女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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GUNNER'S HEAVEN(13)-2

クリス王子は、シャルルを見据えて、逃げ道を断つようにもう一度言った。

「僕の妻になってほしいんだ、シャルル」

口調こそ穏やかだったが、その瞳は、決して逃がさないという、狩猟者の意志に満ちていた。
シャルルは、まさか、またこんな所でと面食らったが、ここで飲み込まれては絶対にダメだ。
何より、今のクリス王子は、半ば、正常な判断ができる状態ではないという。
エイグリルからそう聞かされていた彼女は、慌てて申し出を断った。

「な… 何をおっしゃいますか! 私よりも、ふさわしい方は大勢いらっしゃるはずです! 私は…、『灰被り』と言われた、乞食だったのですよ!」

「そんな事は関係ない! たかが身分如きで、人の有りようが決まる訳じゃない! 僕には…、僕には、君が必要なんだ!」

「王が、さらなる補佐を望まれるのであれば、命を厭う事などございません! しかしながら、下賤の血を、王の血脈に混ぜる事など、大臣たちの誰が望みましょうか!」

王権が世襲であったこの時代、シャルルの言うように、王族に平民の血が混ざるなど、王冠を地べたに投げ捨てるのと同義であり、当時の常識では考えられない事だった。

「大臣どもの意向など関係ない! 大事なのは、僕と君の意志だけ、だ!」
「しかし、しかし、それは…」

だが、クリス王子の主張は頑なだった。
大抵の場合であれば、先ほどの主張で折れるはず。
命令を厭わない、という事は、クリス王子専属の護衛となり、一日を共に過ごしても異存ない、という意味だ。

クリス王子は、ユリウス王子とは異なり、知性闊達な青年だった。 
この申し出はシャルルの最大限の譲歩であり、提示された「落とし所」が理解できていないはずもない。
だが彼は、シャルルとの関係を、主従ではなく、夫婦でなければダメだと求めてきたのだ。
以前の彼からは、考えられぬほどの強引さだった。

「僕と結婚してくれれば、イルモードに命じて、エイグリルを解放してやっても良い」

「な…!」

絶句するシャルルを見て、クリス王子は的を得たりと、次々に畳みかけてくる。

「僕は分かってる。 イルモードが、この国を乗っ取ろうとしている事くらいね…。 そして、君たちが、それを苦々しく思っている事も…」

「だが、僕こそが真の王位継承者なんだ…。 イルモードごとき部外者に、王の座を譲り渡したりしないよ?
奴らは、この鎧の秘密など、何一つ知らないからね?」

「僕が、奴らを利用するのは、単に僕の王権を固める手駒が欲しいからなんだよ」

「だから、僕と結婚してくれ、シャルル…。 ユリウスの奴を許す事はできないけれど、エイグリル、ウィル、カッツェ…。 皆と、皆に付き従う者を許そう。 君に幸せを約束しよう」

この申し出に、シャルルの心は、一瞬揺らいだ。
自分一人が犠牲になれば、皆を救う事ができる。
クーデター前のように、この国に平和と繁栄が戻る。

「私は…」

だが、彼女の脳裏に、閃光の如く、クーデター時の光景がフラッシュバックした。

それは、先王直属の大臣が、小バルベキア公葬儀の席で、遺言状を読み上げた時の事。

先王の遺言は、クリス王子の一派にとっては、これからの新しい未来の幕開けを示す指針であり、ユリウス王子派の自分たちにしてみれば、ユリウス王子の行動を通じて、クリス王子の補佐を行う覚悟の下知だった。
それは、既にお互い予期していたはずの未来であり、そこには、何の確執も齟齬もなかった、はずだった。

…だが、先王は、クリス王子ではなく、ユリウス王子を後継者に選ぶ、と言い残していた。

その場に居た全員の驚きは相当なものだった。
シャルル自身も、クリス王子が王権を継承するものとばかり思っていたのだ。
だが、先王の側近たちと、エイグリルだけは、事前にこの事を知っていたらしい。
表情を何一つ変える事なく、式を進めようとしていたが、それを妨害したのが、当のクリス王子本人だった。

その表情は、底知れぬほどの絶望と悲哀に満ちていた。

「貴様…。 貴様ら、この事を知っていたのか!? 僕じゃなく、ユリウスが次の国王だと…。 それを承知で、僕を国王だと褒めそやしていたのか? 僕を道化にしていたのか?」

「…何が『違う』だッ! 貴様等の言うとおり、違うのならどうしてこうなった! 何故父は僕を王に選ばない!?」

「…僕が弟よりも劣ると思っていたのか!? この国を治めるために、理想の王たらんとするために、僕がどれほど努力してきたと思っている!? 貴様等、今まで、何を見、何を考えてきた!?」

「…それが分からないのか、この愚鈍ども! 周囲の意見に流されるばかりの、この犬どもがッ! それがこの国の総意というなら、もはや貴様らには、生きているだけの一片の価値もないッ! 死ね! 死んでしまえ!! 皆、死に絶えろッッ!!」

あの時の、クリス王子の、血を吐くような怨嗟と狂気の叫びは、そこに居る者たち全ての魂を氷付かせた。

そして、クリス王子の行動…。
彼が「黒龍の鎧」を取りに行ったのに気づいたのは、エイグリルが最初であったが、既に遅かった。

「黒龍の鎧」は、「黒龍の神官」である、王族の人間が一度装着すると、絶大な力を得るのと引き替えに、その体と鎧が一体化するため、生涯に渡って二度と脱ぐ事ができなくなる。
その悪魔の鎧の「胴」と「腰」を、彼は既に身に付けていた。

王子の後を追ったシャルルに出来たのは、それ以上の無謀な装着を押しとどめる事だけ。
「鎧の力」を発動させたクリス王子は、普段の教練からは予想もつかぬ圧倒的な力でシャルルを突き飛ばし、気絶させると、再び葬儀祭典場へと舞い戻っていった。

シャルルが目を覚まし、先王の葬儀祭典場へと戻って見た光景は、クリス王子が、先王直属とユリウス親派の大臣達を、一人残らず皆殺しにした姿だった。

「僕が…。 僕こそが、本当の『王』なんだ…」

「だって、だって、みんな、そう言ってただろう…?」

そう言って、鎧の力を使いきったクリス王子は、意識を失い、血の海の中に倒れた。


そしてあの時、掛け値なしの絶望を叫んだ青年は、今、目の前で、シャルルに手を差し伸べている。

「シャルル、どうしたんだい…? 僕の側に居てくれないか。 僕と共に、幸せを」

シャルルは、混乱していた。
目の前に差し出された、クリス王子の手を取れば、誰もが助かる。
皆の望む平和が、幸せだった日々が戻ってくる。
この手を取らない理由など、何があるだろうか…。


「…申し訳ございません、少し、考えさせて下さい」

だが、シャルルは、クリス王子の申し出を断った。

「何故!? 考える理由などないだろう!?」
「いえ、やはり私には、あまりにも大きすぎる話でして…。 それに、仮に夫婦になったとしても、やはり身分の違いは見過ごせぬ大きな問題にございます…。 それが無事に解決してからでないと…」
「解決しないと、どうだと言うのだ」

「…私とて、満足に貴方の妻としての勤めを果たす事は難しいと存じます」

最後に、少し媚びた態度を見せてしまったが、意外な事に、それがクリス王子には結構な効果を発揮したらしく、彼は納得した。

「そうか…。 分かったぞ、シャルル。 僕もこの国の平定に努力しよう。 その暁には、是非僕の妻に」
「…善処いたします」

最後まで、完全に「イエス」と言わなかったシャルルに対し、クリス王子はやや不満げな様子であったが、それでも一応納得して去って言った。


今も、緊張で胸が高鳴っている。
…あれで、良かったのだろうか。

クリス王子の申し出は、皆を救うためには、確かにこれしかないような選択肢に思えた。

だが元々、クリス王子は、イルモード側の一派だ。
クリス王子とイルモードが一枚岩でないのには少し驚いたが、クリス王子の聡明さであれば、イルモードの侵略の意志に気づいていたとて不思議はない。
ただ、その逆…。
彼の思惑がイルモードに知られていないとも、また限らないのだ。

もし、この申し出を受けていたら、それがイルモードに察知される可能性もあるような気がした。
エイグリルが、クリス王子の命によって牢から出されるより早く、処刑されてしまう可能性が…。

それに何より、エイグリル将軍は「自衛に勤め、決して身動きしないように」と言っていた。
ここは、自分の勝手な判断で事を進めるより、将軍の指示を守るべきだと思って徹頭徹尾、無難な受け答えに終始した。

あれで良かった。
良かったはずなのだ。

シャルルは、とりあえず汗を流そうと思い、風呂のある部屋の自室に戻る事にした。
訓練でかいた心地よい汗は、緊張の冷汗にすり替わり、冷たく全身ベタベタだった。


シャルルは自室に戻ると、エミネムに命じて、自分専用の風呂に湯を張らせ、その中に勢いよく飛び込む。
念のために、彼女のゴシックメタルシリーズだけは浴室の近くに置いておき、人払いをさせてある。

暖かく、花の香りのする湯に浸かっていると、緊張がほぐれ、顔にも笑みが戻ってくる。
緊張ばかりの城仕えの中で、入浴は特にリラックスできる瞬間だ。
何より、肌に付いた汗や泥なんかが綺麗に洗い流されるのが良い。
女を捨てたつもりの自分なのだが、やはり、綺麗になる事に心地よさを感じる度、心のどこかで「女性である事」を完全には捨てきれずに居るんだなぁ、と思ってしまう。

やはりそれは、周囲の男性の視線…態度が、自分が女性である事を、否応なしに意識させるからだろうか。

「(…それとも)」

先ほどの、クリス王子の事を思い返す。
あの、自分を求める真剣な視線。
あの視線にひどく動揺していた自分は、何だったのだろう。

今思えば、あの場面では、クリス王子の言葉など、動揺せずに「保留」で返す一手だったはずだ。
もしかすると、自分は、心の奥底で、そんな甘ったるい展開を望んでいたのだろうか。
今が戦乱の世でなかったら、自分が将軍でなかったら、エミネムの言うように、花咲く乙女のような可憐な人生があったろう。 それに未練があるのか。

「違う違う、何言ってるのよ、シャルルのバカ…」

何だか、今日はやたらと戸惑う日だ。
道を護る精霊「ドゥソ」がたまたま城に迷い込んでいるのかもしれない。

風呂からあがったシャルルは、早々に体を拭いて、少し湯浴み姿のままで過ごし、暖まった体を冷ますと、手早くインナーと、替えのアンダードレスを着る。
そして鎧の脚、腰部分を装着する傍らで、ハンドベルを鳴らす。

「失礼いたします、シャルル様」
「どうぞ、エミネム」
「あら、もうご自分で鎧を装着されているのですか?」
「ええ、でも、ドレスの背中の紐だけはちょっと手が届かないから、エミネムお願い」
「了解いたしました。 …でも、シャルル様、いつも言うように、入浴後は、鎧よりも先に、化粧水からお付け頂く事をお勧めしますわ」
「はいはい、分かってるって」

一通り鎧の装着を終えた後、(もちろん小手は外して)鎧姿で化粧水を肌に塗るシャルル。
カブレライトローズの得も言われぬ芳香が、本人の香りと相まって、甘く部屋に満ちる。

「ね、エミネム、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「何でございましょう?」
「あの、笑わずに聞いてほしいんだけど…」
「はい、笑いません」
「あの…。 …あたしって、美人だと思う?」

その質問を受けると、エミネムはシャルルに背を向けて、小さく肩を上下させた。

「ちょっと! 笑わないって言ったのに、何豪快に笑ってるのよ! 聞いたこっちが恥ずかしいじゃない!」
「笑って…おりませぬ! ちょっと、持病の…顔面リウマチが出てしまった…ので、失礼して背を向けただけです」
「笑ってるじゃない! それに、そんな持病、今初めて聞いたわよ? いいから、ちゃんと返事してよ」
「そうですねぇ…。 私も、殿方がどのように思うかまでは推測に自信がございませんが、女性の目から見ても、シャルルお嬢様は、殿方を十分に惑わす魅力をお持ちだと思いますよ」
「…そ、そう?」

「お嬢様、お顔がだらしないですよ」
「えっ!?」

シャルルが慌てて両手で顔を隠すやいなや、再びエミネムは背を向けて肩を上下させる。
明らかにからかわれていた。

「…もう、正面向いて存分に笑って良いわよ、エミネム」

シャルルが仏頂面でそういうと、エミネムは爆笑が抑えられないといった風情で向き直る。

「…人をバカにして面白かった、エミネム?」
「いえいえ、お嬢様が、女性としての自覚に目覚めた初々しい態度が、あまりにも可愛らしかったもので…。 で、何かあったのですか? 急にそんな事を言い出すとは」
「うん、ちょっと聞いてみたい事があって」

エミネムは、この城のメイド長であるが、シャルルがこの城で住むようになってからの数年、彼女の身の回りの世話を献身的に努めてきた、養母とも言うべき存在である。
この城の中で、彼女の味方だとはっきり言える存在であり、笹神龍心に手紙を出す時にも、彼女のコネを通じて協力を貰った。

迷う事が多い今、自分はどうすべきかを…。
自分の判断が正しかったのかを、この信頼できる母に聞いてみたかったのだ。

シャルルは、クリス王子の事を、かいつまんで話すと、流石のエミネムも驚く様子を見せた。

「それは…。 まさか、クリス王子が求婚しに来るとは、驚きの話ですね」
「でしょう? 最初、私も動揺しちゃって。 でも、これも、私の魔性の魅力がなせるワザかな、って思って」

後半はもちろん調子こいた冗談のつもりだったのだが、エミネムの意外な返事が、それを一蹴した。

「いえ…。 それは、罠だったのでしょうね」
「…罠!?」

エミネムは、肩をすくめて返事する。

「ええ、客観的に判断させて頂くならば、それは、クリストフ王子…。 いや、宰相の罠かと思われます。 多分、エイグリル将軍を脱獄させようとする、貴女さまの迂闊な行動を誘ったものかと…。 危ない所でしたね」

それを聞いて、シャルルはなるほどと思った。
確かにそれは筋が通る。
元々、王族が自分に求婚してくるなんて、非現実的な話だ。
両者は実は結束していて、クリス王子は自分を始末するために遣わされた罠、と考えた方がよほど説明が付く。

「でしょう?」
「そう、そうよね…。 本当に危ない所だったわ、ありがとう、エミネム」

…だけど、あの時のクリス王子の視線は、本物に感じた。

幾度か、男性に強引に言い寄られたり、襲われかけた経験のある彼女にとって、あの独特な雰囲気は、苦くも馴染みのある経験なのだ。 

だが、それだと話が通らない。
それに、イルモードに襲われかけて騙された一件もあるし、多分自分の感覚は間違ってる。 そのはずだ。

微かに悩んでいた時、エミネムが、エプロンのポケットから、小さく折り畳まれた紙片を取り出す。

「…それに、実は来ているのですよ、『救いの手』が」
「何!? それは、まさか…!」
「ええ、希望はここに。 『弓の英雄』のお返事です」

<続く>

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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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