女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#1(6)-11

場面は、シャルルとビアンカが死闘を繰り広げていた「雲龍の宴」亭から、ドドブランゴとJJ、そしてマルクが一面に会した雪山へと戻る。


手負いだったはずの、ドドブランゴの形相は一変していた。
高く怒らせた肩、逆立つ背毛、口角からはフッフッと息を漏らし、右目周辺からは、血がダラダラと流れ続けている。
そして顎に付着している、夥しい血痕。

「…何だ、アレは!?」

その豹変ぶりはあまりにも異質で、JJが思わずそう口走ったのも分かる。

「何か…あったのか?」

俺にはその理由が、一目で分かった。
幾重にも浮いた眉間の皺と、血走った目、そして食いしばられて剥き出しになった歯茎は、鬼相の証。
奴は、怒っているのだ。 それも、とんでもなく。

家族を守るために、あるいは殺されての狂暴化。
これが、高難易度の所以か…。

多分、奴はどこかを経由してから、休息を取るべく、あのねぐらに戻ってきたのだろう。
そして、あの惨劇を見たのだ。
自分の妻と子供たちが惨殺されている光景を。
それを見て、今どうしようもなく慟哭しているのだ。

…直感で理解できる。
この、遠くに離れていても、辺り一面を焼き尽くさんばかりに伝わってくる憤怒。
まさに怒髪天の炎の如く逆立った体毛。
偶然だろうが、左目から迸る血液は、まるで家族を失った、悲嘆の涙のようにすら思えるのだ。

…そして、そのドドブランゴが、ふと俺たちを見つけた。

一瞬だけ交錯する、俺たちとドドブランゴの視線。

「グォ…。 オゥオオオオ…! グゥウオオオオオアアアアァァァアアアーーーッッッ!!!」

距離が遠いのと、割れた音で、最初は別物かと思った。
だがそれは間違いなく、俺達を「仇」だと認識した、ドドブランゴの怒りの咆哮だった。




「…どうした? あの変貌ぶりは…!?」

そう言われて、俺は躊躇する。
JJは、奴が怒り狂ってる理由を知らない。
そんな疑問も当然だったが、なんと答えたもんか悩む間もなく、ドドブランゴが砲弾と化してこっちに突っ込んできた。

「!」
「うおお…っ!」

左右に飛びすさった俺たちの間を、バフゥァ、という音とともに爆風が駆け抜けていく。 
全身を叩くその風圧に、俺の魂が凍り付いた。

ヤベエ。 これは怒り、なんてもんじゃない。
煮えたぎる怒りと底知れぬ悲しみが一気に凝縮された、純粋な害意。

どんな低級な動物にも、原始的な感情はある。
まして多少なりとも知恵の発達した動物なら、ある程度意志めいたものすら感じ取れる。
それは普段動物と触れあう畜産農家や、動物を飼った事がある人間なら誰でも分かるだろう。

「グゥウオオオォォォオッッ!!」

だが、俺たちに襲いかかってくる、そのドドブランゴの表情には、もはや殺意しかなかった。
俺たちを全力で打ち砕き、骨の一片までも噛み潰し、形が残らなくなるまで引き裂いてやる、そんな怨念にも似た激情。

「いいだろう…! 戦う気になったのなら、存分に戦ってやる!」

JJがそう叫んでボーンシューターを展開するが、俺の内心には不安しかない。 

お前、大丈夫なのか。
そいつは、お前と戦っていた、さっきまでのそいつじゃ、ないんだぞ…!

「父と、子と、精霊の名に掛けて…! お前の一切合切に、決着を付けてやる!」

JJは、そう決闘の宣誓をすると、交戦に入った。
決闘なんだから、俺は引いていた方が良いよなと思い、ドドブランゴにタゲられないよう、閃光玉の有効射程ギリギリまで下がる。

「JJ、気を付けろよ!」

JJは返事の代わりに、激しい銃撃で応える。
そのまま連中は交戦に入ったが、俺の心配などまったくの杞憂、戦闘そのものはさっきの再演で、怒り狂うドドブランゴを実にうまく捌いていた。

「(ああ、そりゃそうだな…)」

改めてそう思う。 
どんなに怒り狂い、全力で襲いかかってこられた所で、実はあまり大差はない。
元々大型モンスターの膂力は、人間の力など遙かに凌駕しているのだ。
それをハンターが狩る事ができるのは、人間の方が知恵と速度、そして相手の隙を見いだす能力に勝っているから。

もとより当たれば必殺の一撃、それが大振りになったところで、どれほどの脅威たりえるか。
むしろ、ハンター側としては、隙のない技を細かく当ててくる奴の方がやっかいなのだ。

怒りに震え、めくらめっぽうに攻撃を繰り出して、さらに隙だらけになったドドブランゴ。
既に銃撃で顔面は裂け、鮮血で紅く染まりつつある。
これは行けるか、そのまま押し切れるか…と思ったその時、突如として均衡は破れた。

それは、ドドブランゴの突進にJJが貫通弾を合わせたその時。
ドドブランゴが一瞬、怯む様子を見せたのだ。
そこに、JJは追撃をすべく、リロードをしたのだが…。

ドドブランゴは、怯んでいなかった。
左目周辺はもう鮮血で真っ赤だったが、もはや視界など必要ないといった様子で、目を潰される事を恐れず突っ込んできたのだ。

「何ッ!?」

その予想外の事態に、JJの反応が一瞬遅れた。
それでも、軽さとしなやかさ…回避力に優れたナルガXシリーズの性能はさすがで、通常なら確実にヒットしている攻撃からも、まさにギリギリでその攻撃圏から逃れてみせる。

だが、ドドブランゴの執念は想像を越えていた。
ラリアットが届かないと分かったその刹那、腕をJJの方に、ちぎれんばかりに振って延ばしたのだ。
無骨な手も、節くれだった指も、その黒ずんだ爪も、JJの脳味噌を刺し貫く事を求めて、極限まで延ばす。

そして、その執念は届いた。

「JJーーッ!!」

吹雪の中、血の華がバッと空に咲いた。

そしてあのJJが、雪の上を無様に転倒して滑っていく。
攻撃はヒットしてないのだが、ドドブランゴの爪先が、ほんの少しJJの頭皮をひっかいたらしい。

だが、元々凄まじい剛力を持つ、大型モンスターの怒りの一撃は、たかが爪先とて、とんでもない破壊力を持つ。

JJの側頭部の皮膚はバックリ避け、そこから耳や肩を濡らすほどの、夥しい量の出血をしていた。
しかも、起きあがる際に、わずかに脳しんとうを起こしているらしい。
当人は間髪入れず起きあがったつもりだったろうが、その足がブルブル震えていたのを、俺は見逃さなかった。

…あの状態で、追撃を受けたら、死ぬ!

「ジェイジェィィーッ!!」

そう思った俺は、叫びながら戦闘の輪に駆け寄ると、アイテムポーチの中に手を突っ込み、閃光玉を取り出して、ドドブランゴの振り向きに合わせて投げた。

「…ホォォオンッ!?」

成功した! 
ドドブランゴは目を覆う動作をし、俺はすかさず「金華」を構えて、顔面に火炎弾をぶち込む。
幸運にも、ちょうど上手い具合に火炎弾がヒットして、元々傷ついていた牙は、熱膨張に耐えられずボッキリと折れた。

「グギャヒィッ!」

それでバランスを崩したのか、転倒するドドブランゴ。
今だ! JJが復帰するその前までに、こいつを叩く!
敵はもうこいつだけなんだ、閃光玉も出し惜しみする必要はねぇ!

そう思った俺は、火炎弾をリロードし、しっかり顔面に…。 
JJのように左目に狙いをつけて、ドドブランゴに撃ち込む。

バン。
「ヒィッ!」
死ね!

バン。
「グヒゥ!」
食らえッ!

このまま、奴が死ぬまで押し切ってやる…!
そう思っていた俺だったが、不意に体勢を崩し、3発目の銃弾は逸れて飛んでいった。

「止めろッ!!」

顔半分血塗れのJJが、肩を掴んで止めたのだ。

「何しやがる、JJッ!」
「これは、僕と奴との決闘だ! さっきも言っただろう! お前は、決着を見届けるだけで…、それだけで良い!」
「何言ってやがる! 俺が間に入らなきゃ、お前やられてただろうがよ! それに、これだってサポートのうちだろうがッ!」
「追撃など避けられたッ! …どけっ! これは、僕と彼との決闘だ! その戦いを邪魔するな!」

そう言って、JJは俺を突き飛ばす。

”…邪魔? …俺が?”

その単語を聞くと、不思議と俺の全身から、力が抜けるように消えていった。

「…何なんだよ…。 てめぇ」

なんで、そんなに決闘に…ソロにこだわんだよ。
バカじゃねぇのか、お前!

「グアオッ!」

JJはもつれる足を必死に動かし、今は回避だけに専念していた。 脳しんとうのダメージが完全に回復するのを待っているのだろう。

だが、この状況下において、ドドブランゴの動きが変化しつつあった。

動きが、細かくなったのだ。
さっきの一撃で、この敵を倒すには強力な攻撃は要らぬと学習したのか、それとも瀕死のため、もう大きな動きができなくなったのかは、分からない。
だが奇しくも、それこそが狩人にとっては最もやっかいな動作であり、細かいショートダッシュや、読めないステップを繰り返しながら、ドドブランゴはJJを追いつめる。

…悪い流れだ。

むろんJJとて、回避しながら器用に一発を当てていくのだが、我が身を捨てて、もう撃たれる事を覚悟しているドドブランゴには、致命的な隙がない。

ドドブランゴが前足を上げ、大きく息を吸い込む。
ブレスだと判断したJJは、距離を取って反撃しようとしたが、

「ボバァアァァアアアアーーーッ!」

ドドブランゴのアイスブレスが、延びた。
魂すら吐きだしても構わぬと言いたげな、乾坤一擲の一撃。 
ブレスに含まれた水分は、過冷却によって、JJの鎧に触れると同時に結晶化した。

「しまったッ…!」

距離こそ離れていたせいで、威力は拡散していたが、JJの鎧は一面に霜が張ったように凍り付き、たちまち動きが鈍る。

…ヤベェ、あれは死んだッ!

「グゥウオオオォォオオオオーーーッッ!!!」

殺ったり、と言わんばかりのドドブランゴの振り降ろしの一撃。 
JJは、雪面を転がって回避しようとしたが、完全には避けきれず、背に一撃を喰らい、背負っていたナップザックが引き裂かれて、ドリンクや肉などの資材がこぼれ落ちた。

「ジェイジェィーーッ!!」

来るな、邪魔だ、と言われていた。
足は踏みとどまっていた。
だけど、何故か声を上げずにはいられなかった。

JJは銃を抱えたまま前転を繰り返し、しゃにむに距離を取ろうとする。
だが、その動きを把握していたドドブランゴは、JJの動きに追随し、その起き上がり様を攻撃しようとしたが…。

「グォオオオ…! …オオォッ!?」

JJが起き上がりざま向けた銃口に、ドドブランゴは急に怯えた様子を見せ、飛びすさって距離を取る。

銃口を敵に向けたまま、ゆっくり起きあがるJJ。
その姿には…いや、その血塗れの顔、その表情には、一抹の苦痛と共に、何とも形容しがたい…。
どこか悽愴さを感じさせる笑顔が浮いていた。

「(笑顔…? 何で、お前…)」

次の瞬間、JJの周囲を纏う空気が、明らかに変質したのを感じた。
完全にふっきれ、眠っていた「何か」が、目覚めるようなその感覚。
それが、雪山の冷気を通して俺にも伝わってきた。

…聞いた事がある。

最上級の狩人の中には、永く戦いに明け暮れる日々を送り続けると、その精神は徐々に闘争だけを求めるようになり、いざ狩場に立てば、その肉体は生存に最適な行動を、考えなくても自動で選択するようになる、と。

人としての在りようを徐々に忘れ、戦闘にどんどん特化しつつある、業深き自分の魂の深淵を…多少の皮肉を込めて、彼らは「獣」と呼んでいた。

そんな事を急に思い出したのは、今、JJに起こっている変化が、伝え聞く「獣」のそれと酷似していたからだ。

「ううぉ…おおぉぉぉおぉおおっっ!!」
「グォオオゥ、オウォオオオオォォオーーーッッ!!」

距離を取って雄叫びを上げるニ体の獣。

今までのスタイルとは別人のように、JJが荒々しくリロードしたのを皮切りとして、戦闘は再開された。

<続く>
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ため息出るほど面白いです・・・
  • posted by 塩 
  • URL 
  • 2012.02/07 15:30分 
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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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