女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(6)-1

「団体客って、私指名なの?」
「そうですよ~、しかも3人も。 だからちゃんとお洒落しないとダメですよ、リズお姉さま~」

ここは「雲龍の宴」亭の別室、シャルルの部屋。
今日の夜に団体客が入るとは聞いていたが、それが自分の指名だとは知らなかった。

「なんせ、お姉さまはここに来た時から噂になってましたから、いずれ指名入るだろうとは思ってましたよ」

しかし、見ず知らずの誰かが、自分を酒席の同伴に指名してくれるというのには、いささか抵抗を感じる。
面識のない相手と仲良く喋り、気分よく帰ってもらうというのも、これはこれで大変な仕事ではなかろうか。

「できれば全員カモ…いえ、リピーターにして、今後ガッポリお金を巻き上げて下さいね、リズお姉さま♪」

難易度高いわー、と内心冷や汗をかくシャルル。
夜の女的な装いについては、シャルルにとって未知の領域のため、メイクとドレスアップを手伝ってもらっているのはいつもの事だ。

ちなみに、王子から奪った片手剣と黒龍の鎧の脚部は、誰が部屋に入っても見つからないよう、自分の衣装(下着)棚の中に隠してある。

「うわっ、ぷっぷっ」

信じられないような量のコロンを吹きかけられ、思わずむせるシャルル。

「よーし、戦闘準備整いましたぁ~、これでどんな男もイチコロですよぉ~♪」

ぐいっと鏡の方に向き直らせられると、そこには見知らぬ女性の姿。


ちょっとだけウェーブを入れた、ナナストレートの金髪ウィッグに、プリンセスアゲハを象った髪飾り。
紅い瞳をより印象的に見せるよう、エメラルドグリーンで丁寧に強調されたアイライン。
そして、布地の少なさ的な意味で、かなり危ういドレス。
ピンクのレース生地で、デザイン的には可愛らしい感じなのだが、いかんせん胸元と太股の部分が大胆過ぎるほどにカットされており、変な動きをしたら、大事な所が見えてしまいそうだ。

しかし、こんな派手目の装いをしてみると、それはそれで統一感があり、何より…。

「(…これが、私?)」

鏡の中の自分は、素朴を絵に描いたような武人・シャルル=サンドリオンとは、笑ってしまうほどに全くの別人だった。
マナのメイクはいかにも酒場然としたもので、自分が小柄である事を生かし、小悪魔系とかお人形系とか、そっち方面を目指したのだろう。 それにプラスして暴力的なほどのお色気成分。
どう見ても男を誘う夜の女で、普段の自分を見慣れている人間でも、これは判別困難だろう。

「(…でも、これはこれで、結構楽しいかも)」

しかし、シャルルは割とノリノリだった。
女性というのは不思議なもので、それまでどんな人生を歩んでいようと、いざお洒落を始めてみれば、大抵の場合、圧倒的な興味と適性を示す。
戦争の最中ですら、顔が煤や泥に汚れてないか確認するため、手鏡だけは誰しも持っていた…という、万国に共通する逸話もあるほどだ。
そして、それは鬼をもひしぐ黒龍騎士団長とて、全くの例外ではなかった。

「マナ、ありがとう、貴女本当にメイク上手なのね」
「いいえぇ~、そんな事ないですよ~。 でもですね、お姉さまが今日のお客さんをガッチリキープできるように、精魂込めてやったんですよぉ」
「…キープは無理だと思うけど」
「お姉さまなら行けますよぉ~。 それでもし、王子様や貴族の方に言い寄られたら、私にも紹介して下さいね」
「王子様とかに言い寄られたりしないって」

そう言って笑うシャルルだったが、実際には王子様から言い寄られていた事を唐突に思い出す。

…クリス王子。

あの戦闘の後、彼は一体どうしたんだろう。
鎧を身につければ、装着者同士で感覚の共有ができる事から、相手の状況を知るために、布団の中に潜って(※視覚情報を遮断して)、鎧を身につけてみる…という方法も考えなくはなかった。

だが、シャルルは鎧の装着に対し、かなりの抵抗があった。
まず、あの王子であれば、どんな小細工をしようと、自分の居場所を是が非にでも見つけだしてきそうな予感があったし、何より、あの鎧から伝わってくる圧迫感…。
頭に響きわたる、王子の呪詛を聞き続ける事が嫌だったからだ。

戦闘中の僅かな時間でも、正気と理性を失いそうになった事から考えれば、この鎧は、相当に強靱な精神力を持つ人間でないと、装着はできても長期間の運用は不可能な気がした。

「お姉さま~、どうしました? そろそろ時間ですよ~。 もうお客様来られると思いますんで、万全な体制でお迎え下さいね」
「あ、ごめん、そうだね! で、万全な体制って?」
「何でも良いんですよ~、男性が好きそうな雰囲気を作れば。 にっこり笑って『ようこそいらっしゃいませ』でも、甘えた感じで『ご主人さま、お帰りなさいませ』でも何でも」
「…そこまでするの?」
「何言ってるんですか、最初のインパクトとキャッチーさが大事なんです、ほら~! 目指せ玉の輿、ですよ~!」
「さ、酒場ってそんなものだっけ…?」

自分の知らぬ酒場の常識に、微妙に困惑しつつもシャルルは階下へと降り、自分指名の客を出迎えた。


「うほおぅっ! こここ、これはまた、なんとも妖艶な出で立ち! 拙者、今宵はYOUの美戯に幻惑されそうでござるッ…!!」
「むうッ! …わ、私はこの廃墟の牢獄にて、この汚れし大地に降り立つ聖天使を見た…!」
「わはー、リズちゃんいつも美人だけど、今夜はさらに磨きがかかってる! その可愛らしいドレスもよく似合ってるにゃんッ!」
「おまえらかよ! 期待して損したッ!」
「ってリズ姉さま、お客さんになんて口利いてるんですかーッ!?」

なんの事はない、シャルルを指名したのは、こないだビアンカを偵察させて、全くの役立たずだったG級ハンター3人組だった。
連中を確認した瞬間、反射的に全力ツッコミが口から飛び出してマナに諫められたが、それこそ今更というものだ。

「お客様こんにちは、お酒は何にいたしますか、それともおつまみにいたしますか」

「…あの、リズちゃん、そこまでして無理に営業トークしなくてもいいにゃん…。 しかも棒読みだし…」
「我々は、心の素肌をさらけ出した貴女と、偽りなく、軽妙で、しかし知性溢れる言葉の交流がしたいのだ…!」
「普段どおりの喋りで結構でござる、リズ殿! 我々と楽しく会話しようではござらんか! さぁ、レッツパーリィ!」
「あ、じゃあ、なんか適当に飲み物自分で注文してくれる? 私はカルヴァドス(シモフリンゴ酒)ね」
「って、何でお客さんに注文させてるんですかーッ!?」

そんなこんなで、とりあえず3人組…。

ヤチヨ(ござる:片手剣使い)
ディルガーヴェン(中二:ライトガンナー)
フレンディ(にゃん:弓使い)

と、シャルル(黒龍騎士団団長:大剣使い)の飲み会が始まったのである。

なお、このモテない3人組がシャルルを指名した理由は、「可愛い女の子とハンティングのマニアックトークができるから」だった。
この店が女の子に指導している、付け焼き刃的な知識じゃ物足りないって所なのだろう。
乾杯もそこそこに、前回のビアンカの後日談から始まった。

「へー、リズちゃんの制止を振り切って逃げちゃったと。 それはなかなかの剛の者だにゃん」
「犯罪者にせよ、敵国の斥候にせよ、なかなかに理由ありな感じがするでござるな…」
「我々の神眼を以てしても測りきれぬ謎の実力を、あの褐色の肢体に潜ませていたのだな…!」
「だね、底知れない感じは確かにあったし、いくらリズちゃんが強いと言っても、引き留めるのは無理だったんじゃないかにゃん」

ちなみに、シャルルはこの店の用心棒を一応ちゃんと勤めており、ごく普通の暴漢や酔漢程度なら、楽勝で鎮圧できる事をこの3人も知っている。
彼らの認識の中ではシャルルは「元ハンターの女用心棒」という位置づけなのだ。

「そうなのよね~、本気出されたら、やっぱ現役を引退した身としては心許ない訳なの…。 貴方たちが居てくれてたら、きっとあの娘の正体を暴けていたのに…」
「わ、私の軽銃弩ならいつでも貴女の剣となり、盾となろう!」
「そういう弓師の怪しげな話を聞くと、最近の笹神龍心の件も、俄然リアルに思えてくるにゃん」
「…なにそれ?」

「笹神」というキーワードに、つい反応してしまうシャルル。これでも、さりげなさを装ったつもりではある。

「ん? いやほら、そこの壁に『弓皇翁・笹神龍心』の手配書が貼ってあるじゃん?」
「ええ、あの英雄がテロリストとして、このバルベキア三国に侵入してる…って奴でしょ?」
「そうそう、あの方を犯罪者扱いって、正直この国のギルドどうなんだよ…とは思うんだけど」
「だけど?」
「僕も弓使いの端くれとして、伝説の英雄にしてハンターである弓皇翁に、一度お会いしてみたいなぁ、って思ってる訳だにゃん」
「笹神龍心殿と言えば、我々にとっても超リスペクトハンターの一人でござるからな」

弓皇翁の話題が上るやいなや、場は急に彼の逸話で盛り上がり始めた。

「まぁ、『千人射抜き』は当然として、お主達の好きな話を他に挙げてみるでござる」
「それなら私は、『兄弟国』が好みであるな」

中二ナルシスト:ディルガーウェンが言う『兄弟国』とは、かつてシキ国が戦乱の時代に存在した、サンツ国とロノア国という隣接国の物語である。
これが兄弟国と言われたのは、その国王同士が文字通り親族であったためなのだが、ある時、彼らの縁者の死をきっかけとして、この兄弟国は一触即発の戦争状態へと突入した。

武勇に優れたサンツ国王とロノア国王は、自ら軍の前面に立ち、一騎打ちにて勝敗を決することにした。

しかし、この事態を憂慮したのは将軍たち。 
負ければ国が無くなってしまう以上、負けた方はその敗北の事実を「なかった事」にすべく待ちかまえ、勝った方はそれをさせじと待ちかまえる事となる。

全面戦争へ一触即発の状況下だったが、そこに放浪中の笹神龍心が馬に乗ってふらりと現れ、誰の差し金か、この戦争をやめるよう進言してきたのだ。

それを鼻で笑い、無視して一騎打ちを開始した二人だったが、その態度に怒った笹神龍心は、高速で打ち合わされる二人の長太刀と長槍の穂先を、弓矢で同時に撃ち砕いたのだ。

呆然とする二人の国王。
それを笹神は一喝し、亡くなった縁者を二つの国で共に弔う事、そして私怨からなる戦争を起こしてはならない、と厳しく厳命した上で飄々と去っていった。

結果として戦争は止められ、多くの命が救われた…という良い話なのだが、それ以上に笹神龍心の破天荒さと「国王ですら上から目線」な態度が愛されるエピソードだ。

「…でも、一騎打ちの際の武器を同時に砕くなんて、どう考えても無理。 眉唾よね」
「分かってないなー、リズにゃん。 そこらの嘘っぷりも含めて楽しむのが、彼の逸話の醍醐味にゃん? で、僕の好きな話は『鉄槌と岩山』かにゃ」

「鉄槌と岩山」は、笹神龍心の壮年時代の話となる。
笹神龍心の性格を表すものに「弓こそ最強の武器」を周囲に公言してはばからなかった、という逸話があるのだが、それをふんだんに表現したエピソードだ。

その昔、ある奥地の村で修行をしていた笹神龍心が、とあるハンマー使いに絡まれる。

「貴様、弓は最強だと常々ほざいてるそうじゃないか?」

それに対する笹神の答えは「是」だった。

「この俺のハンマーを相手にしても、それを言うのか」

ハンマー使いは、巨大な戦槌…タイタンハンマーを笹神の目の前に見せつける。
笹神は一瞬鼻白んだが、次の答えも「是」だった。

「なら、貴様の弓にこれが出来るか!?」

そう言ったハンマー使いは、近くにあった岩塊を、手に持っていたハンマーで粉々に砕いた。

「もしも弓が最強だと言うのなら、当然破壊力においても最強でなくてはならないよなぁ? どうだ、弓矢は岩を砕けるか!?」

これに対し、笹神はすぐに返答しなかった。
その代わりに、弓と矢を取り出すと、先日の雨による、崖からの落石…さっきハンマー使いが砕いたものより大きい…に狙いを定め、弓を引き始めた。

だが、笹神は練気して弓に気を込め続けるものの、一向に矢を放つ様子がない。

あまりに真剣すぎる、凄まじい形相。
次の瞬間には間違いなく、裂帛の気合いと共に矢は放たれるはず…という予感が周囲を黙らせていたが、想像に反して、1分経っても、3分経っても、5分経っても笹神は矢を放たない。

10分が経つころ、笹神の鍛え上げられた全身からは、玉のような汗が噴出し、血管が腕に盛り上がり、首にまで浮き上がりはじめた。

村人の怪訝な視線を浴びたまま、30分が経過する。
皆、一体どうしたのかと疑問を抱いていたが、笹神の激しい形相と、深く怒りの皺が刻まれた「虎顔」…。
顔にまで毛細血管が浮かび上がり、酸素不足のためか、全身が徐々に紫色になりつつある全身…。
そんな異様な姿を見せられたら、誰も何も言えなかった。

そして、1時間後には、眼は血走り、全身は粘液のような汗にだくだくと包まれ、鼻からは真っ黒い血がタラタラと吹き出し始めた。
明らかに異常が起こっていた。

「おい、お前…」

しかし、まだそれでも笹神は矢を放つ様子がない。
もしかすると、無理難題をふっかけられた笹神は、このまま全力を込め続けてぶっ倒れ、勝負をなかった事にしてしまう気なのかもしれない。
そう思ったハンマー使いは「負けを認めろ」と、笹神を止めるべく近づいた。

「憤ッ!!」

だが、ハンマー使いが笹神の肩に手を置こうとした時、遂に矢は放たれた。

その瞬間、周囲の人間は信じられぬ光景を見た。

大量の気が込められたその矢に、天上から降りてきた竜が瞬時に宿り、七色に輝く一条の業炎となって疾ったのだ。

ガオオオーーン、という咆哮と共に、矢…いや、業炎の竜は、今まで狙いをつけていた岩石ではなく、土砂崩れで道を塞いでいた巨大な岩山の方へと向かって飛び、命中した途端、爆発を起こした

かの如く、岩山を木端微塵に吹き飛ばした。

「…!!」

全員が眼を疑ったが、まごう事なく弓矢の一撃で、ハンマー使いが砕いた岩石とは比較にもならぬ巨大な岩山が、跡形もなく崩れさっていた。

「是」

笹神がハンマー使いに向け、ふとそう言った。
ハンマー使いは、それはさっきの自分の問い「弓矢は岩を砕けるか?」に対しての、「砕ける」という意味の返事だと思った。
だが、笹神の続く言葉は

「弓、此にして最強也」

だった。
それは、「最強なので砕けて当然」という、ハンマー使いの想像よりも、さらに一段上の答えだった。

道を塞いでいた岩山が崩れ、大喜びする村人。
泣き笑いの表情のまま、ハンマー使いは村を去っていったという。


「鉄槌と岩山」の話が一段落し、ヤチヨ、ディルガーウェン、フレンディの3人は満足そうにうなずく。

「何度聞いても笹神殿の逸話は面白いでござるな」
「弓使いとしては、聞いててスカッとするから好きにゃん」
「獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすというが、獅子ゆえの呵責なき容赦なさが、またなんとも心地よい…!」

「…弓矢で岩山を砕ける訳ないじゃない、物理的に。 おとぎ話も良いところだわ、あんた達、正気?」

「「「分かってないなぁ、リズ殿」姫」にゃん」

語尾はまちまちだったが、冷水を浴びせかけたシャルルに対し、3人は一斉に嘆息してそう言う。

「先刻も申し上げたが、笹神殿の逸話は、その空想部分まで楽しむ事に醍醐味があるのでござる」
「そうそう、伝説系ハンターのエピソードって、大抵もの凄い尾ヒレが付いてるもんね、あの『A GUNNER』さん然り」
「我々とて、この空想話に、原典となった逸話があろう事は、重々認識している」
「…だよね。 『鉄槌と岩山』も、実際は『岩に矢を突き立てた』くらいが関の山だと思うにゃん」

というか、シャルルとしては、こんな妄想トークで横道に逸れるよりも、さっき話題に上った笹神龍心の話が聞きたかったのだ。
何か新しい事実が得られるかもしれないと、鼓動が早くなるのもそのままに、シャルルは多少強引に話を戻す。

<続く>
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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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