女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(8)-9

「…爺ちゃん、堪忍な」

そんな囁き声が、風に乗って俺の耳に届く。
ビアンカが矢筒から矢を抜き取り…。

「…禁則、破んで」

矢を、弓につがえた。

「(いや、そんな無理攻めしたって、意味ねぇだろ…!)」

二頭同時の戦闘では、相手の隙が重なる際にしか攻撃を仕掛けられない。
事実、ビアンカは金冠ガノトトスの攻撃は避けていたものの、弓を構えようと高く掲げた際、もう一方のガノトトスが高圧水ブレスをビアンカに向けて放ってくる。
それを、弓をつがえたまま、ヒラリと回避するビアンカ。

「(ほら、これだ…)」

あんな大仰な回避動作をしたんじゃ、体勢は崩れ「射法八節」はおろか、矢に込めた「気」だって散り散りになっている。
また最初から、体勢を整えて、弓を構え直す所からスタートだ。

「(…え!?)」

だが、ビアンカがガノトトスの攻撃を回避し終えたその時、既に弓の「タメ」は完成していた。

「(…何故!?)」

ビアンカの全身を輝かせるほどに、凛烈と漲る「気」は、間違いなく弓のタメが完成している事を示している。

「(だけど、いつタメた? さっきの攻防に、タメる瞬間など、あったか…?)」

俺のその問いに答えるように、再びビアンカの声が、風に乗って囁くように聞こえてきた。
ギリギリギリと引き絞られた弓は、発射の直前。

「…笹神流、弓体術」

それは抑えた、だが明らかに興奮で高揚した声。

「…奥義!」

その声と共に、十分に気を込めた矢が、まるで投槍のように、唸りを上げてビアンカの弓から放たれた。

「『…千龍布、溜短縮!(せるふ・ためたんしゅく!)』」

薄く光を放つ矢の一群は、ギィーンと細い唸りを上げて、水ブレスを放った直後のガノトトスの、口腔と喉をめがけて一直線に飛んでいく。
それがドカドカドカッと命中すると、弓矢は体内深くにまで食い込み、ガノトトスはそのあまりの威力に大きく仰け反る。

…見間違えようもなく、弓矢のタメは完全に完成していた。

「(え、何だ、これ…?)」
「(ささがみりゅう…きゅうたいじゅつ!?)」

もはや前に出る事を忘れ、再び岩陰に隠れた俺。
だがその眼前で、信じられない光景が連発される。

ビアンカは、あの高速の立ち回りの中で、次々と、しかも一瞬でタメを完成させ、威力ある矢を嵐のように打ち込み、ガノトトスを怯ませる。
その怯ませた隙に、またもタメを完成させて、さらにもう一方に打ち込んで、動きを止め、一人でニ体を押し返すという荒技を繰り出していた。

「(何だ、あれは!? 弓なのに、何故あんなに連射できるんだ…!?)」

十分な気を乗せた矢が、砲弾のように連続して打ち出され、次々にガノトトスの甲鱗をはじき飛ばして体内を穿っていく。

この連射速度は、弓師の常識を遙か越えている。
そのとてつもない光景に、最初ただ呆然と眺めるだけの俺だったが、戦闘をしばらく眺めているうちに慣れ、その状況をつぶさに観察していくうち、おおよそながら理由が分かってきた。

通常、回避動作をすると体勢が崩れて、弓を撃つどころではなくなるが、ビアンカは、避ける・身を翻す・体を起こすという回避動作の各モーションと、「射法八節」の動作を融合・一致させていたのだ。
つまり、回避してもタメが途切れない。

だがそれだけではなく、弓を構え、引き絞るまでの一連の動作も短くなっていた。
足を細かく踏み変え、全身をキビキビと捻り、上半身を一気に「分ける」動作。
…多分、踏み込みの力を捻転力に換えて、それで一気に弓を引き絞っているのだろう。

そして、こちらにまで伝わってくる、凛烈たる気。
彼女が身にまとう、その気の総量は、あまりにも莫大すぎて…。
ちょっと信じられなかったが、あれは俺が知る限り、闘技場の皇帝「BAD=KING」と同じか、あるいはそれ以上。
あれほどの気を練れるなら、弓矢に一瞬で気を込めるなど造作もない行為だろう。

「なんだ、これ…」

思わず、そんな声が漏れる。

ビアンカの力ある矢は連続して放たれ、ガノトトスの顔面に次々命中して、奴らをどんどんと後ろに押し返す。

「(…ささがみりゅう、きゅうたいじゅつ、おうぎ)」
「(せるふ、ためたんしゅく)」

さっき、ビアンカが興奮と共に囁いた、秘め事のような一言。

ささがみ。 
…笹神。 …奥義。
弓、体術…。

「…まさか!」

ビアンカと初めて出会った、あの酒場での出来事がフラッシュバックする。
ポッケ編みの長髪に、褐色の肌の見目麗しい女性。
兄弟国の知られざる話、そしてパワーハンターボウ2。

「アイツ…! まさかあの『弓皇翁』の娘…!?」

いや、孫娘か。 
娘にしちゃ年が若すぎる。
というか、もし笹神龍心が、弓の養成学校なんてのを開いていた場合、普通に門下生という可能性もあるよな…。
だが、あの伝説の弓兵ゆかりの人間に、まさか出会えるとは…! 
ただならぬ雰囲気はあったが、そういう事だったとは…!

俺は年甲斐もなく、伝説の片鱗を目の当たりにした興奮で、岩陰にしがみつき、ビアンカの戦闘をじっと眺める。
高速で移動し、十分に気を込めた矢を連発するビアンカの姿はあまりにも圧倒的で、俺はJJの戦闘ぶりとは別の感慨に捕らわれていた。

「(しかし、本当にすげぇ…。 連射できないはずの弓を、あそこまで連続して撃てるなんて…。)」

大出力の攻撃を、連続して相手の弱点に当てる。
JJもそうだったが、ビアンカも同じ行動をしている。
おそらくこのスタイルが、「ガンナーの究極」なのだろう。

ただ、この同じ山頂、ガンナーの究極に辿りつくためのアプローチ…目指す場所は同じでも、登山道はそれぞれに異なっている。

JJは、ヘヴィボウガンという精密機器を扱うために、その機構に習熟し、その性能を引き出すために特化した動きをしていた。
対してビアンカは、弓という単純な器械を扱うため、まず土台となる人間の能力を最大限に引きだしていた。
あの高速の移動速度に加え、気を練り体術を磨くことで、次々と威力を乗せた弓を撃つ技術。

器械が先か、それを操る人が先か。
両者の考えの違いを体現しているようだったが、俺にどちらが正しいか、という判断は当然できない。
ボウガン使いの端くれとしては、銃と言いたいのだが、眼前のビアンカの、この圧倒的な戦力を眼の前にしては、それは断言できないのだ。

あの連射速度ならば、戦場でもボウガンにはひけは取らないし、狩猟においては圧倒的優位を築くだろう。
弓師の間で、まことしやかに囁かれていた伝説「極めた弓は、全ての武器を越える火力を有する」は、眉唾じゃなかった、って事か…!

…これは、JJの奴と、どっちが凄いんだろうか。
JJの暴風雨のような連射も凄いが、威力ある一撃で畳み掛けるこちらも凄い。

そんな事を考えていた時、俺の脳裏に、ふとした閃きがあった。

「(…まてよ、もし俺もこれをマスターできたとしたら)」

以前悩んだ事があった、ライトボウガンとヘヴィボウガン、その威力と機動力のトレードオフ関係。
そしてクリティカル距離の違い。

「(…なんだよ、最強じゃねぇか!)」

高速で立ち回るビアンカの機動力と、JJの精密機械のような連射力。
この二つの要素が合致すれば、マジで「究極のライトガンナー」になれる。

この思いつきに自ら飛びついた俺は、恥ずかしながら、加勢する事などもうとっくに忘れていた。
まずはあの動きの秘密を探るのが一番と、彼女の動作、特にあの猛烈なフットワーク関係に注目して、ビアンカを観察していたが…。

「(…あれ?)」

今一瞬、ビアンカが2人になったような気がした。

おっぱいは…2つ。
いや、そういうことじゃなくて、たった今さっき、ビアンカがこう、なんというか、一瞬だけ分裂して見えたような…。

錯覚かと思ったが、反撃のガノトトスが、あらぬ所に水ブレスを吐き出したのを見て、俺の勘違いじゃない、と予感する。
ビアンカの動きはさらに加速し、足下の砂を舞い散らせながら、明らかに俺たちの常識を越えた早さで疾駆している。
彼女の影を必死に追うガノトトス達だったが、奴らはもうビアンカの敵じゃなかった。
奴らは、激しく動き回る彼女に付いていけず、遠距離攻撃の水ブレスを連発して仕止めようとしていたが…。

「…笹神流、弓体術奥義」

やはり、ビアンカが2人に見えたのは、俺の錯覚じゃなかった。
ガノトトスを挟んで、こっちに突っ込んでくるビアンカの姿。
それが一度ステップを挟んで、ガノトトスの斜め横に位置を取った、その時。

「…絶影!(ぜつえい!)」

彼女の姿が、一瞬、2つに分裂したのだ。

的(ターゲット)が散り、それぞれに空を切るガノトトスの水ブレス。
それを確認したと同時に、1人に戻ったビアンカは思い切り踏み込んで急停止し、その勢いで一気に弓を引き分けて、撃つ。

「(…なんじゃあぁ、ありゃあ!?)」

この時俺は、本当に驚愕した。
なんというか、まるで脱皮するように、ビアンカが2人になった。
東方で作られた、子供向けの読本で、黒装束の「シノビ」とかいう連中が使ってる「分身の術」によく似てる。

「(まさか、ビアンカって、シノビの末裔!?)」

…最初こそ、見た目のインパクトがもの凄くて、そんなトンチンカンな事を考えるほどに動揺してしまったが、何度かその技を見ているうちに、その興奮は瞬く間に冷めていき、代わりに好奇心へとすり替わっていった。

というのも、その「絶影」という技は、もちろん分身してる訳じゃなく、単に「残像を残す技」だというのが、すぐに理解できたからだ。
当然、効果は一瞬しか持たない。

そして、あの技を繰り出す寸前に、弓を真正面に構えて、それに身を隠すような仕草をしている。
あの動作にも、分身の術を繰り出すための意味があるんだろう。
真後ろから見ている時には、単に高速の反復横飛びをしているようにしか見えなかったから。

まとめると、あの分身の術は、残像を残して移動する術であり、敵のターゲットを散らすために、その技を使用しているようだった。

「(しかし、あんなに明瞭な残像を作れるなんて…)」

確かに、残像だと判断するのは簡単なのだが、それ以前に、残像を残すほどに高速で動ける体捌きそのものが信じられない。
どれだけの速度を産み出せば、そんな事が可能になるのか?

だが、それは逆に言えば、それだけの動作が人間には可能、だという事だ。
人間の身体に隠された可能性を、神秘の秘奥を目の当たりにして、今、俺は興奮で一杯に満たされていた。

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※ここで、筆者から注釈を挟みたい。

作中、この戦闘において、マルクはビアンカのこの技を「高速で移動する事によって残像を作り出している」と解釈しているが、実際はそうではない。
人間の眼の構造において、フィルムたる網膜を構成する細胞はほぼ2種…。

(1)黒目(視界中央)に存在する、形や色を判別するのに長けた、約600万個の錐体(すいたい)細胞
(2)白目(視界辺縁)に存在する、明度を判別するのに長けた、約1億2000万個の桿体(かんたい)細胞

に分かれる。
人間の視覚も神経繊維による科学物質の伝達によるものであるため、赤色を長時間見ると白のカンバス上に緑が見え、黄色を長時間見続けると、白のカンバスの上に青が見える、という現象が起こる。(※血液を扱う医療関係者の服の色に薄い緑色が採用されているのはこれに因る)

これを補色効果というが、この「存在しないはずの光を(別の色として)感じ続ける」能力については、桿体細胞において非常に顕著であり、特に白黒系の補色効果が高い。

読者諸氏においても、花火の残光などでこの「補色効果」については体感できる事かと思うが、この効果を利用し、近代兵器におけるフラッシュグレネードのように、強烈な閃光を視界に受けると、網膜には「光の残像」が残り続け、しばらく視界を閉ざされる事となる。

ここで強調したいのは、実体としての光がとっくに消滅していても、人間の網膜には「光の残像」が残り続ける、という事である。

言い換えれば「存在しないはずの光を見て(感じて)しまう」という事であるが、なぜこんな現象が起こるのかというと、研究者の間では、進化の過程において、野生生物が夜間でも視界の端で草むらから移動する小動物の姿…そのわずかな光を視界から逃さぬよう、しばらく網膜に留めるべく発達したため、と考えられている。

よって、視界の端で、白黒の補色効果…。
闇の中で、一瞬、明度の高い「白」が現れると、次の瞬間に「黒」に変わったとしても、生物の知覚には「白」と認識されたまま残り続ける。
「視界の端に白い亡霊が見え、次の瞬間消えた」と言う話をよく耳にするが、それは大抵の場合、この光残像効果が原因なのである。

また、高速で移動する物体の途中に、逆方向に動く別の物質の動作を挟み、動作の途中モーションを阻害してやると、一つの動く物質が二つになったかのように見える、という錯覚が起こる。
これを動態錯覚というが、なぜこのような事が起こるかというと、人間は見ている物をありのまま見ている訳ではなく、脳で画像を常時補正しているからである。

「およはう」「こちにんは」

この文字列が、すぐさま「おはよう」「こんにちは」だと脳内変換できるのも、その補正現象の一種である。

人間が、残像を発生させるほどに高速で移動する例は知られていない。
世界最高のアスリートであっても、それは不可能であろう。
だが、その逆…。
錯視を利用して「残像を残しつつ移動する」事は、必ずしも不可能ではないのである。

なお、ビアンカがこの錯覚をどのように「笹神流弓体術」として運用しているかについては、後に作中で述べられるため、ここでの紹介は控えさせて頂きたい。
また、この動態錯覚と補色効果については、民明書房刊「視覚の死角 ~野生動物たちの棲む世界~」より、一部引用・抜粋させて頂いている事も、併せご了承頂きたい。

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ビアンカの猛烈な弓矢の反撃を受け、2頭居たガノトトスのうち、遂に1体が倒れた。

ゴォオ、と断末魔を喉奥で鳴らし、全身を砂浜に派手に投げ出して、うつ伏せに倒れこむ。
俺の予想に反し、先に沈んだのは金冠でない方の個体だった。
金冠は、やはり体力の多い強個体だったのだろうか、それともG級個体か。

残り1体、普通にタイマン勝負となった以上、もうビアンカに負けはない。
戦闘中にもかかわらず、足を止めて、ふう、と大きな息をつくビアンカ。
1対1となって、本能的に敗北を悟ったか、残った金冠ガノトトスは、急に海の方を向くと、ドッドッドッと走り去り、海中に逃げようとするが…。

「逃がすかいや!」

ビアンカは、逃げるガノトトスを追いかけ、矢をつがえてその背に追撃しようとする。

「ま、待てーーッ! 止めろ、それ以上はマズいッ!!」

脳裏を鋭くよぎる、ある種の危険。
それを感じた俺は、思わず岩影を飛び出して、攻撃態勢に入っていたビアンカを制止させようとする。

「ほへっ!?」

突然の俺との再会に、驚いた顔をするビアンカ。

「ああッ!?」

だが、矢は既に発射されており、ぴょーんと高く飛んで逃げたガノトトスを、ドカドカドカ、と空中で鋭く捕らえた。

「ああーーーッ!!」

空中のガノトトスの影が、何だか嫌なよじれ方をして、海中にドボンと落下していく。

「おい、マルク、アンタ生きてたんか!?」

ビアンカが、俺の肩に手を置いて、存在を確かめるように揺さぶってくる。

「痛ぇッ!」

そこ、脱臼したとこ!

「うわ、ごめん! ってか、本物!?」
「本物だよ! つーか、お前、何やってんだよ!」
「何やって、って…」

俺は再び、海面を見る。

「あ、アンタ…。 まさか、見てたん? さっきまでの、ウチの姿を…」

ビアンカが、恐る恐るそんな事を聞いてくるが、そんなの殆ど耳に入ってこなかった。

「ああああ……っ!」

俺の感じていた嫌な予感が、現実になった。
ゆっくり、海面に浮かんでくる白い腹。

そう、ビアンカの追撃を受けた金冠ガノトトスさんは、ちょうど空中で力尽き…。
その巨大な遺骸を、俺たちの手の届かない海面でぷかぷかと晒すことになったのだった。

<続く>

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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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