんの性格からして、最初から話を聞いてなかったのかもしれんけど…」
「じゃあ、どうやって集合する気なんだよ」
「ウチの爺ちゃんが『ワシじゃ、すぐ来い』って何かのサインを出したら、即座に居場所を探して行かなアカン」
「…本気かよ。 まるで雲を掴むような話じゃねぇか」
「ってかなぁ、ウチの爺ちゃんの周囲の人間が、その無茶に慣れとるから、爺ちゃんもそれを当たり前、って思っとるのが悪いんやけどな」

「それで」とビアンカは背筋を正して言う。

「いい加減、連絡しなさ過ぎやろ! …と、ちょっとガツンと言うたろ思ってな? ま、少しは心配なのもあるし」
「優しい孫娘じゃねーか、あの無双の英雄の身を案じるなんて」
「英雄とか言うても、もう棺桶のお年頃やし、目の前で死体見させられても嫌やな、って」

なるほどな。
俺は、ビアンカのと併せて持ってきた水を飲みながら聞く。

「で、笹神翁を探すにしても、外見が分からないと捗らないからさ、特徴を教えてくれないか? 」
「特徴…? うーん、特にこれ、って見た目の特徴はそんな無いんよなぁ…。 多少威圧感はあるけど、そこらに居る普通の爺ちゃんとそう変わらんよ。 好々爺、って感じ」
「じゃあ、身長とか体型とか、髪型は?」
「身長は150cmくらい、体型は普通。 年の割には腰もしゃんとしてる。 顔…左眉に刀傷があって、肌の色はまぁ、普通かな? 瞳の色は黒、髪は真っ白、髪型はゲネポスショートをちょっと伸ばしてる」
「…逸話集の表現と全然違うじゃん」
「当たり前やろ」

伝説では彫りの深い虎顔で、容貌魁偉の大男。
それが血のついた矢を持って吠えてる、ってイメージだったのに、事実を聞けば全然違うじゃねーか。

「伝説なんてな、本当にテキトーなもんや。 実物はもっと地味」

…うむ、確かにこんな感じの老人は、探せば結構居そうな感じがする。
だが、これだけでも大分判断の目安にはなるだろうから、覚えておこう。
なんせ、孫娘からの確実な情報だ。

「でもな、性格の方がむっちゃ分かりやすいでー。 酒呑み、短気、ワガママ、天上天下唯我独尊で、弓の悪口とか言おうもんなら、ホントに死ぬまでフルボッコされるからな」
「マジかよ」
「あと、ついでに言うと、アラウンド棺桶のくせに、自分はまだまだ若いって思ってる」
「ま、年寄りは誰でもそう思ってるけどな」

俺たち二人は爆笑しながら談義を続ける。

「でもなぁ、実力は確かやし、言うてる事も理にかなってるのが悔しいんよなぁ」
「へぇ、実物は文武両道なのか…。 なんだか、戦記物語を読む限りは、猪武者なイメージあるけどな」
「それも間違いやあれへんけど、流石に後年は自重してる」
「何で? やっぱ年だからか?」
「せやろなー。 なんせ『弓を手にした戦いで、自分が破れたら死ぬ』と言い続けてるしな」

…あれ、黒鳥騎士団のエイグリル将軍とは、ライバルじゃなかったの? 勝ち負けとかは? その時は弓持ってませんでした、ってトンチじゃねーよな?

すると、ビアンカはニヤッと笑って言った。

「まだ決着が付いてないそうや。 で、『奴を救えばワシの勝ち』やねんて」
「なるほどな、上手いトンチだな」

俺も笑い返した。
ま、流石に「弓で負けたら死ぬ」ってのはジョークだよな。
それだと笹神翁は生涯不敗、ってことになるし。

「まぁ、大体経緯は分かった。 で、ビアンカとその『飯干』さんはどうやって情報集めを?」
「ああ、この国はな、軍とギルドがほぼ同じ組織やん? だから、ギルド所属のハンターになって、ギルドに潜り込んで、そっから軍の事を調べたかってんけど」
「ああ」
「最初にハンター登録した所でな、そこの受付嬢に怪しいと嗅ぎつけられた」
「何で?」
「直感、やて。 それで、ちょっと妙な事になってんけど、面倒事は御免やから逃げてきた。 てか、ウチって結構目立つ? 周囲から浮いてたりする?」

確かにおっぱいは目立つし、狩人Tシャツは浮いておへそ見えてる。

ガッ

「真面目に応えろや! パンチ喰らわすぞ!」
「パンチ喰らわしてから言うなよ! いや、真面目な話、周囲からはかなり浮いてるよ!」

美人だしグラマーだから目立つ、というお世辞はシャクに触るので言ってやらない。

「そうか…。 やっぱそうかもな、結構人の視線感じるしな」

シキ国ってのは、よほど若者の居ない田舎だったんだろうか。

「ま、それで、ウチは方針転換してん」
「どんな風に?」

ビアンカは、ふっと笑って、鼻息荒く答えた。

「直接、軍の人間を探してブッ倒す、って方向に」

おいおい、それ方向転換し過ぎだろ。
デンジャラスにも程があるぞ。

「ウチの実力なら、それが可能やからな」
「ちょっと待て、危険な真似は止めとけよ」

オトモしたいと思ってる俺の身まで危険になるだろ。

「エイグリル将軍は、元々この国のハンターズギルドを掌握してて、かつ『黒鳥騎士団』ってのを結成してた。 だから、後を継いだ『黒龍騎士団』の誰かを倒せば、かなり詳しい事が聞けるはずや」
「簡単に言うけどな、黒龍騎士団ってスゲェ強えんだぜ」
「どれくらい?」

ビアンカは、身を乗り出して、真剣に聞いてくる。

「どれくらい、って…。 ヴェルド軍の侵攻を、黒龍騎士団だけで押し返した、とか。 そんなの、人間じゃなくて化物だろ」
「それこそ、ウチの望むところや」

ビアンカは、形の良い唇の端に、凶悪な笑みを浮かべて言う。 ああ、この獰猛な表情は…。

「ウチかて、鬼に鍛えられた鬼の子や。 子守歌とお乳の代わりに注ぎ込まれた『笹神流弓体術』。 それを存分に発揮できる相手と、バチバチやりあってみたいねん」

それは、彼女がガノトトスと戦っていた際、「奥義」を解禁した時の表情だった。
自分という存在を、全てぶつける事ができる相手との激突、か…。
一体、どんな気持ちなんだろうな。

だが、俺の脳裏にはその時、JJの姿が思い出された。
あの雪山での銃撃戦、そしてその後の口論…。

「(おい、止めろよ、俺…)」


「団長とかを呼び出して、一騎打ちでボコれれば楽でええんやけどなー」
「はは、それは無理だろ」
「まぁな。 ウチかて、喧嘩する相手は選びたいねん。 雑魚にワラワラ集られると、面倒この上ないからな」
「そうだな、軍も笹神翁の事には気づいてるみたいだしな、軽率な行動は止めて、相手は慎重に選ぼうぜ」
「せやな」

とりあえず話も一段落し、何か追加で頼もうか、となったその時。

「出てこいや、マルクぅーッ!」
「マルクーーッ! マルク、ランディッツさぁーーんッ!」
「マルクさぁーーーんッ? どこに居るんですかぁーーッ?」
「マルクさぁーん!! とっとと出てきて下さいよぉーッ!」

遠くから、そんな怒鳴り声が聞こえ、即座に俺たちは、そちらの方を見る。
通りを歩いていた人たちが、声から逃げるように道を空け、群衆を割って現れた連中…。

「(…え…?)」

「見つけたぞ、マルク=ランディッツ!」

紅龍…騎士団!? 
しかも先頭に居るのは、ゴッドフリート=ピスカードル。
何故? 何で、奴が俺の居場所を嗅ぎつけて…?

「そら、行け! 先にお前の用事を済ませると良い!」

すると、ゴッドフリート達のすぐ後ろから、よろよろと見知らぬ青年が掴み出され、おぼつかない足取りで、こっちに向かってくる。

…顔面が紫色に腫れ上がり、鼻が折れている。

「おい、何やこれ…」

ビアンカが、俺にそう聴いてくるが、俺は返事をするどころじゃなかった。
一気に噴きあがってくる冷汗、激しい動悸、震える全身。

「マルクさん…。 あんた、ヒデェよ…」

誰だよ、こいつ…。

「あんた、元から追われてたんじゃねぇか…! 犯罪者だって知ってりゃ、ギルカなんて使わなかった! そのせいで、ジークの兄貴もミルチの姉さんも、酷い目に…!」

青年は、うっ、うっう、という嗚咽で言葉を途切れさせた。

ミルチ、という名前で思い出した。
俺が金を借りようと思い立った時、闇金貸しを紹介してくれた女の名前だ。 
という事は、この青年は、あの二人の手下か。

「(なんてこった…)」

ゴッドフリートは、あの後、ハンターズギルドに俺の所属を調査させたのか。
そして、俺のギルドカードを持っていた奴らから、金貸しのジークの事を知り、そして情婦のミルチから俺の行き先を聞き出した。

まさか、俺のギルドカードから、あっと言う間にここまで辿り着くなんて…。

「ミルチ姉さんは…。 もう…。 もうなぁ…」

「おい、さっさと用事を済ませろッ! 三文芝居に用はないぞッ!」

ゴッドフリートの脇に控える、ゴリラみたいな巨漢が吠える。
俺をブン殴ったヘルシャフトとは別人だ。

そいつが、青年の尻を蹴飛ばし、青年はゴロゴロと石畳に転がる。

「おい、大丈夫か!」

俺とビアンカは、その青年に駆け寄って、回復薬グレートを飲ませる。
回復薬の効果はてきめんで、みるみるうちに傷が良くなっていくのが見てとれた。
…流石に、折れた鼻は元に戻らなかったが。

「…済まない。 何もしてやれないが、せめてこれを」

俺は、手持ちの回復薬グレートを3本ばかり、その青年の手に握らせてやる。

「…もし、命があるなら、あいつらに飲ませてやってくれ。 かなりの傷まで回復できるはずだ」
「あんた…」
「本当に、済まない。 信じてくれないだろうが、こんな事になる予定じゃ、なかったんだ…」

「終わったか、マルク! 報奨金の精算は済んだか!」

耳障りな声でそう呼びかけてくるゴッドフリートを、俺はぎっと睨みつけるが、ビアンカが俺の背にそっと囁きかけてきた。

「おい、アンタさん、気づいてるか」

…何をだ、と小さく口を動かす。

「ウチら、いつの間にか囲まれてる。 …おい、アンタはもう逃げた方がええ。 巻き込まれたら、殺されるぞ」

ビアンカが青年に向かってそう言うと、青年は泣きそうな表情のまま、回復薬グレートを持って、俺たちの方を時々振り返りながらも、人混みの中に消えていく。 

「もういいぜ、ゴッドフリート! 俺に何の用だッ!」
「マルク! 貴様の不細工な面をおがむのが、これほど楽しみだと思った日は、初めてだぞ!」
「うるせぇぞ、犬コロみてぇにキャンキャン吠えてんじゃねー! さっさと用件を言えッ!」

ゴッドフリートは俺の罵声で顔面を真っ赤にしたが、ぐっと息を飲むと、声のトーンを下げて言ってきた。

「マルク、貴様には返してもらう物がある!」
「…何をだ」
「トボケるな、それだッ! 貴様が右腕に付けている『黒龍の鎧』だ!」

これ…?

俺は自分の右腕を見る。
…「黒龍の鎧」? これは「呪われし王者の小手」じゃなかったのか?

「無知とは、もはや罪だな! それは紛れもなく、我がバルベキア三国に伝わる秘宝、『黒龍の鎧』だ! 王家への反逆と秘宝の強奪! 何と大それた罪だ! 貴様には極刑こそがふさわしい!」

周囲が、ゴッドフリートの言を聞いてザワつく。
だが、俺はもうビビらない。
これはゴッドフリートのいつもの手だ。

最初、奴は「自分こそが正義」的な題目を掲げ、周囲を味方につけて、相手にプレッシャーを掛けようとする。
それは雪山の一件で復習済みだ。

「別に俺は盗んでねぇよ! これはJJ…いや、ユリウス王子が落としていった奴だ! 俺はこれを正当所有者である、ユリウス王子に返す! それがスジだろ! 素性のしれない、野良犬のテメェにゃ返せねぇな!」

「正当所有者はユリウス王子ではなく、バルベキア三国先王が嫡子、我らが盟主、クリストフ王子だ!」

「…なに?」

「第二王子であるユリウスこそが、クーデターの張本人! 奪われた鎧を回収し、正当王権を擁立するのが、我らの役目! よって、我々が鎧を回収するのは、正当にして本道よ!」

ゴッドフリートのクーデター発言に、それを聞いていた周囲の群衆が、一気にざわつき始める。

ユリウス…。 
JJの奴が、クーデターの張本人、だって? 
…いや、そうは思えない。
奴の発言、行動、性格、そして奴の瞳。
あの激しく燃える炎が、そんな曲がった道理を求めるとは、とても思えない…。

「強がるな、マルク! 貴様がどう詭弁を弄しようと、水掛け論にしかならないのは分かっていよう!」

それはテメェもそうだろうが…!

「だから提案だ! 交渉をしよう!」
「…交渉だと?」
「貴様の品はその鎧! 私の品物は…」

ゴッドフリートは、部下に顎で命じて、袋の中から何かを取り出させる。

「…それは!?」
「そう、貴様の『金華朧銀の対弩』だ。 お互い、あるべき物があるべき所に還る。 理想的な交渉だろう!?」
「…」
「望むなら、多少の金も恵んでやろう! そして、この交渉に応じるならば、王家への反逆の意志なしとして、今後私は、貴様を狙わない事も確約してやろう! 極刑のはずが、無罪放免だぞ…!? これほど素晴らしい事はないと思わんか?」

相変わらず恩きせがましい奴だな、コイツは…。
俺から奪ったボウガンを取引の材料にしてどうする。
無罪放免っても、そもそもテメェが勝手に決めた罪だし、金だってさっきの青年から巻き上げた物だろうが。
プラスマイナスゼロの、全く意味のない取引だ。

…だが、ゴッドフリートの性格を良く知る俺としては、こんなクソみたいな取引でも、奴がもの凄く譲歩をしてるという事は分かる。
本当なら、奴は俺の言うことなど聞くことはないし、対等の位置に立とうとするはずもないからだ。
よほど、この鎧が欲しいらしい。

どうするかと考えたが、本当にこの鎧が王家の物だった場合が困る。
JJがクーデターを起こしたとは考えにくいが、歴史は常に勝った方が正義だ。
その場合、俺は国を挙げてのお尋ね者になる。 うかつな行動は命取りだ。

それに…決定的な理由が、もう一つある。
この小手を装備したままだと、思うように銃が撃てない。
ガンナーとして生きるなら、渡す渡さないに関わらず、この鎧は外さないといけない。

それが、俺をこの交渉にて、首を縦に振らせる要因となった。

「…分かった。 だが、一つ要望がある」
「これに加えて、まだ要望か! ひたすらに貪欲だな、マルク! よかろう、聞いてやろう、何だ!」
「この鎧は、何をしても外れないんだ! 腕と一体化してるみたいに! 外す方法を知らないか!?」

すると、またもゴッドフリートは、部下に命じて何かの壺を持ってこさせる。
そして、それを俺と奴との中間地点に置いた。

「その中身に、腕を浸せ! それで、鎧は外れるはずだ!」
「何なんだよ、この中身は!?」
「『古龍の血』だ! それが、この鎧を外す唯一の方法だ!」
「そんな方法で、本当に外れるのか!?」
「取引で嘘はつかん! さっさとその壺に腕を浸せ!」

俺はその壺に近寄り、蓋を開ける。
えらくドス黒い液体が、その壺の中に満ちていた。
「古龍の血」はあまりゲットした記憶がないが、この匂いは、多分間違いないだろう。

こわごわと右腕を血に浸そうとしたら、ゴッドフリートが俺に質問してきた。

「マルク、左腕は持っていないのか?」
「持ってねえよ! 俺が持ってるのは、JJが落とした右腕だけだ」
「王子をその名で呼ぶな、無礼者!」

…うるせえよ。
奴が自分で名乗った名前なんだから、別にいいだろが。
それに、俺にとって奴は、「ユリウス王子」って言うより、ハンターにしてヘヴィガンナーの「JJ」なんだよ。

俺は、液体の中に、とぷ、と右腕を浸す。

しかし、この壺…。
俺の鎧を外す準備があったということは、最初から交渉が目的だったのか。
そうでないと、貴重品である、古龍の血など持ってはこれない。
こんな妙な方法でないと外れないとか、一体どういう作りの鎧なんだか。

俺がそんな事を考えながら、小手を壺の中のドス黒い血液に浸していると…。

突如、キュゥゥウゥゥ、と音を立てて、右腕の小手から一気に多量の「棘」が生える。
それらはワサワサと延びて、脈動しながら周囲の血液を吸い始めた。

「おおおっ!?」

その気色悪い光景に、一瞬、俺の腰が引けた。
だが、右腕から伝わる、ある感覚にその動きが止まる。

それは、何とも表現しがたい悦楽だった。
濃厚にして美味の酒を、五臓六腑で味わっている時みたいに、右腕からじんわりと「快感」が伝わってくる。

快感…。
いや、その「熱気を持つ甘い奔流」は、血液に乗って全身を循環し、筋肉が、骨が、神経が強化され、五感が拡大し、あらゆる感覚が一気に覚醒していく。

「うお、お、おおおおっ!」

ごっごっご、と耳の奥で音を立てて、自分の中に「力」が注ぎ込まれていく。
そして、快感に伴い、俺の下腹に熱気がこもり始めた。
それは灼熱の溶鉱炉のように、俺の全身を燃え立たせる。

熱い。 
全身が熱い。
汗が出る。
漲る。
高ぶる。
喉がカラカラだ。
目の前がピリピリして、視界が急速に狭まり、代わりに路上の砂粒ですらが、詳細に見て取れる。

なんだこれは。

何なんだ、この鎧の、この迸る「力」は…!
それは、俺が初めて体験する、圧倒的な力の疾走。

たまらない、この感覚。
はち切れそうだ。
今すぐにでも暴れ出したい。
今の俺なら、この紅龍騎士団の連中全員ともやり合えそうな、そんな錯覚すら覚える。

だけど、こんな超常の感覚をもたらす鎧が、人の手による鋳造であるはずがない。
これはもっと、何か別の…。

「どうだマルク…。 もう、鎧は外れるはずだ」

俺は興奮のあまり、忘我の状態にしばらく陥っていたらしい。
ゴッドフリートにそう言われ、気づけば壺の中の「古龍の血」は既にカラになっていた。

興奮は潮が引くように去り、冷静さを取り戻した俺は、鎧を外す事を試みる。

この小手は、JJとの思い出の品。
奴との繋がりが消えてなくなるのは惜しいが、ガンナーとして生きていく以上、やむを得ない。

「(さようなら、JJ…)」

俺は万感の思いをこめ、腕から小手を引っ張った。

「…あれ」
「どうした」
「…おい、何だこれ!」
「だから、どうした! 早く鎧を外せ!」
「…外れない! この鎧、何故外れない!? どういう事だ、ゴッドフリート! 外れるんじゃなかったのか!?」
「何だと! そんなバカなはずがあるかッ!」

ゴッドフリートは、さっきの巨漢の部下を従えて、俺に近寄ってくる。
露骨な接近に警戒心が湧くが、それをぐっと堪えて、俺の妄言じゃないという証明のために、右腕を差し出した。

「…? 何? 留め金がない…?」

ゴッドフリートが一通り鎧を改め、外す方法がないと確認するや、巨漢が俺の肩と鎧を掴み、思い切り左右に引っ張り始めた。

「痛てててててっ! 止めろ、バカッ!」

だが、そのゴリラみたいな巨漢がどれだけ力を込めようと、鎧は外れない。
あるのは皮膚が引き裂けそうな感覚だけ、本気で俺の右腕と一体化しているかのような、そんな痛みだった。

「…ダメです! 外れません、ゴッドフリート隊長!」
「外れないはずがあるかッ! カルネラ大臣殿が、わざわざ用意して下さった『古龍の血』を全部使いきったのだぞ! 何としても外せッ!」
「しかし!」
「なんとしても外すんだッ! 貴様の刑期、このままでも良いのかッ!」
「あ…あう…!」

だが、鎧が外れないと理解してからの、ゴリラ男の極端な行動に俺は戦慄した。
奴は何を考えてそう結論したのか、腰の片手剣を抜いて、俺の右腕を切り落とそうとしてきたのだ。
当然、俺の右腕を握ったままで。

「うおおおおおおおっ!」

俺の右腕!
バカ、やめろ! 右腕を切り落とされたら、俺はもうガンナーとして、生きていけないッ!

だが、そう心の中で叫んだ時、鎧が応えた気がした。
テネス村の時のように「棘」が伸張し、鎖帷子を形成して、俺の腕を覆い、奴の剣を食い止めたのだ。

「痛えッ!」
「ぐあッ!」

だが、鎧の防御で切断こそ免れたものの、怪力でしこたま腕を叩かれ、骨が痛んだ。
そのゴリラ男は、俺の右腕から何本も延びた「棘」が、胸や顔面を突き刺したため、俺の右腕から手を離さざるを得なかった。

もんどりうって尻餅をつく、俺とゴリラ男。

「マルクぅッ…! 貴様、どういうつもりだ! 私がこれほどの温情をかけてやったというのに、その恩を仇で返す気かッッ! 鎧を返せッッ!」

そう言いつつ、ゴッドフリートは俺のボウガンを構えて向かってくる。
それを見て俺はテンパりかけるが、

「おい、アンタさん! 交渉は仕舞や! 逃げるで、行くぞッ!」

ビアンカの一言で我に返り、俺はもつれる足を必死に動かして、連中に背を向け逃走し始めた。

「死ねッ!」

だが、俺たちが逃げ出すと同時に、ゴッドフリートのクソ野郎は、とてつもない行動に出た。

「ぎゃあああっ!」
「きゃーーっ!」

激しい銃撃音と、それに連なる市民の悲鳴。
あろうことか、ゴッドフリートの奴は、「金華朧銀の対弩」の速射機構「散弾Lv1」を大勢の人が居る街中で発砲したのだ。

「(…!!)」

無限の弾幕が俺たちに襲いかかる中、だが俺の右腕の「黒龍の鎧」が勝手に反応し、網のような防御網を展開して、弾丸の軌道を逸らしていく。
ガキンガキンと眼前で派手に火花が散り、俺の命までもが明滅するような光景に、恐怖で足がよろけた。

「しっかりせえ、アンタさん! ここに居たら、被害が増えるだけや!」
「逃がすか、追えッ! 全員突撃!」
「バーカ、これでも食らえッ!」

だが、その時、俺たちの一体が真っ白な煙につつまれる。

…「けむり玉」か!

ナイス機転、と感動しつつ、俺はビアンカに手を引かれ、煙の中を走る。
どういう理由かは分からないが、ビアンカは視界が閉ざされていてもあまり問題ないらしく、目の前真っ白だってのに、器用にテラスのテーブルや人を避けて(俺はちょっとぶつかったりした)、

走り続けていた。

「ぎゃああああ!!」
「ぐわああっ!」

だが恐るべきは、ゴッドフリートの凶気。
前から感じていたが、あいつには、他人へのいたわりなんて感情は、これっぽっちもないらしい。

普通、視界が失われれば、味方や市民への誤射を恐れて、銃撃を控えるはず。
ビアンカがけむり玉を投げたのは、その効果も狙っていたはずだ。

だが、ゴッドフリートには、そんな感情など一切なく、俺を仕止めるチャンスが今だけと見るや、委細構わず銃撃に踏み切ったのだ。

俺たちに降り注ぐ流れ弾は、右腕の鎧が防いでくれている。
だが、俺たちの後方で上がり続ける悲鳴は、何の罪もない人々のもの…。
彼らが、お前に、何をしたって言うんだ…!!

「ゴッドフリート…! テメェはぁ! 本物の外道かッ!」
「…バカ、大声出すな! アンタさんが姿をくらますのが、この場は一番なんや!」

そう言われ、俺は歯噛みしつつも逃走を続ける。

けむり玉の効果範囲はおよそ20~30m。
その効果範囲から抜けた俺たちの目の前に、群衆に伏せて隠れていた紅龍騎士団の別部隊が、片手剣を手に俺たちへと接近してきた。

「来やがったな、クソ野郎ども!」
「正面突破するで! 道はウチが開くから、遅れず付いてきいや!」
「分かった!」

だが、その連中は一定の距離を持ち、俺たちに切りかかろうとしない。

…ビビってるのか? なら、それはそれで好都合!

一瞬の隙を見定めて、俺たちは最も手薄な場所から包囲網を突破した。

だが、それが連中の狙いだった。
俺たちを、狙った場所に通過させるため。

「!?」

周囲から一斉に投げつけられた玉。
それが、俺とビアンカの胴や腰に、ペタペタと付着する。
この色、この匂い…。

「…ペイントボール!?」


<続く>

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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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