女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#1(6)-10

戦闘の最中、シャルルはビアンカの足元に注意する。
彼女の異常な体速の秘密を探ろうとしたのだが…。

「(不思議な事に、彼女の周りだけ、時間が止まってるような感じなのでござるよ)」

あの3人組の言葉がふと脳裏に浮かぶ。
実際に見て、シャルルは戦慄に体を凍らせた。

…普通なのだ。

余計な力は入っていない。 
全く無駄な動きがない。
おかしな所は、どこにもない。

だから、逆に意味が分からない。

ビアンカの足元に注目すると、普通に歩いている。
なのに間合いを計り距離を置くと、その移動速度は尋常じゃなく早い。

…自分が、時間の流れの遅い世界に取り残されたような感覚が、本当にした。

「(何…!? どうして!? …どういう理屈なの、これ!?)」



さっきのビアンカの練気は、この技…機動力を最大に生かすためのものだったのか。
だが、それが分かった所でどうしようもない。
幻覚なのか、それとも本当に彼女が加速しているのか、シャルルには糸口すら掴めないのだ。

「てぇい! せぇっ!」

速く。 何よりも速く。 彼女を凌ぐほどに速く!

そう思って渾身の突き、蹴りを繰り出すが、ビアンカはその思いをあざ笑うかのように避け続ける。

「あっはっは! どしたん!? そんなおっそい攻撃、いつまで続けても、絶対に当たらんで!?」
「(速い…)」

彼女はまるで迅竜・ナルガクルガの如く飛び回る。
どんな攻撃も、彼女には全く届かない。
この絶対的な体速の差は、正直絶望的だった。

だが…。 闘いは速度だけで全てが決まる訳じゃない。

「え…?」

優位に立っていたはずのビアンカの顔に、ふと焦燥の色が浮いた。

…正直、速度では圧倒される。 それは認める。
しかし、ここはだだっ広い闘技場ではなく、狭い室内。
足の早さを生かすには不向きな場所だ。

シャルルは牽制技を繰り出しつつ、徐々に、ビアンカを部屋の隅…ベッドの方に追いつめていた。
ここならば、部屋を丸く使って回り込む事は不可能。

そして、ビアンカは追いつめられている事に自ら気づいた。
ここがチャンス、と思ったシャルルは、無理を承知で一気に攻勢に入る。

今度こそ距離を詰めて、乱戦に持ち込む。
さっきの攻防を見る限り、ビアンカにも格闘戦、特に柔法の心得がある可能性が高い。
無傷ではいかないだろうが、練気していない上半身、特にボディを狙っての一撃を加えて倒す。
力を込めた一撃なら、確実に通るはずだ。

そう思ったシャルルだったが、相手に肉薄しきった時、今まで防戦一方だったビアンカが、ローキックを繰り出してきた。

「!?」

…反撃!?

それはそうだ。
これだけ追いつめられていて、反撃しないなどあり得ない。 当たり前の事だ。
そう覚悟したシャルルは距離を詰めざま左膝を上げて、ビアンカの右ローをガードしようとしたが…。

「うぐっ!?」

ビアンカの右ローが、空中で華麗に軌線を変えて、側頭部へと襲いかかってきた。
反射的に左腕でブロックしたものの、ガードの上からでも薙ぎ倒されそうな、強烈な一撃。
もしまともに喰っていたら、確実に気絶していた。

「…!?」

衝撃のあまり、いまだ硬直状態にあるシャルルの視界に映ったものは、右ハイの戻しから軽快にステップを踏み、左ミドルに移行するビアンカの姿。

右肘を下げて、エルボーブロック…!
…今度のは、フェイントじゃない!

確かに、ビアンカの左ミドルは、フェイントではなかった。
だが、それは触れる程度の軽さ。
シャルルの右肘をパンと叩くやいなや、左ミドルは引き込まれ、そのまま水月(鳩尾)を狙う、後ろ踵蹴りに変化した。

ブロックは間に合わない。
覚悟を決め、鍛え上げた腹筋で止めるシャルル。
ドズン、と砲丸が腹にブチ込まれたような衝撃。
だが、この攻撃は折り込み済み。
反撃しようと試みた…が、予想以上に練気の防御を貫通したダメージが、シャルルの横隔膜を刺激し、足が硬直して動かない。

「(しまっ…)」

シャルルの目の前にあるのは、ビアンカの背中。
その影がふわりと浮きあがり、長い脚が弧を描いて、二条の殺気と共に、自分の頭上に降り注ぐ。
ガガンという音と共に落雷のような一撃、間髪入れずに二撃。

「ぐあぅ、うっ…!」

こちらの足を止めておいて、頭上からのオーバーヘッドキック。
しかも、一撃目でガードを払ってからの二撃目という、徹底的なほどの容赦のなさ。

シャルルは右腕で初手をブロックし、そして続く殺気に反応して二撃目を左腕でブロックできたが、それは全くの偶然…。 戦場で闘い続けてきた長年の勘と反射神経のなせる技だった。

「(重い…!)」

だが、今のブロックで、両腕は使いものにならなくなった。
攻撃が尋常じゃなく重い。
折れてはいないようだが、感覚がないほどにシビれている。

「ぐ…。」

強い。 この人、本当に強い。

シャルルはここに至って、ビアンカは、自分をナメていた訳じゃない、という事を感じつつあった。
常時、狩り場を走り回るガンナーの脚力は、時に剣士をも上回る。
仮に練気の力が弱くとも、元々の筋力が圧倒的に上回っているなら、話は別なのだ。

…自分こそが、「ガンナーの脚力」というものをナメていた。
あの機動力、そしてあの蹴り技を十全に発揮するには、足に気を集中させるだけで十分だったのだ。

「…嘘やん、何で!? つーか、初見であれを全部止めるとか、アンタ、人間か?」

今のは、彼女にしてみれば必殺の連撃だったのだろう。
だがシャルルの心中は、ビアンカの賛辞とは裏腹に、恥ずかしさで一杯だった。

「打ち合いになって負けるはずがない」というのは、裏を返せば「自分より鍛え上げた人間がいるはずがない」という前提での話。
自分に叶う力量を持った人間など、そうそういるはずがない…と、心のどこかで驕り高ぶっていたのだ。
それを、今こんな形で思い知らされている。

思わず、本音が口をついて出た。

「…あきれちゃうわ、なんて想像以上…。 本当に強いのね、貴女」

ビアンカは返答せず、困ったように鼻で笑った。

「つーか、こんだけ暴れてんのに、誰も来えへんって、どういう事? 都会って、こんな他人に無関心なん?」
「私たちが暴れすぎてるから、怖くて来れないのかもよ」

追撃を避けるため距離を取ったが、ビアンカに追う様子はない。
チャンスなのは分かっていたろうに、ほとほと甘い相手だ。 

「(…いや、これも彼女の余裕なのかも)」

そう思った瞬間、シャルルはビアンカを遂に格上だと認めた。

自分の驕りを、素直に認めよう。
この世にはまだ、自分以上の強者がゴロゴロしている事を、逆に教えてもらった。
見識を広めてもらった事に、素直に感謝しよう。
そしてそれを彼女に伝えよう。

…この拳で。

鍛え上げた自分の体は、この僅かな時間にもある程度回復し、やっと腕も足も言うことを聞いてくれるようになった。

「…まだやる気? アンタ、本当に大したもんやな」

再度、突進からの乱打に持ち込む構えのシャルル。
対するビアンカは、腰に手を当てたまま、何の構えも取っていない。
もしかすると、接近単打を誘っているのかもだが、弓師のくせに、あれほど格闘戦にも堪能なのも意味が分からない。

…でもそんな事はどうでも良い。
頂点に近くなればなるほど、理屈なんて通用しない、化物じみた連中ばかり。

ただ、現実だけを見ろ。 
彼女は強い。 彼女は速い。
それだけで良い。

本来の目的はとうに消え失せ、武人としての誇りをいたく刺激されたシャルルは、ただビアンカに一撃を加える事に意識を集中し始める。

…スピード。
スピードだ。

当てさえすれば倒せる。 肝心なのは、当てる事。
だが、彼女についていくためには、自分も全ての力を、速さに傾注するしかない…。

意識を、速度に持っていくんだ。
前後だけじゃなく、左右も。
彼女の動きを、見逃すな。

「せぇっ!」

牽制を交えつつ、激しいフットワークを駆使して追い、捌く両名。 
だが、地の利はシャルルにある。 ビアンカがどう動こうと、この狭い部屋では、駒の少ない盤戯のように、徐々に手詰まりへと追い込まれていく。

相手の主力武器は、ほぼ間違いなく蹴りのみ。
そんな予感がある。 
だがさっきの攻防で、リーチは既に見切った。

「(…今っ!)」

蹴りのギリギリの間合いから、一気に射程を詰めたシャルルは、いきなり右のショートストレートを放つ。

「!!」

相手を一撃で昏倒せしめる一撃。
だが、ビアンカはそれを腕の小さな円運動で払い飛ばす。
しかしシャルルは、それすらも学習していた。
螺旋の防御に巻き込まれまいと、捌かせぬ程の速く小さな連打。 
…これこそ、シャルルが望んでいた形。
バシィバシッバシ、と、両者が拳を撃ち合い、払い飛ばし、捕まれるのを引き、距離を開けられるも、追いかけ詰める。

「ぐ…!」

執拗な連続攻撃を受け、ビアンカに焦りの表情が浮く。 

「(…ここだ!)」

一瞬の隙を見いだしたシャルルは、幻惑の手を交えつつ、左ジャブから右ストレートを放つ。
それを払い飛ばそうとしたビアンカだったが、シャルルの右ストレートが、肩を掴んでいる事に気づく。
シャルルの本当の狙いは、ワンツーに続く「顎への頭突き」。 頭蓋を揺らして、相手を昏倒させる!

「わぷっ!?」

しかし、それすら読んでいたビアンカは、胸を大きく反らすと、自分のおっぱいでシャルルの頭突きを受けた。
巨乳に埋もれる形になったシャルルは、急に何か妙に悔しくなって、ビアンカを突き飛ばし、慌てて距離を取る。

「…くっ!」

「…ははは」

ビアンカの表情に、砕けた笑みが浮かぶ。

「いやぁ、参ったわぁ、もう…。 しょうがないな」
「…?」
「正直、ここまで追いつめられるとは、思わへんかったわ」
「…!」

シャルルの表情に、一瞬、歓喜の笑みが浮かぶ。
格上だと思ったこの強敵に、自分の攻撃は通じている。
徐々ではあるが、でも確実に詰め寄っているのだ。

「で、アンタ…。 ウチが、何で半分しか練気してへんかったか、分かってるよな?」

それは分かっている。
機動力と、蹴り技を十分に使うため…。

ビアンカはシャルルを見て、心底感服した表情で、言った。

「ウチ、アンタの事、ナメててん」

…え?

「正直、これくらいでええやろ、って思ててん。 だから、半分だけ。 でも、こっちも予想以上っていうか、信じられんくらい強かったわ、アンタ…」

シャルルは混乱していた。

「仕方あれへんから、本気、出したる」

ビアンカが何を言っているのか、分からなかった。

「え…!? 本気…?」
「ああ。 ウチに真の力出させるとか、マジで大したもんやで、姉ちゃん」

すると、ビアンカはベッドのシーツを掴み、一足飛びにこちらに向かってきた。

「(!?)」

何かヤバい。
道具を使った奇襲攻撃は、予想できない結果になる。
避けるべきか? それとも立ち向かうべきか!?

だが、その逡巡がまとまるより早く、ビアンカは、ベッドシーツをシャルルの眼前に翻す。

「(…目くらまし!?)」

視界を遮るベッドのシーツ。
だが、そんな子供じみた騙し手にはひっかからない。
僅かにバックステップを踏んで距離を置き、ビアンカの次の手…おそらくは、意外な箇所からの攻撃を待ち受ける。

…来たッ!

ビアンカは驚くべき速さで、だが普通にベッドシーツの影から飛び出してきた。

「そこっ!!」

不審なほどに、全く捻りのない攻め手だった。
だが出てきたのならば、遠慮なく叩かせてもらう。
これこそが最後のチャンスと、全力の一撃を放つシャルル。

…奪った!!

一瞬、そんな確信が脳裏に浮かぶ。
シャルルの拳は、真っ直ぐにビアンカの顎を打ち抜いた。

そして、その背面の空間までも。

「(…え?)」

豪快な空振りに、体が泳ぐ。
手応えが、ない。
間違いなく、自分の拳は、彼女の顎を捕らえたはず、なのに。

何を見ていた? 
もしかして、錯覚だったのか?


「ごめんな」

突如、延髄にガンと広がる強烈な衝撃。
全身から力が抜け、たちまち眼の前が暗転していく。

「(何故…?)」

床に倒れ込む直前、振り向いてみれば、目の前に居たはずのビアンカは…ベッドシーツを握ったまま、シャルルの真後ろに居た。

最後に見たのは、ビアンカの申し訳ないような表情と、自分を抱え込もうという動作。

「(…負け…たの…?)」

打撃を受ける刹那、練気で後頭部を防御していた。
だが、今度のビアンカの手刀は、それすら見越した一撃だった。

<続く>
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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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