女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(4)

(※今回は倫理的にかなり強烈な表現がありますのでご注意ください)

異論はあろうが、概して人の魂は、新しい見識を得た時にさらなる広がりを持つ事が多い。
若き日の冒険や様々な体験が、その物の人生に深みをもたらす糧となる事は、誰とて経験がある事であろう。
そして、何事であれ初体験の時、人は躊躇したり怯えたりするものだ。
それを乗り越えた時、人は「経験」という名の、ある種の強さを得る。

場面はここ、バルベキア三国の首都・ノーブル城。
夜もそろそろ更けようかという頃、宰相であるイルモード・ゲルギスクは、王室で一人、高級ブレスワインを嗜みながら、彼自身余り体験のなかった、今晩の狂宴に対する心の準備を固めていた。


狂宴…。
いや、その表現でもまだ、生ぬるかろう。
「極悪非道の背徳の宴」と、表現した方がまだ適切だ。

イルモードとカルネラが「それ」を開演したのは、クリス王子がシャルルを取り逃がしたその日からであった。

黒龍の神官であるクリス王子は、同じく鎧を付けていたとはいえ、平民のシャルルに完封され逃げられた。
「黒龍の鎧を身につけた者は、世界最強の存在になれる」
という大前提が崩された事によって、イルモード陣営は今後の計画の変更を余儀なくされた。

もしもユリウス王子が本当に「腕」を持っているのなら、ユリウス王子とシャルルとの挟撃が可能になる。
そこを第3勢力…。 
弓皇翁「笹神龍心」や傭兵集団「砂塵の嵐」に攻められれば、この城は陥落するだろう。
それだけは絶対に避けなければならない事態であり、だからこそ「酒場に黒龍騎士団長を名乗る女が居る」という、イースベルト家の与太話にすら耳を貸した。

今、シャルルは相対的に有利な立場に居る。
鎧の装着者同士が、感覚や感情を共有できるのなら、他の所有者が鎧を装着時に限り、視覚情報を把握する事で場所を特定できる。
つまり、自分たちと同じ条件で…いや、あちらが市井の中に居る分、それだけ早くユリウス王子を探す事が可能なのだ。

シャルルが城を脱出して最初に取るべき手は、ユリウス王子の捜索。
この城と戦力の比較、そしてクリス王子との戦闘で、鎧の力を正しく認識しているなら、それが最善手になり、同時に自分たちへの致命打となる事を理解しているはずだから。
あの時、自分たちはその事実に、心の底から震えた。

「し、しかし、シャルルの奴めは、既にその事実に気づいているはずでございます! わ、我々はどうすれば良いのですか!?」
「取り乱すな! 今、それを考えている! 奴らが想像しえない、何か別の駒で対抗すれば良いのだ!」
「別の駒、と申されましても…。 傭兵や、特殊部隊に関する情報なども、エイグリル将軍が管轄しておられましたし…」

こちらの手駒は、黒龍の鎧だけである事を嘆いたその時、カルネラ大臣が思わぬ発言をしてきた。

「鎧の秘密…エイグリル将軍が喋らないのであれば、我々が独自に調べあげれば良いのです」
「それは何か、方法があるのか? 王家に伝わる伝承とか、か…?」
「いえ、そういう訳ではございません。 私が考えているのは…」

カルネラは、その方法を伝えるべく、自分に耳打ちをしてきた。 何事かと思ったが、カルネラの提案、それは…。


人体実験だった。


「…何だと!? カルネラ、貴様正気か…!?」
「宰相! 貴方様が譲り受けるべき、王家の秘宝に粗末な扱いをする咎は後に受けます! しかし、どうか今は、我々が生き残る事をお考え下さい!」
「ぐ…」
「それに、この方法にて鎧の秘密が知れれば、エイグリルめも、もはや不要となります。 騎士団の力を殺ぐ良い機会となりましょう」

あの時、自分は首肯するしかなかった。
状況が刻々と変化するこの状況下、選択の余地がないことは明白だったからだ。

「これも、民草への福祉と考えれば、心も痛まぬはずです、宰相」
「俺も、人を何人も拷問で責め殺したが、それを福祉と言い切れるほどには達観しておらんぞ」
「何、これもグラン・バルベキアの思し召しでございます。 我らも、偉大なる先王の知恵に学びましょう。 …王権を、是非とも我らの手に」


先王の知恵、か。

イルモードは、このバルベキア三国の歴史を思い返しながら、さらに酒杯を傾ける。


今から40年前、太祖レニチェリア=イェルザレムの時代。
バルベキア三国がヴェルドの支配を逃れ、独立のために戦争を繰り返していた頃、国力は疲弊の極みにあった。

そんな最中、レニチェリア=イェルザレムは、犯罪者や禁治産者(破産者)を森の中の一軒家に全員集めて、恩赦を与え、財を分配するとして、極上の料理と酒を振る舞ったのだ。
思慮に欠ける彼らは、王のその言葉に何の疑問も抱かず、唐突に得られた自由を当然の権利と喜び、肉を喰らい、酒を飲み、酔いつぶれて深い眠りについた。
その後、太祖レニチェリアは家に鍵を掛け、火を放って彼ら全員を皆殺しにしたのだ。

国民を「生産者」と「消費者」に分け、消費者は国益にあらず、と嘯いて処分した暴君。
大バルベキアの、冷酷にして残虐を示すエピソードの一つである。

福祉政策に掛かる費用を丸ごと削除した事で、国の経済は何とか持ち直し、三国は見事独立を勝ち得た。
これだけなら、(極端な愛国論者であれば)危急の中やむを得ぬ経済政策だった、と擁護する者も居よう。

しかし、太祖を本当に暴君たらしめたのは、息子であるアルムード公…先王の小バルベキアにも、その悲惨な光景を見せていた、という逸話である。
しかも、その火事になった家の中には、小バルベキアの叔父…浪費家で有名だった「壊れた酒樽」、シュビロ=イェルザレムも混じっていたのだ。
害とみなせば尊属殺人すら躊躇しなかった事が、逆に事を上手く運ばせたのかもしれない。
小バルベキアの時代にも、この虐殺による福祉は実行されかけたのだが、当時、新しい活版印刷の技術が流入しつつあったせいか、この情報を耳聡く察知した貴族共に、私刑だと猛反対され、虐殺は中止せざるを得なくなった。

カルネラ大臣が改めて語った、バルベキアの歴史。
しかし、彼がこの逸話を引き合いに出したのは、福祉のあり方をイルモードに考えさせるためでは、もちろんない。

鎧の力を確認したいのならば、もう世間に出る事のない者たち…例えば死刑囚を集めて、人体実験すれば良い。
それでお前の良心が咎めるのなら「これは福祉政策だ」と、自分に言い聞かせればよかろう。

カルネラは暗にそう発言していたのだ。
そうしなければ、自分たちが滅ぶぞ、と。

「ふ…」

部下の叱咤に、応じるしかなかった。
だが、いざ人体実験に臨んだ時、自分の秘められた一面を知るに至った。


最初の人体実験の場所は、地下牢。
被験者には、バーロンという名の、高齢で病没寸前の老人が選ばれた。
老人といっても、強盗殺人を十数件繰り返し、既に死刑を科せられた重犯罪者だ。
刑の執行は来年に予定されていたが、病に侵されていた事もあり、2~3ヶ月早めた所で問題なかろう、という人選だった。

その老人が、全身を皮革と拘束錠でぐるぐる巻きに固定され、部屋の中央に放置されている。
その「刑執行」のために、重武装した剣士とガンナーが4組、前衛と後衛に分かれて部屋の四隅に待機。

イルモードとカルネラは、黒龍の兜を被験者に被せ、その様子を監視するよう部下に命じた。

鎧に対する最初の疑問。
それは、何故「黒龍の神官」以外でも装着が可能なのか、という点である。

最初は「黒龍の神官」だけが鎧の能力を発揮できるものと思っていた。いや、そう聞かされてきた。
だから、自分には何の影響もないはずと、戯れに装備してみた時、神官同様の爆発的な力が得られたのには、心底驚愕した。
鎧が外れない、と知った時はさらに焦ったが、王子とは異なり、下女を殺して血を浴びる事で、ようやっと外す事ができた。

自分は王族などでは決してない。
だが、だとすればこの力は何なのか?

最初は、下賤の出身であった自分も、系譜を遡れば、誰か先祖に貴人が居たのかもしれないと思った。
僅かでも、自分の中に王族近縁の血が混じっているのかと。
だが、シャルルは孤児でありながら、鎧の力を発揮しているのを見た時、その考えは全くの的外れ、という事を理解させられた。

そして、血を浴びないと鎧が外れない自分と違って、シャルルは血を浴びずとも脱着可能だと知った時、一つの仮説が生まれた。

鎧の脱着性と付与される力は、どうやら比例関係にある。
強い力を得る者ほど鎧が脱げにくく、弱い力を得る者は鎧を脱ぎやすい。
これから、鎧には「相性」なるものが存在すると考えられるのだ。
だが、仮にそれが事実としたところで、鎧は被験者の「何」に反応しているのか。
単純に考えられる所で「血液型」だが、多分それはあるまい。

しかし、どんな仮説を立てようと、検証は不可能。
鎧の装着者がクリス王子、自分、シャルルの3人しか居ない。
あまりにもサンプル数が少なすぎるのだ。

そういう意味では、今回のこの実験は、自分が抱いてきた各種の疑問に、何らかの光明を見いだす糸口になりえるものだった。

「よし、良いぞ! 執行班、兜を装着!」

イルモードの部下は指示通り、拘束されてぐったりしている被験者の後頭部を恐々と持ち上げ、ゆっくり兜を被せる。
部下には重犯罪者としか伝えておらず、頭部に分厚く巻かれた包帯のため、外見で老若男女の判別は不可能。

「様子を確認しろ!」
「うおおおっ!?」

だが、イルモードの命令より早く、兜に激烈な反応が起こり、怯えた部下は確認するより先に距離を取る。

「ぐあぁ、ぎゃあ、ああああああッ!」

それは病没寸前の高齢者の悲鳴。

黒龍の兜が突如として自動し、海生生物のようにゆっくり装飾をはためかせ、棘を生やして「被験者の頭に食らいついた」のだ。
無数の棘が、包帯で巻かれた顔面に突き刺さり、みるみるうちに顔面が赤く染まる。
被験者は、その激痛から逃れようと必死に体をよじるが、拘束具に固定された体は、芋虫のような姿を演じるだけ。

「なんだと…!?」

そして悲鳴が止むと、高齢で病没寸前だったはずの被験者は、羽化する蛹(さなぎ)の如く、幾重にも巻かれた拘束帯をビリビリと引き裂いて起きあがった。

「グォ…。 ルォ…。 ルゥウオオオォォォオオオッ!」

魔人の孵化。
そんな言葉が、周囲に居た全員の脳裏をかすめる。
この被験者は、既に黒龍化しているというか、まともな意識を微塵も残していない事が伺い知れた。

「ドスランポス投入! 急げ!」

カルネラ大臣が、異常事態をいち早く察知し、ドスランポスを2体投入する。

手練の狩人であっても、中型モンスターの複数対応は、対処困難なクエストとして嫌われる。
まして相手は素手、しかも瀕死間際の高齢者である。
黒龍の鎧を付けていけも、発揮される戦闘能力はたかが知れたもの…。そう思えば、管理は手軽にして効果的、これ以上なく適切なカルネラ大臣の選択だった。

だが、部屋の中央で、両手をだらんと下げたままの被験者は…。

「ヴル…。 ヴォルル、グォオオルルォオオオオオオッ!!!」

老人とは思えぬ雄叫びを挙げると、俊敏にドスランポスに飛びかかり、横薙ぎの腕の一撃でドスランポスの首をへし折った。

よく見れば、被験者の攻撃はドスランポスの頸の肉を、骨ごと吹き飛ばしていた。
へし折ったのではなく、首は自重に耐えられず折れ曲がったのだ。

「ゴォオ! グギャア! ギャア!」

残るドスランポスが威嚇する。
だが、被験者はそれに気を向ける事なく、首を折ったドスランポスの頭を思い切り踏み砕く。

「ギャイ!」

残ったドスランポスは、発達した鋭利な鉤爪で、背を向けたままの被験者を斬りさこうとしたが…。

「!!」
「!?」

被験者の襟元から、幾方向にも生えた「棘」が、その鉤爪を防御していた。
ドスランポスは、奇怪な叫び声を挙げて鉤爪を引っ込める。

「何だあれは!?」

眼の前の老人は、クリス王子が窮地において使用する、絶対防御の「棘」を生やしていた。

「(もしかして…。 もしかすると)」

内心の疑念が、朧気ながらも確信へと変わっていく。

「(黒龍の神官だけが、鎧の真の力を引き出せるのかと思っていたが…)」

「ヴォオオルゥォオオッ!」
「ギャイイイッ!」

被験者がドスランポスに飛びついたかと思うと、たちまち馬乗りになり、その頸に腕を絡めてグイグイと締め上げる。

「処刑班、刑執行開始! ドスランポスごと、奴を斬り伏せろ!」

アレは、モンスターで戦力を削れる相手ではない。
そう判断したカルネラ大臣が、部屋の4角で待機していた処刑班の剣士隊に行動を命じる。
だが、処刑班の剣士4人が、被験者に攻撃を加えようとしていた時、既にドスランポスは絶命、被験者の反撃の準備は整っていた。

「ぐああっ!」

先陣をきって飛び込んだ太刀使いが、伸びてきた無数の棘に鎧の隙間を貫かれ、後ろに下がる。

それを見て、大剣使いが、ギリギリの間合いから力をタメた一撃を放ったが、今度は剣先が絡み合う棘に巻きとられる。
見た目からは想像もできないほどの強靱な張力。

次に、寡黙な槍使いが、盾を構えて棘を防御しつつ、「棘」の隙間を縫う一撃を繰り出す。
狙いは心臓だったが、命中直前で槍の穂先は、瞬時に鎖かたびらと化した棘に防がれた。

「(なんと…。)」

イルモードは、こんな緊急事態にもかかわらず、「鎧」の変幻自在の対応力に感嘆していた。

接近戦は棘に阻まれ、力でも押し負ける。
ならばロングリーチの定点攻撃を…と考えた処刑班の躊躇のない思考は、歴戦の兵士ならではのもの。

だがその思惑を、あの鎧は初見で悉く上回った。
あの被験者たる老人は、若い時代、傭兵経験があったのだろうか? それとも、純粋に鎧自身の防御反応なのか?

前者なら、鎧は本人の戦闘能力を増幅する事になり、後者なら、鎧そのものに周囲の状況を把握する力がある事になる。
それを把握する事を忘れていた。
もっと事前の調査が必要だ。

だが、万能に見えたその絶対防御にも、穴はある。
今の槍攻撃にて、ごく僅か…。
本当にほんの僅かだったが、槍の穂先は被験者の胸に食い込んでいたし、鎖かたびらを作るために、棘の大部分がそこだけ引っ込んだのだ。
ランス系や銃弾による、間断のない貫通攻撃を仕掛ければ、あの「棘」の脅威は半減するやもしれない。

「うっ、うおおっ!」

槍の一撃を弾いた後、鎧の「棘」は槍使いの鎧の隙間を狙い、蛇のように蠢きながら攻め込んでくる。
それを嫌がった槍使いが盾で防御し下がったが、もうちょっと軽装だったら、たちまちのうちに鎧の隙をあの棘で貫かれていたろう。

「よし、剣士部隊、槍使いを残して下がれ! ガンナー部隊、目標に向かって貫通弾を一斉射撃!」

イルモードのその命令に、処刑部隊の面々が動揺する雰囲気があった。
ここは剣士部隊を全員下がらせて集中砲火する所ではないか、という認識の相違。

「槍使いは待機! 防御して待ち、隙が出来たら攻撃開始! ガンナー、一斉射撃ッ!」

再度の命令で、ガンナー部隊は貫通弾の射撃を始める。
槍使い側に配置されていた二人は、前衛が下がるのを確認してから発砲を始めたが、いずれもが丁寧な狙撃を心がけた。

というのも、貫通弾は対人使用を固く禁じられていたからだ。
狩猟法で禁止されているのもその理由だが、それ以上に、「貫通」というその特性上、撃てば確実に人に重傷を負わせてしまうためである。
この狭い小部屋の中、中央に向け十字砲火というこの陣型では、もし万一、被験者以外の誰かに当たれば、致命傷たりうる。

そしてその性能は、被験者に対しても遺憾なく発揮された。
ガンナー部隊が持つボウガンから発射された貫通弾のうち1発が、被験者の下腹部を貫いたのだ。

もちろん、棘の絶対防御はきちんと反応していたのだが、攻撃が下腹部や足先になると、兜から伸びた棘の張力が弱まってくるらしく、緻密なはずの棘の鎖かたびらは、まるで失敗した編み物のようになっていた。
そこに、真正面からの強力な貫通攻撃を受ければ、さすがの鎧とて、それを防ぎうる道理はなかった。

貫通弾は、棘の防壁を突き破り、あまつさえ被験者の体を引き裂いて、反対側に抜けていく。 その衝撃で、被験者はよろめいた。
…だが倒れない。鎧によって生命力そのものも強化されているのか。

「撃てッ! 下半身を狙え! 槍使いは隙を見て一撃を見舞え!」

ガンナー部隊はそれぞれ、決して味方に弾丸を命中させないように、丁寧にエイミングして弾丸を発射する。
それはタン、タン、タンと数珠つなぎのように丁寧にヒットし続け、その大半は鎧の防御に弾かれたものの、四方から迫り来る弾丸は、その隙間をくぐり抜け、たちまち被験者の脚を朱に染めた。

「…よし、良いぞ!」

だがその時、予想外の事が起こった。
弾丸の嵐を浴び、被験者が遂に転倒。
そこに一撃を加えんと駆け寄った槍使い。
続々と延びてくる「棘」を、槍使いは盾で防御した。

…防御したつもりだった。

「うおおおっ!?」

だがそれは攻撃のためのものではなく、昆虫を捕らえる毒蜘蛛のように、獲物を拘束するための行動だった。
たちまち、槍使いの周囲に絡みつく棘。

「た、助けてくれッ!」

拘束した槍使いを、被験者は自分の前面に固定する。
「人間盾」を装備した被験者は、部屋の片隅に居たガンナー…。

その槍使いこそが護衛だったガンナーに向かって、突進を始めた。

「マズいッ! 全員、一斉射撃!」
「しかし、人質が!」
「構わん! 今殺さねば、お前たちが同じ戦法で殺されるぞ! 前衛を失った奴が不運だったのだ!」

予想外の事態に、場が一気に恐慌状態へと突入、狂気で沸騰する。
眼を離したその間に、もうそのガンナーは襲われていた。

「ひいいいぃぃ~~~ッ!」
「助け、助けてくれぇぇえッ!」

「奴らはもう助からん! 撃てッ! 撃って、撃ちまくれ!」

それを見た残り3組は、剣士がガンナーの護衛を勤めながら、全員同じように距離を詰め、一斉射撃へと入った。
もう、貫通弾の行き先を気にする必要はない。

「やめ、やめ…! ぇ…  …」

被験者は、ガンナーを葬り去った後、槍使いを文字通り盾にして、3組にジリジリと近づいてきた。
槍使いの声はすぐに聞こえなくなり、貫通弾の威力で槍使いの足が消し飛び、胴がちぎれ飛ぶ。

人間盾が半分消し飛んだところで、被験者は下半身への一斉射撃を浴び、亡骸と共に転倒した。

被験者の耐久度は想像を越えていた。
…だが、ほぼ瀕死か。 鎧の「棘」の動きが悪くなっている。 多分、大量出血で鎧が栄養を補給できていないのだ。
そう判断したイルモードは、部下たちに号令をかける。

「よし、今だ! 止めを刺せッ!」

「…シモンズと、シュートの仇だッ! 食らえ!」
「…よくも、俺たちの仲間を!」

「待てッ! うかつに近寄って切りかかるんじゃない! あくまでも遠巻きにして射殺すんだ!」


…こうして、最初の人体実験は、失敗に終わった。

被験者は激昂した処刑部隊に、全身をズタズタに切り刻まれ、頭部しかまともな部位は残らず、一切の検証ができなかった。


しかしながら、この実験によって得たものも多かった。
やはり、「黒龍の鎧」の力は、程度の差こそあれ、誰でも発揮が可能なのだ。
そして「黒龍の鎧」に対し、ガンナーの攻撃が予想以上に効果的だ、という事。

王子は「胴」「腰」を装備しているため、棘の絶対防御が弾丸に対しても有効に発揮されるが、末端部分の「脚」を持つシャルルや、「腕」のユリウスに対しては、ガンナーでの攻撃がある程度有効、という事になる。

また、今回の件では、被験者はさほど理性ある動きを見せなかったが、それが元々だったのか、それとも鎧の力で理性を奪われたのかも不明なままだ。
事前の能力調査も、綿密にさせておく必要がある。

「ふふ、ははは…」

「はっは、ははははははは!」

知らず、イルモードの喉元から、哄笑がこみ上げてきた。
なんという事だ。
考えれば考える度、懸案事項が山ほど出てくる。
これでは、さらなる実験を重ねないと検証できないではないか。

今まで自分は、血の雨や肉の飛び散る光景などを、戦場で腐るほど見てきた。 
戦争犯罪者たちを、自分の手で拷問した事もあった。

だがそこには、多少なりとも報国の精神が残っていた。
自分が正義と思っているからこそ、侵略者に立ち向かう。
相手が悪だと信じているからこそ、捕虜にも容赦しない。

だから正気を保っていられた。
だが、先日から続くこの狂宴に、そんな大義は存在しなかった。

自分の私利私欲のために、他人の命を蹂躙するという、これ以上ないほどの悪虐。
これを非道、それに身を染めた者を外道と言わずして何という。

実験が終わり、部下と被験者を無為に殺してしまった時、イルモードは自分の中に、まだ僅かながら「義」の心がまだ生き残っていた事を知った。

それを、酒の力で麻痺させる。
この先に待つ栄光のためならば、くだらぬ義など不要。
事実、乱世の英雄たちは、仁義などそこらへんの畜生に食わせてきたではないか。
黒龍の鎧の秘密が、今目の前に暴かれようとしているのだ。
自分の人生で、想像できなかったはずの栄光が待ち受けているのだ。
そこに向かって突き進まなくてなんとする!

「(…するぞ、俺は「実験」をするぞ! いくらでも検証に検証を重ねてやる! 何、屑共がいくら死に絶えたところで、税の消費が抑えられるだけ…! むしろ国民のためになる、気にする事はない!)」

そう思うと、さらなる哄笑が喉をついて出た。

「ふっは、はははははは!」

イルモードは、自分の中の最後の良心と決別すべく、さらに酒杯を煽る。

「(久しぶりだな、これほどまでの高揚…!)」

自分を何と偽ろうとも、隠しきれぬ背徳感と抑えきれぬ高揚感が、心の中からこみあがってくる。

気づけばイルモードは、自分の精神が、以前の自分よりも、さらに一段高みに登った感覚を得ていた。
さっきまで見ていた、この目の前の風景がぐんと広がり、より深く、より重厚な印象を持ち、そして自分はそこに居るべき存在と、この世界に根を卸せたような感覚。

「(…なんだ、この感覚)」

以前にも味わった事のある、この感覚。
この世に認められた征服者として、より高みに立つ事を許可された感覚。

「(いつだったか…)」

かなり若い頃、これとよく似た高揚感を得た覚えがある。
それは何だったろうか、と思い返していた時、部屋に入ってきた者が居た。 
彼の腹心にして参謀、カルネラ大臣だ。

「準備が整いましてございます、宰相」
「ご苦労。 王子はちゃんと寝かせてきたか?」
「万事抜かりありません」
「そうか、今行く」
「本日は、前回よりも、より若い者達で試してみたいと思います。 そのため、廃墟となっている闘技場を借りてきました」

本日は、2回目の「人体実験」の日だった。
二人は、護衛と共に、馬車が用意してある城の裏手へと移動する。

「処刑部隊の連中は大丈夫なんだろうな」
「はい、今回は慎重に慎重を重ねております。 前回のような事にはならぬかと」
「前回、足止め用のモンスターは、あまりにも脆弱だったが、今回はどうした」
「は、今回はより強力な種…。 被験者が素手という事を考慮し、外殻の堅いダイミョウザザミと、万一のために毒攻撃が強烈なリオレイアを用意してございます」
「よし。 被験者が、モンスターより先に、処理班に攻撃をしてきた時の対応は?」
「両者に直接接触の機会を設けては、戦闘にすらなりません。 それで今回、闘技場の高台を用いて物理的に隔離し、狙撃を狙う所存にございます。 処理班から要望のあった十字砲火もやりやすくなり、一層の火力向上が望めます」

「…そうか、よくやってくれたぞ、カルネラ」
「光栄の至りです」

呵々大笑するイルモードに対し、カルネラは慇懃に一礼する。

前回の失敗で自分が懸念していた事を、当然のようにこの部下も考えていた。
これではやはり、嫌でも実験を止められるはずがない。

二人は、城の南門へと向かうと準備してあった黒塗りの馬車に乗り込み、さらに協議を続ける。

「前回、被験者は最初から意識がなかったようだが、今回はどうだ?」
「今回の被験者は4名ですが、いずれも前日にある程度の身体検査と意識調査は済ませてあります。 意識の消失についてはある程度、関連性を計れる事でしょう」
「4名か…。 実験を連続で行っても大丈夫なのか?」
「身体能力の低い者から順に実験を行い、これ以上は無理という所で止めます」
「被験者の来歴も調べてあるか?」
「と、申しますと?」
「あの鎧は、装着者の能力によって、発揮される性能に差が出る可能性があるのだ。 生家の生業、職歴、特技、傭兵経験の有無などは調べているか?」
「いえ、申し訳ございません、そこまでは思慮が及びませんでした…。 以降調査に含めます」
「うむ、今回は、まだそこまで反映されぬかもしれんし、ゆっくりやれば良い」
「そうでございますね」

その後も二人は、懸念点を解決しつつ、今夜の実験の段取りを整えていく。
熱が籠もった話合いが一段落し、息をついて馬車の座席に深く座り込んだ時、イルモードは、自分を押し包んでいるこの感覚…。

「この世に認められた征服者として、より高みに立つ事を許可された感覚」を、いつ感じたか思い出した。

「(そうだ…。 初めて女を抱いた時だ)」

まだ少年の頃に体験した、初めての女性の肌。
その柔らかな白い肉体を、自分の恵まれた体格で蹂躙し、拙劣ながらも有り余る体力で、幾度もの法悦の淵へと叩き込んで失神させた。

経験豊かなはずの年上の女性が、自分の目の前で四肢を広げてだらしなく気絶しているのを見た時、一抹の背徳感と共に、自分の中にどうしようもないほどの獰猛さと征服感、そして高揚感が込みあがってきたのを覚えている。
自分は、男であって、そして雄なのだと。

「(そうだ…。 これだ、この感覚だ…!)」

今自分を包んでいるのは、あの時と同じ、どうしようもないほどの興奮と征服感だ。

外を見れば、奇しくもあの時と同じ、黄金の曲剣の如き三日月が、空に舞っている。

この新しい体験が、俺の新たな力となろう。
一体今夜は、この実験がどのような結果に終わるのか。
だが俺は、その全てを理解し、飲み込んでやる。
今の俺が征服するものは、この世界なのだから…!!


馬車に乗るイルモード達の眼前に、廃墟と化した闘技場が姿を見せ始める。
黄金の三日月の真下で、その黒塗りの馬車はやがて闘技場に到着すると、別の部隊と共に、すぐに姿を消した。


<続く>

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Author:丼$魔
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