女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(1)-2

…JJだったら、どうか。
奴なら、『A GUNNER』に並び得るだろうか…?

俺は、『A GUNNER』の事は、ギルドの記録と物語でしか知らない。
だが、JJのあの超絶的な戦闘能力も、かつて俺が見たことがないほどに極まっているものだった。

ガンナーに…。 ガンナーには「あれ以上」があるのだろうか…?
物語じゃない本物の『A GUNNER』は、どれほど強いのだろう? そして、JJは…。

「失礼しまーす」

だがその時、例の若奥様が、食事を盆に持って入ってきたので、俺は考えを中止せざるをえなかった。

「お食事どうぞ。 入らないかと思って、柔らかめに炊いてますわ」
「気がきくな、ありがとう」
「いえいえ、貴方は、この村の英雄ですもの…」
「やめてくれ、英雄だなんて」

吐きそうだ。

俺はその発言だけに耳をふさぎ、ベッドサイドで食事を取ると、その若奥様も、俺の脇に並んで腰掛けた。
妙齢の女性にしては、いささか距離が近すぎる気もするが、まぁ気にしない事にする。

だがその後も、その女性は…モーリンという名前なのだそうだが、俺をあれこれと誉めちぎってきて、会話の度に距離は縮まり、仕舞いには密着せんばかりの距離になってきた。

「あんた、旦那さんは?」

左手の薬指には、緑色の宝石が埋め込まれた指輪。
俺が彼女を既婚者だと判断した理由がこれだが、それを問うと、彼女は少女のように口をとがらせ、足をぶらぶらさせて答えた。

「居ますけど、ドドブランゴに襲われて、寝たきりです…」
「すまん、悪かった。 余計な事を聞いてしまった」
「良いんですよ、それに、別に起きあがれないって訳じゃないんです」
「…どういう事だ?」
「一応、治りはしたんです。 ですけど、後遺症が残っちゃって、歩いたり、動いたりすると、背中に痛みがあるからって、ずっと一日、寝てるだけの生活に…。 元々、彼、ドンドルマの街で書士をしてたんです。 若い頃は、そういうインテリなのがカッコいいかな、って思ってたんですけど…」

そして、彼女は、俺の瞳を見つめた。
その瞳は、艶やかに潤んでいた。

「でも、やっぱり男の人は、やはり強く、逞しい方が素敵だと思います」

そう言って、彼女は俺の手をそっと握ってきた。

「この手が、あの野生をねじ伏せてしまったのですね…」



「…止めてくれ」

俺は失礼にならないよう、そっと彼女の手を持ち、どかす。
言うか言うまいか、少し悩んだが、俺にわざわざ近寄ってくる彼女にならよかろうと、正直な所を吐露した。

「…俺は、強くなんてない。 俺がそんな風に見えているのだとしたら、君の見込み違いだ」

「でも、実際にドドブランゴを沢山倒されましたわ」

それは、俺がどんな風に倒したかと聞かされてないからだろう? 俺は、爆弾で全員を吹き飛ばして倒したんだぞ。

「いや、それでも、俺は強くない。 英雄なんかじゃ、全然ない」

「私たちにとっては、本当の英雄ですわ」

物わかりの悪い女だな。
だから、俺を英雄扱いするのを、止めろと言っている。

「きっと、貴方はご謙遜されてるだけ…。 本当に強い方だと、信じています」

そう言って、彼女は俺の肩にしなだれかかってきた。
だが、俺の中で炸裂した感情は、彼女の甘い体臭に対する劣情ではなく…何かに対する、激しい怒りだった。

…何を信じているというのか。 お前のそれは偶像だろう? 俺をそんな都合の良いように解釈するな。
俺は、お前達に持ち上げられるピエロじゃあないんだッ!

「…俺は、強くないッッ!!」

俺に優しくしてくれた彼女を怖がらせないよう、抑えたつもりで言ったのだが、語気には隠しきれないものがあったらしい。
怒鳴りつけられたと思った彼女は明らかに動揺し、俺から距離を取って、怯えた様子…。
泣きそうな目で、俺を見ていた。

「いや、済まない…。 強く言い過ぎてしまった、済まなかった」
「え、いえ…、そんな…」
「でも、これだけは分かってほしい。 俺は、まだ、途中なんだ」

…何のだ。
実際、彼女だって、何の事かと、意味が掴めない様子だ。

「その…。 修行の途中、なんだ。 だから、強いとか言われたら…。 気持ちがおろそかに、なってしまう」
「も、申し訳、ありません…。 ごめんなさい、私…。 ハンターさんの事を、よく知らずに…。 うかつ過ぎました」

そう言って、若奥様は、ベッドから立ち上がると、泣きそうな表情を隠しもせず、パタパタと走りさってしまった。

…しまった。 物には言い様ってモンがあっただろう。

もうちょっと、柔らかく言っていれば、彼女はまたここに来てくれただろうに…。
せっかく立ってたフラグを自分で折ってしまった。
アレじゃ、もう二度といい雰囲気にならないだろうな。
もったいない事をした…。

男の性(さが)という奴で、そう思いはしたのだが、その考えすら、また一人ベッドに潜り込むとかき消えて、さっきの考えが頭の中に湧いてきた。

「(JJ…)」

脳裏に、激しい機銃の轟音と、明滅するマズルフラッシュが蘇る。
あの雪山の中、JJはドドブランゴと一対一で対峙し、瀑布の如き貫通弾の連射を浴びせ、その威力で敵を怯ませる事で、敵の攻撃を真正面から押し返していた。

ガンナーには、筋力などさほど必要ない。
俺も、奴の姿を見て改めて思い知ったが、本当に必要なのは、弱点を完璧に狙い切る正確な射撃に、敵の攻撃を見切る戦闘経験と、氷のような冷静さ。

そして、すぐそばにある死というプレッシャーに耐え抜く、圧倒的な精神力。

…そうだ。

あいつこそが、英雄じゃないのか。
ここで賞賛を受けるべきは、俺じゃなく、奴だった。
それを本当は、俺は知っていた。

弱い者は死に絶え、強い者だけが生き残る。
それこそが、この狩猟の世界の、絶対にして不変の法則だったのに。

「お前は、モンスターが回復すると思うのか?」

まるで空耳かと思うほどに、奴の声を思い出せた。
そっと眼を閉じ、あの時の事を思いを致せば、声や周囲の空気までもが、俺の中にリアルに蘇る。


「見ろ、この風景を、この美しさを…。 おまえは、命が…。 この世界に生きる命すべてが、等しく尊いとは思わないのか?」

「僕とお前の魂にも、僅かながらの貴賤の差があると、お前はそう言っているのか」

「野生に生まれるという事は、等しく生存競争の中で、戦う宿命を持っているという事だ。 その最期が、ロクに牙も爪も振るえずに、ただ

殺されていくだけだと知ったとき、どれほど奴らが無念に思うのか、お前に分かるのか!?」

「彼らの孤高の獣性を、汚れなき野生の魂を、お前の勝手な都合で汚すんじゃあないッ!」


論戦に負けて無様に地に張った、あの時の事を逐一思い返した俺は、ベッドの中で目を瞑ると、大きく息をついた。

…だが今、冷静になって考えてみれば、あの論戦、俺が負ける道理はなかったのだ。
俺とJJの論旨を一言で要約すると、こうなる。

「命なんてものは皆、不平等なものだ。 だから罠を使うのは、ごく自然な事だ」

俺は現実に生きていた。

「命の価値は、全て等しくあるべきだ。 だから罠を使うのは、卑怯極まりない」

だが、奴は理想に生きていた。

この二つの主張は、一見似てはいるものの、実は接点はない。 
JJと俺の立ち位置を、例え話しで説明するなら、

「戦争はこの世から無くさなければならない。 だが実際に、この世から戦争が消えた実例はない」

そういう事なのだ。
俺と奴は、物を見ている方向と感想が違うだけ。
つまり、あの激論は、

JJ「俺はガチ戦闘が好きだぜ」
俺 「俺は罠を使う作戦が好き」

と、お互いが(それは食事の好みにも似た)お互いの主張を説明しあい、それぞれの立場を尊重すればいい、それだけの話だった。
JJがどんなに「罠は卑怯だ」と言い、それを誰に鉄拳で理解させたとしても、それでギルドが罠の販売を止める事はないだろう。それは奴とて理解できるはず。

だから、あの議論は、弁舌に長けた俺がJJを丸め込んで終わるか、最悪でも痛み分けになるはずだった。

だがあの時、俺は奴の発言を、うかつにも…。
たかが殴られた程度で「正しい」と認めてしまったのは、何故なんだろうか。

「おまえは、自分の力が足りないとわかった時には、自分の力を延ばすではなく、他人あるいは道具の力に頼るんだな」

…そう、あの発言のせいだ。
あれで俺は動揺し、思考を止めてしまった。

「自分の力が足りなかったら、他の力に頼る」

その通りだと言えばその通りだ。

「俺は弱いから、閃光玉を使いまくってるんだよ!」

でも、その自覚が本当にあるなら、こう切り返せはず。
事実、モーリンという若奥様に対しては、そう言えた。
だがあの時、JJを目の前にした俺の口からは、こんな言葉は出てこなかった。

JJの思想は理解できない。
正直、奴はあんな小難しい理屈で動いているより、「俺はTUEEEEんだぜYEARRRRRR」と言いながらガチるプロハンター連中の方がまだ理解しやすいし、実際JJの行動原理そのものも、奴らと酷似している。

モンスターの生態や、罠の使用、作戦などの戦術は一切不要。
自身の純粋な「肉体の強さ」こそが全てに優先し、他のどんな価値観をも凌賀する…という、単純明快にして、軽薄な思考。

だけど…。
俺は、今まで内心軽蔑していた、こいつらプロハン連中の考えを、もう否定できない。

だって、気づかされてしまったから。
ずっと隠していた、俺の本心を。

男なら、誰もが抱く夢を。
胸を焦がし続ける、この炎を。


…強くなりたいと。

この世界の誰よりも、強くなりたいと!


「おまえは、自分の力が足りないとわかった時には、自分の力を延ばすではなく、他人あるいは道具の力に頼るんだな」

俺には、JJのこの言葉が否定できなかった。

「そうとも、俺は弱いぜ! だから、罠に頼ってるんだ!」

とは、口が裂けても言えなかった。
だから、JJの他の主張までもが正しいと思ってしまった。

でも、仕方ないだろう?
俺には、JJのその言葉が

「お前は、強くなる事を、諦めたのか」

…こんな風に聞こえたんだ。


馬鹿言うな。
馬鹿言うな、JJ…。

俺は、諦めてなんてない。
少年の日に懐いた夢は、今もこの胸に燃えている。

…そう、何のために、この年になるまで、狩人を続けていると思ってる。
若くして芽が出なかった時点で、英雄になる事は諦めた。
同期の連中が、次々と出世していった時、一流の狩人ではない事も自覚した。
でも俺は、まだ29歳。 未来は、まだ残ってる。
「熟練の狩人」と呼ばれ、後輩の指針となり、話題の種に登る事くらい、ありえるかもしれないのだ。

少年の日からこの年になるまで、俺はただ強くなる事だけを望み、そのためにこの身体も魂も、そして本当なら得ていたかもしれない「人としてのまともな幸せ」すら、供物として捧げ尽くしてきたのだ。

だから、狩猟の女神さまよ…。
その程度の夢ならば、見させてくれても良いだろう? 
どうかこの程度の望み、俺にゃ不相応だと罰を当てないでくれ。 お願いだ。 だから…。

JJ、俺はな…。

俺は…。

俺は、お前の事が…。


「やっほー、マルクさんお元気ー? 体調いかがー?」

だが、俺の思考は、またも来訪者によって寸断された。
今度の来訪者は、モーリンとは別の、村の若奥様だった。

明るい栗色のくせっ毛に碧色の瞳、若草色のワンピースとエプロンが良く似合う女で、特に快活な笑顔と声が印象的だったので、よく覚えている。
名前は、確かマリアンヌとか、そんなだった。

「…いや、悪くはない。 しかしそれより、俺がモーリンさんを怒鳴りつけたせいで、君が代わりに来てくれたんだろう? 彼女には、済まない事をした…。 お詫びを伝えてくれておいてくれないか? 後、料理ありがとう、とも」

「ううんー、こっちこそごめんねー、何かモーリンが失礼な事言ったみたいでー…」

だが、女の言葉は途中で尻切れになり、俺の顔をマジマジとのぞき込んできた。

「…何だ?」

「…あ、ごめんねー。 いや、貴方、やっぱモーリンが好きそうなタイプだと思ってね」

「…え?」

…マジで?

「うん、彼女、昔からチャラくて小狡そうなインテリタイプが好きなのよー。 それで何度も痛い目にあってるのに、全然学習しないんだからなー」

「…をい」

「でも、貴方はそんな見かけなのに、中身は違うっぽいじゃなーい? こりゃモーリンがよろめくのも分かるわー」

やべぇ、これフラグがビンビンにおっ立ってるの確定じゃねぇか。 さっさと折れたフラグ回収しとこう。

「い、いや、俺はあまりそんな、強いハンターじゃなくて…」
「いいじゃなーい! アンタがそう思ってるのと、周りの人がどう思ってるのかは違うんだし、私たちが感謝してる事には代わりないんだからー!」
「と、とにかく、モーリンさんには、悪い事を言った、と伝えてくれないか…?」
「もちろんよー! 彼女、私に様子を見てきて、謝ってきてほしい、ってわざわざ頼んできたんだから! それは全然大丈夫よ!」

そこまでフラグ立ってたのか。
こりゃ伝説の木の下で、告白寸前だったようだ。

「それにねぇ」

そこで彼女は、声のトーンを換え、俺だけに通るささやき声で、こう言ってきた。

「…彼女の旦那、アレじゃない? 毎日背中が痛いー、痛いーって…。 せっかくの女盛りなのに、全然可愛がってもらえないなんて、話を聞いてるアタシも不憫でしょうがないのよー。 だからー、代わりに貴方が慰めてあげてよ…」

…告白寸前じゃなくて、クリアした後の裏エンドだった(爆)

経験豊かな主婦ならではの、露骨な誘いにちょっと引きかけたが、ストライクゾーンは割と広い俺は持ち直し、既にバッチコーイ状態だった。

「い、いや、そこまでは…。 でも、謝罪の言葉は伝えておいてくれ」

…あれ? 俺、何言ってる? バッチコイどこ行った。

「貴方、見かけによらず堅いのねぇー…。 アタシ、男を見る目はそんなに間違いない方だと思ってたんだけどー…。 まぁいいわ、彼女も貴方と仲直りしたい、って思ってるのは間違いないしー、了解よー」
「ああ、頼む」
「で、この村には何日くらい逗留する予定?」
「もうクエストは済んだし、モーリンさんと仲直りさせてもらえれば、すぐにでも村を発とうと思う」
「えー、それ困るわー、もうちょっとこの村に居てよー」
「何でだよ」

だが、俺はそこで、ある事に思い至り、予定を付け足す。

「あ、いや…。 JJが戻ってくるまでは、ここに居させてもらえないか? 行き違いになっても困るし」

「…JJ? あの、ツンとした可愛い坊やの事? 何で?」
「あいつ、忘れ物してるんだよ」

俺はそう言うと、俺のナップザックの中から、黒い手甲を取り出す。
JJが村人に見せた「呪われし王者の小手」の右腕部分だ。

「何それ?」
「何かは知らんけど、JJが大事にしてた物なんだ。 右腕と左腕で対になってるんだけど、雪山の戦闘で奴のバッグが破けてさ、それで片っぽだけ忘れて行ったみたいなんだよ」
「ふーん…」

マリアンヌの声に籠もる、訝しげなニュアンスは、「じゃあ何で、そのJJ君は自分の忘れ物に気づかないのかしら」と言っていた。

その点は俺も気になっていた。
ガンナーなら、ポーチの点検は欠かさない。
紛失物にはすぐ気がつくはず。
だから、宴会の興に預かっているうちに、JJはすぐに戻ってくるだろう…と思っていたのだが、何かトラブルでもあったのか、2日経つ今でも、JJはここに戻ってこない。

「うっかり屋さんなのかしら」
「どうだか」

奴はそんな性格には見えなかったが、本当にそうだとすると、この村への逗留期間が無駄に延びてしまう。
俺はため息をつき、奴が戻ってこない理由と、どうやってこれを返却したもんかをあれこれ考える。

…確率は低いと思うのだが、願わくば「俺のツラなどもう二度と見たくない」ではない事を祈りたい。

「ま、とにかくー、そのJJ君に小手を返すまではー、ここに居てくれるのよね?」
「ああ、まぁ…。 っていうか、何でそんなに引き留める? 言っておくが、モーリンさんには…、その、謝るだけだからな」
「っていうかねー、貴方が居ない間、宴会で老人たちがね『あんな強いハンターが来とるんじゃったら、せっかくじゃから別のモンスターも狩ってもらった方がええ』って話してるの。 多分、元気になって会場に戻ったら、その話が出るわよ」
「…何だって!?」

<続く>
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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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