女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#2(1)-1

JJが、俺の目の前を歩いていた。
暗闇の中を、たった一人歩いていた。

それを見た俺は、奴を呼び止めなくてはと反射的に思い、近寄って声を掛けてしまう。

「JJ! ジェイジェーイ!」
「なんだ、…お前か。 どうかしたか?」

そう言って、JJは振り返り、俺に柔らかく微笑む。

「何だって何だよ! 今日は、その、ほら…」

何だっけ。 何か、大事な事がいくつかあった。
教えてもらいたい事。 なんだったろうか。
俺は、こいつに、どうしても言わなければならない事があったような…。

「銃の事か?」
「そう、それだよ! ボウガンだよ! お前、ボウガンの扱いを俺に教えてくれる約束だっただろう!? 忘れてんなよ!」

ボウガンの扱い? そうだったろうか。

「ああ、良いとも。 お前は筋が良いから、僕とかすぐ追い抜かれるかもな」
「お世辞はよせよ…。 お前の射撃の腕には、天地がひっくり返ってもかないそうにない」

でも、確か、そうだったような気もする。
ボウガン、の事だったような。

「だから、早く銃の撃ち方を教えてくれよ」
「良いとも、お前もこれで『一流のガンナー』だな」
「こそばゆいぜ…。 もったいぶらないで、早くレクチャーしてくれ」

そうして俺とJJは、和気藹々と、ボウガン論について語り合った。
弾種、エイミング、敵との位置取り、「罠の使い方」、リロードのタイミング…。
どれもこれも、含蓄のある話だった。
JJは説明も上手で、すぐにでも実践できそうなほどだった。

…でも、頭にさっぱり入ってこないのは、どういう訳なんだろう。
JJの奴は良いことを言ってるのに、奴の口元が動いているのが見えるだけで、何を言っているのか、さっぱり分からない。

JJの話が理解できない俺は、焦りと気後れがして、このまま喋らせるのも悪いかと思い、慌てて話を打ち切った。

「ところで、今晩、飲みに行かないか?」
「…飲みって、酒か? 僕はあまり酒は好きじゃないんだが」
「そういうなよ! 今日のお礼に、な!」
「まぁ、付き合ってやるよ。 他ならぬお前がそこまで言うなら、な」
「そうでなくちゃな! こないだ、良い女の居る店見つけたんだよ。 えと、マナ…いや、なんだっけ、リズ…だったかな?」
「おいおい、もう物忘れか? 大丈夫かお爺ちゃん」
「人を年寄り扱いすんな、俺はまだ若ぇよ!」

憮然とした俺を見て、JJは軽く笑うと「じゃあ、早速行くか」と、あのボロマントを翻し、デスギア装備の骸骨マスクを被って、スタコラと歩き始める。

「おい、ちょっと待てよ!」

その格好で女を口説く気か?

そう茶化そうとしたのだが、酒場に向かうJJの足は意外と早く、小走りになっても追いつけない。

「ちょっ、ちょっと待て! …って言ってるだろ!」
「何をボサッとしてる? とっとと付いてこい」
「おい、待て! 待てよ! …そうだ、お前、忘れ物! 忘れ物があるんだよ!」
「何だ? 忘れ物? 早くしないと、置いていくぞ」

だが、JJはその歩みを止めない。
それどころか、どんどん距離を離されていく。
あまりにも追いつけないので、俺はどうかしたのかと思って、足下を見下ろしたら。

…俺は血塗れで、雪の上に倒れていた。

何故俺が、こんな格好で、という驚きはあったが、それよりも、去るJJを呼び止める事の方が先だった。
何故なら、このままだと、JJは俺の目の前から居なくなってしまうと、何故か分かっていたから。

「待てって言ってるだろ! お前、ほら! あれを…。 あの黒い甲冑を…何だっけ、そう、『呪われし王者の小手』を、忘れて行ってるだろうがッ!」

だが遂に、JJは俺の方を振り向く事は、なかった。


「JJーーーッ!!」

「きゃあっ!?」

血塗れのまま、雪の上から起きあがろうとした俺の顔面に、突如「むにゅ」という、柔らかく甘い香りのする感触。
真っ暗だった俺の視界に光が戻ると、俺が居たはずの雪山は、いつの間にかテネス村の村長宅に変化し、JJは器量よしの若奥様に変身していた。

しゅんしゅん、と薬缶の沸く音。
暖かく、明るい木造りの室内。

…さっきの光景は、夢だったのか。

勢いよくベッドから起きあがった俺に押し飛ばされて、床で尻餅を付いている若奥様が、座ったまま俺をポカンと見つめている。

「…あ、ど、どうも、おはようございます」
「お、おはようございます」

何とも微妙な空気の中、ぎこちない挨拶をする、俺と若奥様。 

そうだった。
俺は宴会の途中で吐いて倒れて、ここに運ばれたんだった。

若奥様は、右手に手ぬぐいを持っている。
俺の顔面がスースーする所から、多分汗でも拭ってくれていたのだろう。

…今の感触、おっぱいだったよな、多分。 …意外とあるな…。

その若奥様は立ち上がると、手ぬぐいを握りしめ、心配そうにこちらに寄ってくる。

「あ、あの、大丈夫でしたか…? ぜぃぜぃ、ぜぃぜぃって、凄くうなされてらしたので、胸でも苦しいんじゃないかと、心配になって」

それは「JJ」と言いたかったんだと思う、俺。

「いや、確かに吐きはしたけど、今はもう吐き気はないし、胸も苦しくない。 …ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。それよりもご飯はいかがです? 宴会の残り物じゃなく、暖かい物を作りますけど」
「…そうだな、もらおうか」
「それでは、ちょっと作ってきますね」

そう言って、若奥様はパタパタと部屋を出ていく。

…良い腰してるなぁ。 安産型だぜ。

だが、いざ一人になると、俺のそんな劣情は、さっきまで見ていた夢に、黒く塗りつぶされて消えていった。

「JJと仲良し、だって…? はは、どんな夢見てんだよ、俺…」


雪山で、俺は謎のヘヴィガンナー、JJと共に戦った。
だが、奴の存在は、心強いパートナーであった以上に、いろんな意味であまりにも強烈で、俺は最後、自分の人生も考え方も、何もかも徹底的に奴に論破され、打ちのめされた。
あの時の俺は、完全に心が折れて、雪の中にうずくまり、しばらく立ち上がれないほどだった。

雪山から資材を回収し、俺が依頼先であるテネス村に戻った時には、既にJJは村を去った後だったが、そこでもまた一悶着あった。

「おい、ドドブランゴはちゃんと全部、討伐したんだろうな!?」

「…クエストは、高難度で名高い『雪山の大家族』だったそうじゃが…。 ならば、若い個体も居たのであろう? だのに仲間同士で、喧嘩されても困るのじゃが…」

「お前の相棒はな、『僕の仕事は果たした』って、先に帰っちまったんだぞ! しかも、1体しか狩ってないそうじゃねーか!」

「成長したドドブランゴが、また連中が村を襲う事になったら、どうするのよ!」

そんな感じで、俺は轟々と非難を浴びせられた。
どうもJJの奴は、このクエストが「雪山の大家族」である事と、親子複数が居るということだけ伝えて、それが生まれたばかりの幼体だとは伝えてなかったらしい。

そのせいで、村を多数のドドブランゴに囲まれていると思っている村人たちが、アレコレ言ってきた訳だ。
ここらへんの連絡の拙さ、若い奴にありがちというか、いかにも奴らしい。

「全部、殺した! 大人も子供も!」

俺がそう怒鳴ると、騒然としていた村人連中は、一気に静かになる。
こっちが黙ってるとつけあがるからな、こういう連中は。

「JJは用があって途中で戻ったが、残った俺はちゃんと依頼をこなした! 狩ったのは成体が2頭、幼体が6頭だ!」

「…本当か? アンタ、8頭ものドドブランゴを、そんな簡単に、狩れたのか…? たった、一人で…?」

村の中年男性が、俺に恐る恐る聞いてくる。
前任者が死に至ったほどの高難度クエを、そんな簡単に達成できるものかと、疑っているのだろう。

「疑うのなら、見てくれば良い。 あんたらの地図で言うところの、雪山山頂・エリア5に、8体分の死骸をまとめている」

過程はどうあれ、結果としてはちゃんと依頼をこなしている。
俺は逃げも隠れもしないぜ、と態度で示すと、村長は村の若者何人かに、武器を持たせ確認に行かせた。

当然の事ながら、半日後、俺たちが依頼を完全に果たしたのが証明された。
そして、村人たちの態度も一変した。

「うおおおおおーーー!!」
「すげぇべお前! さすが街のハンターだべ!」
「頼んで良かったな! いや、良くやってくれた! カイン、シェリー、お前たちも良くやったぞ!」
「えへへー」
「カイン、良くこんな腕利きのハンターを見つけてきてくれた! これで、皆無事で、この冬を乗り切れるぞ!」
「はい、良かったです!」

手のひらを返したように、ハンパなく喜ぶ村人たち。

「良かったぜぇ…。 これで、傷ついた仲間たちも、安心できるってもんだ…」
「でも、できればこの手で直接仇を取ってやりたかったなぁ…。 スミスの奴は、もう斧を持つ右手が上がらないって言ってたし」
「そうだな、アイツには本当泣かされた。 ロベリー爺さんも死んだし、カインの母親も、怪我が直ったとしても、もう起きあがれないんだろう…?」
「ああ…。 そうだな、俺たちが失ったものは、あまりにも多い」

そう。 そうだよな。
人間にとって、大型モンスターは、人間にとって、同じ価値持つ命ではなく、脅威以外の何者でもない。
ギルドでは禁止されているが、害獣の幼体をブチ殺して非難されるなんて、意味が分からない。

「ありがとうな、マルクさん…。 疑って悪かった」
「アンタは本当に凄いハンターだ、助かったよ」

やはり俺の行動は…正しいはずだ。
正しかったはずだ。 そうだろ、JJ。

「いや何、分かってもらえれば良いんだよ」

次々と握手を求めてくる村人に俺は苦笑しつつ、そう言う。

「お礼と言っては何だが、アンタをもてなしたい…! 村長だって、嫌とは言わないはずさ、なぁ、村長!」
「おお、もちろんじゃ!」

そうして、俺をもてなす宴会は始まった。
通常、ギルド所属のハンターは、ギルドナイトでなくても、村人からの過剰なもてなしを禁止されている。
報奨金以外の現金を村人から徴発したり、用心棒として不法に居座るのを防ぐためだ。

だが、これは正規のクエスト依頼ではなかったし、少しならよかろうと、俺は宴会の興に預かる事にした。
正直な所、酒も飲みたかったし、人からおだてられて飲む酒は、さぞかし美味かろうと思ったからだ。

だが、それは間違いだった。

詩詠みの経験者が居たのか、宴会の最中、村人が突然、戯曲「銃の英雄」をアカペラで詠い始めたのだ。
多分、ハンターである俺に気を利かせたのだろう。
それをやんややんやと囃す村人達は、湧きに湧いていた。

「この話、まるで俺たちみたいじゃねーか」
「イェンシャンロンが、ドドブランゴだとすると…」


その時俺は、全身が凍り付くような一言を聞いた。

「マルクさんは、さしずめ『A GUNNER』だな!」

「うぐっ…」

それを聞いた途端に、猛烈にこみ上げてくる嘔吐感。
目の前が一気に暗くなり、全身から脂汗が出てきて、立っていられないほどの悪寒に襲われ、俺は倒れながら吐いた。

「お、おい、アンタ、どうしたんだ!?」
「食事に当たったんじゃないのか!?」
「女房どもは何て失礼な事しやがる! おい、この方をすぐに休ませるんだ!」

そして気がつけば、俺は村長宅の離れで寝ていた、という寸法だ。
だが、ベッドで寝ていても、とても休まる気にはならない。
一人静かにしていると、あの雪山での出来事や、さっきの宴会での出来事が、ぐるぐる脳裏を掛け巡る。

「マルクさんは、さしずめ『A GUNNER』だな!」

バカ言え。
俺がそんなタマかよ。
っていうか、伝説のあの人が、俺なんぞと同じ立ち位置の訳ねぇだろうが…。

そもそも、彼を俺と同列に比較する事自体、彼を侮辱している。彼は、練達の狩人の中でも、群を抜いて別格の存在なのだ。


…JJだったら、どうか。
奴なら、『A GUNNER』に並び得るだろうか…?

俺は、『A GUNNER』の事は、ギルドの記録と物語でしか知らない。
だが、JJのあの超絶的な戦闘能力も、かつて俺が見たことがないほどに極まっているものだった。

ガンナーに…。 ガンナーには「あれ以上」があるのだろうか…?
物語じゃない本物の『A GUNNER』は、どれほど強いのだろう? そして、JJは…。

「失礼しまーす」

だがその時、例の若奥様が、食事を盆に持って入ってきたので、俺は考えを中止せざるをえなかった。

「お食事どうぞ。 入らないかと思って、柔らかめに炊いてますわ」
「気がきくな、ありがとう」
「いえいえ、貴方は、この村の英雄ですもの…」
「やめてくれ、英雄だなんて」

吐きそうだ。

俺はその発言だけに耳をふさぎ、ベッドサイドで食事を取ると、その若奥様も、俺の脇に並んで腰掛けた。
妙齢の女性にしては、いささか距離が近すぎる気もするが、まぁ気にしない事にする。

だがその後も、その女性は…モーリンという名前なのだそうだが、俺をあれこれと誉めちぎってきて、会話の度に距離は縮まり、仕舞いには

密着せんばかりの距離になってきた。

「あんた、旦那さんは?」

左手の薬指には、緑色の宝石が埋め込まれた指輪。
俺が彼女を既婚者だと判断した理由がこれだが、それを問うと、彼女は少女のように口をとがらせ、足をぶらぶらさせて答えた。

「居ますけど、ドドブランゴに襲われて、寝たきりです…」
「すまん、悪かった。 余計な事を聞いてしまった」
「良いんですよ、それに、別に起きあがれないって訳じゃないんです」
「…どういう事だ?」
「一応、治りはしたんです。 ですけど、後遺症が残っちゃって、歩いたり、動いたりすると、背中に痛みがあるからって、ずっと一日、寝てるだけの生活に…。 元々、彼、ドンドルマの街で書士をしてたんです。 若い頃は、そういうインテリなのがカッコいいかな、って思ってたんですけど…」

そして、彼女は、俺の瞳を見つめた。
その瞳は、艶やかに潤んでいた。

「でも、やっぱり男の人は、やはり強く、逞しい方が素敵だと思います」

そう言って、彼女は俺の手をそっと握ってきた。

<続く>
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まとめtyaiました【「GUNNER

JJが、俺の目の前を歩いていた。暗闇の中を、たった一人歩いていた。それを見た俺は、奴を呼び止めなくてはと反射的に思い、近寄って声を掛けてしまう。「JJ! ジェイジェーイ!」「なんだ、…お前か。 どうかしたか?」そう言って、JJは振り返り、俺に柔らかく微...

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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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