女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#1(6)-12

「グォオオオ…! …オオォッ!?」

JJが起き上がりざま向けた銃口に、ドドブランゴは急に怯えたように飛びすさって距離を取る。

銃口を向けたまま、ゆっくり起きあがるJJ。
俺はその姿を…いや、その血塗れの顔を見た時、その表情には、一抹の苦痛と共に、何とも形容しがたい…。
どこか悽愴さを感じさせる笑顔が浮いていた。

「(笑顔…? お前、一体…)」

次の瞬間、JJの周囲を纏う空気が、明らかに変質した。
躊躇や戸惑い、それらが完全にふっきれ、眠っていた獰猛な何かが、目覚めるようなその感覚。
それが、極寒の大気を通して俺にも伝わってきた。

…聞いた事がある。

最上級の狩人の中には、永く戦いに明け暮れる日々を送り続けると、その精神は徐々に闘争だけを求めるようになり、いざ狩場に立てば、体は生存に最適な行動を、考えなくても自動で選択するようになる、と。

人としての在りようを徐々に忘れ、戦闘にどんどん特化しつつある、業深き自分の魂の深淵を…多少の皮肉を込めて、彼らは「獣」と呼んでいた。

そんな事を急に思い出したのは、今、JJに起こっている変化が、伝え聞く「獣」のそれと酷似していたからだ。

「ううぉ…おおぉぉぉおぉおおっっ!!」
「グォオオゥ、オウォオオオオォォオーーーッッ!!」

距離を取って雄叫びを上げるニ体の獣。

今までのスタイルとは別人のように、JJが荒々しくリロードしたのを皮切りとして、戦闘は再開された。

「グォオオオッ!」
「こいっ!」

そして、今度は戦闘の様相までもが一変していた。
今までは、JJが華麗に避けて一方的に射撃をするという展開。
それがドドブランゴの動きの細かい変化…距離を詰めての接近短打によって、避けての射撃が困難になりつつあった。
それを補うために、JJが取った方法とは、一言で表現すれば「相打ち」だった。

「ギャヒィイイッ!」
「どうした! それまでかッ!」

JJの肩から、鮮血が弾ける。
ドドブランゴの顔面からも、鮮血が舞散る。

「グゴアアアアッ!!」
「そうだ、まだまだだッ!」

JJのレギンスが破損し、肉がえぐれ、血が流れ出す。
ドドブランゴは、顔面に連射を受けて、反射的に怯む。

交錯する牙と爪、そして銃口炎と弾丸の嵐。
それらの飛沫が、パッパッと周囲の雪上に散る。

JJは、リロードや射撃の隙を捻出するために、回避のマージンを極限まで削り始めた。
余裕のある「確実な回避」を捨て、それに費やしていた時間をも、射撃に割り当てたのだ。

「(バカな…!)」

相手の攻撃を最低限…本当にごく最小限の見切りで避けて反撃。 だがそんなリスキー過ぎる戦法が、まともであるはずがない。
JJの間合いの見切りと回避技術は神がかっていたが、それでも、ほんの僅かの読み違いで、ドドブランゴの攻撃は、JJの表皮をかすっていく。

だがその表現は、決して適切じゃない。
怒り狂うドドブランゴの攻撃は、たかがかすった程度でも、まるで小さな爆発が起こったかのように鎧を砕き、JJの皮膚と肉を弾き飛ばし、容赦なくダメージを与えていくのだ。

あんな戦い方では、たとえ筋肉や腱に致命的なダメージを負わなくても、先に出血で意識が飛んでしまう。
だがそんなもの構わんとばかり、JJはドドブランゴに向かって引き金を引き続けた。

「おおおおっ!!」
「グォオオッ!」

JJの爆風の如き貫通弾の連射は、撃剣(細剣)の刺突の如く唸りを上げ、まとめてドドブランゴに襲いかかる。
もはや命を捨てた様子のドドブランゴも、その連続する圧力には、さすがに怯まざるを得ない。

「(何だよ…お前…!)」

何で、そんなに…。
そんな簡単に、命を投げ出して戦えるんだ?

「(早く…。 早く回復してくれ!)」

背中のナップザックは吹っ飛んでいたが、JJは「回復薬グレート」を持っていたはずだ。
薬を飲んで回復を促進し、出血を止めれば、まだ十分に余裕を以て戦えるはず。
もっと、安全に行けよ! 慎重に戦えよ!

「おい、JJ! 回復はどうした!」

たまらず叫んでしまったが、JJには回復薬を使おうという様子は見られない。
戦闘の中で出来る、僅かな隙。
だがその貴重な時間を、奴はアイテムポーチを探る事などなく、本当に全て射撃とリロードのみに使っていた。

俺は思わず、JJの奴は回復薬Gまでをも雪の上に散らしてしまったのかと思ったが、いくら周囲を見渡しても、散った資材の中に回復薬Gは見あたらなかった。

…持っている。 JJは、回復薬を持っている。
なのに何故、回復しない?

そこまで考えて、急に俺の脳裏に、閃くものがあった。
まさか、あいつ…。

「モンスターが回復すると思うのか?」

麓で回復薬Gを調合した際に、奴が言った言葉。
その言葉の真意が、今この状況下、戦慄とともに理解できた。

…まさか、自分だけが回復したら「不公平」だと思っているのか!?

バカな。 そんな事、ありえない!
技術向上のために、「閃光玉を使わない」という縛りを科す狩人は居る。
だが、回復薬まで縛るのは、どう考えても狂人のそれだ。

しかし、JJはこの戦闘を、「狩り」ではなく、一対一の「決闘」だと表していた。

…本気だったのか?
格好じゃなく本当に、ドドブランゴを、命を掛けて戦うべき「宿敵」と定めて、決闘をしているからか?
だからそのルールに則って、公平であるよう、回復しないのか?

でも、「決闘」をするのは、あくまでも人間を相手にした時の話。
理性ある人間相手なら、結果がどうあれ、生き残る可能性は多少ある。

だが、たかがモンスターにまで、それを科せば…。
負ければ待つのは「確実な死」なんだぞ!
…分かってんのか、テメェ!

「ジェイジェーーイ!!」

たまらず俺はそう叫ぶが、それは届いた様子がない。
噛み合うニ体の獣の戦いは、より激しさを増していた。

「行くぞ!」
「ウゥオオォォオオッ!」

中間距離からの差し合いではなく、至近距離でのドッグファイト。
JJはいつの間にか弾薬を貫通弾から、装填数が多く、クリティカル距離の短い通常弾に切り替えていた。

「ガアオッ!」
「せああっ!」

ドドブランゴの薙ぎ払う前腕の下を器用にかいくぐりながら、顎下めがけて連射するJJ。
顎下のJJを叩きつぶそうとボディプレスに移行したドドブランゴの腹の下から、JJはさらに回転回避で逃れつつ、寝転がりながら脇腹への連射。

「JJェ…」

思わず、そんな声が俺の口から漏れた。
気を抜くことが許されない近接戦闘の有様を、俺は瞬きもせずに見つめていた。
もし、うっかり目を逸らしてしまえば、次の瞬間に、JJは被弾して宙を舞っているかもしれない。
そうなった時こそ、奴を助けるために、ドドブランゴを閃光玉で拘束しなければならない。
俺は左手に閃光玉を握り込んだまま、その戦いをずっと注視し続けていた。

ダメージを受け、変化したドドブランゴの戦い方は、まさに飢狼の如くだった。
銃弾で血塗れになった全身、そこにはもうかつてのような荒ぶる力はない。 
攻撃を外す度に大きくバランスを崩しかける事からも、最早避けようのない死が、刻々と奴に迫って来ているのが分かる。

だが、それでも奴は必死に体を動かしていた。
怨念を薪火にして死にゆく体に鞭打ち、JJの影を執拗に追い続けた。
巨石の如き攻撃はいらない。
頭半分程度の石をぶつけるだけで、人間は死ぬ。
いまわの際にそれを察知したらしい奴は、小さく、細かい攻撃…しかし巨木の様な剛腕を振り回し、掴めよ当たれよと、自分もろともJJを死の湖の縁へと引きずり込もうとしている。

だがJJの奴は、竜巻を思わせるその攻撃に逐一対応し、鬼神の如き反応速度と見切りで避けまくり、容赦のない連射を浴びせかける。

「(あの攻撃を、全て避けきりながら、なおかつ射撃できるなんて…)」

正直、JJの技量の凄まじさに、心から感嘆した。
一つ一つが即死である、あの連続攻撃を避けきりながら、無茶な体勢からもポイントして反撃できるとは。
これが続けば、もしかすると、ボーンシューターでG級相当のドドブランゴを倒せるかもしれない、そんな淡い期待が胸中に湧いた。

だけど、それは都合の良い想像だとも分かっていた。
現実的に考えるなら、今のこの状況、圧倒的に不利なのはJJだ。

JJは、何故通常弾を使っているのか?
もしかすると、あの撃剣の刺突の如き圧倒的な弾幕…。
貫通弾が、既に弾切れを起こしているのかもしれない。
それなら、通常弾を使うのは分かる。

しかし、あんな気の狂ったような接近戦を挑む事はない。
いくら通常弾が至近距離であればあるほど威力が増すとはいえ、あれはやりすぎだ。
こっちが弾丸をいくら当てても、徐々にしかダメージを与えられないのに対し、ドドブランゴは一撃与えれば、それで終わりなのだ。
JJはそこで死ぬのだ。

「(ほんの少しでいい、距離を置いて闘うんだ、JJ…! それが確実だろ…!?)」

それは自身も分かっているだろうに、JJはまるで、巨大な死神の鎌の中に、自ら切り刻まれに行くかのように飛び込む。

「ボウゥアアアアアーーーッ!」

先ほど、JJの動きを拘束せしめたアイスブレス。
だが、JJは距離を取るよりも、なお肉薄し、顔の真横に転がりこむ事で、その攻撃を回避した。

「(アブねぇっ…!!)」

むしろ俺の方が、思わず声が出てしまいそうになるが、当のJJは、的確に左目に、しかも至近距離から連射を加えていた。

「グオオオオッ!!」

それを嫌がって怯むドドブランゴ。
奴は怯みざまに、周囲一体をぶんと拳で振り払ったが、JJは小憎らしいほどに冷静に、だが紙一重で回避して、続けざまに射撃する。

戦闘の間々に、ふと訪れる僅かな隙、その奪い合い。
その局地戦、盤面の一手一手を、JJは確実に奪取しつつあった。

「ゴアァァアアアァァッ!!」
「うおおぉおおぉっ!」

そして、その趨勢は、徐々にJJの方に傾きつつあった。

「(おい…まさか、何だよ、行けるのか!?)」

既に、両者出し尽くすべき手は、既に出し尽くした。
予測不可能な要素がもう無いならば、後は予定調和の攻防戦となる。 
実際、こんな極限状況下であっても、JJの対応力はすさまじく、肌をかする被弾すら徐々に減っていった。

対して、ドドブランゴはなおも怒気を周囲にまき散らし、鮮血に身を染めながら、雄叫びを挙げてJJに向かっていく。

「オオオッ! オウゥオオオォォ!」

的確に回避するJJの影に、憎しみを込めて拳を振り回すドドブランゴだったが、どんなに攻撃を繰りだそうと、その拳は届かない。

そして、徐々に…。 
だが目に見えて、拳速が遅くなる。

「(あれは、自分の意志に、体が付いてこれなくなっている証拠…。 いいぞ、奴はもう瀕死だ!)」

夥しい流血と共に力を失い、よろけるドドブランゴ。
奴がたたらを踏んだその時、さらに射撃せんと追撃態勢に入るJJだったが、そこで予想外の事が起きた。

「何ッ!?」

細かい攻撃ばかりを繰り返していたドドブランゴが、急にJJめがけて、体ごとぶつかる突進をしてきたのだ。

瀕死のフリをしていたのか、それとも最後の力を振り絞っての攻撃か。
接近短打を警戒していたJJにとって、間合い外からの強襲は想定外のものだったらしく、ドドブランゴの突進は、体半分だがヒットする。
だが、銃撃を受け、ズタズタになっていた両脚からは、かつての俊敏な動作など、望むべくもなかった。

ドドブランゴはJJをはね飛ばす事には成功したものの、それは外から見れば「たまたまぶつかった」程度で、致命傷を与えるには全く至らず、ドドブランゴは大きく伸びた体勢のまま、雪面にうつ伏せる形で突っ込んだ。

「おい、JJ…!!」

ぶつかったとは言えど、相手はモンスター。
はね飛ばされたJJに意識はあるのか、そう思って思わず声を掛けたが、JJは雪を撒きながら素早く起きあがり、ドドブランゴに銃口を向ける。

「(…なんだ? 何故、発射しない?)」

JJは発砲しない。
素早く起きあがれたのだから、ダメージはないはず。
という事は、雪面にうつ伏せたままのドドブランゴが起きあがるのを待っているのか?

「(おい、ダウンしてても死んでても、どっちでも構わないだろ、確認する暇があったら撃てよ! …いや、まさか)」

…通常弾までもが弾切れなのか!?

俺がそう思っていると、ドドブランゴはむくりと起き上がった。
そして、JJが銃を構えている姿をしばらく見て…。


観念したようにゆるゆると右手を上げ、頭を垂れた。

「…!!」

衝撃だった。
その姿は、まるで人間のようだったから。
このドドブランゴは激闘の果て、自らの意志で敗北を認めた。

「(…そうか、JJはこれが分かっていたから、最後、撃たなかったのか…!?)」

こんな事が、本当にあるのか。
俺は、我知らず感動していた。

普通、狩猟の相手はただの「獲物」だ。
そこには何の精神的交流もない。
だが、JJは、この戦いを決闘と見立てる中で、この個体を一個の雄として認め、男同士、堂々と戦い抜いた。

お互いの存在理由を示しあう「決闘」を、モンスターを相手にしても行う。
そんな愚行を行う理由は不明だが、とにかくJJの教示は、このドドブランゴに、確かに届いていたのだ。

まさか、人間とモンスターとで、「決闘」が成立するなんて…!

「はあっ…!」

それを見たJJは、剣を血ぶりするように砲身を振り、大きく息をついて、リロードする。
それは身に染み着いた、無意識の動作だったろう。
砲身からガキィン、と小さく…。
だが確かに響いたその音は、決闘の最後、騎士が軍神に捧げる祝詞のよう。
それはまさに、JJの勝利を告げる宣誓だった。


雪山に、静寂が訪れる。
雲間から薄く差し込む陽光。

ドドブランゴは、しばらく、JJの顔を見つめ続けていた。
JJも、しばらくドドブランゴの顔を見ていた。

あれほどの激情をぶつけ合い、全て発散したせいだろうか、ドドブランゴの顔に浮いていた鬼相と、JJの顔に浮いていた凄惨な笑顔は、いずれも消えていた。

陽光で冷たさの緩んだ風が、ふわりと二人の周囲にそよぐ。
黄金の陽光が、雪面を波間の如くゆらゆらと移ろう。

太陽が雲に隠れ、空気に冷たさが戻ると、ドドブランゴはJJに背を向け、その場を去るべく背を向けて、脚を引きずりながら立ち去りはじめた。

…瀕死の重傷だと思っていたのが、まだ歩ける余裕があったのだろうか。 それとも、これこそが野生の姿か。
去るドドブランゴの後姿を、静かに見送るJJ。

野生の世界では、縄張り争いに破れれば、そこで雄としての格付けが済んでしまう。
自ら降伏を申し出た以上、奴はこの山を去り、別の山にて縄張りを探しに行くことだろう。
もしかすると、JJの「決闘」は、それを狙ったものだったのか。

…いや、やはりあの出血量では、ここを去るのは難しいかもしれない。
やはりどこか、人知れぬ所で死ぬつもり…

「…あ」

いや、それはダメだ!
あいつが瀕死なのに動こうとしているのは、それが理由か!

ドドブランゴの思惑を悟った俺は、火炎弾をリロードすると、閃光玉をポーチから取り出し、一直線に駆け出す。

ヤバい。 アイツ、あそこに行くつもりだ。

…行かせねぇ!!

「何やってんだ、JJッ! 見逃す気かッ! ヌルい事やってんじゃあねーぞッ!」

俺はそう叫ぶと、瀕死のドドブランゴに止めを刺すべく駆けだした。

マズい。
本物の「決闘」は、勝者は敗者の死を悼んで幕を閉じる。
このまま放置しておけば、JJは奴の死を看取りに行くかもしれない。
それだけは避けなくては。
今、奴をここで殺さなくては!

瀕死であっても、ドドブランゴの歩行速度はかなり早い。
だが、奴が脚を怪我しているのと、位置的になんとか追いつける距離にあって、なんとか間に合った。
あとは…閃光玉!

「食らえッ!」
「ホォオオオンッ!?」

予期せぬ猛烈な光を浴びて視界を失い、足を滑らせ転倒するドドブランゴ。

…雪山の主が、雪の上で転がってんじゃねーよッ!

俺は「金華」を構えると、今度こそと火炎弾を乱射した。
残った右目をも潰すべく、瀕死ゆえに無抵抗の相手の顔面に、容赦なく弾丸を降らせた。

「グギャアアアアァァアッ!!」

…死ね! お前はそこで、そのまま死ねッ!

「止めろーーッ!」

この惨劇を見ていたJJの奴が、俺に向かって猛然とダッシュしてきた。
そりゃそうだ。
だが俺は当然、銃撃を止めたりしない。
一刻も早く、こいつの息の根を止めるために、全速力でリロードし、最速で弾丸をブチ込み続ける。

「何してる、お前ッ!」

JJの奴は、俺にタックルをかましてきやがった。
それで、俺とJJの二人は、もんどりうって雪上に転がる。

「何しやがる、お前!」
「それはこちらの台詞だッ! 僕と奴の決着は付いた! 奴は自ら、雄としての教示を曲げて、敗北を認めたんだ! この先に残された時間は、もう彼だけのものだッ!」
「何言ってんだ!? てめぇ、クエストの中に勝手に、自分ルールを持ち込んでんじゃねーぞッ! 村長たちの要望は、ドドブランゴの全頭全滅だったろーがッ! 何をのうのうと逃がしてやがんだ、てめぇ!」
「もう彼は、このままでも死ぬ! 彼が自らそう言ったから、僕は決闘を止めたんだ! 仮に、彼がこのまま生き続けられたとしても、縄張り争いに破れたまま、この雪山に主として居続けたりはしない!」

それは、俺とて分かってる。
それこそが、野生の掟である事くらい。
だが、その理屈を通してはダメなんだ。

「そんな保証があるかッ! 奴は、ここで確実に仕止める事こそが、狩人の『確実な仕事』って奴なんだよ! 退けッ!」
「…この、分からず屋がッ! お前、今まで、狩人として、何を見てきたッ!」

逃げようとする俺と、抑えこもうとするJJ。
取っ組み合いになっている中で、あのドドブランゴの方に視線をやれば、くやしい事にアイツはまだ生きていた。
そして、動かない足を引きずりながら、エリア5の方に向かっていた。

俺はダメ元で閃光玉を投げたが、この位置からでは、ドドブランゴの脚が照らされただけに終わった。

「お前…!」

抵抗する俺を、JJが上からさらに押さえつける。

…ダメだ、もう、間に合わねぇ…。

「ちきしょう…」

俺が力を抜くと、JJはそれを降参の証と取ったのか、取っ組み合いから離れた。

「何だテメェ…。 一体よぉ…」

俺は体を起こしざま、思わずJJに毒づいた。

「俺の言うことも聞けよ! パートナーの邪魔をするとか、何考えてんだ、テメェ! 俺はお前の言い分を聞いて決して手を出さなかったし、死なないように閃光玉も準備してたんだぞ!」

「それは必要ない、と言わなかったか!? 閃光玉による拘束も、無用な追撃も、どっちも僕には不要だ!」

「ふざけんなッ! 野生の生命力をナメんなよ! 奴が隠れて、また村を襲ったら、お前どう責任取るつもりなんだよ! 奴は、あそこで殺しとくのがベストだったんだ!」

「…なら、見に行ってみるか?」

…え?

「僕が、彼との戦闘の中で感じた事と、お前が今まで積んできた経験…。 どちらが正しいか確かめるか? と聴いている」

それは…。
奴の血痕を追跡して、その最期を看取るという意味か。
あの怪我では、どうあってももう、他の山々…新しい縄張りの所までは行けまい。

だから、奴はあそこに行くはずだ。
バラバラになった自分の大切なものをかき集めて、あの穴ぐらで死ぬはずだ。

だけど、それは…!

「どうした? 行かないのか? 僕の主張だけじゃない。 公平にお前の言い分も聞いて、奴の最期までをきちんと確認しよう、と言ってるんだぞ。 それでこそ『確実な仕事』だろう?」

いや、そうじゃない。
俺はそういう事を言いたかったんじゃない。

「この血痕を追跡するにしても、途中で見失ったら、どうすんだよ…」
「その時は、僕が責任をもってこの村に留まり、奴を探し出して、もう一度狩る」

JJは、軽くそう言った。
だけど、それはありえないと、内心そう思っているのだろう。 だから、そんな軽薄な事が言える。
だが、その見立ては多分正しい。

全身から、じっとりと冷や汗が出たのが分かる。 
吹雪の冷気に晒されて、体温がいくらも下がった気がした。
この場を言い繕う方法を探したが、見つからない。
答えが出るより先に、JJの奴は催促してきやがった。

「どうした? 自分の発言に、自信がないのか?」
「…わ、分かった…。 じゃあ、見に行こう」
「よし」

畜生…。
どうすりゃ良いんだ、これ…。
いっその事、あそこにたどり着く前に、力尽きてないものか。
もし、JJと激突するような事態になったなら、なんと言って取り繕うべきか…。
やはり、村の事を盾にした方がいいのか…。

俺とJJは、ドドブランゴの血痕を辿りながら、エリア5に行くが、JJの奴は、血痕がベースキャンプの廃墟の中に通じている事に驚いていた。
入口を覆い被していた雪は、俺の予想通り、ここがねぐらですと言わんばかりに、豪快にはねのけられている。

「まさか、ここに奴らの巣があったとはな…」

あのドドブランゴの最期を看取る気のJJは、神妙な顔で穴ぐらの中をのぞき込む。
俺は穴ぐらの外で待っていたが、JJが入り口から穴の中を覗きこんだ途端、体が硬直し、息を飲む音が聞こえた。

実際、穴ぐらの中がどんな光景になっているのかは、ここからは俺には見えない。

だが、容易に想像はつく。
多分、あの父親ドドブランゴは、惨殺された母親ドドブランゴと、黒い肉塊と化した我が子たちを、抱いたまま死んでいるだろう。

JJは、穴ぐらから顔を戻すと、沈痛な表情で、鉤状に曲げた右手の人差し指を、顎にあてた。
そして、ポツリと言葉を漏らす。

「そうか…だから、彼は、あれほどの怒りと、憎しみを、僕に…」

それは抑えた口調だったが、溢れんばかりの怒りで、語尾が震えていた。

そして、こちらに向き直ると、刺すような鋭い視線で、俺を見た。
その表情には、ありありと怒りの炎が浮いている。 

そして、穴ぐらの中を指さして、こう言った。

「これは…。 …何だ、これはッ!! お前ッッ!!」


<続く>
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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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