女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(9)

ノーブル城の第一応接間にて、ヴォーデンを待ち構えていた相手は、クリス王子。
人気のない場所に誘導され、持ちかけられた話は、クリス王子側への寝返りだった。

「ヴォーデン…。 取引をしよう」
「何のでございますか」 
「僕の…。 いや、僕だけの手下になれ。 僕の忠実な手ゴマになるんだ。 そうすれば、僕がお前の将来を約束してやる」
「仰っている事の意味が分かりかねますが…。 私は、元々王子の部下でございます」
「…トボケるな。 貴様は僕じゃなく、むしろイルモードの部下だろう? イルモードが僕を亡き者にしようとしている事くらい、僕はちゃんと理解している」
「…。」
「僕は、鎧が揃った暁には、イルモードを排斥して、この国をまっとうに建国し直す。 その時、貴様を重鎮に取り立てる事を約束しよう。 …奴の部下で居続けるのと、どちらが良い?」
「…そんな夢物語にはお付き合いできませぬ。 そもそも、主を簡単に裏切るような部下が重用された例は、過去の歴史をどれほど紐解いても存在しませぬ」

「ははは」

だが、ヴォーデンがそう返事すると、クリス王子は本当におかしそうに笑った。

「それもそうだ…。 ではやはり、小取引から始めよう」
「一体、何を仰りたいので…」
「さっきも言ったろう、取引だ。 市場における信用売買だ」

クリス王子は、ヴォーデンに歩み寄ると、自らの「黒龍の鎧」に触れながら言う。

「マルク=ランディッツの居場所…。 もし、僕が、それを知っているとしたら、どうする?」
「あ…!? まさか、『共感覚』…!?」
「そうだ。 皆は笑っていたが、ゴッドフリートの報告は真実だ。 奴は現在、『海』に居る…。 知りたくないか、その場所」

  *      *

「なぁ…! 頼むから教えてくれよ、このままじゃ気になって眠れねぇよ」
「だから、ベッドの方来るなって言ったやん! アンタは床で寝ときぃや!」
「気になって眠れねぇんだよ…。 せっかくの獲物は、誰かさんが海の藻屑にしちまうしよ」
「うぐっ…! そ、それが眠れへんのと何か関係あんの…?」
「半分の稼ぎで、借金が返済できるかと思うと、気が気で眠れないんだよう…」
「だからベッドの方に来るな言うてるやろ! ウチに変な事したら殺すぞ!」
「だから俺が安心できるように、『笹神流弓体術』の話してくれよ」
「お前…」

ここは、クェル南岸、ラボルタ川のすぐ傍に設えられたベースキャンプ。
ガノトトスを倒したビアンカと俺は、なんとか海に浮くガノトトスの遺骸から素材を回収しようと試みたのだが、「冷たッ!」と速攻諦めた。
いや、この極寒の冬の海で泳ごうもんなら、間違いなく心臓麻痺でお陀仏だし。

そして回収が不可能と判明した後、

「…で、何でアンタさんは生きてたん? ってか、何で生きとったのに、狩りに出てけぇへんかったん? …もしかして貴様(きさん)、やっぱ本当はヘタレか!」

と、ビアンカ様がお怒りになられ、

「違う!参加しようとしたんだけど、肩が脱臼してたんだよ! それに、あの『笹神流』の技がなんか凄くて、見とれてて…!」

と、俺が涙声で弁解するまで、彼女のスーパーフルボッコタイムは続いた。

「…そこまでしっかり見てたんか」
「あ、ああ…。 アレだろ、お前…。 笹神龍心の孫、なんじゃねぇのか」

それを言うと、ビアンカは観念したかのような渋面を作り、天を仰ぐ。
そして、何か考え事をするように、しばらく空を見つめてた後に、地面に寝転がってる俺に手を伸ばす。

「悪かった。 ちょっとボコボコにし過ぎてんな」
「いや、マジでやり過ぎだろお前」
「ふんっ!」
「おがぁっ…!! …あ、あれ? 肩が」

脱臼した肩が、ハマった…。

「ウチは孫やなくて、養子。 ああ、まぁ確かに、『笹神龍心』はウチの爺ちゃんや」
「ま、マジで…!? あの英雄の、肉親…!?」
「一応な? どうでもええけど、その熱視線やめんかい…。 なんかムズムズするわ」

何にせよ、死闘をくぐり抜けた俺たちは、闇ギルドの馬車が迎えに来る明日の朝まで、ベースキャンプで休んで過ごす事にした。
だがここのキャンプは、高潮や川の氾濫に備えるためか、割と高台に設営されており、夜の海風を防ぐために天幕もきちんと張られていたため、非常に手狭だった。
しかも寝る場所は、小さなベッドが一つだけという、妙にラブい作りだったため、俺とビアンカは顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。

当然、ビアンカがベッドを使用し、俺は床に雑魚寝…という事になるのだが、激闘でヘトヘト、すぐにでも眠りたいというビアンカに対し、俺は全く眠れなかった。
死闘から生還した余韻や、借金が返せるのかという不安、それにあの伝説の弓兵、笹神龍心の孫娘に出会えた興奮。
それらが重なり、普段ならいつでもどこでも寝れる俺だが、今日は何だか無性に高ぶって、どうしても寝付けなかったのだ。

「だから俺が安心できるように、『笹神流弓体術』の話してくれよ」
「お前…」
「なぁ、どんな訓練をすれば、あんなになれるんだ?」
「どんだけ質問すれば気ぃ済むん!? そんなもん、明日ちゃんと語ってやるから、寝かせんかい!」

なので俺はビアンカに、もう少しだけ、この胸に渦巻く質問に答えて欲しかったのだが、疲労でよっぽど眠たいのか、彼女の口調は不機嫌極まりない。 
まぁ当然か。
なんせ、キャンプにたどり着くまでの間も、笹神龍心の話題を振りまくってたからな。

「なぁ、頼むよ! マジで少しだけでも良いんだよ! あのスピード! 分身したりとか、何であんな風に動けんだよ!? 教えてくれ!」
「…それは教えへん」
「ああ!? 今、教えてくれるって言ったじゃねーかよ!」

すると、ビアンカは上半身を起こし、こっち向いてメチャ怖い目で俺を睨みつけ「…奥義は禁則事項なんや」と、ボソッと言った。

「…何、禁則事項って」
「ウチはな、爺ちゃんから『奥義は絶対に使うな』って言われてんねん。 基本技はともかく、奥義は門外不出、口外もでけん、破れば強烈なおしおき。 やからもう聞くな、今日見たことは忘れろ、知らんかった事にせえ」
「分かった。 …で、何で奥義使っちゃダメなんだよ」
「早速質問しとるやないかい!」

ビアンカは盛大にため息をついて、ポリポリと頭を掻く。
そして、下を向いて、ポツリと言った。

「…ウチが、女やからや」

…?

「何で、女だと奥義使っちゃダメなのさ」

ぎり、とビアンカが俺を睨む。
気のせいか、少し顔が赤いような…。

…あ、俺もしかして、何かマズい事でも聞いたか?

だが、ビアンカは不承不承答えてくれた。

「『笹神流弓体術』は、練気が凄い重要な要素やねん。 練気そのものは、天地照応を目的にした術理やし、修めれば、身体修養の法にもなるから、健康にもええ。 せやけど…」

そこで、彼女は俺の目をまっすぐに見ると、自分の下腹部にそっと手を当てた。

「『奥義』は、練気の究極『赤心』を引き出す。 でも、それは丹田の周囲…下腹部にメチャクチャ負担を掛けるから、女性は奥義の使用を禁じられてんねん」

ビアンカは、お腹をさすりながら言う。
何故か、その表情は険が取れて、優しいものになっていた。

「昔はな、爺ちゃんも、ウチが笹神流弓体術をマスターするのを、自分の事のように喜んでくれたんやで…」

「ウチも、そんな爺ちゃんをもっと喜ばせたくて、『武録』を勝手に見てな、奥義を一人でマスターしてん」

「でも、奥義の練習し過ぎで、まだ子供やったのに『おしるし』が出てな、ウチはパニックになってもうて…。 爺ちゃんも、それで奥義の危険性を知ったんやろうな」

「…その日以来、ウチは奥義の使用禁止を言い渡されてもうた」

…なるほど。
要は、奥義を使うと何らかの体調不良になるって事か。
だが、いくつか意味不明な単語があった。

「で、『おしるし』って何だよ」
「聞く所そこかぁッ!! 」
「ぶぎゅるっ!」

ビアンカの踵蹴りが、俺の顔面に再度めり込み、俺は豪快に後ろへすっ飛んだ。

「とにかく、奥義を使うと具合悪くな…ゴホッ、それだけ覚えとけ! ただでさえ風門が開きかけてるんやから、ウチの調息の邪魔すんな!」

つまり、今は療養中だから休ませろ、練気の呼吸が乱れるから話しかけんなって事か…了解。
そこまで率直に言われちゃ、いくらデリカシー皆無の俺とて、大人しく床に付かざるを得ない。

俺は、ビアンカに言われたとおり、天幕の床…。
布を引いただけの簡素な寝床の上に寝転がった。

「(でもなぁ…)」

今回のクエスト、ガノトトスの素材をまるまる1体分失ってしまった事が悔やまれる。
上位クエストを交付して、そのまま上位個体1匹を狩っただけだから、今の相場からすれば、猟果はちょっとプラス、って程度だろう。

今後の金策にも、ビアンカの助力は欲しい所だが、次は彼女の依頼である「人探し」をしなくてはならない。
だが、内容はもう見当が付いている。
多分、あの戦場の雄にして、伝説の弓兵…。
弓皇翁「笹神龍心」と合流する事だろう。

「はぁ…」

最初、この人探しはバックレるつもりだったが、状況が変わった。
我ながらミーハーな話だが、実物の笹神龍心に逢ってみたくなったのだ。
ビアンカですら、あれほどのデタラメな強さを持つのだから、その師匠に至ってはどんなもんなのか。
少年の日に読んだ戦記物語での伝説、あれらはどこまで本当なのか、真実をこの目で見たいという興味が湧いて仕方ない。

「(しかしなぁ…)」

ビアンカと笹神龍心は、どう考えても政治犯だった。
遙か東方、海を挟んだ遠国の人間が、厳戒態勢のこの国に密入国できてる事自体、普通じゃない。
この国の政情不安定の噂、そしてギルドの手配書、これらを加味して考えれば「テロリスト」という手配書の罪状も、あながち嘘とは思えない。

…まぁ俺も、犯罪者の烙印を押されかけてるという意味では同じ穴の狢なのだが、このまま同行しても金も貯まらないし、何より危険度が飛躍的に増す。

多分、ビアンカと一緒に居られる時間は、そんな長くないだろう。
JJには何も教えてもらえないまま、喧嘩別れで機会を逸してしまった。
今回は同じ轍を踏みたくないから、ビアンカとはもうちょっと一緒に居て、いろいろとガンナーとしての教えを乞いたいのだが…。

「すぅ…。 すぅ…」

ビアンカは、既に穏やかな寝息を立てて寝ていた。
なんだかんだ言って、コイツは俺のクエストを成功させてくれた恩人である。
あまり無理は言えない。

「すぅ…。 す…、コホッ…」
「おいおい、大丈夫かよ」

寝ながら咳込むのを見て、俺はビアンカの毛布を肩まで掛け直してやる。 とりあえず、俺も寝よう。

「…おやすみ。 …ありがとな」

かの伝説の弓兵、笹神龍心。
彼が戦場にて創造した暗殺弓術「笹神流弓体術」。
それがどんなもんか、少年の頃に読んだ物語を思いだし、あれこれと夢想していくうち、俺はやがて微睡みの中に落ちていった。


 *   *


「王子…。申し訳ございませんが、取引は不成立です」
「何故だ」
「私は、王子にお売りできる商品を持ちません」

場面は再びノーブル城へと戻る。
「マルクの居場所を知りたくないか」というクリス王子の申し出を、ヴォーデンは断った。

「商品がない、とは?」
「私がシャルル将軍から、鎧を奪ってきた事を、高く評価して下さったのは、ありがたい事ではありますが…」

ヴォーデンは、悔しさを口の端に滲ませて言う。

「私がマルクというハンターの居場所を知っても、鎧を奪ってくるのは無理だからです」
「…じゃあ、お前はどうやってシャルルから鎧を奪ってこれた?」
「経緯を一言で表せば、ただの幸運にございます。 ですが、マルク=ランディッツも、鎧を装着し、その力を引き出せるのでしょう? ならば、生身でアレに勝つのは無理です」

私も、鎧の力を発揮できますから分かります、とヴォーデンは小さく付け足す。

「無理か」
「ええ、無理です」

理由はそれだけではない。
もし、ゴッドフリートを出し抜いてマルクの確保に赴けば、その時点でイルモードはヴォーデンの行動を不審に思い、クリス王子がマルクの居場所を探知できている事に気づくだろう。
そうなれば、イルモードは内通しているヴォーデンを敵とみなし、抹殺に動くはずだ。
王子の提案は、自分の身を危うくしかねない、余りにも危険過ぎる賭け。
これは自分を卑下しても断るべきだ、と直感したのだ。

だが、クリス王子はヴォーデンの返事に対し、ふふ、と小さく笑うだけだった。

「そうか、無理か」
「繰り返して申し上げますが、無理でございます」
「じゃあ別に提案がある」
「何でしょう」
「『盤戯』をしよう」

「盤戯を…? 何故また、このような時に」
「ダメか? 次期国王の手慰みにも付き合えんと言うのか、貴様は」
「い、いえ、それぐらいでしたら、いくらでもお付き合いいたしますが…」

「盤戯」とは、この国に比較的古くから伝わるボードゲームの一種で、現代で言うところの「将棋」がこれに比較的近い。
盤のマス目に「王」「王女」「歩兵」「騎兵」「槍兵」「重装騎兵」「弓兵」「銃兵」などの駒を並べ、それで相手の王を追いつめ、詰み(オーデトワール)に持ち込む事が目的のゲームである。

ただ、将棋とは異なって、精緻な手順や戦術はあまり重視されない。
というのも、このボードゲームでは「置き石での進入不可位置の設定」や「柔軟な自陣作成」など、卓上遊戯というよりも、実際の戦場と用兵を再現する「実戦シミュレーター」としての色が濃い。
よって、最初に互いで戦闘の状況や、駒の扱いについて話合うのが、「盤戯」でゲームの行う前の慣例であり、むしろそれこそがこの遊技の醍醐味であった。

クリス王子とヴォーデンは、ロビーを離れ、道具が置かれている二階の第二会議室へと移動し、盤戯に興ずるべく、長テーブルの角に着席する。
自ら率先して、駒と盤を用意してくれる王子。
だが正直、ヴォーデンには、こんな時にボードゲームなどを行う王子の心境が分からなかった。

「では、ゲームの設定だが、盤は小盤面を使う」
「はい」
「目的は、王の元に5つの秘宝を集め、戴冠式を行う事」
「…!?」
「僕は青軍、お前は黄色軍だ」

そう言って、王子は黄色の「王」をヴォーデンに投げて寄越した。

「これは…!」

クリス王子の髪の毛の色は、深い群青色。
この黄色は…。

「秘宝は、青軍に2つ、黄軍に2つ」

…この「黄軍の王」は、イルモード宰相の比喩。
「秘宝」は、黒龍の鎧の比喩か。

それを直感した時、ヴォーデンは王子のゲームの趣旨を読みとった。
このゲームは、おそらくこの城における、各勢力の状況と目的の確認。
誰にも怪しまれないよう、遊戯にかこつけて密談の続きをしたい、ということか…。

クリス王子はヴォーデンの考えを読み取ったかのように、ニヤリと笑う。

「…しっかり考えろ。 ではここに、残り1つの秘宝がある」
「…はい」
「残る一つは黒軍の王、あるいは兵士が持っていると考えられる。 では、ここに…」

クリス王子は、白の「王」×1、緑の「王」×1、白の「騎兵」×2を置く。
多分、黒の王はユリウス王子、黒の兵士はマルク=ランディッツ、白の王はシャルル将軍なのだろうが、残りは誰の比喩だか、ヴォーデンには分からない。

「先ほど、ゲームの勝利条件は、『王の元に5つの秘宝を集めること』と言った。 現在、黄&青軍は共同戦線を張っており、黒軍の所有する秘宝を狙っている。 ではこの状況で、黄軍の取るべき手は何だと思う?」

それは、考えるまでもない。
先刻、宰相が開催した会議の結論「マルク=ランディッツが、鎧を所有しているかどうかの確認」が一番だったはずだ。

「会議? 何だそれは?」
「…おっと、そうでしたね」

あくまでも、これはボードゲームだ。
わざわざ会議の再現をさせる王子の意図が読めないが、ヴォーデンは、最善手を「黒の兵士(マルク)奪り」だと答える。

「なら、僕の番だな? よし、僕は、秘宝の最後の1個が確保できたと同時に、黄の王を裏切り奇襲、だ」
「何ッ!?」

そう言って、クリス王子は「青の王」の駒で、ヴォーデンの「黄の王」の駒を弾き飛ばす。

「あらあら、これは大変だな…。 ヴォーデン、これは青の軍に加入しないと、将来がないんじゃないのか」
「バ、バカな!」

そんなはずはない。
現実には、この攻撃は不可能なはずだ、と直感したヴォーデンは、しばし考え込み…。

「こっ、この攻撃は、現実には不可能でございます! 黄の王は、秘宝を隠していますゆえ、奇襲を掛ければ秘宝の所在が分からなくなり、戴冠式は不可能となります!」
「…その通り、よくそれに気づいたな。 ここで新ルールを追加するが、秘宝を隠している場合、王への襲撃は不可能とする。 さて、続きだ」

クリス王子は、引き続いて「黒の兵士(マルク)」の秘宝を「青の王(クリス王子)」の傍に寄せる。

「では第二問。 青の王は、手に入れた最後の秘宝を隠してしまった。秘宝の所在が分からなくなり、黄の王は青の王を倒せなくなった。 これは青の王が圧倒的優位じゃないのか? 貴様の未来はどうすべきかな、ヴォーデン」

この問いを向けられた時、ヴォーデンは思わず苦笑いを浮かべた。

「青の王には、最後の秘宝を入手する事自体が困難では」
「それは有能な部下が首尾良く解決した、とする」

そう言って、クリス王子はチラリとヴォーデンを見る。
王子の思惑は、盤戯にかこつけて、自分は有利な位置にあるのだ、と思わせ、ヴォーデンの離反を狙っている…ように思える。

だが、何の力もない自分などを離反させてどうしようというのか。
確かに、このままイルモードの部下であっても出世は難しい。
それは王子の言う通りかもだが、主を重んじぬ部下は誅殺されるのが歴史の常。
出世と命、その二つを天秤に掛ければ、どう考えようと命の皿の方が重いに決まっている。

よほど確実な出世の道が、決まっていない限りは…。

「青の王が秘宝を隠した場合、黄の王は青の王を即座に攻撃します。 この際、秘宝は4つでも構わないでしょう」
「いきなりのルール破棄か。 …しかし、青の王は意外に手強いぞ」

だがヴォーデンには、シャルルとの戦闘体験、そして自らの鎧の装着感覚から、うっすら答えが見えていた。

「いえ、攻略法はあります。 例えば、銃の一斉射撃で鎧に覆われていない部分を狙う、あるいは防御に徹して、装着者の衰弱を狙うなど…」
「そうだな、シャルルがお前にやったようにな」
「あ…!」

ここで、ヴォーデンは先日の争奪戦で、守備に徹していたシャルルの目的が、自分の衰弱を狙っていたものだと理解した。
それに今まで気づかなかったのは、シャルルの巧妙な攻撃のフェイント、そして…

「お前の攻撃に押されて、防戦一方…という『演技』が上手だった事だな。 見てて思ったが、お前とはまさに役者が違うな」
「何故、それをあの時…!」
「僕が、シャルルを倒す方法をお前に教えると思うか?」

クリス王子は、椅子に掛け直すと、青の王の駒を手に取り…。

「ゲームの続きだ。 お前の言うとおり、青の王への奇襲は有効とする。 秘宝4つでの戴冠式も有効としよう。 …ならば、こうして隠れたらどうだ」

青の王の駒を、盤の外に置いた。
これはどこかに身を隠し、イルモード宰相との直接対決をやり過ごす、という意味か。

「それは、悪手中の悪手です。 戴冠式に出ぬ王を、国民が王と認めるとは思えませぬ。 それに、それは国内不安を対外に知らせ、他国の侵攻を招きます」
「うむ、その通りだ…。 もう貴様も理解したと思うが、このゲームで勝利するには、黄の王と青の王がそれぞれ秘宝を表に出しての戦闘に持ち込むしかない」
「そうですね…。 ですが、それは果たして可能でしょうか?」
「可能だ。 お前は先ほど、奇襲は不可能と判断したが、実は非常に有効な戦術だ。 ヒントを出そう」

そう言うと、クリス王子は「白の王」の駒を掴み、そっと愛おしそうに撫でる。

「ヒントその1、戴冠式は青の王で行われるのが望ましい。 つまり黄の王は、戴冠式が終了するまで、おそらく青の王を倒さない」

そして、「黄色の王」の傍に「白の王」を置き、共に横倒しにする。

「あっ…!?」

「ヒントその2、隠していた鎧を使わなければならない状況に追い込む方法…何があると思う?」

王子の思惑が、読めた。
彼はヴォーデンをスカウトしに来たのではない。

「その通り、僕が本当に欲しい駒は、シャルルなんだ…。 その下準備としてお前が必要なんだよ、ヴォーデン」
「うう…っ…! ぐっ…!」
「彼女なら、きっと生身でも、黒龍の鎧の装着者と、互角に戦える…。そう思わないか」

王子の瞳が、熱を帯びていた。

…確かに、王子と自分、2人の鎧装着者と戦い、生き残ったシャルル将軍なら、マルク…あるいはイルモードが鎧を装備していても、どうにかしてしまうかもしれない。
普段なら一蹴できる思いつきだが、彼女の底知れなさを知っているヴォーデンには、王子の発案を否定できなかった。

「お前は、シャルルの居場所を知っているだろう? 城を取り巻く今の状況も、このゲームで理解したな? 彼女へのメッセンジャーになって欲しいんだ」

ヴォーデンは声が出なかった。
冷や汗を垂らし、ただ盤面を凝視し続ける。

「メッセンジャーになるだけなら、貴様の忠誠にも影響はなかろう? 何、貴様は一度シャルルを発見しているのだから、目撃された所で怪しまれる事はない」
「王子ッ…! そんな不忠を、私が本当に行うとでも…?」

クリス王子はヴォーデンの「不忠」発言に苦笑すると、腰の片手剣を抜き、テーブルの上にゴトッと置く。
G級片手剣『マスターオデッセイ』。
攻撃力350、水属性値370、売却価格は60000zという、豪奢にして強烈な威力の片手剣だ。

「続きだ。 僕が扱う商品は、この剣。 金に困っている貴様にはありがたい品だろう? そして貴様の品は、メッセンジャーになる事。 どうだ、悪くない取引だと思うが」
「王子、私は…」
「あまり強がるな。 せっかくのチャンス、わざわざお前を選んでやったんだぞ…? 僕が、ゴッドフリートをメッセンジャーにしようと考え直したら、どうするんだ…?」
「ぐっ…。」
「ゴッドフリートが手柄を立てれば、もう貴様の出世のチャンスはなくなる。 分かりきっていることだろう?」
「…シャルル将軍の居場所は、私にしか分かりませんぞ」
「『雲龍の宴』亭だろう? 貴様の部下から聞いた」
「…!!」

ヴォーデンは盤面とクリス王子の顔を交互に見つめ、全身をぶるぶると戦慄(わなな)かせている。
その顔には、びっしょりと汗が浮いていた。

「…オーデトワール(詰み)じゃないのか、ヴォーデン」

クリス王子が、冷笑を浮かべながら言う。
その言葉を聞いたヴォーデンは、それでも未練がましく、何か手がないかと、盤面を眺めていたが…。

「…何を、お伝えすればよろしいのですか」

遂に、黄の王の駒をゆるゆると取り上げ、逆さにし、震える手でクリス王子に渡した。
リザイン(降参)の印である。

「何って、決まっているだろう? 最善手は何か、さっき確認したばかりじゃないか。 それをシャルルに伝えればよい」

何? 先ほどの最善手とは、何だったか…?

「マルク=ランディッツの持つ、黒龍の鎧を奪え、とな」

<続く>

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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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