女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

GUNNER'S HEAVEN(15)-5

ここで、場面はイルモードが鎧を装着する少し前の、シャルルに移る。

森の中をひた走りながら逃走するシャルルだったが、その足取りには、以前のような猛烈な勢いは既にない。
王子の発する「黒龍の気」は、最初こそ燃え上がる勢いだったものの、今ではもう随分小さくなっていた。

自分との思い出を、今も回想している王子の状態はいささか不安になる所だったが、鎧を通じて王子の意識に気を向けた所、視界は動いていない。 現在、脚を止めている。

…諦めたのだろうか。
どちらにせよ、これだけ引き離せば、もう問題はなかろう。

…しかし、今日は、本当に疲れた。

城であった出来事に加え、この鎧の凶暴な力の感覚もそうだが、さらなる特殊能力…「お互いの意志疎通を可能とする」という未知の感覚に、いささか酔い過ぎたようだ。

人は不完全な言葉だけでしか意志が伝えられないゆえ、お互いを完全には理解しあえず、仲間であれ兄弟であれ相争う…。 
もし、言語によらぬ意志疎通が可能となれば、この世界には完璧な平和がもたらされるだろう、と言った哲学者が居たが、実際に体験してみれば、それは全くの妄言だった。

確かに、この鎧を付けて初めて知り得た事もあった。
クリス王子は、一見大人しい青年と思っていたが、その本質は、やはりバルベキア王族の真なる直系、冷酷・冷徹な暴君の嫡子で間違いない。
自分がかつて抱いていた、繊細で慎ましいイメージは、彼の上っ面でしかなかった。

もし、自分が過去からそれを知っていれば、彼に対する、もっと適切な接し方もあったろう。
人の本質を理解する、という意味では、この鎧の意志疎通は、確かに有益なのかもしれない。

だが、今日の戦闘を経たシャルルの結論では、隠し事の出来ない完全な意志疎通とは「歯に物を着せず、言いたい放題相手の暴言を言う」のと同じ意味だった。

どんな人間とて聖人君子ではない。
誰でも、心の奥底に、いくばくかの闇を持っているものだ。
だがその隠し持つ悪意が相手に伝われば、憎しみが怒りを産み、負の連鎖として繋がる。
さっきまでの、自分とクリス王子がそうだったように…。

「(なら、一体、人と人は、どうやったら理解しあえるのかしら…?)」

俯いたまま、とぼとぼと歩くシャルル。
既に月が山の端から姿を見せようかという逢魔ヶ刻、彼女は目の前に待ち受ける影の存在に気づかなかった。

「…全く同感だよ」
「…!?」

目の前に居る、漆黒の影が、不意にそう言った。

「シャルル、君と、全く同感だよ。 僕も今日ほど、こんな人と理解しあう…という事の難しさを、実感した日はない」
「だ、誰…?」
「誰って、僕だよ。 さっきまで、君と気ぜわしい戦いをしていた、君の仕えるべき主だ」 

そう言われると同時に、目の前の漆黒の影が、明確に形を成す。
それは、確かに、さっきまで自分と死闘を演じていた相手。

「く、クリス王子…? まさか…!? 本物…!?」
「ふふ、偽物や、幻覚じゃない…。 君の目の前に居るのは、本物のクリストフ=イェルザレムだよ、シャルル」

…バカな、じゃあ、どうやって先周りを!?

そうシャルルが思うと同時に、王子の意志が脳裏に流れ込んでくる。

クリス王子は、黒龍の鎧で拡張した「嗅覚」を頼り、シャルルの血と化粧水の匂いを追ってきたのだ。
シャルルとの思い出を回想していたのは、匂いを追っている事を悟られないため。
逃走ルートを把握し、近づいたところで、森の中を迂回し、先回りしてシャルルを待ち伏せた。

「…初めてだから仕方ないとは思うけど、鎧から伝わる意志に、気を取られすぎたね、シャルル」

最初に鎧の力を完全解放し、徐々に力を抑える事で、徐々に遠ざかっていると思わせた。
だが、この鎧は、本人の適性と強い意志があれば、あまり距離は関係がないのだ。
自分が、逃走するシャルルの存在に、遠くからでも気づいたように。

「じゃあ、何故…!」

そう言って、彼女はハッと気がつく。
この鎧は、意志や感情は通しても、論理は通さない。なのに、今は王子の論理が理解できる。
そう、王子は、イメージを次々と連続投影する事で、自身の思考をシャルルに理解させているのだ。
…こんな使い方があるのか。

「…君を不意打ちで捕まえずに、何故ワザワザ、こうやって身を晒したか、だよね?」
「そ、そうよ」

そういうと、クリス王子は、シャルルの目を見据えて言う。 

「…多分、僕が、歴戦の戦士である君を、不意打ちで捕まえる事は無理だから、だよ」
「…?」
「正直、鎧を付けた僕にあれほど抵抗できるとは、思ってもいなかった。 …さすがだよ、シャルル」

王子の鎧からは、死闘での疲労感と、忌憚のない賞賛の念が伝わってくる。 王子自身も、かなり消耗があるようだ。

「この鎧を身につけた者は、世界最強の存在になれる…僕は、そう聞かされていたんだ」

「そして、黒龍の神官である、僕ら一族に叶う者など、誰も居ないとも思っていた」

「だけど、この鎧を付けた者同士の戦闘が…、あんなにも膠着するとは思わなかった」

それはシャルルも感じていた。
強力な武器を持っていないせいもあるだろうが、お互い強力な鎧の防御力に阻まれて、互いの行動を阻止できないでいた。
いや、防御能力もそうだが、鎧を身につけた者同士で意志疎通ができるというのも、膠着が続いた理由の一つだろう。
何せ、お互いの攻め手が相手に筒抜けなのだ。
今までの戦闘経験の差が、シャルルに一日の長を与えたが、黒龍の鎧を付けた者同士では、どうも戦闘は千日手になりそうな気がしてくる。

「…だろう? だから、ここで、停戦といかないか?」
「停戦!?」
「そう。 このまま戦っても、おそらく決着はつかず、お互いの寿命が鎧に削られるだけ。 それに、僕には策があるんだ」

策とは、と思うと同時に、クリス王子が話しかけてくる。
今、二人は鎧が通じさせる意志と、言葉を柔軟に駆使して会話をしていた。

「僕と君が手を組んで、イルモードを倒そう。 そうすれば、イルモードが隠し持っている『頭』と合わせて、鎧の部位は4つになるし、エイグリルも解放される」

…イルモードは「頭」を別に確保していたのか!?

その情報には少し衝撃を受けたが、イルモードも、エイグリル将軍同様、鎧を集中させる危機を見越して分散させていた、という事なのだろう。

「君たちに不安はなくなるし、僕も王権を確立できる。 現時点では、この方法を採るのがベストだと思う」

…まさか、王子自らが、こんな提案を言い出すとは思わなかった。 
確かに、ここで引き返して、イルモードを騙し討ちすれば、それは可能だろう。 しかし…。

「…不安に思ってるんだね、シャルル。 確かに、イルモードを騙し討ちしようと思うなら、『僕が首尾よく君を捕らえた』形で、入城しないといけないからね…。 そのまま、君を処刑する可能性を恐れているんだろう?」

いや、それだけじゃない。
この胸に渦巻く不安の本質は…。

「遠慮なく、僕の心を覗いてくれ。 僕に、そんなやましい気持ちは、微塵もない…。 さっきは、怒りに任せて、あんな事を言い、君を傷つけてしまったけど、この鎧を身につけると、情緒不安定になるのは、君も理解してくれるだろう? 元々、僕にはそんなつもりはなかったんだ」

鎧からは、王子の謝罪の念と、真摯な気持ちが伝わってくる。
だが、さっき王子は、雑念を混ぜる事で本心を読ませない、という手段を使った。
鎧から伝わる感覚は、確かに真摯な気持ちに満ちている。だが、それが本物かどうかは、正直判断がつかない。

「…本当だよ」

その心理を読みとって、王子が返答してくる。

「さっき、君は、この鎧が、お互いの悪意を筒抜けにし、憎しみの連鎖を産む装置、だと表現したけど…」

「僕は、そうだとは思わない。 この鎧がもたらす、隠しようのないお互いの心の交流を、素晴らしい物だと感じ始めてるんだ」

何故、と思うシャルルの脳内に、王子の過去の映像が流れてくる。
それはいずれもクリス王子の視点であり、大臣の皆が揉み手で王子におべっかを使っている姿であった。

「王子は大層賢いですな。 きっと献策にて、貧しい我が国をお救い下さいます」

「王子の武勇は素晴らしい。 これならば、戦場に出る将軍たちも安心できるという物です」

「王子は、きっと立派な王になれますぞ。 そして歴史に名を残す王となれるでしょう」

それは、シャルルも知っている、イルモード配下の大臣たちの顔。 
だが、その顔面が、頭蓋が、顎が、次々と窪んで変形し、血しぶいて消えた。

「くだらない…!」

唾を吐き捨てるが如く、クリス王子はそう言う。
今のは、クリス王子の害意のイメージだった。

「人を赤子だとでも思っているのか? 自分の評価など、自分が一番分かっている…! 適当に飾られた世辞など、虫酸が走るだけだ!」
「王子…」

クリス王子は、そこで、天を仰ぎ見る。

「…そう! そうだ…」

そこには、どこか泣きそうな口調が入り交じっていた。

「僕は、王子であるはずなのに、この年になるまで、お互いの意志を、本音でやりとりするなんて事すら、一度もなかった…!!」

「君は、確かに、この鎧の事を厭わしいと思っているのかもしれない」

「…だけど、僕はこの鎧がもたらす感情に、涙が出そうだった…。 一切の不純物のない、心の交流…。 これこそが、僕が求めていた真実だ!」

そこで、シャルルはようやっと口を挟む。
その口調は、どこまでも冷めきっていた。

「そこに、悪意が混じっていても、ですか」

「悪意や害意は、人にとって自然な感情だよ。 もし、人間全てがが悪意を持たず生きられるなら、この地上は司祭で埋まってるはずだからね」

「…。」

「さあ、見てくれ、シャルル…。 善も悪も含めて、これが僕の、偽らざる心情だ」

必要ないだろうに、クリス王子はシャルルに対し、両手を広げてみせた。

「…」

どうすべきか、流石のシャルルも悩んだ。
確かに、この提案には、メリットは十分にあるのは分かる。
王子の本心こそ伺えないものの、近寄らせさえしなければ、自分を取り押さえられる人間は、「頭」を持っているイルモード以外、誰もいないだろう。

しかし、手の中に持った片手剣の冷ややかさは、恐ろしくすんなりと、シャルルに答えを紡ぎ出させた。

「…お断りします」

その答えを聞いた王子は、しばし放心する。
王子の中では、この提案を断られるとは思ってなかったのだろう。

「…な? 何故!? どこに不安要素がある、というのだ!? 打算で考えても、これ以上の方法はないと分かるだろう!? 何を考えている!?」

慌てふためくその様子に、シャルルは小さくため息をついてから返事する。

「この鎧を付けている以上、もうお世辞におもねっていても仕方ありませんので、正直に言いますが…」

それは何だ、という王子の感情が、シャルルの脳内に伝わる。
一瞬躊躇したが、その感情を踏みつぶすように、シャルルは答えた。

「王子は、弱いんです」
「…よ …弱い? 黒龍の神官の、僕が、『弱い』だと!?」
「…ええ、弱いです。 もっとも、戦闘能力の話ではなく、人間としての総合力での話ですが」

王子の混乱した様子が、シャルルにも伝わる。
それを受けて、シャルルは、王子の提案を否定した理由を述べた。

「正直、城に戻ったところで、お坊っちゃんの貴方如きが、海千山千のイルモード達を出し抜いて、エイグリル将軍を救出できるとは思えない」

「それに、貴方は信念ではなく、打算で動く人です。 確かに、今の王子は、イルモード打倒を考えてらっしゃいますが、逆にイルモードから好提案を持ちかけられれば、反対に私を裏切り直す事もあるかもしれません」

わなわなと、王子が怒りに震える様子が伝わってくる。

…確かに、この鎧は、悪意を増幅する。
たかがこれしきの諫言で、王子の中の怒りは水かさを増し、今にもその口から溢れんばかりだった。

「…だから、貴方の言うことは聞けません」
「王の、僕の言葉でもか!」
「…さっきも申しましたが、今の貴方は、人として弱すぎます。 王と呼ばれるにふさわしい資格を、今は全く備えておられません」
「臣下如きが、君主に意見するのか!」
「下の者達には、仕えるべき王が道を誤った時、お諫めする使命ががあります」
「…僕が…。 道を誤っている、だと…!?」
「ええ、先王が、貴方を後継者に選ばなかったのも、きっと何か理由があるはずです…。 むしろ、それをご自身で見つけるのが、先ではないでしょうか」

王子の意識が、深く昏い怒りで混濁した。
今の発言は、常に弟への劣等感に悩まされてきた、王子の逆鱗に触れた一言だ。 だが、もう気にしない。

「…シャルル! 僕は、間違ってなど、居ない…! 共に戻ろう、城へ…!」

「そこをおどき下さい! 今、この国と、貴方と、ユリウス王子を真に導いていけるのは、イルモード宰相や、カルネラ大臣などではありません! エイグリル将軍だけ、です!」

「臣下の忠誠も、そこまで行くと、盲信の愚挙にしか思えんぞ、シャルル!」

怒りに囚われたクリス王子が、再び鎧の力を発動させる。

…間違いない。 王子は、本当に、心身共に鎧と同化しつつある。 
あの鎧自身が放つ悪意に、王子の弱い魂は、たやすく染められつつある。

…なんて、弱い人…。

シャルルは、片手剣を構えると、体を半身にして構えた。

「…何だ!? この俺と、戦う気か!? さっきの攻防で、俺には絶対に敵わないと、分かったはずだろうが!」

「…いいえ」

「!? 時間は掛かろうと、お前に俺を止める方法はないのだぞ!? 黒龍の神官の力を、甘く見ているのか!」

急に吠えだした子犬のような、弱い王子の発言に対し、多少の哀れみを込めながら、シャルルは返事する。

「…甘く見ているのは、王子の方です。 私が構えている物が、ただの棒きれにでも見えましたか?」

それは、王子から奪い取った片手剣。
シャルルは、そこに黒龍の気を乗せて、片手剣を強化した。

「我が名は、バルベキア三国王直属近衛兵『黒龍騎士団』団長…。 シャルル=サンドリオン」

片手剣から立ち昇る強烈な剣気。
その凄まじさに、一瞬、クリス王子は躊躇した。

「…行きます。 クリス王子、今日は手加減しませんよ」

<続く>
スポンサーサイト

*Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

プロフィール

丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

最近の記事

月別アーカイブ

FC2カウンター

右サイドメニュー

ブログ内検索

ブロとも申請フォーム

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。