女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(5)-1

「ううう…。 はぁあ…! はぁあ、ああああっ!」

場面はノーブル城、クリス王子の私室、そのベッドの上。
極めつけの悪夢にうなされて、王子は眼を覚ました。

「はぁ、あ、あぁ、はぁ…」

王子は全身にびっしょりと汗をかいていた。
その寝汗すら、鎧にじわじわと吸収されていくが、この粘っこく張り付く汗を一刻も早く拭おうと、枕に再度顔を埋める。

「(なんだ、この夢…)」



王子が見た悪夢の始まり。
それは、何故か自分が芋虫に変身していた事だった。
芋虫と化した自分は地獄の最下牢に囚われており、そこに裁判官…何故か全員がイルモードの顔のそいつらが、芋虫に変化した自分を殺せと叫んでいた。

そんな狂った状況から逃れようと、黒龍の鎧の力を発動させ、飛び込んできたモンスター2匹を瞬殺した。
だが、部屋の周囲には、自分を殺害するための部隊が別に準備されており、そいつらが束になって襲いかかってきたのだ。
再度鎧の力を発動させて挑んだものの、万能であるはずの鎧の防御は、なぜか完全には機能しなかった。

その事実に驚愕はしたが、状況はそれどころではない。
銃創によってどんどん寿命が削られていく事を悟った自分は、イルモード達と相打ちに持ち込んでやろうと奮戦したが、体がもうこれ以上動かずに転倒し、大剣を喉元に振り下ろされた所で眼を覚ましたのだ。

「ふぅ、はぁぁあぁっ…!」

肺の中に重くたまった空気を吐き出す。

「(夢…? いや、こんなリアルな夢が、あるのか…?)」

普通、どんなにリアルな夢でも、起きてその内容を反芻すれば、どこかに夢ならではの陳腐さが見え隠れするもの。
しかし、王子の見た夢は、妙な箇所こそあれこれ存在したが、戦闘の感触があまりにもリアル過ぎたし、また呵責なさ過ぎた。
その圧倒的な感覚は、まるで実際に体験した、もう一つの現実のような…。

「あのー、失礼じまーす! 王子様、いかがなさったのでしょうが?」

エミネム配下の赤毛のメイド、シャノアがノックもそこそこに部屋に入ってくる。

もう既に朝食の時間だったのだろう、近くに食事を用意していたサイドテーブルが見えた。
いつもなら扉近くに食事を置いておくだけなのだが、自分が悪夢にうなされている声を聞いて、何事かと直接様子を見に来たのだろう。

「いや、大丈夫だ…。 何でもない、食事はそこに置いておいてくれ」
「…本当に、大丈夫でづか? 何か、スゴく具合悪そうなんでづが…。 何かありましたら、いつでも言っでくだざいね」

その赤毛のメイドは、田舎者まるだしの発音で返事すると、様々に踏み散らした調度品を器用に避けながら、食事の盛られたトレーを持ってくる。

「ここに置いておきます。 冷めてまして、申し訳ございませんが、勘弁して下さいね、王子さま」

シャノアがにっこりと愛嬌込めて話しかけてくるが、いかんせん不美人が過ぎるので、プラスマイナス0だった。

「ああ、気にするな、冷めているのはいつもの事、一向に構わん」

通常、イェルザレム王家の食事は、王族と一部の近衛兵だけが食堂に介しての会食となるが、今の自分は療養中…。
黒龍の鎧に吸い取られた生命力を回復するために、特別に自室での食事を許可されている。

だが、会食だろうが個室の食事だろうが、自分の食事は、必ず毒見を終えた物に限られていたため、いつも冷えきった料理だった。 
世間にはどこにでもあるはずの「母の暖かい手料理」など、体験した事すらない。

「冷めててごめん」などと今更言うあたり、気の効かなさに癇癪の虫が目を覚ましかけたが、八つ当たりした所で全くの無意味であるし、「下女を殺す事は禁止」と、イルモードから通知されている。

当初、黒龍の鎧の「力の使いすぎ」から来る窮乏状態を解除するためには、古龍の血が有効とされていたが、イルモードは、人の血でも代用になると言う事を知っていた。
いざという時には下女を殺して応急処置という思惑があったのだろうが、それに直訴したのがエミネムだった。

自分の娘も同然である下女達を見殺しにするのは決して許さない、という命を掛けた叫びは、なんとイルモードに通じた。
だがその代わりに、エミネム配下はイルモードのあらゆる命令に対し、絶対服従を強いられたのだ。
それが「シャルルを罠へと誘導しろ」という命令であっても。

「それでは、わだじはこれで戻ります。何がまだありましたら、遠慮なくお声をおかげ下ざい」
「…シーツを持ってきてくれ。 枕と寝具一式。 寝汗が気持ち悪い」
「あ、はい、了解じますた」

奴らを殺しても意味がない。
それくらいだったら、まだ従順な様子を見せていた方が良い。

シャノアはパタパタと足音をさせて去っていく。

「ふう…」

父が崩御して以来、良いことは何も起こっていない。
あれもこれも、癪にさわる事ばかりだ。
だが、いくら無粋な行為があったとしても、今は怒りに任せて暴れたり、怒鳴りつけたりする気分にはなれなかった。
この凶暴性を喚起する鎧を身につけて以来、いつも軽い興奮状態にあるのに、それが全く鎮静化している。

というのも、いつになく体が重いのだ。
今まで体験した事がない、異様な脱力感。
全身に鉛でも入っているかのような。

この脱力感の原因は、大体見当がついている。
おそらく、昨晩自分が食べた料理に毒が混ぜられていたのだろう。

理由は、この状況を鑑みるに、一つしか考えられない。
さっきまで見ていた夢の、圧倒的な現実感…。
あれは、やはり本物だ。
黒龍の鎧を身につけた者同士は、感覚を共有する。
自分の夢に、他人の感覚が流れ込んで入り混じった可能性が極めて高い。
つまり、イルモードは、鎧を使った人体実験をしている。
それを自分に隠すために、食事に薬を混ぜたのだろう。

まるで他人事のように、淀みなく推察に至る。
かなりの確率で、この想像は事実だと思えた。

「嘘だ…。 嘘だろ…」

だが、自分の感情は、どうしてもこの事実を受け入れられなかった。
心のどこかで、これは不安を描き出した夢なのでは? ただの妄想による悪夢に過ぎないのでは? と、否定を叫ぶ声がする。

何故なら、この夢が事実とするなら、夢の中で見たイルモードの恐ろしい思惑も、また事実だと認めなくてはならないからだ。
それが王子を圧倒的な不安…いや、恐怖に駆り立てた。

実験の目的は、鎧の装着方法や対応策を知るためのものだろう。
だが、それをイルモード自ら積極的に探り始めたという事は、やはり自分が奴を失望させていたからだ。

多分…。いや確実に、イルモードは、もう自分を絶対的強者とは見ていない。
少なくとも、奴の中での自分の価値は、大きく減じられている。

それに加え、王子を衝撃に至らしめたのは、鎧を装備可能な人間が、さらに増えた事だった。
イルモードやシャルルまではまだ、元々の強さからして「偶然にも鎧に選ばれた」のだと無理に納得する事もできたが、こんなに偶然は連続して続かない。

もしかすると、「黒龍の鎧」は、誰にでも装備が可能なのかもしれない。
「黒龍の神官」の由来など、全く何も関係がなく。

「馬鹿な…! そんな、馬鹿なッ!」

思わず、そんな声が出た。
自分は最強。
黒龍は神秘にして、最も恐れられるべき存在のはず。
だが、周囲がその幻想をよってたかって剥がしにくる。
まるで、狩人にたかられて倒されるモンスターのように。

王子は、シャノアが置いていった料理の皿を見る。

…平民の料理長如きですら、自分を殺そうと思えば殺せるのだ。 この、美味そうな毒入り料理で。
それが致死性の毒でないのは、単に指示した者の都合。

講座の時、理解に至らぬ自分に困惑していたエイグリル。
王子として覇気がないと常々自分を叱りつけていたイルモード。
戦闘訓練で、一向に成長しない自分を憐憫の眼で見ていたシャルル。
そして、兄である自分を一顧だにしなかった、ユリウス…。

鎧を身につける前に常に悩まされていた、自分の脆弱さが四人の顔と共に再び顔を覗かせて、周囲を取り囲んであざ笑っていく。

「ふぐっ…! ううぅぅっ!」

寿命と引き替えに手に入れた強さが、よってたかって無惨に打ち砕かれようとしている現実に、涙がこぼれそうになる。

「ううっ…おぉぉっ…」

平民にすら殺されようとしている自分。
毒見役の制度など、とっくに瓦解していた。
王子として育てられた自分は、平民や狩人のように、野に出て食材を得た経験などない。 また、料理をした経験もない。
目の前の、毒を盛られた料理に対抗しようとしても、自分にできるのは「ご飯を食べない」という子供じみた行為だけだ。

だが、それすら王子には不可能だった。
「飢える」事を、この鎧は決して許してくれない。
どんなに食事を拒否したくとも、胃の中から噴きあがってくる、逆らいがたい「飢え」が、食事に手を伸ばさせた。

飢えて死ぬのも、毒殺されて死ぬのも、惨めさの度合いではさほど変わらないかもしれない…。

追いつめられた心が、そう自分に言い訳をして、食事に手を伸ばす事を酌量する。
この鎧を含め、周囲の思惑の良いように利用されている自分が、それに抗えぬ自分が…。

「もぐ、はふっ、はぐっ…」

たまらなく惨めに思えた。
夢であってほしい、と改めて思った。

「ぐ…」

だが、現実だった。
鎧の飢餓感に背を押されて手を出した食事は、冷たかったが、至高の美味に感じられ…。

王子は、本当に悲憤の涙を漏らした。


ここで、時間は少し進み、その日の夜となる。
場面は廃墟となった闘技場。
前回の失敗を受け、改良を重ねた2回目の人体実験は、その全てを終了した。

「4人中、3人か」
「これは…何と理解すれば良いのでしょうか」
「ありのままに考えれば、『黒龍の神官』なるものは、張り子の虎だった、という事だろうな」
「そうでしょうな」

4人中3人とは、「黒龍の兜」を装着して、その力を発揮した者を指す。

最初の一人目は、政治犯としてアルムード公の時代から捕らえられていた危険思想家だった。
この最初の一人目は、全く鎧と反応がなかった。装着させても普通に外れたため、そのまま牢獄に送り返した。

二人目は、正気を失った若い殺人鬼だった。
この者はそれなりの適性を示したが、モンスターに興味を示さず、逃げ回っていたばかりだった。
そのため、麻痺弾や毒弾を撃ち込んで交戦させてみたが、被験者は状態異常に圧倒的な耐性を示した。
その事実が判明した事により、各種属性弾を試験してみる事となったが、火炎弾以外は目立った効果は見られなかった。
なお、被験者は銃撃とダイミョウザザミの波状攻撃で死んだ。

三人目は、山賊行為で有名な者だったが、この3人目はかなりの適性を示した。
クリス王子ばりの戦闘能力を示し、ダイミョウザザミすらを蹴りで葬りかけたが、リオレイアを同時投入、「回復弾」の連射でダイミョウザザミを回復させ、後は下肢への狙撃で動きを止めて、モンスター達の同時攻撃で倒した。
ダイミョウザザミとリオレイアは、睡眠弾で分断、格納して、しばらく回復の後に最後の実験を始めた。

四人目は、夫を殺害し財産を巻き上げ、再婚して殺害し財産を…を何度も繰り返した毒婦だった。
だが、この4人目が最も強烈な適性と戦闘能力を示し、最初から慌ててリオレイアを投入する事になった。
しかも、この女性は、まるでさっきの3人目の闘い方を記憶しているような素振りを見せた。
具体的に言えば、リオレイアの登場を事前に知っていたかのようで、レイアとの間にダイミョウを挟み込むように移動する事で、レイアの攻撃と射撃の火線を阻害し、ダイミョウを蹴りで集中攻撃して、遂に沈めたのだ。
そこまでの凄まじい戦闘力を発揮するとはついぞ思わず、リオレイアと単体の戦闘になった際、一斉射撃によってモンスターごと沈めた。

こうして、この日の実験は、一波乱あったものの、なんとか無事に終了。
結果を反芻するに、被験者4人のうち3人が適性を示し、うち2人がより強烈な反応を示した事となった。

この結果により、二人は「鎧の装着」については、大抵の者が装着可能である事、「黒龍の神官」は鎧を確保し、王家の権勢を維持するための方便に過ぎないという結論に至りつつあった。

「しかし、これだけ鎧を装着できる人間が居たとは、本当に予想外でございましたね」
「全くだ。これだけ誰でも力を発揮できるなら、使い道は別にあったろうに、先人達は何を恐れていたのか」
「正直、王族の方々が何を以て『黒龍の神官』と呼ばれていたのか分かりませぬ。もしかすると、これ以外の能力が何かあるのかもしれませぬが…」

その可能性は確かにありえる。
そして、それこそがイルモード達の最大の懸念。

「それ以外の何かとなれば…。 やはり、伝説の『竜操術』でしょうか」
「いや、それは考え難いな…。実際にそんなものがあれば、過去数度あった、国家の危機にとっくに出していよう」
「そうですね。 仮に『竜操術』が実在したとしても、あの危機で出さなかったという事は、『簡単には出せない、何等かの理由がある』のでございましょう」

ただ、先王は崩御の際、次代の国王をクリス王子ではなく、ユリウス王子に指名していた。
クリス王子自身が、鎧の秘密を知らない可能性もありえる。

「『竜操術』が、ユリウス王子の方に口伝されている可能性はどうだ」
「…いや、どうでしょうか。 アルムード公は子煩悩な方ではありませんでした。親子の関係など、ほぼ亡かったに等しいと思われます」
「そうだったな」

鎧の秘密が本当に「竜操術」なのなら、どんな術であれ、術の成否の確認に竜が住まう場所まで行くだろう。
アルムードが彼らを連れて城を出た記憶は、彼にはない。

「…蛇足ではございますが、エイグリル将軍が、ユリウス王子を訓練と称して『古龍狩り』に幾度か連れていった記憶はございます」

そう言われて、イルモードも思い出す。
確か、ヘヴィボウガンでテオ・テスカトルを狩りに行く、という話だったような…。

「無理に可能性を拾うとすれば、それしかないな」
「ええ、黒龍の神官と、竜操術の関連性は薄いかもですが、それ以外の何かがあるとすれば、それはユリウス王子に伝えられたと考えるのが妥当やもしれません」
「…そうだな。 やはり、ユリウスの捕獲こそを最優先にすべきだな」

イルモードは、ヘヴィボウガンの名手であるユリウス王子の姿を思いだし、配下とどう戦わせるか脳内でシミュレートする。
通常の包囲戦であれば、手順はいくらでも思いつく。
だが、ユリウス王子が、今なお鎧の力を使わないが故に、作戦が立てづらいのだ。
今までは、ユリウス王子を包囲するにあたり、イルモードは鎧の力を警戒して、遠距離からの射撃を主体とした布陣で挑んでいた。
だが、同じ射撃勝負では、ユリウス王子にかなう手練がそうそう居るはずはなく、多対一でありながら、包囲は突破され続けたのだ。

「(…いや、待て)」

ユリウス王子が、これほど窮地に追いつめられても、一向に鎧の力を使わない事をイルモードは訝しんでいたが、その理由は「鎧が外せなくなる事を知っている」からか、あるいは「実は鎧を持っていない」のだと思っていた。

「(…まさか)」

だがここに来て、新たな選択肢が脳裏に思い浮かぶ。

「ユリウス王子は、鎧の力を発動させられない」のではないだろうか?

一人目の政治犯は、鎧には全くの無反応だった。
それと同様の現象が、例え王族に起こったとしても、それは可能性としてありえない訳ではない。
となれば、今自分達に対し、正しく脅威足り得るのは、鎧の力を発動できる、シャルル一人となる。

「(…互角、ではない。 もしかして、我々は圧倒的優位に居たのか!?)」

新たな状況判断が、天啓のようにひらめく。
いや、これは人体実験をしていなければ、たどり着けなかった結論だろう。
だがもし、それが事実であるならば、今、目の前に転がっている優位性を放置する理由はない。
賭けてみる価値は十分にあった。

「…おい、カルネラ! 明日にでも、軍会議を開くぞ! ユリウスの確保を最優先にするのだ!」
「何か、良い案でも思いつかれたのですか」
「ああ、ここが勝負所だ…! 我々の待ち望んだ王国の時代は、意外とすぐそばに来ていたのかもしれぬ…!!」

後日、イルモードはクリス王子を除いた閣議を開き「黒龍の鎧の秘密を解明した」と嘯くことで、保守派の大臣たちを説得し、城内の意志を統一し、軍の指揮権を完全に掌握した。ノーブル城は事実上、イルモードの手に落ちる事となったのは、既に述べたところだ。


だが、イルモードが2回目の人体実験を行ったこの日の夜、クリス王子にも、大きな変化が現れた。

「…うう、はぁっぁああぁぁっぁああっ!!」

イルモード達が、郊外の廃墟で2回目の人体実験を終えると同時に、ここノーブル城にてクリス王子は、またも悪夢で目を覚ました。
多分睡眠薬入りであったろう食事には手を付けていた。
だが、それでも目が覚めた。

夢の内容は前回同様、再び芋虫となった自分が、どこか古びた円形の闘技場で、イルモードが指揮するダイミョウザザミとリオレイアと戦う、というもの。
それを、今夜は3回も繰り返した。

最初に目覚めた自分は、何故か「女を探して腹を裂きたい」という衝動に駆られていた。
状況が良く飲み込めないうちに、様々な弾丸を打ち込まれ、闘技場奥から現れたダイミョウザザミに襲われ、意識をなくした。

次は、再びダイミョウザザミとの戦闘から始まった。
堅殻に覆われたダイミョウザザミを倒すために、蹴りを使って殻を砕こうとした。
黒龍の鎧の力を使い、そこまでは上手く行きかけたが、飛竜リオレイアの突如の出現、そして控えていた銃撃隊の攻撃によって様々な弾丸を撃ち込まれ、またも意識をなくした。

最後は、またもダイミョウザザミとの戦闘だった。
今度は、最初からリオレイアが出てくる物と疑ってかかり、実際そうだった。
ダイミョウを盾にし火線を塞ぐことで善戦したものの、またも銃撃によって倒された。

…もう、間違いなかった。
昨日の悪夢も、今日のこれも、まぎれもなく現実だ。
イルモードの持つ「兜」を被った者の実体験だ。
もう、どれほど拒否したくとも、これを現実、そして事実として認めざるを得なかった。

だがそれ故に、王子はさらなる絶望の淵に追い込まれていた。
鎧の力を発動させられる人間の数が、余りにも多過ぎる。
黒龍の神官など関係ない。 
もう、誰でも「鎧の力」を使えるのだ、そう確信せざるを得なかった。

そして恐ろしい事が、もう一つある。
夢の中の自分は、混乱しているもう一つの意識、おそらくは鎧の装着者を、教え導く形で共に戦った。
だが3度に渡り、イルモード率いるダイミョウザザミとの抗戦では、鎧の力を発動させてなお、イルモードは自分達を手際よく抹殺した。
回数を重ねる度、その抹殺手段が洗練されていくのが、何よりも恐ろしかった。 
経験を生かし、かつ全力で抵抗してなお、あんなにテキパキと殺されるなんて…。

「うぅく…うえ…。 うぇぇ…。」

命と引き替えに、黒龍の鎧を身につけた事…。
それが無為に終わるのでは、という不安は、ここに絶対的な事実として相成った。
自分を倒せる人間は誰もいない、という自負は既にかき消えていた。
シャルルはもちろん、そしてイルモードにも倒される可能性が出てきたのだ。

「ううう…。 ああぁぁあ…」

それは、以前の自分と全く同じ状況に立ち戻った事を意味していた。

…弱かった、あの頃の自分と。

「なんで…。 なんで、こうなるんだよぉ…」

強さだけが支配する、この世界の絶対にして不動の天理法則。
自分は決して強くない。
それを知っていたから、足りぬ力を補おうと、エイグリルの講釈の元、政治・経済・帝王学を積極的に学んだ。
シャルルの過酷な訓練にも耐えて、耐え抜いた。

出来は良くないのは分かっていた。
でも、強くなりたかった。

「ユリウス=イェルザレム第2王子を、次代の王と認め、私が所有する、一切の権限を委譲する。 それを証するために、先祖伝来の黒龍の鎧を継承する事を、バルベキア三国王、小竜公アルムード=イェルザレムが、ここに遺言す」

だが、その夢は最も無惨な形で破れた。
自分の努力は、成果を出さないまでも、必ずいつか報われると、信じていたのに…。

怒りを抑えられなかったあの日、世界は夕日のように赤く染まった。
そして目覚めた時、そこには自分の国が出来ていた。
だが、それはイルモードが作り上げた見せかけの世界に過ぎず…。
自分が生まれた時から慣れ親しんできたこの城と国は、今まさに、奴にのっとられようとしている。

自分は…どうなるのだろう?

もし、イルモードの研究が完成し、鎧の力を発動できる者が別に現れたら、捨てられるのか?
自分の鎧を回収するために、黒龍の力を発動させられて、餓死するまで放置される、のか…?

「ぐおっ! おぇ…。 おぇぇええぇっ!!」

そこまで考えた所で、クリス王子は絶望のあまり吐いた。
だが、夕食は欠片もなく消化されており、口からは胃液しか出てこなかった。

死ぬ。
自分は死ぬ。
鎧に食われて死ぬ。
イルモードに笑われて死ぬ。
シャルルに死んだ事も気づかれず死ぬ。

「ぐぇっ…。 おぇぇ、えええぐっ…!」

クリス王子は、嘔吐しながら慟哭し続けた。

いやだ。

そんなのは嫌だ。

自分の寿命が…。

死が…。

もう、僕のすぐ傍まで来てるなんて、信じられるものか!

「…助けて」

「誰か…。 誰か、僕を助けて…!」


<続く>

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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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