女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」#1(4)

「ぐぅっ…! うがぁっ…!!」

「ああっ!!」

シャルルが逃亡を果たした翌日、場面はノーブル城、クリス王子の私室。
室内の調度品をメチャクチャに破壊し、破片が床に散乱している中、クリス王子は鎧姿のまま、ベッドの上で身もだえていた。

…最も、この鎧を脱ごうとしても、もうそれは叶わないのだが。




「ぐ…」

王子の喉から、呻くような声が漏れる。
イルモードの漆黒の瞳を思い出す度、不安と屈辱で、身を焼き籠手で引き裂かれそうな思いだった。

エイグリル将軍が隠し持っていた黒龍の鎧の「脚」。
シャルルがそれを装着した事を、鎧の共感能力で知ったクリス王子は、シャルルの逃亡を察知、自身も鎧の力を使って追いかけた。

追跡中、王子の中には、いくつもの淡い期待があった。
周囲からの尊敬の視線が得られると思っていた。
シャルルを捕獲し、直接自分が管理できると思っていた。
あのイルモード達に、貸しを作れると思っていた。
「黒龍の神官」である自身にしかできない事を、いくつもやってみせるつもりだった。

だが、それらの期待は全て、想像のままで終わった。

闘争と追跡の末、一時はシャルルの捕縛に成功したものの、彼女は黒龍の鎧の力を限界まで引き出し、「黒龍の神官」…この地上で最強の存在であるはずの、自分に見事対抗してみせた。

あれは、衝撃だった。
黒龍の神官である自分に、なんの素質もない平民が、…その鍛え方に莫大な差があったにせよ…対抗してみせるとは。

その無様な様子はイルモードに観察され、シャルルには結局逃げられた。
しかも、城に帰ろうと思ったものの、鎧の副作用からくる飢えと乾きに耐えられず、倒れたのだ。

それを救ったのは、カルネラ大臣の率いる救出隊だった。
カルネラが用心のために持参していた「古龍の血」を、がぶがぶと飲み干し、頭から浴びた。

何の成果も挙げられなかった自分を、周囲の兵たちはどう見ただろうか。 …今になって、そう思う。
だが、あの時の自分は、恥ずかしくも血を補充する事に精一杯で、周囲の事になんて、全く気を払えなかった。
それどころか、血を補充した後、疲労からくる眠気に耐えられず、ウトウトさえしていたのだ。

…ノーブル城に、これ以上ない屈辱が待ち受けているとも知らず。

「お帰りなさいませ、クリストフ王子」

最初に、城で見た光景は、全く予想外のもの。
他の大臣と共に、自分を丁寧に出迎えるイルモードの姿だった。

「お怪我はございませんでしたか? 万一の事があっては大変と、カルネラを向かわせましたが、ご無事のようで、何よりでございます」

イルモード…他人を歯牙にかけないこの男は、てっきり王室で待機しているとばかり思っていた。
だが、その想像に反し、イルモードは城門までわざわざ王子を出迎え、静かな笑顔で労ってきたのだ。

…いや、違う。 王子の知るイルモードは、決してこんな事をする男ではない。

「…して、シャルルめを無事に捕獲されましたか!?」
「い、いや、それが、その…」

あっけに取られている王子の代わりに、カルネラ大臣がシャルル逃亡の報告をするが、それを聞くと、イルモードは大仰に驚き、怒りの表情を見せた。

「…ぐっ、王子を騙し、まんまと逃げおおせるとは! つくづく、あの女、我が国に害なす毒虫である事よ!」

だが、そのイルモードの怒りの表情を見ながら、クリス王子は違和感と共に、別の事を考えていた。

…お前は、全てを知っているはずじゃないのか?
無様過ぎる僕の手際を、ずっと見ていたはずじゃないのか? ここは僕を罵倒する所だろう?
なのに、何だ、その、演技は?

「…何だ、その、演技は…?」

つい、思っている事が口に出てしまった。

「…演技? はて、何の事ですか?」
「とぼけるなよ、イルモード…? お前、黒龍の『兜』の力で、僕の事を見ていただろう…?」

だが、イルモードは周囲にも届く大声で、まくしたてて来た。

「…なんと、お可愛そうに! 王子は、まだ鎧の力に捕らわれ、正気に目覚めておられぬ! 誰か、祭壇の準備をせよ!」
「ふざけるな、僕は、正気だ…。 お前、僕の事を、その目で、見ていただろう…!?」
「何を言っておられますか! しっかりして下さいませ! 城に居るのに、郊外に居た王子のお姿を見る事など、叶うはずもありますまい! 幻覚ですか!? 王子、気を確かに!」
「何を…」

そこまで言って、クリス王子の言葉は出なくなる。
今まで見たことのないイルモードの顔に、動作までもが凍り付いた。

能面のごとく、一切の意志が欠け落ちた表情。 
そして自分を凝視する、深淵の闇を思わせる漆黒の瞳。

…なんだ、これは? 初めて見る顔だ。
どういう感情の時、こんな表情になるのか…?

だがその時、周囲の大臣が「鎧の力…?」「黒龍の鎧は、心を蝕むのか…?」と口々に言うのを聞いて、ようやくクリス王子は、イルモードのさっきの発言の意味を理解した。

イルモードは衆目の前、「理想の臣下」を演じていただけだった。
そもそも、王家の秘宝であるはずの「黒龍の鎧」を、自身が所有している、などと暴露するはずなどない。
よって彼は、クリス王子の失態を知る事などできないし、当然叱責もしようがないのだ。

人目がありさえすれば、イルモードは自分を決して叱らない。

そう理解した時、クリス王子の精神のタガが、どこか緩んだ。 思わず、ホッとしてしまった。

「さ、王子、祭壇に向かいましょう」
「あ、ああ…」

正直、クリス王子は、城に戻る事に内心怯えていた。
イルモードは彼の部下であったが、若輩者の彼を露骨に軽蔑しているのは分かっていたからだ。
子供の頃から、臣下の諫言という形で、強烈な正論、あるいは容赦ない叱責を浴びせてくる、苦手な相手だった。

だがあの日、クリス王子が目を覚ますと、イルモードが王権確立のためのクーデターを起こしていた。
だが、この男が他人に利する行動を自ら起こすはずがないのは重々知っていた。
このクーデターは、王権を自分から奪い取るためと直感したクリス王子は、そのクーデターの御輿に自ら乗っかる事で、逆にイルモード達を押さえ込んだ。

あの時、それが上手く行ったのは、鎧を身につけた高揚の余韻があったからかもしれない。 もしくは、この状況を見逃せば、イルモードに支配される…という恐怖に背中を押されたからかもしれない。

だが、実のところはイルモードがクリス王子を徹底的に甘くみていたせいかもしれなかった。
自分が王となる宣言をした時の、イルモードとカルネラの間の抜けた顔は、今でも覚えている。
あの表情こそが、おそらく…。 自分に対する正しい評価だ。

だから、自分を見下した連中を、逆に利用してやるくらいの心構えで、ここにいる。
王の器でないと知っていながら、王で居る。
イルモードが「頭」の部分を持っているのを知っていながら、あえて放置しているのも、それが理由だ。

だがもう、既に自分の目論見は露と散った。

黒龍の鎧の力を見せつける事で、父と同様に、王としての貫禄を見せつけるつもりだったが、脆くもシャルルを取り逃がしてしまった。
そして、イルモードはその一部始終を見ていた。
あの後、奴の意識は自分の中に割り込んでこなかったが、イルモードが機会を見逃すなんて事は絶対にない。

獲物を暗闇から狙う蛇の如く、感情を押し殺しつつも、戦闘を詳細に、執拗に見ていたはずだ。

…そして、シャルルを取り逃がした事に、憤怒の炎を燃やしているに違いないはず。
自分ですら、このふがいなさにじくじたる思いでいるのだから、ましてイルモードが烈火の如き怒りを抱えていないはずがないのだ。

鎧の力を使っていた以上、敗北を喫した事には、弁解の余地は微塵もない。
人の姿が無くなれば、何か必ず強烈な一言を言ってくるはず…。

だが、イルモードは、クリス王子が祭壇で力を回復し、寝室に送るまで、何も言わなかった。

「イルモード…。 お前、何を考えている? シャルルを取り逃がした事を、どう思ってるんだ?」
「戦いに、時の運は付き物でございます。 おやすみなさいませ、クリス王子」

結局、イルモードは、クリス王子が想像していたような、侮蔑の言葉は、何一つ吐かなかった。

一瞬だけ安堵したが、姿が見えなくなると、じわじわと背中から恐怖が這い上ってきた。
イルモードが、何を考えているのかが分からない。
なぜ、自分に対して何も言わない?


だが、ベッドに潜り込んだ時、クリス王子は唐突に、あのイルモードの視線の意味に気が付いた。

…あの視線、過去にも幾度か感じた事があった。

シャルルと訓練をして、失敗した時のそれ。
エイグリルに講義を受けていて、なかなか理解に至らなかった時のそれ。
軍事訓練をしていた時に、ユリウスが頻繁に寄せていたそれ。
そして、この城の、数多くの人間が自分に寄せてくるそれ…。


そう。

虚無の視線だ。

路傍の雑草や、壁を這う虫けらを見る時の視線。

あれだ。

イルモードは、もう自分を、一個の人間としてすら見ていない。 間違いなくそうだと理解できる。
もしも石ころと喋れ、と命令されたら、あんな顔になるだろう。

それを理解すると共に、不安と屈辱、そして憎悪が全身を嵐のように掛け巡る。

「(僕は、あんな奴にすら、必要とされてないというのか…!? バカな! 僕は…。 僕は、黒龍の神官なんだぞ!!)」

「ぐ…。 ぐぅっ…。」

思わず、喉から呻くような声が漏れる。
脳裏に浮かぶイルモードの瞳は、まるで彼の行動を観察し、拘束する呪縛そのものだった。

「(どうすれば良い…。 どうすれば、良いんだ…?)」

自分の存在価値を知らしめるため、黒龍の鎧を身につけた。
自分は世界最強、まさにこの世の王たる存在のはず。
なのに、他人の思惑にいいように動かされ、何一つ自分の思い通りにならない。

シャルルの侮蔑が、イルモードの表情を無くした顔が、兵士達の冷めた視線が、さっきから幾度も脳内でぐるぐると渦を巻く。

「(どうして…。 何で、こんな事に…!? 僕は、残りの寿命と引き替えに、この鎧を身に付けたのに…!)」

「ぐうっ…! がぁっ!!」

衝動のままに、おそらく歴史ある、年代物の調度品を破壊する。

「(父上…!!)」

だが、今の彼に壊せるものは、無抵抗の品物だけだった。


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「もう、王子は使い物にならんな」

王子を部屋まで送り届けたあと、イルモードは、カルネラ大臣に、ふとそう言った。
大臣が驚いて真意を問うと、何をかをいわんや、と言った表情でイルモードは返す。

「この盤の『王』の駒は、『騎兵』に刺される、という事だ」

軍事の演習にも使われるボードゲーム「盤戯」の駒の例えを持ち出し、イルモードは説明を行う。

「騎兵…? それは、シャルルの事を指してらっしゃるのですか?」

カルネラは、イルモードが「頭」を持っている事を知っている。 鎧の力を使って、イルモードが事の成り行きを観察しているだろうのも、当然の想定だった。

「ああ、『歩兵』は『騎兵』になった」
「…歩兵が、騎兵に? それは、どういう?」

イルモードは、珍しくため息をつきながら言う。

「シャルルの奴は、黒龍の鎧の『脚』の部分だけで、『胴』『腰』を付けた王子を完全に圧倒していた。 …鎧を身に付ければ、この世界最強の存在になれる、という話があったな?」
「ありましたな」
「アレは嘘で、実際は本人の戦闘経験にも、随分と左右されるらしい…。 王子を絶対的な戦力と位置づけていた、今までの想定は全て覆された」

イルモードは、カルネラ大臣に、シャルルとクリス王子の戦闘の様子を、事細かに説明する。

「それは…! しかし、あの大軍をも押し返す力に対抗できたなど、にわかに信じられませぬ! もしかすると、何か弱点でもあったのでは?」
「ああ、外から見ていたら、その可能性もありそうに思えた…。 王子の方が動きが早いのに、何故かシャルルが王子を完全に制していた。 まるで、王子の動きを事前に読みとっているようだった」

「動きを、読みとって…」

二人の間に沈黙が流れたが、それを引き裂くようにイルモードは毒づく。

「クズがっ…。 シャルル如きを、何故捕まえられない…! ここが、我らの天王山だったというのに…!」

イルモードは王を屑呼ばわりするが、カルネラはその態度を諫める様子もなく、質問を続けた。

「しかし、シャルルがクリス王子に対抗できるのでしたら、これは大問題ですぞ…!」

二人の懸念は、この件がクーデターの関係者に知れる事。
シャルルとユリウス王子が、それぞれ所有する鎧の力を使って、二手に分かれ攻め込んでくる…というのが、考えられる最悪の展開だった。
もちろん、所在不明の「腕」をユリウス王子が持っている、という前提での話なのだが、その可能性はそれほど低くはない。

「…ああ、私がユリウス、王子がシャルル相手に対抗したとしても、その隙を『砂塵の嵐』や『笹神龍心』に攻められたら、この城は陥落するやもしれん」

見る間に、カルネラ大臣の顔が青くなる。

「し、しかし、シャルルの奴めは、既にその事実に気づいているはずでございます! わ、我々はどうすれば良いのですか!?」
「取り乱すな! 今、それを考えている! 奴らが想像しえない、何か別の駒で対抗すれば良いのだ!」
「別の駒、と申されましても…。 傭兵や、特殊部隊に関する情報なども、エイグリル将軍が管轄しておられましたし…」
「くっ…。 エイグリルの奴、とことんまで隙のない奴よ…。 奴が鎧の秘密をしゃべってさえ居れば、こんな事には…」

「…いや、お待ち下さい、それならば、我々でもどうにかなるのでは?」
「何がだ?」
「鎧の秘密です。 エイグリル将軍が喋らないのであれば、我々が独自に調べあげれば良いのです」
「それは何か、方法があるのか? 王家に伝わる伝承とか、か…?」
「いえ、そういう訳ではございません。 私が考えているのは…」

カルネラは、イルモードにその「方法」を伝えるべく、耳打ちをする。
だが、それを聞いて、イルモードの表情が一変した。

「…何だと!? カルネラ、貴様正気か…!?」
「宰相! 貴方様が譲り受けるべき、王家の秘宝に粗末な扱いをする咎は後に受けます! しかし、どうか今は、我々が生き残る事をお考え下さい!」
「ぐ…」
「それに、この方法にて鎧の秘密が知れれば、エイグリルめも、もはや不要となります。 騎士団の力を殺ぐ良い機会となりましょう」

渋面のまま、イルモードは首肯する。
状況が刻々と変化するこの状況下、選択の余地がないこともまた理解していたからだ。

「…そう願いたいものだな」
「これも、民草への福祉と考えれば、心も痛まぬはずです、宰相」
「俺も、人を何人も拷問で責め殺したが、それを福祉と言い切れるほどには達観しておらんぞ」
「何、これもグラン・バルベキアの思し召しでございます。 我らも、偉大なる先王の知恵に学びましょう。 …王権を、是非とも我らの手に」
「…そう。 そうだな。 是非とも我らの手に、真なる王権を」
「それでこそ、宰相でございます」

イルモードは、エイグリル将軍が捕らわれている尖塔の方を見て、口の中だけで呟く。

「(…貴様が、全てを喋っておれば、これほどの血も流れる事はなかったろうよ、エイグリル…)」

そして、イルモードとカルネラは、兵士たちに下知を出すべく、城の深部へと消えていった。

<続く>


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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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