女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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GUNNER'S HEAVEN(15)-6

シャルルは、片手剣を構えると、体を半身にして構えた。

「…何だ!? この俺と、戦う気か!? さっきの攻防で、俺には絶対に敵わないと、分かったはずだろうが!」

「…いいえ」

「!? 時間は掛かろうと、お前に俺を止める方法はないのだぞ!? 黒龍の神官の力を、甘く見ているのか!」

急に吠えだした子犬のような、弱い王子の発言に対し、多少の哀れみを込めながら、シャルルは返事する。

「…甘く見ているのは、王子の方です。 私が構えている物が、ただの棒きれにでも見えましたか?」

それは、王子から奪い取った片手剣。
シャルルは、そこに黒龍の気を乗せて、片手剣を強化した。
「我が名は、バルベキア三国王直属近衛兵『黒龍騎士団』団長…。 シャルル=サンドリオン」

片手剣から立ち昇る強烈な剣気。
その凄まじさに、一瞬、クリス王子は躊躇した。

「…行きます。 クリス王子、今日は手加減しませんよ」

しかし、所詮は片手剣、危険はないと判断した王子は、体勢を低くし、シャルルに突進する構えを取った。

…だが、次の瞬間、クリス王子は、自分の認識の甘さを、骨の髄まで思い知る事になる。
一国の軍の頂点までをも任された人間の剣技が、これほどまでに凄絶である事を。

何の気負いもないシャルルの踏み込みは、5歩分の距離をたった1歩で詰めてくる。
大上段から無造作に振りおろされた一撃は、クリス王子に防御動作も許さず、見事兜に直撃した。

「(ぐうっ!?)」

兜の中で、ガァアンと高い音が反響する。
それは、鉄の棍棒で殴られたような凄まじい衝撃。
あんな大上段からの攻撃を喰らうとは、ガードが遅かった…そう思った時には、下から切り上げの一撃が跳ね上がってきて、再びクリス王子を襲う。

「(! …こ、これが、片手剣の一撃だと…!?)」

切り上げの一撃は、上段のガードに反応しかけた腕よりも早く顎に割り込んで、再びクリス王子の顔に直撃し、顔が跳ね上がる。
剣に込められた気の量こそ、クリス王子には遙か劣るものの、シャルルの卓越した技量こそが、その力を補っていた。

「(…!!)」

片手剣のコンボは、ここから「横切り」、「剣盾コンボ」の三連撃に繋がるはず。
体勢は崩れたままだが、剣を弾いて対応しなくては…そう思ったクリス王子は、防御の構えを取ろうとした。

だが、それを見たシャルルは、コンボの繋ぎを変え、王子の左側面に回り込んでから、盾攻撃の代わりに、剣で腕を弾くと同時に、右手での鉄槌バックナックルを顔面に叩き込んだ。

「(な、何…!?)」

顔面をしこたま打たれて、鎧の内壁が目に当たり、一瞬目を瞑った隙に、シャルルは力を込めた水平回転切りで、転倒を狙ってきた。
それは流石に、鎧の頑強さで耐えたが、シャルルの剣撃はさらに加速し、クリス王子に防御を許さない。

「(な、何だ、これ…!?)」

片手剣の要訣とは、相手の様子を見ながら接近し、コンボを繋いで、断続的かつ柔軟に相手にまとわりつく事にある。
シャルルから繰り返し薫陶を受けたその言葉を、クリス王子は、自らの身を以て体感していた。

頭を防御しようという動作をした所に、すかさず「切り上げ」が、ガードの隙間から襲いかかってくる。
撃たれて顔が跳ね上がったら、そこに水平切りの一撃が来る。 水平切りの一撃を喰らってよろめいた所で、切り返しと回転斬りの二連撃。
二連撃を喰らって俯いた所で、またも「切り上げ」が来たので、今度は防御しようと思ったら、それをシャルルは見越していたのか、剣の軌道は蛇の如く変化し、側頭部にヒットする。

そして、シャルルは極力攻撃を頭に集めていた。
頭蓋に直接振動を与える事で、動きを止めるのが目的だったが、それは計らずも、別の意味をクリス王子に与えていた。
剣で頭を打たれるという事は、それ即ち、死だと。

「(くおっ…!)」

「(がぁっ…!)」

手も足も出ないまま、次々と攻撃が直撃していく。
ガードの甘い所に一撃が加えられるのは当然として、やっと防御できたと思ったら、それは囮の一撃、すかさず別の箇所に力の乗った一撃が加えられるという有様。
頭狙いが多いので、頭を防御しようと思ったら、軸足の膝裏を蹴られ、体勢を崩した無防備な所に、嵐のような連続攻撃が束になって襲いかかってくる。

「(な、何で…! 何故、防御できない…!?)」

クリス王子が何をしようと、シャルルはその動きを完璧に読み切り、それを上回る攻撃を仕掛けてくる。

ジャンプ切り、動きを止めて二連撃、バックナックル、水平踏み込み切り、側面切り、膝蹴り、横切り、切り上げ、側面切り、斬りおろし、様子見からジャンプ切り、バックナックル、水平踏み込み切り、回避してからの切り上げ…。

達人の操る片手剣は、双剣の乱舞にも匹敵する攻撃速度を展開する。
しかも、シャルルの繰り出す攻撃は、通常の物に加え、体重を乗せない囮の一撃、動作によるフェイント、殺気だけで繰り出す幻惑の刃まで無数に交えており、それはまさに相手からすれば、瀑布の如き怒濤の連続攻撃だった。

「(なぜ、一発も防御できない…!?)」

「(それは、貴方が『弱い』からです、王子)」

「(…君は、僕に、こんな事を教えてくれなかった)」

「(貴方には、この技を習得できるほどの、覚悟も武錬も才能もなかったからです)」

「(…!)」

「(これが、貴方が望んでいた『真実』ですか? 悪意でなくとも、知らない方が良いという事は、あるんですよ)」

シャルルの攻撃が、王子の頭にヒットする。
王子、死亡。

シャルルの攻撃が、王子の頭にヒットする。
王子、死亡。

シャルルの攻撃が、王子の頭にヒットする。
王子、死亡。

ヒット、死亡。 ヒット、死亡。 ヒット、死亡。

死亡。死亡。死亡。死亡。死亡。死亡。死亡。

死亡理由。 王子が弱いから。

バルベキア三国は滅亡しました。


「(…!!)」

「(…こんな残酷な結末が、貴方の望んでいた、真実の交流?)」

「…違うッ! 違う違う違う! 断じて、こんなもの、真実じゃないッ! …俺は、弱くないッ!」

絶望を拒否し、息つくように思わず声が出た。
それでもあえて、クリス王子は、シャルルの剣撃を防ごうと試みる。
実の所、王子には、まだ精神的な余裕はあった。
何故なら、シャルルの一撃は、クリス王子には殆どダメージを与えていなかったのだ。
確かに、打たれる衝撃こそあるものの、黒龍の気を通した、全力のはずの一撃は、クリス王子の鎧に傷すら付けていない。
黒龍の神官と、一般の者の間にはそれだけの差がある。 それは、両者ともに理解していた。

だから今、シャルルに打ちのめされているのは、王子の肉体ではなく、肥大した自尊心だった。
クリス王子にとって、ここで一発も防御できなければ、今まで受けてきた武術の訓練は、シャルルとの「おままごと」に過ぎないと、自ら認める事になる。

それはシャルルも了解している。
その上で、遠慮なく打ち込んできている。

クリス王子は、自分が試されている事を理解していたから、シャルルの剣撃を、何としてでも防御する事に拘った。
自分がかつて行ってきた武術の訓練は、意味のあるものだと証明するために。

だけど…。

どうしても、防御できない。

シャルルの心を覗いて見たものの、シャルルは自分と違い、「加害による意志」など発生させていない。
訓練の成せる技なのか、自分が隙を見せると同時に、ほぼ反射的に切り込んで来ている。
時には、怯んで隙が出来るのを事前に見越した上で攻撃してくるほどだ。
だから、読めない。 仮に読めても、この反射速度では、対応できない。

さっきから、何本にも見えるシャルルの片手剣が、自分の全身を、めった打ちに打ちのめしていく。
痛みはない。 苦痛もない。 
だけど腕が二本じゃ足りない。 シャルルの攻撃を防御できない。

「(…どうしましたか、王子! これだけの攻撃を、ただの一度も防げないのですか!)」

ただ、単にやかましいだけ。

…本当は、シャルルを倒す方法は、ある。
だけど、それをして、どうなる…?

シャルルは、自分を弟子として、王として、男性として、試しているのだ。
だけど、その試験を、自ら降りてしまったら、二度とシャルルの前には立てない。 

会わせる顔すらない。 だから逃げる事など許されない。

もう、自分は、幾度殺されたろうか。
シャルルの剣速は全く衰える様子がないし、そしてそれを捕まえられるイメージなど、全く沸いてこない。
それでも、逃げてはダメだと、くじけかけた心を震い立たせかけた、その時。


「(なんという無様な姿だ、このクソガキ…。 やはり、今までやってきた訓練など、女と戯れるための口実か)」


舌打ちとともに、ぞっとするような冷徹な声が、クリス王子の心の中に忍び込んできた。
同時に、一瞬だけだが、王室の映像も飛び込んでくる。

「(イルモード…!?)」

自分のこの姿を、イルモードが見ている。
だが、そう自覚した瞬間、存在していたはずのイルモードの意識は、かき消すように引っ込んでしまった。

「(…!?)」

いや、奴は見ている。 見ているはずだ。

この、僕の、無様な姿を。


「がああああああっ!」

急に、周りの世界全てから、自分を押し包むような圧迫感を受けた王子は、その圧力に耐えられず、自ら課していた禁じ手を発動させる。

と言ってもそれは、ギルモア将軍と戦った時同様、鎧の力をもう一段上に覚醒させただけ。 
だが、この状態になりさえすれば、シャルルの攻撃など、表面の「棘」による自動防御が完全に防ぐし、そもそも衝撃で体が泳ぐこともない。

先の攻防と同様、シャルルの攻撃に合わせて体当たりし、押しつぶして捕まえてしまえば良い。
今度は、逃げられぬよう、鎧で保護されていない股関節を砕いてやる…!

「!?」

クリス王子の変化を見て取ったシャルルは、バックステップで距離を取る。

「(…もう、組み手には付き合っていられないという事ですか)」

「(それとも、『おままごと』は終わりですか、王子)」

こんな状況でも、シャルルは、まだクリス王子の自尊心を保つだけの機会を与えてくれている。
今、再び鎧の力を鎮め、この組み手に付き合えば、シャルルは結局逃げるのだとしても、自分を男として見下したりはしないだろう。 
気持ちこそ容赦なかったが、そういう心情も確かに伝わってきた。 
それは、戦士としての、せめてもの情け。

だけど、もうそんな事に構っている暇はなかった。

イルモードの意識は、沈黙を保っている。
シャルルに笑われようとまだ良い。
彼女なら、いつかは許してくれる。 そんな気がする。

だが、奴に笑われるのだけは、ダメだ。
臣下に諫言されるならまだしも、臣下に罵倒される王など、道化以外の何だと言うのだ…!

「シャルる…! 遊びハ、終わリダ…! 所詮、平民ナドが、王族に、黒龍ノ神官に、勝てルハずナど、無イ!」

精一杯の虚勢を込めて、クリス王子はそう言う。
だが、対するシャルルの心中は、もはや冷静を通り越して冷ややかだった。
まるで、見下げ果てた、と言わんばかりに…。

「俺を…。 俺ヲ、嘗めるンジャあナいッ! 俺を、誰ダト思ってイル…!?」

「(…)」

シャルルの返事はなかった。
彼女を捕獲するべく、突撃するクリス王子。
ここから、シャルルの反撃の方法はない、はず。
だがそこで、シャルルは意外な行動に出た。

突如、踵を返すと、森の中に飛び込んだのだ。

「…何ッ!?」

恐れをなし、逃走に徹するのかと思い、後を追跡するクリス王子。

小柄なシャルルは、クリス王子に追跡されないよう、ワザと狭い木立の中をかいくぐっていたが、そもそもの脚力は、こちらの方がずっと上。
乱立する木立の中の、僅かな平地を飛ぶようにして迂回しつつ移動し、接近するクリス王子。

その距離が、もう数mに至ろうとする所で、クリス王子は、何故森の中に飛び込んだのかという、シャルルの思惑に気が付く。

「…!?」

突如、目の前から、覆い被さるように、大木が降ってきたのだ。

「(トラップか…!?)」

樹木の脇を通り過ぎざま、強化された剣で切断したものだろう。
生身で当たれば大怪我必至だが、この鎧を付けていればなんて事はない。
クリス王子は、降ってきた大木の幹を見定めて、腕で払いのけて移動しようとした所、足元に転がっていた倒木に蹴躓いて、派手に転倒した。

「動態注視」…自動車の運転中などに散見されるが、動いている物に気を取られると、極度に視界が狭くなるという現象。 それを駆使したトラップだった。

慌てて跳ね起きるものの、既にシャルルは木立の中を遠くに走り去りつつある。
そして、それを猛追するクリス王子だったが、クリス王子の接近方法を、鎧の力で把握したシャルルは、今度は逆に走りやすい道を選び、王子から奪い取った片手剣を使って、次々と大木を切断していく。

「おおおおっ!」

シャルルを追跡する道が、倒れてくる大木で次々と塞がれていく。
黒龍の鎧の力を使って、倒れる木をなぎ倒し、払いのけて強引に接近するものの、木々が邪魔して思うように進めない。
対して、シャルルは、全くの無駄なく木立を駆け回り、今もトラップを作りながら逃走し続け、二人の距離はもう追いつけないほどに離されつつあった。

「(な、何故…!? 何で、こんな逃走方法を、こんな時に、思いついた…?)」

しがみつくように、シャルルの心の中を覗くクリス王子。

…今、シャルルは逃走の最中、孤児だった幼い頃の事を思い出していた。

悪い事だと分かってはいても、飢えと乾きに耐えられず、店先に並んでいた果実や食料品に手を出した。
悪鬼の形相で追いかけてくる店主を尻目に見ながら、必死で逃走した。
自身の小さい体躯を活かし、狭い路地裏に逃げ込んだ方が逃げ延びやすいという事を、その時知った。
相手を上手く邪魔するコツも、その時学んだ。

店主の「この泥棒猫が」「貴様みたいな屑は死んじまえ」という言葉を回想しながら、盗品を全部食べた。

自身の、生きるための存在意義すらを疑いながら。


…そして、ほどなくして、その映像は途切れた。
森の中で、沢を見つけたシャルルが、鎧を外したのだ。

水に入れば、匂いは絶たれる。
もう、追跡は不可能だった。


それからしばらく、王子は森の中をさまよっていたが、もう、シャルルの姿は、どこにも見えない。
日が完全に没した事で、辺りは、真の闇になっていた。

鎧は、断続的な悪意と飢えを、クリス王子に送り込んでくる。 
この状態を見ているはずのイルモードすら、徹底して無反応。

空は、星がどこまでも静かに瞬いていた。
森は、梟の鳴く声だけが、かすかに響くのみ。

後は、誰もいなかった。


「は…」

「はは…」

「何故誰も…」

「誰も…」

「誰も… 誰も…」

「僕を見ようとしてくれない…?」


「シャルル!」

「シャルル…シャルルッ!!」

何故、その言葉が、王子の口から飛び出たのか、もはや自身にも分からない。

「シャルルーーーッッ!!!」

ただ、彼は、狂おしい何かを求めて、夜闇のなか一人、叫ばずにはいられなかった。

<了>

~「GUNNER'S HEAVEN」 登場人物紹介に続く~
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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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