女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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GUNNER'S HEAVEN(13)-1

日曜の朝、バルベキア三国首都、ノーブル城。
既に太陽が顔を覗かせようとしている時刻だったが、周囲は夜半からの濃い霧に包まれ、まだ一帯は薄暗い。

城の裏手の庭に、一人シャルルが居た。

彼女は、自分の専用装備である「荒くれの大剣」と、「ゴシックメタルシリーズ」を装着したまま、柔軟運動をしていた。
大きく広がったアーマースカートでの柔軟運動はいかにもやりづらそうではあったが、どんな鎧であれ、構造によっては、一部制限される動きがある。
それを体に染み込ませるために、彼女は教練の際、実践と同様に、鎧を装着したままで訓練を行う事にしていた。
「常時、戦場の心得にて事にあたるべし」
それは、エイグリルから伝えられ、そして自身が常々部下にも訓辞している事でもあった。

やがて、彼女は柔軟運動を終えると、大きく背伸びをして深呼吸をする。

目を瞑り、初冬の朝の空気を胸一杯に満たす。
わずかに湿り気のある冷気が体の中に満ちると、頭までもが透明に冴えてくるような、そんな感覚がある。

…いい感じ。

鼻から息を吸い、口からゆっくり吐いて、意識を体の内面に向ける。 意識の源泉は、腹下。
表皮に触れる冷たい外気を感じつつ、繰り返す呼吸によって下腹部から生まれる「熱」をイメージする。
具体的なイメージこそが、この全身の経絡を流れる「気」の存在を感知する微かな手がかり。

彼女の「気」のイメージは、「熱」だった。

それは流れる溶岩の如く下腹部に沈み、股間を通って腰を登り、脊髄を通って天頂へと至り、心臓の経絡を通して再び腹下へと戻っていく。
その最中、大樹から延びる枝の如く、全身に「熱(気)」が行き渡り、「力(精)」へと変じて全身に溜まっていく様を、総身を以て感じ取る。

呼吸法を続け、気を幾度も全身に巡らせて行くと、冬の外気すらをも跳ね除けるほどの熱量が全身に満ち始め、背にには、しっとりとした汗の感覚がある。
血流と体液の流れが活性化し、握る拳、熱を持つ背中、大地に立つ足に、漲る力が溜まってゆくのが分かる。

同時に、彼女の感覚は鋭敏になり、目を閉じると、風鳴りの音、梢の囁き、枯草に落ちる朝露の香り、心臓の鼓動、筋肉の脈動が一体となって感じ、聞こえてくる。

天地照応を目的として作られたこの呼吸法は、大自然との融和を究極の目標とする。
今、シャルルの脳裏には、目を閉じていても、うっすら外界の様子が知覚できていた。

そして、ゆっくりと目を開く。
脳内で思い描いていた景色と、眼前の光輝く光景は、ほぼ一致した。

目の前にあるこの大木…。
樹勢20m、樹冠10m、幹周りは4mといった所か。

普通の木こりであれば、切り倒すのにまる1日かかるこの大木ですらも、今のこの瞬間の、彼女の大剣なら、間違いなく一撃で断ち割ってのける。 
そんな確信がある。

この、全身の力を爆発的に高める呼吸法…。
これこそ、武術の師でもある、エイグリル将軍から教えてもらった「練気」。

遙かな昔、東方から伝わったというこの技術。
「操気術」「気功法」とも呼ばれ、その存在を東方伝来の武器「太刀」「双剣」「弓」とともに知ったハンター達が、自分達よりも強大な敵と戦うため、血の滲むような研鑽の果てに、秘奥と言われるこの技術を完全に復活させ、正式な修練を積めば誰でも使えるように体系化したものだった。

シャルルは、背より大剣を引き抜き構えると、大木めがけて構える。

「(…いける)」

目の前の大木の幹。 
それを黙視すれば、表皮に浮かぶ僅かな模様が、驚くほど詳細に判別できる。
この集中力、十分に気が全身に満ちている証拠。

「(切れる、確実に)」

大剣の扱いにおいて、腕力などは大した問題ではない。
その要訣は、どれだけ全身の筋力を連動し一致させて、剣に体重を乗せられるかという「身体操作」だと言われる。

だが、シャルルにその質問をすれば、彼女はそう答えないだろう。
確かに大剣は、腕力だけで振り回す武器じゃない。
でも「身体操作」だけが全てかと言われると、そうではないのだ。

「…ふっ!」

漂う漣のような全身の力が、ある瞬間に一致したのを感じたシャルルは、一瞬だけ地を蹴って走り込む。
そしてすぐさま急停止し、大きく踏み込む反発力を、体幹を回転させる力に換えていく。

「身体操作」だけでは「先」には行けない。
それが上手い人間は、彼女以外にも何人も居た。
だが彼女が、誰よりも抜きんでた理由は、根気強く、長い時間を掛け「練気」を修得したからであった。

気が全身に満ち満ちた今、この呼吸力によって全身に溜まった力…。 
筋肉に潜むその爆発力を、決して減じる事がないように、刻々と変化する重心の位置を把握しながら、足から腰、腰から背へと、上手く操作し肩に繋いで、担いだ大剣に力を乗せていく。
さらに、全身を流れる「気」は、彼女の大剣へも流入し、本来の硬度よりも遙か堅い金属へと変質させていた。

…彼女が、黒龍騎士団の団長を勤められる程に強くなったのは、自らの理想に妥協しなかったから。
自分にできる事は全てやろうとしたから。

たゆまぬ武練により養った戦闘経験、鍛え上げられた全身の筋力と瞬発力、精妙を極める身体操作の技術、根気と了悟を要する練気の力…。

彼女が培ってきた全てが、今、光輝く大剣の一撃となって収束し、炸裂する。

「えやぁっ!」

雷鳴の如き大剣の白刃は、目の前の空間を一直線に斬り裂いた。
それを証明するかのように、大木の表皮に、空間を裂いた軌跡と同じ傷が姿を表す。
やがて、大木の梢はそのままの形で滑り落ち始め、傾ぎつつ幹から外れて地面に突き刺さると、ザザザと豪快な音を立てて横倒しに倒れた。

その幹は、まるで水面のように、綺麗に切断されていた。
無骨な大剣で斬ったものとは思えないほどの切れ味だったが、十分に気を込めて放った「タメ斬り」は、切れ味を増し、相手が何であろうと両断する。
モンスターの装甲や、硬鋼で鋳造された鎧や盾ですらが、全く問題ではない。

だが、シャルルは、その切り落とした幹を見ながら、内心嘆息していた。

「(ダメだ…)」

普段なら、もっと切断面は鏡のようになっている。
彼女の心の乱れは、そのまま太刀筋に現れていた。

だが、それもむべなるかな。
エイグリルの指示に従って、弓の英雄「笹神龍心」に救援を求める手紙を出したのが、10日ほど前。

それからしばらくして、突然エイグリル周辺の警備は厳しくなり、薬湯を渡す事は不可能となってしまった。

ウィルとカッツェも、「古龍の血」を集めてからは、国境の警備増強という名目で、タンサ関門に派遣されてしまった。

…おそらく、こちらの使者の誰かが、イルモードに捕まったのであろう。
「笹神龍心」を、自国に入れないための措置に違いない。

エミネムにも手伝ってもらい、複数のルートで手紙を出したため、多分そのうちの一通や二通は相手に届いているであろうが、あの手紙の内容を信用せず、イルモードが国境警備を増強するだろうというのは、エイグリルの推測どおりだった。

「(イルモードは、近いうちに、貴女を罠に掛けようとするだろう…。 笹神本人、あるいは使者が来るまで、決して油断しないように)」

そして、「最初の標的」はシャルルだと、エイグリルは言っていた。

しかし、相手が真っ向勝負に出てくるならまだしも、謀略戦で来る場合には、どうすれば良いのかさっぱり分からなかった。

「(『笹神龍心』を待てば良い。それまでは身動きせず、自衛に徹するのが良い)」

そうアドバイスされてはいたが、なんとも心細い事に、その笹神という人物が、どんな外見なのかがさっぱり分からない。
なんせ、肝心のエイグリル自身が、若い頃から視力が悪く、外見についての情報は、「小柄」である事以外は曖昧なものばかりだったからだ。

謀略…。 
自分を罠にかけるとしたら、どうやって?
王である、クリス王子を大剣で斬ろうとした…とか、そんな罪を被せるつもりだろうか?
そうしたら、自分はどうなってしまうのだろう?
上手く逃げ出せるのだろうか?

…いや、それよりも、自分が居なくなってしまったら、エイグリル将軍はどうなるのだろうか。
最後に薬湯を渡してから、もう結構な日が経つ。
彼の目は、どれだけ病状が進んだのだろう…?

無理だと分かってはいたが、今すぐにでもエイグリル将軍に逢いたかった。

薬湯を渡すのはもちろん、この不安をも聞いてもらいたかった。
そうすれば、また状況に即した、何かの的確な指示が貰えるだろう。
それなら私はまた、安心できるのに…。

「(我々の『策』を気取られないように、貴女には常時、鎧姿で居てほしい)」

そう言われたからこそ、彼女は毎日、軍事教練に汗を流している。
だが、こんな事をして大丈夫だろうか。
自分としては何気ない仕草のつもりであるが、イルモードは、あの異常な猜疑心と嗅覚で、エイグリルから伝授された「策」に気づくかもしれない。

鎧姿で居るにしても、もっと何か…。
上手い方法がなかったのだろうか。

不安と疑心暗鬼が、渦のように彼女の心中を掛け巡る。
そのせいで、練気も何も上手く行かない。

彼女にだけ分かる、荒く切断された幹の断面は、まるで彼女の心をそのまま写し取っているかのようだった。

「(…ダメね、こんなんじゃ…。 まだ、私には修養が足りないのね)」

自らの心の弱さを嘆き、彼女がため息をつこうとしたその時、不意に、拍手が鳴り響いた。

それに驚いた彼女は、周囲を見回す。
すると、濃密な霧の中から、黒い影が湧いて出た。

「…凄いね、シャルル。 その細い体で、こんな大木を断ち切ってしまうなんて、やはり信じられないな…。 どうやったら、そんな事ができるんだい?」

そこに現れたのは、クリストフ王子だった。
ブラックヘルムは脱いでおり、痩せた、儚い印象の笑顔を浮かべていたが、例の黒龍の鎧は装着したままだった。
…それはそうだろう。

「王子…。 何故、ここに」
「僕が、ここに現れたら、おかしいのかい」
「い、いえ、まさかそんな事は」

そういうと、クリス王子は、ふ、と笑ってから言った。

「…君の事を見てたんだよ。 ここの所、いつも朝、こうして訓練しているよね? それだけじゃなく、昼も、夜も」
「え、あの…」

…まさか、ずっと監視されていたのか!?

「それだけ、真剣に訓練に打ち込めるからこそ、君はそれだけ強くなったんだろうね」
「…え?」

しかし、クリス王子の口からは、シャルルの危惧とは違う感想が帰ってきた。

「…なぁ、教えてくれないか? 君はどうして…。 女性なのに、そんなに強いんだい?」

「私は…」

少し言いよどんだが、彼女は、エイグリルの訓辞を思いだし、目の前の国王たる男に返答する。

「私は、ご存じのとおり、孤児院の出身です…。 王族の方がお作りになられた孤児院『平等の家』の出です」

「小バルベキアこと、アルムード・イェルザレム公と、エイグリル・ローグ将軍は、孤児であった私たちの命に、生きる意味を与えて下さいました…。 この国を護る『軍神の剣』たれと」

「この身には過ぎた幸福、そして命を掛けるに足る使命。 もはや天命と覚悟しております。 これ以上の意味がございますでしょうか? 引き続き、私は私の父母である国民のために、剣を磨く所存でございます」

だが、それを聞いたクリス王子の顔には、懐疑的な表情が浮かんでいた。

「…それは、君の本心か?」

それを聞いて、一瞬、シャルルの動きが止まる。
目の前の国王たる男は、吐き捨てるように言った。

「『軍神の剣』たれ? 国のため? 民のため?」

「くだらない! そんなものに、君が命を掛ける一片の価値とてない! そんな理由で、人は強くなれるものか! 命を掛けられるものか!」

そう語気強く吐いてから、クリス王子は、シャルルの呆然とした表情を見て、ハッと気づいたように取り繕う。

「…いや、これは王たる者の言葉ではなかったな。 すまない、シャルル、怒鳴ったりして…。 最近、気持ちがやたらと不安定でね…」

そして、クリス王子は、シャルルの瞳を見て言う。

「だけど、僕は、君自身の言葉が聞きたいんだ」

「先も言ったように、そんな訓辞のような答えじゃなく、君自身の答えが聞きたいんだ…。 君は『軍神の剣』になる前から、女の身でありながら、強さを求めていた…。 そこには、何かの理由があるよね? それは、何なんだい?」

「…」

これは、何と答えたものか。
自分でも、その答えははっきり持ち合わせていない。
ただ、自分の中では、エイグリルの理想…。
彼の進む道こそが、自分の進みたい道、でもあった。

あの日、自分を救ってくれた彼。
彼が作り導く国ならば、それは自分にとっても幸せな国に違いないはず、そう思っていた。

そんな漠然としたイメージを胸に、でも間違いないものと信じて、今日までやってきた。

「…エイグリルか。 奴のためなのかい?」

しかし、クリス王子の解釈は、シャルルの気持ちとは、微妙に異なる様子を見せた。

「奴のために、そこまで強くなろうと? …あの男を、愛しているのか?」

「ち、違います! 将軍は、自分を救い、教え育ててくれた身! 父のように敬愛する存在ではありますが、そんな感情の対象ではありません!」

だが、顔を上げたその瞬間、彼女は、クリス王子の瞳に宿る、妖しい光に気がつく。
自分の全身を舐め回すように凝視する、その瞳。
野生の獣の雄が放つ、その飢えた視線には、人生の中で何度か見覚えがあった。

「シャルル…。 僕のそばに、居てくれないか。 君が近くに居れば、僕も君のように、強くなれるような気がするんだ」

この展開は、まずい。 
あの発言を遮らなくては。

「私は、常に剣と共に陛下のお側に付き従う所存にございます!」

「そういう意味じゃない」

クリス王子は、シャルルを見据えて、逃げ道を断つようにもう一度言った。

「僕の妻になってほしいんだ、シャルル」

<続く>
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Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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