女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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GUNNER'S HEAVEN(14)-3

「…以上により、簡易裁判を終了する! バルベキア三国王直属近衛兵『黒龍騎士団』団長、シャルル=サンドリオンを、前述の咎により、ここに極刑と処する! この場に居合わせた、真実の目撃者たちよ、異存はないかッ!?」
「異存はありません!」
「異存ありませぬっ!」

異様な興奮に包まれる周囲の声を、どこか遠くに聞きながら、シャルルは絶望と共に、自分の無力さを痛感していた。
また、自分は、エイグリル将軍を救えなかった。
自分を救ってくれた彼のように、自分も誰かを救いたいと、そう思っていたのに。
たかが、城の周囲をうろつく事すら叶わなかったとは…。

「皆の者、陣を組め! …処刑用意!」
「さぁ立てッ! 刑は、この場で執行するとの仰せだ! 立たねば、無理矢理にでも立ち上がらせるぞッ!」

しかし、シャルルは立とうとしない。
その様子に苛立った兵士の一人が槍の杖で、俯くシャルルの頭を小突いた、その時。

ヴ…。

「?」

ヴル…。

「…何だ、この唸り声」

ヴォルルルゥ…。

その微かな唸り声を聞いて、イルモードとカルネラは、慌てて周囲に視線を走らせる。
この状況を見咎めて、クリス王子が現れたのかと思ったのだが、そうではなかった。

「うぅ…。 ふっ…。」

俯いているシャルルの口元から、艶めかしい吐息が漏れると共に、彼女は身を覆う槍など気にせずに立ち上がる。

「な、何だ、貴様! 急に立ち上が…」

だが、兵士の声はそこで途切れ、その場に居た者達は、立ち上がったシャルルの変貌ぶりを見て、驚愕に強ばった。

ヴォル、グルゥア、ヴォルルルルル!!

全身の静脈が表皮に激しく浮き上がり、首筋と肩口の筋肉が、鍛えた成人男性のように隆起し脈動している。
呼吸は速く荒く、たった今、全力疾走を終えた直後のように、胸が激しく上下していた。

そして、誰をも魅了したシャルルの愛らしい瞳は、毛細血管の拡張と、破裂による内出血で真っ赤に染まっていた。

「な、なんだ、コイツ…!?」

未知の存在に直面した恐怖に駆られ、兵士たちは反射的にシャルルに突きかかる。

だがその一刹那、シャルルの体が疾風のように閃いたかと思うと、ガガガガと連続する金属音が、激しい火花と共に炸裂し、眼前に信じられない光景が現出した。

シャルルを突き殺したはずの、十字槍の穂先が、いずれも無くなっていた。

シャルルは素手で、兵士たちの金属槍の穂先を折り、弾き、切り飛ばしてのけたのだ。
それは、人間の領域を遙かに越えた動き。

「…なッ!?」

穂先が消失した槍の杖を見て驚愕する兵士たち。
それもつかの間、シャルルは穂先のなくなった槍の杖を掴むと、

「ふんっ!」

杖を握っていた兵士をハンマーのように振り回し、別の兵士たちに体ごと叩きつけて、包囲に綻びを作った。

「ぐあっ!」
「うおおおっ!?」
「な、何だッ!?」

「何をしている、奴を殺せッ! 串刺しにしろッ!」

イルモードの命令で、他の兵士たちが前に出て、シャルルめがけて槍を繰り出すが、それはいずれも空振りに終わる。
そこに在ったのは、すり鉢の如く真ん中から放射状に押し割られた石畳の残骸のみ。

シャルルはその時既に、皆の数メートル上空、茜に染まる夕闇の中に跳躍していた。

その光景を、皆が惚けつつ仰ぎ見たその一瞬後には、包囲から離れた箇所に着地して、脱兎の如く駆けだす。
それは、人間とは思えないほどの、圧倒的な速度だった。

「な、何をしている、追え! 奴を追うんだ!」
「ダメです、あの早さ、人間とは思えません!」
「馬鹿が、誰が走って追いかけろと言った! おい!」
「馬だ! 急いで馬を持ってこい!」

混乱している警備兵たちの姿が、グングンと小さくなる。
それを尻目に見ながら、シャルルはこの「鎧」の、圧倒的な力に驚嘆する。

「(これが…! これが、『黒龍の鎧』の力…!)」

足元から沸き上がってくる、濁流のように暴力的な「気」と、肉体をも越えて溢れる「力」。
まるで自分の物とは思えぬほど高速で駆動する両足は、堅く踏みしめられた大地すらをも蹴り足で粉砕し、地煙を上げながら前へ前へと突き進む。

あまりの速度に視界が狭まり、周囲の風景は、まさに風に吹き飛ばされるが如く、後ろへ飛び去って行く。

呼吸は…苦しくない。

加速しようと思えば、自分は、まだまだ加速できる…。
もっともっと、誰よりも!
…幻獣キリンですらが、今の私には、全く及ばない!


そんな超常体験の最中、シャルルは、10日以上前、牢の中での、エイグリル将軍との最後の会話を思い出していた。

「…君に、これを託したい。 必ずや、君を護ってくれるはずだ」

そういうと、エイグリルは、床の石材をさらさらと撫で、何かを探す。
やがて、ある石材にたどり着くと、その石材の小さな窪み…一見ではたんなる模様としか思えないそこに、親指と中指を延ばして掛けると、凄まじい握力と腕力を込める。

「…ふっ!」

エイグリルは、なんと床の化粧石を強引に引きはがした。
だが、その下に見えたのは、基礎工の石ではなく、40センチ四方の空洞。
いや、ここからは見えないが、奥行きはもっとあるだろうか。

…そこからエイグリルが取り出した物は、どこか見覚えのある、禍々しい意匠を施された、漆黒の鎧だった。

「こ、これは…。 まさか、『黒龍の鎧』!? 将軍、『脚』はご自身で持っていらしたのですか!?」
「ああ、もしもユリウス王子がイルモードに拉致されても、全ての部位が揃わないようにな」

じゃあ、ユリウス王子に「腕」と「脚」を持たせて逃がした、というのは、嘘だったのか?

だが、その質問を受けると、エイグリル将軍は、まるで悪戯を見つかった子供のように、ちょっとはにかんで答えた。

「…ああ、その通りだよ。 リスクは常に分散するべきだし、私としても、自分が殺されないための『切り札』は用意しておきたかったのさ」
「しかし…。 よくそんな隠しの小部屋があることをご存じで…」

たまたま入れられた牢屋に、たまたま隠しの小部屋があるなんて、あまりにも都合が良すぎる。
シャルルはそう思ったが、エイグリルはゆっくりと首を振った。

「この城を立てた『グラン・バルベキア』は、暴君ではあったが、同時に繊細な男でもあったようだよ」
「…?」
「君は知らないかもだが、この城には、抜け道や身を潜めるための小部屋などが、各所に作られている。 多分敵襲か、あるいは味方の裏切りに対しての…」
「そ、そうだったのですか!?」
「ああ、私も全部を把握している訳じゃないが、その多くが、このように、有名な武人であった彼のみが開ける事ができるように作られたものも多い。 この床の小部屋もその一つだ」

そして、エイグリルは「黒龍の脚」をシャルルの前に差し出す。

「先も言ったが、イルモードは、私との接点である君を、間違いなく最初に狙うはずだ…。 これを装備していれば、君が窮地に陥った時、この鎧は必ずや君の力になってくれる事だろう」

「あの…。 でも、そんな事が可能なんですか? この鎧の力は、王族が身につける事でしか発揮できない、と聞いていたような…」

そのシャルルの質問を受けると、エイグリルは鎧の片足を取り、シャルルの方に向けて見せる。

「鎧の中身が見えるかい? 多分、鎧の中は、乾物のような物で覆われていると思うが」
「あ、あります…。 何か、小さな貝の干物みたいな物が、一面にずらっと」

貝の干物というか、陸に打ち上げられて乾ききった、タコの吸盤のようにも思える。
それらが隙無くみっちり並んでいる様は、何か凄く気持ち悪い。

「…そこに、貴女の指先を当ててもらえるか?」
「ゆ、指先ですか?」
「ああ、指先だけで。 間違ってもべったりと触れないように。 まぁ、君なら大丈夫だと思うが」
「いやだ、何かあるんですか、この鎧!?」

「『適格者』としての試験さ」
「…『適格者』?」

「実は、この『黒龍の鎧』は、イェルザレム家…。 『黒龍の神官』の一族でないと、力を発揮できないと言われているが、その実、装着者を選ばない。 誰でも装着し、力を得る事ができる」
「そ、そうなんですか…!?」
「ああ。 ただし、この鎧は人を選ぶ…。 力を貸す相手を、自分の意志でえり好みするんだ。 王族はその最たる例で、『適格者』とは、この鎧に『好かれる』者の事だよ。 さ、触れてみてごらん。 あくまでも慎重にね」

エイグリルに促され、シャルルは意を決すると、その鎧の裏側に触れてみる…。

ちく。

「あ痛」

「…? それだけか?」

「え、あ、はい…。 何か、ちっちゃいランゴスタに刺された時みたいな痛みが、指先にちょっと」
「指先は、どうなってる?」
「…特になにも。 ちょっと赤くなってます」
「うーむ…」
「どうかされました?」

「これはまた、随分と嫌われたものだな…。 まぁ、貴女なら、多分こうなるだろうと思ってはいたがね…」

嫌われたって…。 「鎧」に?

「うむ…。 知ってのとおり、この鎧の動力源は『血液』なのだが、君のは全くお気に召さなかったようだ。 これでは、君がこの鎧を装着しても、最小限の加護しか得られないだろうね」
「お気に召さなかったって、まるでこの鎧自体に、意志があるみたいな表現ですね」
「表現も何も、この鎧は『生きている』んだよ、今なお」

生きている…?
それは、あの「モノブロスメイル」のように、鎧の破片と化しても、その強靱すぎる生命力ゆえ、仮死状態として生きている…という意味だろうか?

「まぁ、おおよそその通りだよ。 ちなみに、私も嫌われている方だが、君よりはマシかな」

そう言って、エイグリルは鎧の裏側に指先を当て、シャルルに見せる。
すると、そこにはうっすら血が滲んでいた。

「この鎧は、自ら好ましく思う者の血液を『棘』にて採取し、力を発揮する。 よって、我々は多少の痛みに耐えれば、脱着は可能だが、王族がこの鎧を装着すると、体内深くにまで棘が食い込み、文字通り一体化してしまうから、二度と脱ぐことができない」

「に、二度と…?」
「そう、二度と。 クリス王子は、今もう寝るのにすら相当難儀しているはずだが、それゆえ、小バルベキア…アルムード・イェルザレム公は、右手の小手しかこの鎧を装着していなかったんだ」
「じゃ、じゃあ、クリス王子はあのままなんですか? このまま一生、鎧と腰を着たまま、だと?」

その質問に、エイグリルは首肯する。

「ただ、『一生』ではない…。 あの鎧は、装着者の精神も肉体も、徐々に侵食していく。 精神の崩壊、生命の摩滅、どちらが先かは分からんが、あんな馬鹿げた力の使い方を続ければ、余命は10年と続かない。 今現在ですら、王子の肉体と精神には、かなりの影響が出ているはずだ」

それを聞いて、シャルルは絶句した。
あの時、自分が王子を止めていれば、こんな事にならなかったはず…。 
そう思ったのだが、エイグリルはその思考を読み取ったかのように答える。

「いや、君が気にすることはない、シャルル…。 もう既に済んだ事だ。 歴史に『もし』はありえないし、鎧を装着したのは、何よりも彼自身の意志だ」
「…。 ですが…。」
「それに、これは君のせいではなく、むしろ私自身が、自分の見立てに殉じきれなかった甘さが招いた悲劇だ…。 この鎧が、運命をもねじ曲げてしまう力を持っていると、彼は正しく知っていたのだろうな…。 だが」

そこで、エイグリルは、改めてシャルルに、「黒龍の鎧」の両脚を差し出す。

「まだ、運命の天秤は、完全に傾いた訳ではない…。 シャルル、君なら、この鎧を装着しても、鎧に喰われる事はまずない。 君に、この鎧と、我が国の運命の一部を託そう」
「しかし、私はこの鎧と相性が悪いんですよね? さっき、最小限の力しか、得られないと…」
「それは大丈夫だ。 残念な事実だが、この鎧の力は絶大無比、例え最小限の加護であろうと、付ければその日から世界最強の存在になれる」

それほどまでに…?
とシャルルは一瞬訝しんだが、クリス王子のあの戦闘能力を思い返せば、確かに納得できる。
だからこそ、イルモード達は、今までユリウス王子を血眼になって探していたのだ。

「先も言ったが、イルモードは、必ずや貴女を狙ってくる。 だが、この鎧の力があれば、罠を噛み砕いて逃げ延びる事は可能なはず…。 笹神に逢う事が叶わなかった場合、貴女は自分の命を最優先に考えてくれ」

だが、この鎧は、エイグリル将軍の最後の切り札でもある。
鎧が揃わない限りは、拷問を受けた所で、殺される事はない…と確信していたから、彼は周囲の行動に期待し、牢の中でずっと機会を伺い続けてきたのだ。

だが、その切り札を譲ってしまって、将軍は大丈夫なのだろうか…?

「大丈夫だよ、心配には及ばない。 元々、イルモードは、私が鎧を持っているとは知らなかった。 今までの状態が継続されるだけ、の話だ」

エイグリルは笑顔でそう答えるが、それはどう見てもシャルルを安堵させるためのもの。

「あの、今のうちにお伺いしておきたい事があるんです」
「…何かな?」

胸中に、別れの予感があった。
もう二度と、将軍と逢えないような、そんな直感。
それに突き動かされたシャルルは、聞くに聞けなかった、騎士団の中でもタブーとなっていた、あの話題を聞いてみた。

「あの、クーデターの事ですが…。 宰相は、先王がユリウス王子に王権を譲られようとした事は、将軍の謀略だと申しております…。 でも、私にはそのような事、とても信じられません…! 将軍は、本当に、この国を狙ったのですか? 事実は違う、のですよね?」

その話を聞くと、エイグリルは、少し困ったように俯いていたが、やがて顔を上げて話しだした。

「先王がユリウス王子に王権を譲ろうとしたのは、本当の話だ。 むろん、嫡男が国を継ぐのが正当な習わし、反発があるのは予見できていたが、先王の遺志は堅かった。 間違いと分かってはいたが、臣下としてそれをお諫めする事ができなかったのだよ、私には」
「だから、これもある意味、当然の帰結であり…。 私が投獄されているのは、必然として課された罰、なのだ」

それを聞いてシャルルは、胸中安堵する。
やはり、エイグリルは、王権転覆の首謀者ではなかったのだ…!

「…では何故、先王は第二王子に王権を譲ろうと?」

この問題こそが、この国を混乱に陥れた全ての理由。
それを事前に公表してさえいれば、ここまでの問題にはならなかったのでは…と、そう思えるのだ。
だが、エイグリルは、苦しそうな表情を浮かべると、ゆっくり首を振って拒絶した。

「…その質問には、答える事ができない」

「な、何故…!?」

「先に断っておきたいのだが、貴女を信用していない訳ではないのだよ、シャルル」

「だが、その質問に答えるという事は、同時に、『黒龍の鎧』の秘密にも答えると言う事であり、それは決して口外できない…。 なぜなら、それは、クリス王子の『破滅』を意味するからだ」

口外できない、と言いながらもエイグリルは婉曲な表現で独白を続ける。
それは、今まで自分に尽くしてくれた、シャルルの忠誠に対する信頼への証明。
秘密の暴露にならない範囲で、できる限りの事を伝えたい…。 そういうエイグリルの意志が伝わってくる。

「先王は、父親として、その『破滅』からクリス王子を護ろうしていた…。 彼の遺志を継いだ私も、同じく王子を護るため、その秘密を口外できない」
「…彼が鎧を装着したのは、私にも原因がある。 もうこれ以上、王子の命を縮める事は、臣下として許される事ではないのだ」

「…わかりました。 エイグリル将軍がそう仰るなら、是非もありません。 …将軍の、全てを信じます」

「…ありがとう」

正直な所、まだ伺いたい事はあった。
王族であるユリウス王子が、何故、今なおこの局面にあって、「鎧の力」を発動させないのかという事。

シャルルが知るユリウス王子の性格であれば、この王権を打倒するため、危険を省みずに鎧を装着するはず。
イルモードも同じ考えだからこそ、ユリウス王子が鎧の力を発動させる事を懸念している。
だが、その報告は未だにない。

そしてもう一つ…。

あの鎧の力は、明らかに突出し過ぎている。

シャルルも、狩人経験を積まされているからこそ分かる。
「最強の飛竜」と言われるモノブロス装備でも、スキル「火事場力+2」が発動できる程度。
いくら邪龍ミラボレアスを狩って作られた鎧とはいえ、それでクリス王子と同じような、超絶的な変身ができるとは全く思えない。 それも不可解な点だった。

ただ一点、エイグリルは自らの禁を破り、ヒントを出してくれていた。

クリス王子の「破滅」…。
あの鎧を全部位集めれば、確かに絶大な力が得られよう。
だが、残り10年と言われた寿命は、あっと言う間に喰い尽くされ、その場で絶命する…そういう事なのだろう。

この時の彼女には、この心遣いだけで、十分だった。

「…この鎧、お借り致します。 笹神殿に出会えるその時まで、必ず護り通してみせます」
「ああ、貴女のゴシックメタルシリーズなら、アーマースカートに隠れて目立たないはず…。 日常を、自然に鎧姿で居る事を心がけて欲しい。 重ねて言うが、くれぐれも気を付けてくれ…。 特に、黒龍の力には飲み込まれないように」

…黒龍の力には、飲み込まれないように。

エイグリルの言葉が、脳裏に響き、シャルルはふと我に返る。

疾走を続ける彼女の脳を、陶然たる加速感と高揚感が浸し尽くしていたが、これではダメだという理性が、その快感を押しとどめる。
鎧の力を発動させたのは、もとよりノーブル城から逃げ出すため。
こんなオーバーパワーを連続で使い続けていたら、クリス王子のように、すぐさま限界を迎えるのは分かりきっている。

「(…練気)」

自らの理性を取り戻し、体を制御すべく、まず「調息」にて、清澄な「気」を全身に流そうとする。
だが、荒れ狂う火炎のような、黒龍の鎧の「気」によって気血の流れが阻害され、気がうまく流れない。

「(…焦っては、ダメ)」

調息、閉息、練気…。
その過程をこなす中で、シャルルは経路の要所に「気」をゆっくり流す事を心がけると、関に流れを阻害された水流の如く、黒龍の気も、やがてその動きを止め始める。

一度、黒龍の気の制御に成功すれば、後は楽なもので、徐々に自分の体の主導権が戻りはじめ、疾走の速度もゆるやかになる。

「…う」

だが、反動はもの凄かった。
シャルルは酒には強い方だが、とことんまで深酒した後の翌日のような、もの凄い疲労と倦怠感、頭痛が彼女を苛む。

「(それはそうね…。 これだけ体に無理強いしていて、これだけの疲労で済んだのが、逆に不思議だわ)」

安堵すると共に、あれほど軽かった足腰が、まるで亡霊に捕まれているかのように、急に重くなる。
足を包む激痛の中には、自分が血を吸われているのもあるだろうが、何故かそれは余り気にならなかった。

振り返れば、ノーブル城は既に遠い。

…急ごう。
笹神龍心を探すために、オネスト郡県(ランド)のハンターズギルドで情報を集めよう。
イルモードの偵察兵もいるはずだが、この鎧があれば、多少の無理は効く。
何よりも、エイグリルを救うには、迅速な行動が必要なのだから…。

「(将軍…。 必ずお助け致します…! だからそれまで、神のご加護がありますように…!)」

だが、シャルルは神に祈ってなお、祈りを続ける。

「(レニチェリア=イェルザレムよ、偉大なる三国の始祖よ、後世の家臣に、是非恩寵を賜りますよう…!)」

神ですら心細く、先々王にもエイグリルの加護を祈ると、シャルルはオネストの方角へと走り出した。

だが、その時、シャルルは違和感に気が付く。
足元…。
装着した「黒龍の鎧」が唸っていた。

ヴヴ…。 ヴル…。 ヴォルル…。

シャルルの背中を、悪寒が走る。
この鎧は、確かに意志を持っている。
鎧から、膨大な悪意を確かに感じるのだ。
ひたすらに他者を害し、ただ殺戮を求める純粋な悪意が。

たかが一部位で、これほどの悪意を放つなら、適格者である王族が、情緒不安定になっても全くおかしくない、そう思えた。

…しかし、シャルルは誤解していた。
この悪意の声は、この鎧が放っている物ではなかったのだ。


ここで、場面は変わる。
ノーブル城では、イルモードが、エイグリルの居る石牢を訪れていた。

「…遂に馬脚を表したな、エイグリル! まさか、貴様が『脚』を持っていたとはな! まんまと一杯喰わされたぞ!」

片手に処刑用の長剣を携え、石牢の鉄扉を豪快に空けながら、イルモードは放言する。
その顔は、残虐な笑みに彩られていた。

「…」
「隠そうとしても、無駄だぞ! 既にシャルルは逃亡し、追手を向かわせた!」
「…そうか。 笹神は、間に合わなかったか…。」

狂人のふりをしていたエイグリルは、もはや無駄と悟ったか、人を喰ったようにむくりと起きあがる。

「『適格者』でなくとも、それなりの力が得られる事を、やはり貴様も知っていたか…。 だが、ほどなくしてシャルルは捕らえられるだろう! 時間の問題だ!」

「はははは」

牢内に、エイグリルの哄笑が響く。

「彼女をかね? 黒龍の鎧の力を発動させた者の力を、貴様も知らぬ訳ではあるまい? 遠くに逃げ去った彼女を、どうやって見つけるというのだ?」
「…まぁ、確かに私には、シャルルを捕まえる事は不可能だ。 だが、貴様だけが、黒龍の鎧の秘密を全て知っているとは、ゆめ思わない事だ! はははははっ!」
「…何!? それは、どういう…?」
「まだ分からんか? 貴様の知らぬ、黒龍の鎧の秘密…。 それを誰から聞いたか、まだ分からんか!?」


ここで、場面は再びシャルルの元に戻る。
「練気」によって鋭敏化した聴覚に、何か聴きなれぬ音が微かに届いた。

キャリンキャリンキャリン…。

複数の鋼を、軽く速く打ち合わせるような音。

何この音、と思ったその瞬間。
彼方の方角に、黒い人影が姿を表した。

「…あぁっ!」

知らず、口から悲鳴が漏れた。
その人影を認識すると同時に、シャルルは再び背を向けて、逃走の体勢に入ると、躊躇せず「黒龍の鎧」の力を発動させる。

殺される。 そんな直感が、彼女の全身を突き動かす。
そう、さきほどから感じていた膨大な悪意は、この鎧からではなく、この鎧を伝わって感じる『装着者』の悪意。

夕暮れに黒く切り取られた、漆黒の影。
地鳴りと共に激しく鳴る、鋼の擦れ合う音。


…クリス王子が、片手剣を手に、シャルルを走って追いかけて来ていた。

<続く>
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*Comment

 

完全にヴァルキュリアと思いましたとも。騙された(笑)
スリルが止まらないですね!次の更新も楽しみです。
  • posted by 南嵐茶真 
  • URL 
  • 2011.06/02 16:26分 
  • [Edit]

丼$魔(管理人) 

騙すのがエンタテイメントの真骨頂なのでございますよ!
俺的にナイスヒットな感想ありがとうございます!

ただ、次の更新までは、リアル事情の関係で、多分ちょっと時間かかると思います…。
  • posted by  
  • URL 
  • 2011.06/04 20:36分 
  • [Edit]

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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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