女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(10)-4

ここで時間は同日の昼過ぎ、場所は再び「黄昏の紫煙」亭の外テラスで会話している、マルクとビアンカへ戻る。

「じゃ次、『同調』行くで。 同調ってのは『力の束ね方』の事や!」
「お、おう」
「まぁこれは、簡単に言うてまえば『全身の筋肉をまんべんなく使おう』ってこっちゃ」

この話は、馬車の中でもチラッと出た。
人間の動作は、なるだけ疲れないよう、一部の筋肉しか使わないよう最適化されていったとか、そんな話だったな。

「せや。 そういう非能率な単純動作しか出来んくなっとるのに、それに気づかへん人間は結構おる」
「で、具体的に言えば、何なんだよ」
「一番身近なのが、大剣かな? 『大剣は足で振る』って聞いたことあるやろ。 アレやアレ」

それは俺も聞いたことがある。
踏み込みの力を、剣を振る力に変えるって奴。
戯曲「銃の英雄」にも、それを説いてる場面があるしな。

「実例を出したる。 例えばこれ」

そう言って、ビアンカはヒュッと拳を打ち出す。
何の変哲もないパンチ。

「パンチの力ってのは、何やろか」

腕力…と言いたい所だが、この話の流れでは違うのだろう。
おそらく、全身の力を転化してパンチ力に変えるとか、そんな所だろうか。

「アンタさん、そういう理解は早いな? …その通りや」
「でも、どうやって全身を使ってパンチを打つんだ? 普通に考えれば、デカくて太い腕の方が、パンチあるような気がするけど」

そう言うと、ビアンカは、右手を前に突きだして固定する。

「ちょっとそこに立っとけ」

そう言うやいなや、彼女はそのままのポーズで、俺の目前まで一気に接近。
バァンと踏み込んで急停止、固定した形の右手で俺を突き飛ばした。

「うおっ!?」

その衝撃に、俺は尻餅を付く。
ビアンカは、右手を前に突きだした体勢のまま。

「この通り、1ミリも腕を動かさんでも、パンチで相手を倒す事はできる」
「そりゃ単に、走って突っ込んできたからだろ!」
「そう、つまり脚力と体重をパンチ力に変えてん。 大剣使いの『足で振れ』と同じや」
「あ、ああ、なるほど…。 でも、そんなの実践で使えるのかよ」
「使いモンにするために、全身の筋肉を細かく、まんべんなく使うねん。 それが『同調』の要訣や。 もう一度実演したる」

ビアンカは、左半身を前にして拳打の構えを取る。

「何でもそうやけど…。 意識さえすれば、元々人間は、一つの動作に、かなり多くの量の筋肉が使えんねん」

「まず、拳を打ち出す際は、脚を踏み出す力が起点になる。 ここの反発力で体を起こし」

「生まれた力を、ふくらはぎで延ばし、腰の回転で伝え、踏み込む太股の力で、体幹の回転へと転化し」

「背筋が肩を回す力、肩が二の腕を持ち上げる力、二の腕が肘を延ばす力、腕が拳を捻る力へと一気に繋ぐ」

「これら全てを、同調…。 筋肉の動きを連動させて、発生した『力』を、数珠で繋ぐように上手く受け渡し、体の中の『道』をコンコンコーンと通していく」

「すると、こうなる」

凜と空気が鳴ったと思った、その瞬間。

ブァシィ、という音とともに、ビアンカの目の前の空気が、彼女の右拳に突かれて爆ぜた。

ブァ、というのは、彼女の腕装備が風を切る音。
だがその時には既に、彼女の拳はバシィ、と大気の壁を叩いていた。
実際に見てない読者には伝わりにくいだろうため、こんな説明を加えたが、俺にしてからが、この目で見て居なければ、あんな異様な音を立てる今のが、女性が放った「突き」だとは到底思えない。

あんなので殴られたら、骨が粉々になって、破れた内蔵が体の反対から皮膚を突き破って飛び散る。
そんなゾッとする俺の予感をよそに、ビアンカは両拳を重ねて息を吐き、「残心」すると、ニッと笑ってこちらに語りかけてきた。

「ま、こういう事。 全身の力を、拳に集約させた結果がこれや」
「これが、『同調』…」
「そう。繰り返すけど、笹神流弓体術は、『削纏』で自分の動作の無駄を削りつつ、『練気』で全身の力を強化し、『同調』で力を束ね、『照応』で、相手の防御力を0にしてぶち込むのが理想や。 以上」
「はぁ…」

俺は思わず苦笑してしまった。
ビアンカには悪いが、筋肉筋肉という単語の連発で、まるで弓術の話とは思えなかった。
どう考えても格闘士向けの体術講座だ。

「要はな、どんな動作も技も、フォームが崩れてると、十分な威力は発揮できへん。 正しいフォームを意識的に、そして無駄を完璧に消して放った動作は、同じ体型の人間が放つ技でも、威力は雲泥になる」

喧嘩上等になりたい訳ではないのだが、まぁ、機動力…。
脚力のスピードアップに繋がるのは間違いなさそうだから、素直に聞いておこう。
要は正しいフォームと、全身の力の連動、か。

「あの、例えばさ、フットワークとかでも、さっきの『同調』は使えるんだよな?」
「もちろん。 重いもん運ぶ時に、荷物がグラグラしてたら、運びにくいやろ? 脚力を十分に発揮するためには、下半身が載せている荷物『上半身』をグラグラせんようにせなあかん。 必要なのは、体幹と重心の意識や」
「…なるほど。 で、笹神流弓体術をマスターすれば、そういう事ができるようになる、と」
「それは、その人次第かな」
「どういう事だよ?」
「いや、その先は言っても分からんろうから、言わんどくわ。 とにかく、強い奴の動きを見たら、一切無駄な動きをしてないやろ? あれは、そういうことやねん」

まぁこれは、闘技場の皇帝「BAD=KING」の事を思い出せば、何となく理解できる。
彼の動作も、一つ一つが実に無駄がなく、緩やかでありながら、同じ人間とは思えない破壊力を感じさせたが、あれもそういう事なのかもしれない。

生まれながらにして、武術の奥義を極めている男、か。
…考えたらスゴい話だな。
つくづく、狩猟の女神様ってのは、弱肉強食…強い男がお好みらしい。

「分かったか? ウチの言ったこと、絶対に忘れんなよ」
「ああ、分かった。忘れない」
「練習しろよ」
「ああ、もちろん練習するさ」

「じゃ、ここらへんでお別れしよか」

「…おおおおおっ!? ちょ、ちょっと待てよ、まだ『照応』とか、教えてもらいたい事があんだけど!? ってか俺、入門したんじゃなかったの!?」

一瞬、何言われたのか理解できなくて、間が空いたぞ!

「いや、入門はウチの爺ちゃんが決めることやから。 あまりにアンタがひつこいから、基本を伝えただけや」

…ななな、な、何ですと!?

「んで、そろそろアンタさんの取立人も来る頃かな~、思て。 せやさかい、ここらでお別れしようかな、と」
「なんで別れるって言うんだよ! まだ俺、お前にやってない事あんのに!」

俺が思わず大声を上げると、周囲の人たちが俺たちを興味深そうにのぞき込んだ。 中には、眉をひそめる奴、薄ら笑いを浮かべてる奴もいる。

…あ。
もしかして、これは年の差カップルの別れ話に思われたろうか…?
若い彼女に去られる惨めなオッサンという、切ないシチュエーションの。

「…やってない事って、何やねん。 やっぱ変な事考えてたんか、お前」

ビアンカも周囲の空気に気づいたか、多少顔を赤くして聞いてくる。

「バカ、人探しだよ。 お前の依頼」
「いや、それはもうイイ」

ビアンカは、ひらひらと手を振る。

「…何でだよ! 何で、もう良いとか、そんな投げやりなこと言うんだよ!」
「デカい声出すなや!」

またも周囲がクスクス笑ってる声が聞こえてきて、俺たちは赤面しつつ、声を潜めた。

「…もう分かってると思うけど、ウチの探し人は『笹神龍心』やねん。 爺ちゃんがあんななら、しばらくすれば、ウチもテロリストとして指名手配されるやろ。 アンタさんまで危険に巻き、ゴホッ、ゴホゴホ」

急に咳込むビアンカ。

「おいおい、大丈夫かよ」
「ちょっと、水…」
「よっしゃ分かった、待ってろ」

だが、俺は店内に水を取りに行く最中、これはビアンカが俺を撒いて逃げるための演技か、と唐突に気づいた。
なので慌ててテラスに戻ったが、なんとも拍子抜けな事に、ビアンカはちゃんとそこに居た。

「よ、よかった…」
「何がや、ちょっと咳込んだだけやろ」
「ああ、まぁ、そりゃそうだけど」

ビアンカは、俺が持ってきた水を飲んで一息つく。

「だから、ここでお別れしよう。 自首しろとか、アンタには偉そうな事言うたけど、正体を知られたからには、迷惑かかるとも限らんしな」
「いや、笹神さんを探すの、手伝うぜ。 約束は約束だ」
「…あのな、アンタさん、分かってんのか? この国の内情」
「おおよそは」
「この国は今、王の崩御で不安定な状態やねん。 おそらくは、後継争いによるクーデターが起こってる。 ウチらの目的は、その首謀者を突き止めて、ウチの爺ちゃんのライバル、エイグリル将軍を助け出すこと。 軍との戦闘になるから、アンタの出る幕とか、これっぽっちもあれへんよ」

いやぁ…。
危機意識を抱かせようとしてくれたんだと思うが、トップシークレットをわざわざ説明してくれるあたり、間違いなくコイツいい奴だ。

ビアンカの頭の中からは「俺がビアンカをギルドに売る」という選択肢が完全に抜けている。
用心深い人間なら、こんな事は絶対に言わない。
強さゆえの余裕からかもだが、多分こいつは、自分が信じると決めた人間を、とことん信じぬくタイプの人間だ。

「俺、お前から色々教えてもらって感謝してるんだよ…。 でももっと、強くなりたい。 だから、笹神流弓体術を学びたいんだ!」

俺の経験上、この手の裏表がない人間とは、できる限り一緒に居た方が良い。
その方が絶対に得だ。

「それに、お前、命を掛けて、俺のクエストに付き合ってくれたろ? 今度は俺が命を掛ける番だ!」
「いや、命掛けたってほどじゃ…」
「なぁ頼む! 俺、もうちょっと、お前と一緒に居たいんだ! ずっと一緒に居させてくれ!」
「ちょ、アンタさん!」

またも周囲のクスクス笑いが聞こえてくるが、俺は構わずに頼み込んだ。

「…わ、分かった! じゃあ、危険がない限り、付いてきてもええわ! でも、ピンチになってもウチはアンタを助けんで! 多分、そんな余裕ないからな!」
「分かった、ありがとう」

ビアンカは、俺に両手を包み込まれて赤面する。

「ちょ、ちょっ…! アンタさん!」

それと、もう一つ。
ビアンカと一緒に居る事は、俺にとってもメリットがある。
俺はここで、誰にも聞かれないように、声を潜めて尋ねた。

「…ついでにもう一つ聞きたいんだけど、ビアンカは、どうやってこの国に入り込んだんだ?」
「え、入国の方法?」
「ああ、今は国境の警備体制が超厳しくなってるはずなんだけど、どうやってくぐり抜けて来たんだよ」
「空から」

え?

「飛行船って知らん? アレで」

ああ、あの、気球が横に細長くなった奴?
確かに大都市の闘技場とかでは、ギルドが広告のために飛ばしてるって話を聞いた事がある。

「そうそう、ウチの爺ちゃん、英雄やし超短気やから、国王がハイハイどうぞーって用意してくれて、それでこの国に入ってきてん。 国境とか関係あれへんよ」
「そうか…そういう事だったのか」

…ビンゴ。
これはイケる。
やはりギリギリまで、ビアンカと行動を共にすべきだ。

今、俺に国境を脱出する術…いや、金はない。
だが、こいつらにくっついていれば、ミッション終了後に、飛行船で一緒に脱出できる可能性がある。
俺の実力で10万z稼ぐよりも遙かに現実的、ならば、こいつらにトコトンまで恩を売るべきだ。

「よし、じゃあ待っててくれよ! 精算が終わったら、一緒に笹神さんを探そうぜ、ビアンカ!」
「分かった、こっちこそよろしく頼むな」


同日同時刻、ボナウザース渓谷へと場面は移る。
オアシスの近く、岸壁切り立つ洞窟の入り口、倒れた枯木を椅子に腰掛けているヤチヨとフレンディが居た。

フレンディが、遠くでうろうろしているディルガーウェンを見つけると、こっちだ、と手を挙げる。
それを見たディルガーウェンは、走って近寄って来る。

「お疲れにゃん、ディルガーウェン」
「…どうした、貴様等? 何をしょげ返っている? まるで牢獄に捕らわれた罪人のようではないか…!」
「…ディルガーウェン、首尾はいかがでござる」

この渓谷を集合地点と決めていた、ヤチヨ、ディルガーウェン、フレンディの3人は、2日ぶりに合流した。
ヤチヨとフレンディは飛行船の捜索、ディルガーウェンは笹神龍心の捜索に当たっていたのだ。

「…笹神龍心は、見つけられそうかにゃん?」

そう問われると、中二ライトガンナー・ディルガーウェンは、キメポーズを作りながら言った。

「任せろ」
「おお、まさか見つけたのでござるか!?」
「つくづく、天才たる自分が怖い」
「で、どうなんだにゃん」
「この私の秘策にかかれば、笹神殿が見つかるのも、時間の問題だ!」
「だから、どうやって探してるでござる!?」
「何か手応えあったかにゃん!?」

多少イラッと来てる二人に対し、ディルガーウェンは、ふ、と微妙な笑いを浮かべながら言う。

「それは発想の転換! 探すのではない、笹神殿から連絡をしてもらえばいいのだよ!」
「…ほう、具体的には?」
「もったいぶらずにさっさと言うにゃん!」
「そう急かすな。 ギルドには、フレンドメール機能があるだろう?」
「確かにござる」
「それが、どうしたにゃん?」
「栄名、彼方に轟く天才の私は、これ以上ない連絡の文面を考えた!」
「…にゃぁ。 笹神殿の興味を引く文章で、あっちから連絡してもらおう、って訳?」
「その通りだ!」
「なんだか、嫌な予感がするのでござるが…。 その文面とは?」
「弓皇翁の笹神にゃんだから、『弓での一騎打ちを所望する』とか?」

ディルガーウェンは、チッチッチ、と指を振りながら言う。

「『私、ピチピチでムチムチのプリプリギャルでーす!  笹神さーん、私と二人きりでエッチなことしない? ボナウザース渓谷のオアシスで待ってるからね!』」

ディルガーウェンは、二人に指を突きつけて言う。

「…これだ!」
「もしかして、それを」
「むろん、ハンターの皆に公開するよう頼んできた」

ヤチヨとフレンディは、その場にへなへなと崩れ落ちた。

「もうダメでござる」
「これほどのバカだとは思わなかったにゃん」

「な、何を言うか貴様等! 英雄は、色を好むというぞ! まぁ、凡百の身では、このハイセンスが理解できないのも無理ないがな!」
「いやそれ、桃色酒場の連れ込み広告にゃん」
「大方、お主が釣られた所の文面でござろう」

ヤチヨとフレンディは、揃って、はぁ、とため息をつく。

「…それじゃ、例の偽物が集まってくるだけにゃん」
「その中に、本物が居るかもしれないだろうが!」
「絶対に居る訳ないにゃん、リズにゃんのぱんつ賭けてもイイ」
「偽物が来るかすら、疑わしいでござる…。 拙者も、リズ殿のぱんつ賭けてもイイでござる」
「ぬうぅ! じゃあ、それだけの事を言う貴様らは、何か収穫があったというのか…!?」
「…ないから、ディルガーウェンに期待してたんだにゃん」
「あれを見るでござる」

ヤチヨが、渓谷の一部を指さす。
だが、そこには、何もない。

「…? 我の神眼を以てしても、何もないようにしか見えないが…」
「その通りでござる」
「僕たちも、ここに来た時、マジで驚いたにゃん」
「いや、だから一体、何の話だ…?」
「もう見たまま、何もないって事が言いたいんだにゃん」

飛行船を目撃したハンターたちを道案内に、この渓谷までやってきた、ヤチヨとフレンディ。

東方からやってきたという漆黒の飛行船、それがどんな残骸として姿を表すのか、期待少なにこの地に赴いてみたのだが…。

何もなかった。
誰かに分解して運ばれたのかと思い、残骸や破片を探してみたが、何もなかった。

場所が違うのかと思い、範囲を広げて、渓谷をしらみ潰しに探し回ったが、何もなかった。


そう、渓谷に降り立ったはずの謎の飛行船は、幻のように、忽然と消え失せていたのだ。

<続く>
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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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