女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(10)-1

「すぅ…ふぅぅ…」

両足を肩幅に開き、最も楽な体勢を取って、鼻から息を吸い、ゆっくりと口から吐く。
目を閉じ、体内に意識を向ける。

体の各部位に熱が生まれ、それが経絡を通して集まっていくうちに輝きだして炎となり、下腹部に溶鉱炉の如く溜まっていく。
余分な熱を呼気として吐き出しつつ、新鮮な酸素を取り込む事で、さらに熱を全身に巡らせていく。

「すぅ…ふぅぅ…」

体温の上昇と共に、体液の循環も活性化され、筋肉にも力が漲ってくる。
五感が拡大し、瞼を通して伝わる光が、耳に届く音が、僅かな空気の流れと匂いと冷たさが、そして足から届く床板の反動が、明瞭に感じ取れるようになってくる。

筋力増大と、五感の拡大。
それは東方伝来の武法秘儀「練気」により完成する「鬼人化」の効果であるが、実は修得者だけが知りうる、もう一つの効果があった。

「…よし」

ここは「雲龍の宴」亭の、道を挟んで対岸の宿「荊竜の微睡」亭、その2階の部屋。
窓を開け放ち、胸いっぱいに冬朝の気を取り込んだシャルルは、寝間着のまま、体の調子を確かめるように柔軟運動を始めた。


正直なところ、今日の練気も微妙に荒れていた。
どんなに心を落ち着かせようとしても、悪化しつつある状況に、焦りを隠せない。

エイグリル将軍から預かった黒龍の鎧を、むざむざヴォーデンに奪われるという失態。
自分にできる事は全てやった、という思いはある。
だが比較的、策略や陰謀が得意でない彼女にとっては、もっと何か…鎧を奪われないための良い方法があったんじゃないかと、今も思わされている。

知将であったエイグリル将軍の采配に則って戦い、劣勢をひっくり返したのも一度や二度ではない。
それが大きな戦果をもたらす度に、「策略」の底知れない恐ろしさを実感してきたし、エイグリル将軍の知略や着眼点は、経験を得た年長者だからこそなし得るもの…。
自分には、到底及びもつかない境地だと嘆息したものだ。

事実、かの歴史に残る英雄、二大国戦記のクルアーン大帝ですら、仁者の勇・ウィルブリット大王の「策」に破れたのだ。

「…無いものをねだり続けていてもしょうがないわ。 自分にできる事をやるだけ、よ」

柔軟を終え、気持ちを切り替えたシャルルは、体術の基本、拳と蹴りの打ち込みを始めた。
ゆっくりと、体重の移動を確認しながら丁寧に型の所作をこなす。

「132、133ッ、134ッ…」


エイグリル将軍の救出のためには、人材が居る。
できれば「笹神龍心」と、どうにかして連絡を取るのが一番望ましい。
そのため、シャルルは情報の中枢であるギルドの酒場にもぐり込み、受付嬢として雇われる事に成功した。
だが、なんとも歯がゆい事に、情報収集が軌道に乗ろうかという矢先に「紅龍騎士団」の連中がやってきて、彼女が積み上げてきたものを全て壊したのだ。

自分が居れば、再び軍に狙われる。
もう、「雲龍の宴」亭に戻る事は不可能だった。

「で、何故拙者達が、店の修理代を払わなければならんのでござる!?」

だが店を去る際、シャルルは偶然にも戦いに巻き込まれたヤチヨ(片手剣)、ディルガーウェン(ライトガンナー)、フレンディ(弓)の3人組をムリヤリ仲間に加えた。

「いいじゃない、貴方たち、G級ハンターなんでしょ?  腕に覚えのある強者なんでしょ? 出世払いで返すから、しばらく貸しといてよ」
「ちょっと! 返せるアテのない相手にお金を貸さないのは世間の常識だよ、リズにゃん!」
「大丈夫よ、私は絶対に『黒龍騎士団長』として復帰するから、安心して私にお金を貸しなさい…アマゾネス」
「うぐぐ」

謎の語尾に返す言葉がなくなった3人組は、渋々と、戦闘で破壊された「雲龍の宴」亭の修理費用を支払った。

「で、お金貸すついでに、『砂塵の嵐』へのコンタクトと、ユリウス王子の捜索、ボナウザース渓谷の飛行船の確認に行ってくれないかしら?」

「「「はぁあぁああーーッ!? 何言ってんの!? それ、拙者らが!?」我々が!?」僕らが!?」

「そう、時間ないから3人で手分けして」
「ちょ、ちょっちょっちょっ! そんな無茶言わないでよリズにゃん!」
「武人の如く見えようと、我々は無力で儚い民間人…! かの有名な傭兵集団『砂塵の嵐』、警備が強固なあの村に近づくなど、地獄の蓋を開けるに等しい行為…!」
「しかも、ユリウス王子…でござったか? 王族の捜索とか、あらゆる意味で危険でござる!」

「…無理なの?」

シャルルにジト目で見られ、3人は顔を一瞬見合わせたが、リーダーであるヤチヨがはっきりと断言した。

「拙者達に隠密行動は無理でござる!」

「そう、期待してたのになー。 買いかぶりだったのかなー。 あの戦闘の時は、皆カッコ良かったのになー。 ガッカリだなー」

「うっ…。 で、でも、できれば、軍と関わらず、かつ3人でできる行動がいいにゃん…」
「貴方たち、男でしょ?」

「雲龍の宴」亭を追われたシャルルにとって、だが情報収集の継続は必要不可欠だ。
店の修理代を支払った事で、マナがギルドの動向を知らせてくれる事にはなっているが、できればもっと効率よく情報を集めたいのだ。

「一人でもやってやるぜ、って甲斐性はないの…アマゾネス」
「そんな脅しには乗らないでござる! お金を貸したまま任務で死ぬくらいなら、むしろ普通に殺された方がまだ潔いでござる!」
「そうそう、勇気と無謀は違うにゃん!」
「…どうか我々に、集団行動という女神の赦しを…!」
「まぁ、それもそうね」

そこまで抵抗されるならば仕方がない。
それに、彼らの言うことも(多少は)理解できる。

しかし、収集を期待したい情報で、軍が絡まないもの…と言えば、割と限られてくる。

「なら、渓谷の飛行船の確認と、笹神龍心の捜索をお願いできる? やり方は任せるわ」
「…まぁ、それくらいなら」
「じゃあ、よろしくね」

「で、報酬は?」
「…は? 報酬って、何?」

そうシャルルが言うと、ヤチヨがゴホンと咳払いしてから言う。

「いや、勘違いして頂きたくないでござるが、拙者達は貴方の部下ではないでござる」
「…そう、本来は軍こそが、国民を守るべき存在…!」
「今までの失言や無礼の諸々は、お店の修理代を払った事で返してると思ってるにゃん? リズにゃんが困ってるのは分かるけど、ここから先は、きちんと契約してもらわないと働けないにゃん」

シャルルも一応知っているつもりだったが、フリーランスのハンターを動かすには「契約と報酬」が必要だ。
しかし、実際のそれがここまで面倒なものだとは、予想を大きく上回っていた。

「出世払いでダメかしら…アマゾネス」
「恐喝、ダメ絶対! っていうか、報酬の出ないクエストに行くハンターとか、どこ探しても居ないにゃん!」

と言っても、素寒貧のシャルルとって、出世払い以外に、報酬を支払う方法は何もない。

「(って、どうしよう…。 何を払えば…)」

いや、本当は何を報酬にすれば良いか分かっている。
この3人組と酒場でトークしていた時、最後の話題は「渓谷にシャルルを連れていくかどうか」だった。
その時の要求が「3人組とのデート」だったので、この難癖は、あの時の会話を続けようとしているものだ。
それは連中の表情に見え隠れしているので、ほぼ間違いない。

しかし、デート以上、となると…。

「さすがのリズ殿とて、支払いの見込みがなければ、これにて失敬つかまつる!」

…ええい、ままよ。

「…何でもいいわよ」
「え?」
「きちんとお仕事してくれれば、貴方たちのお願い、何でも1つだけ聞いてあげる」
「…ほ、本当にィッ!?」
「ええ、騎士に二言はないわ。 でももちろん『100個願いを聞いて』とか、その系統の願いはダメよ」

「拙者はユアミ装備が…」
「私はザザミZグリーヴが…」
「いや、ここはやっぱ不動装備を下からにゃんで…」

だが、急に色めきだつ3人組の様子を見て、シャルルは慌てて条件を付け足す。

「で、でもね、ちゃーんとミッション成功した人だけになんだからね! 飛行船から笹神龍心の情報持ってくるか、本人を直接探し出すか! それくらいでないと、お願い聞いてあげないからね! あと、お願いの有効期間は1日限り!」

3人組は、ビシッと親指を突き立てた。

「「「オゥケェーーイ!!」」」

ポーパー♪ (※クエストに出発した音)

それが2日前の晩の話である。

「…638っ」

練気しつつ打ち込みを続けていたシャルルだったが、イヤな回想で集中が揺らぎ、パンチがへにゃ、と空を切る。

「…ダメね、あの程度で動揺するようじゃ」

彼らがクエストに赴いている間、シャルルはこの宿に陣取って、連絡を待つ事になっている。
一応、マナからの連絡もここにお願いしてあるが、2日経つというのに、まだ誰からも、何の連絡もない。
たった2日で劇的な進展が望めるはずもなかろうが、ただ待つ1日はとてつもなく長く感じた。
せめて身体を鈍らせる事がないよう、暇があればこうして体術の訓練で時間を潰していたのである。

「大剣の練習もしたいけど、モップしかないし…」

酒場の戦闘で使った大剣・クロームデスレイザーは、既に所有者に礼を言って返却した。
後髪は引かれたが、徴発するのは流石に気が引けたのだ。

シャルルは部屋の片隅にあったモップを掴み取ると、正面に構え、ゆっくりと大剣の基本動作をなぞっていく。
重量感が味わえないので、できるだけ身体の力を抜き、最小限の動作で振り回すよう試みる。

修得者のみが理解できる「練気」のもう一つの効果。
それは五感が拡大し、自分の内面を見つめやすくなることで、「身体操作の感覚」がより理解できる事である。

体術の訓練と練気の訓練は、相互作用し、良い影響を与えあう。
それに気がついてからは、彼女はこの二つを、必ず同時に練習するようにしていた。

「…お姉さま、マナです。 起きてらっしゃいますか~? よかったら、お部屋開けて貰っていいですか」

だが、練習に没頭していた最中、唐突に部屋がノックされ、シャルルはちょっと驚いてしまう。

「(マナ…? どうしてこんな時間に?)」

酒場の基本は深夜営業、朝は店を閉めて仕込みを始める時間なので、こんな時間に来るなどありえない。
何か緊急の情報でもあったのだろうか。

シャルルは汗を拭き、上着だけを羽織ると、急いでドアを開けた。

「お姉さま、ごめんなさい…」

だが、シャルルの目の前に飛び込んできた姿は、喉元に剣を突きつけられ、両手を後ろで縛られたマナの姿だった。

「こ、この人から、お姉さまの所に、案内しろって…」
「おはようございます、シャルル将軍」
「…ヴォーデン!!」
「…将軍、そのお姿も愛らしくて、また新鮮ですね。 ですが軍人たるもの、常時戦場の気構えたれ、ではなかったのですか」

シャルルが身構えると同時に、ヴォーデンの剣が鋭く閃き、動きを牽制するかのように二人の間の空間を払う。
シャルルが反射的に距離を取ると、ヴォーデンの剣先は再びマナの喉元に向きなおり、マナはひっと叫び声をあげた。

「ヴォーデン、その手を離しなさい! 私に何の用!?」
「…交渉に伺いました。 将軍の対応によっては、すぐにでも人質など解放しますよ」
「交渉って、何の!?」
「クリス王子からの緊急要請です。 今回、私はただのメッセンジャーで、手勢は引き連れていませんから、ご安心を」
「…具体的な内容は」
「まず、お引き受け頂けますか?」
「内容の確認が先よ! マナを離してあげて!」
「そうしたいのは山々ですが、国家の秘密を市民に話せないのはご存じでしょう? それに、貴女の強襲から身を守る盾は、私にも必要なので」
「ならば、騎士として…いえ、人々の希望と力たる『軍神の剣』として、天と地とこの精霊に誓うわ。 貴方に手は出さない。 それで良いでしょう? マナを離してあげて」

ヴォーデンは、少し考えていたが…。

「…分かりました。 将軍がそうお誓いになられるのでしたら、信用いたします。 騎士にとって、誓いは命よりも遙かに重いものですからね…。 人質は解放しましょう」

ヴォーデンは、マナに何事かを耳元で囁く。
それを聞いたマナは、部屋の隅にあるテーブルに椅子を添え、「お姉さま、すみませんが、こちらに」と案内した。

「貴女は着席したまま、私との交渉にお臨みいただけますか」
「こんな事しなくても、私は約束を違えたりしないわ、ヴォーデン」

ヴォーデンは相変わらず、開け放したドアの真ん前に立っている。 この配置では、どちらがどんな行動を取ろうとも、テーブルが障害物、あるいは盾になる。
両者の奇襲は、これで物理的に封じられた。

シャルルが席に着くのを確認したヴォーデンは、マナを解放する。

「私も、貴女が騎士の誓いを違えるとは思っていません。 ですが、万一は常にあります。 それが戦場の理、そして私の用心の証、と思って頂けませんか。 お気を悪くしないで下さい」
「…それにしても、よくここが分かったものね」
「万全を期すならば、あの受付嬢との情報のやりとりも、別な場所で行うようにすべきでしたね」

ヴォーデンは、部屋のレイアウトを再度確認しながら言う。

「シャルル将軍、貴女は受付嬢の仕事を手伝っておられましたね」
「…それが、どうしたの」
「その仕事を求めたという事は、情報を欲していたという事。 せっかく自分が作った目的の場所から、そう遠い所に行くはずがない、と思いまして」

それを聞いたシャルルは、ヴォーデンの意外な慧眼に、目を丸くした。 まさか、彼にここまでの洞察力があったとは。

「…よく、そこまで理解してたわね」
「残念ながら、これはクリス王子の推理です」
「王子が!?」
「ええ、そして推察どおり、また貴女を発見できたのには、私自身驚きでした。 王子の洞察力も、案外侮れませんね」
「…そうね」
「ま、そんな神がかった洞察が働くのも、貴女限定なのかもしれませんがね。 あの鎧を装備して初めて知りましたが、貴女と王子が、あんな関係だったとは」

「…それで、王子の要請とは何なの」

シャルルは話の流れを切り、用件を急がせた。
ヴォーデンは少し鼻白む様子を見せたが、居住まいを正すと、厳かに伝えた。

「クリス王子は、窮地に追い込まれています。 それを救うため、シャルル将軍、貴女には、黒龍の鎧の最後の部位…『腕』を持つ男、「マルク=ランディッツ」を捕獲して頂きたい」
「マルク…?」

その時、シャルルの脳裏に浮かんだのは、「雲龍の宴」亭で、最初にマナとトラブっていた男性ハンターの姿だった。
確か、彼の名前が「マルク」だったはず…。

「…どういう事、それ? 『腕』を持って逃げたのは、ユリウス王子ではなかったの?」
「我々も驚きですが、腕を装着した人間が別に現れたのです。 王子は鎧の『共感覚』にて、それをいち早く察知しましたが、軍はまだ半信半疑の状態です。 出し抜くなら今がチャンス、ということです」
「それは、ユリウス王子が、マルクって人に鎧を譲った、って事?」
「ゴッドフリートの報告では、ユリウス王子とマルク=ランディッツには、何かの関係性がありそうですが、マルクが所有していると確認できたのは右腕一本だけで、左腕まで所有しているのかは不明です」
「…ゴッドフリートって、誰?」
「おっと、これは失礼」

その後、ヴォーデンは要点を簡潔にまとめつつ、上手くシャルルに説明をしていった。

<ゴッドフリート>
ヴェルド王国の古伯爵、ピスカードル家の6男。
紅龍騎士団2番隊【ナクム】隊長。
貴族の悪い見本みたいな男で、名誉を傷つけられるのを異様に嫌う。
カルネラ大臣への賄賂で、2番隊に比較的マシな連中を集めた。

<ユリウス王子>
紅龍騎士団1番隊【ゴールデンビートル】を壊滅させた後、再び逃亡中。
逃走ルートに脈絡はない。 各村の名士やギルド関係者たちに会い、鎧の素性を聞いて回っているらしい。
幾度か発見できたものの、王子の戦闘力が突き抜け過ぎていて、捕獲は極めて困難。

<紅龍騎士団>
カルネラ大臣の発案により、犯罪者を騎士団として組織したもの。働きにより罪科に恩赦が与えられる。
正規の1~3番隊と、補充目的の4~5番隊がある。

1【ゴールデンビートル】:ユリウス王子追跡班>壊滅
2【ナクム】:ユリウス王子追跡班(2)>マルク発見
3【エルムザ】:シャルル追跡班>シャルル発見、鎧奪還
4【マージ】:シャルル追跡班(2) ※補充班を兼ねる
5【メッツェンガー】:補充班 ※劣悪な人材多し

最後に、王子を取り巻く城の状況。

「…なるほど、おおよそ理解したわ。 イルモードが鎧を隠しているから、イニシアチブを握られている。 だから『腕』を先に入手する事で、それを挽回したいと」
「ええ、宰相側からすれば、鎧を4つ揃えるのはいつでも可能、と圧倒的優勢ですから。 ただ、鎧が全て揃わない限りは、戴冠式までクリス王子を生かさざるを得ません」

「…『生かさざるを得ません』って、それが王室に仕える者の発言かしら」

それを言うと、ヴォーデンの眼光がやや剣呑な光を帯びる。

「ご存じとは思いますが、私は元々イルモード宰相の配下ですから」
「…そうね。 なら、何で貴方が、クリス王子のメッセンジャーを務めている訳?」
「直接のご指名ですよ。 純粋にギブアンドテイク、です。 それと…」
「何なの」

ヴォーデンは、多少言いにくそうに言った。

「…今回、マルク=ランディッツの捜索は、ゴッドフリートの【ナクム】隊が担当なのです。 よろしければ、鎧奪還のついでに、奴の部隊を壊滅させて頂けませんか」
「壊滅って、簡単に言うわね…。 何故なの?」
「簡単に言えば、奴は私と出世争いをしている間柄なのです。 シャルル将軍が、奴の行動を阻止してくれれば、私個人も助かります」
「なるほど、貴方がメッセンジャーを請け負った理由も納得したわ。 …でも、部隊壊滅とかは無理よ、私も超人じゃないもの」
「ゴッドフリート個人を、再起不能にするだけでも構いません。 逢えばわかりますが、奴は貴女がもっとも嫌いそうなタイプの男です。 この件まで飲んで頂けるなら、私個人から貴女に援助しても構いません」
「…援助だなんて、王子からの報酬は相当に大きいみたいね。 いえ、貴方とそのゴッドフリートとの確執が、かしら」

シャルルは、皮肉めいたため息をつく。

「引き受けて頂けないのですか」
「もちろんやるわ。 ただ…」

シャルルは正面からヴォーデンを見据えると、語気強く宣言する。

「これだけは、予め言っておく。 それはイルモードという害悪に、このバルベキア三国の王権を纂奪させぬためだ! 忠臣ならば、先王の遺言に従い、ユリウス王子に王位を継承させる事こそ正しき務めのはず! 鎧を奪還しても、クリス王子に渡すかどうかは、この私が判断する!」

その裂帛に、ヴォーデンは動揺するでもなく淡々と応じる。

「そう、ですよね。 私も多少不思議に思っておりました。 シャルル将軍、貴方も名目上ではクリス王子の部下ですが、本来の所属はエイグリル将軍の部下…つまりユリウス王子の配下ですからね」

ヴォーデンは、理解しかねるような視線をシャルルに投げかけてくる。

「それを、クリス王子も理解しているはず…。 貴方が、鎧を奪取しても、回収という命令には従わない事くらい。 そこで将軍にお伺いしたいのですが」
「何?」
「…それでもなお鎧の奪還を貴女に頼む、王子の真の目的は、何だと思います?」

それは、予想外の質問だった。
つまり、ヴォーデンも、王子の意図が読めぬままメッセンジャーになっているという事だが…。

「最初は、鎧を揃えさせないための時間稼ぎかとも思ったのですが…」

そこまではシャルルも分かる。
だが、鎧を奪った後、どういう交渉に持ち込むかの選択肢は無数にあるため、とても絞りきれるものではない。
ならば「鎧を奪った後」ではなく、「鎧を奪うその瞬間」こそが王子の目的かもしれない。

策を練るのがやや苦手なシャルルは、あれこれ考えながらも、一つの結論を編み出した。

「…例えば、貴方が本当はクリス王子の使者じゃなくて、イルモードの使者だとしたら。 私がそのマルクって人を捕獲したら、そこにはまたも罠が仕掛けてあって、貴方が私ごと捕らえるとか」

「50点ですね」

そう言って、ヴォーデンは胸から何かを取り出した。
リボンに纏められたそれは、誰かの毛髪のように見えた。

「後で、貴方の御髪も頂けませんか? メッセンジャーとして仕事をこなした、という証明に」

ヴォーデンが投げて寄越したのは、クリス王子の毛髪だった。

「今の私は正真正銘、クリス王子のメッセンジャーですよ。 ですが、将軍のアイデアは半分同意できます。 つまり、ゴッドフリートと私以外の第三勢力が他に居て、鎧を奪取した直後の貴女を狙うかもしれない、と」

元部下に、自分の策を50点と評されたシャルルは内心カチンと来て、さらに別の策を提案した。

「…鎧の有無は抜きに、イルモードが、私を始末しようと考えているとか」

「それは0点ですね」
「えっ?」
「私が判断する限り、宰相の目的は鎧が最優先です。 エイグリル将軍同様、今の貴方は放置しても構わん、と思っているようですから」
「…そ、そう」

エイグリル将軍は、まだ無事らしいという事は分かったが、いいカッコし過ぎて顔が赤くなった。

…人間、何事も背伸びし過ぎはよくないわ。

「じゃあ、第三者が居る、と想定して動いた方が良さそうね」
「そうですね、くれぐれもご用心下さい。 それと、このクエストの期限ですが、大至急行動を起こして頂きたいのです。 できれば、今日中にでも」
「何でまた!?」
「王子曰く、マルクというハンターは、今、クェル南岸から、馬車でこちらに向かっている最中です。 そして、ゴッドフリートも、別ルートでマルクの足取りを掴もうとしています。 ハンターですから、ギルドの情報網で足取りを把握するのに、それほど時間はかからないでしょう」
「…王子は、そのマルクって人の所在を直接掴めるのよね?」
「ええ、私が定期的に、ハンターズギルドの『フレンドメール』制度でご連絡いたします。 早ければ3時間、遅くても半日で連絡できますので、どこか最寄りの集会所で定期的にご確認下さい」
「内容はどうするのよ、皆に見られるのに」
「宛名はエリザベス=レジーナ様、貴女の王子様が○○でお待ちしています、という恋文でいかがでしょう」

「…これはまた凄い皮肉ね」


<続く>
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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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