女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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GUNNER'S HEAVEN(6)

今、極限まで高ぶったギルモアの精神に、周囲の皆の、息を飲む視線が届いたような気がした。

その感覚に押され、ごく僅かな一瞬、周囲を見回す。
それは本当に、ほんの一刹那だったが、彼の思ったとおり、全員が、自分を見ていた。

味方は皆、歓喜の表情に。
敵は皆、絶望の表情に。

あのシャルルとかいう女性騎士も、自分を見ていた。
深い後悔と絶望を表情に湛えながら、胸の前で両手を組んでいる。
その仕草は何だ? 神にでも祈っているのか?
「神様、この戦いをもう止めさせて下さい」とでも?

こみ上げてくる笑いが、止められない。
だけど現実には、戦いは終わらない。
自分は、絶対にあの隙間を、外さない。

あそこに槍を突き入れれば、俺は明日から英雄だ!
全員、この俺にひれ伏せ!
そうすれば、王たる俺が、少しは温情を恵んでやらんでもないぞ!


あまりの興奮によって、脳内分泌物質が大量に出ているのか、今ギルモアの五感は、強烈な加速感に押し流され、周囲の時の流れをゆっくりと感じていた。

そして、自分の槍の穂先は、相手…バルベキア三国王の、喉元に向かって、ゆっくり確実に突き進んでいる。
国王の顎を穿ち、顔面を破壊して、大脳を串刺しにし、かき回す瞬間が、もうすぐ来る…。

さぁ、早く来い、その瞬間よ。
俺のきらびやかな、栄光の瞬間よ!


…だが、その隙間に向けて放たれた一撃は、その喉元で、ガグンという衝撃とともに「止まった」。

一瞬、何が起こったか分からず、ギルモアは、喉元を注視する。 鎧の下に、何かが見えた。

…女の髪?

いや、よく見れば、それは細い鋼線を編んで作った鎖帷子であった。
それに、槍の穂先が絡めとられていたのだ。

さっきまでは、そんな鎖帷子などなかったはず、という疑問がわき起こるが、それどころの話ではない。
あの女性騎士どもが近寄って来て、この勝負を台無しにしてしまう前に、ケリをつけなくては!

そう思った彼は、その鎖帷子ごと、喉を力任せに突き破ってしまおうと、右腕にさらに力を込めた。
だが、彼が全力を以て槍を突き込んでも、槍はビクとも動かない。
それどころか、喉を通せずにいた槍の穂先を、そのまま左手で握られた。
突如、手持ちの槍に、押し返される感覚が伝わる。

「ぬわわっ!?」

喉を正確に突いたつもりだったが、場所がずれていたのか? それとも力の掛け方が足りないのか?

千載一遇のこの機会を逃すまいと、ギルモアは慌てて体重を掛け、盾を捨て槍を両手で押し込んだが、押し込めたのはその瞬間だけで、またもギリギリと凄まじい力で槍は押し返されていく。

…バカな!?

「剛腕」「悪将軍」という異名で知られた自分だ。
武勇で自分に並び立つ人間など、誰もいない。
単純な腕力でだって、俺に勝てる奴など、そうはいない。
その俺の、両腕の突き込みを、片手で支えているだと…?

ヴォ…。 ヴォルル…。

その時、どこかから、まるで狼の唸り声のような声が聞こえたが、ギルモアはそんな幻聴には委細構わず、必死にバルベキア国王の喉元に槍を押し込もうとする。

「ぐ…。 ぐぅっ…!」

ヴォア…。 ヴル…。 グォルルゥ…!

「(何故、何故だ! 何故俺の槍が通らない!? 何故、喉に槍を突き通す事ができないんだ!?)」

理解を越えた現象に焦りを感じ、全力を込めて押し込みにかかるギルモアだったが、その時、信じられない光景を見た。

突如、目の前の黒騎士の背中で、ドン、という圧力を伴って、空気が爆ぜた。
と同時に、黒騎士は反り返った状態から、まるでバネ仕掛けのように、上半身を一気に起こす。


「ぬわわぁあっ!?」

槍を一気に押し返され、後ずさるギルモア将軍。
そして、槍は二人の力によってぐにゃりと大きく変形し、黒騎士が握っている部分の先から、ガギィンと鈍い音を立てて捻じ切られた。

武器の支えを失って体勢が崩れたその一瞬の隙を突き、黒騎士は瞬時に立ち上がると、目にすら止まらぬほどの速度でギルモアに掴みかかり、下顎を右手で鷲掴みにする。

「(ぐごっ!? …ふ、ぶごっ! ふぉごっ!)」

慌てて相手の手首を掴んで引き離し、再びランスを握ろうとするも、自分を拘束する相手の腕力は、全くビクともしない。
相手の胴を蹴りまくって引き剥がそうとしても、自分を捕らえる相手の腕力は、頑として揺るがない。

それは、ギルモアの理解を越えていた。
この力…。 
これは人間とか獣とか、そういうレベルではない。
まるで鋼、工房で使う巨大な工作機械のよう。
圧搾されれば、それすなわち死あるのみ。

…ヴォ、ヴォロァ、ヴォルルルル!

その時初めて、ギルモア将軍は、目の前の黒騎士の雰囲気が、さっきとは一変している事に気がついた。
あの無防備な、緩い感じはどこにもない。
瘴気と怒気、そして憎しみで塗り固めたような殺意の塊が、今目の前に、鎧の形をなして立っていた。

「(…!?)」

しかも、変化しているのは、雰囲気だけではない。
黒騎士と間近で直面した、ギルモア将軍は、その正体を見て戦慄する。
この鎧、ブラックシリーズかと思っていたら、胴と腰の部位だけが、よく似た別の鎧だった。

なぜなら、その鎧は「生きていた」。

さっきの唸り声は、この鎧から発せられており、肉薄するほどの距離で見れば、鎧の一部が、まるで海生生物の呼吸のように、自発的に閉じたり開いたりしている。
そこから覗くのは、毒々しいほどに鮮やかな桃色の肉片。

そして、鎧の各部位から、姿を見せている「それ」。
さっき、女の髪や、鎖帷子と見間違った「それ」は、極細の「棘」。
飛竜リオレイアが、体の各部位に防御のために生やしている棘によく似ていたが、それよりも遙かに長くて細い。
それは、微細な海草のようにうねり絡んで、いまや黒騎士の体表を、びっちりと覆い隠していた。
さっき、無防備だった喉元に突き込まれた槍を防いだのは、この棘だった。


「…僕ハ、えいグリるヨリも、弱いカ」

「(…!?)」

唐突に話しかけられるが、驚愕のあまり、何を問われているか分からなかった。
それに、声質も、先ほどまでの、華奢な感じのする声とは全く違う。
病に侵された老人のような、掠れ、しわがれた声。

「僕は、エイぐリルよリも、弱イかと聞いテイるッッ!」

脳内で、ばぎぐじゃ、という音が響く。
同時に、下顎に、この世の物とは思えぬ、猛烈な熱感と痛み。

下顎を、握り砕かれた。

「(ぐもっ! ぐも、ぶごぉっ!)」

「…弱グナいだロう?」

黒騎士が、仮面の顔を近づけながら、聞いてくる。
全身から噴出される覇気と、崩れた腐肉のような悪臭。

違う。 こいつは、違う。
どこで中身が入れ替わったのか分からないが、やはりこいつは、さっきまでのバルベキア国王などでは、ない!
何だこいつ…。 何者なのだ!?

「認めロ。 ギるもア将軍。 僕ヲ強いと…。 強者たルオ前コソが、僕を強イト認めロ…。 エいグリるヨりも強イト言えば、命だケは助けテやル」


ギルモアは、生まれて初めて、許しを乞おうとした。
もう許してくれ、と言おうとした。
お前は強い、そう言って、この地獄のような状況から逃れようとした。

だが、喋るための、下顎がなかった。

口から、ごぷ、と血泡が少し漏れでただけだった。

「ソウか」

「僕ハ、エイぐリるヨりモ強グナイと、貴様ハゾう言イタいノか」

すると、その黒騎士は、ギルモアの顎を右手に持ったまま、ギルモアの背を大きく反らす。

「頭ガ高いゾ…。 王の前ナラバひレ伏セ、下郎」

頭が、地面に付くほどに背が反らされ、ギルモアの背中がきしみを上げながら、鎧ごとありえない角度に曲がる。
ギルモアは、背を襲う凄まじい激痛に、違う、止めてと絶叫したが、それはまたも血泡となって、塞がれた口元から漏れでるだけだった。

絶望の最期、ギルモア将軍の脳裏には、過去の思い出が去来していた。
それは青年時代、彼が軍属になった時の事。

自分は、兵士に向いていると思った。
何より、他人よりも強かったのが嬉しかった。
それも嬉しかったが、相手の敬意の視線も嬉しかった。
あまり嬉しかったので、さらに訓練を重ねた。

強くなる度に、喜びは増していった。
より強くなった俺を、人は畏怖の目で見てくれた。
なので、さらに訓練を重ねた。
誰も、俺に叶わないように。

だが、強くなり過ぎたのだろうか。
いつしか、俺の周りには、人が居なくなっていた。
軍内ではもう無理だから、戦場にそれを求めた。

戦場には、求める全ての娯楽があった。
城、異民族、反乱分子の制圧は楽しかった。
兵士はもちろん、村人の若い衆、老人、子供の恐怖の視線。
連中を思う存分切り捨てた後、周囲を物色して、思うがままに金品を奪い取る。 

強い俺に意見できる奴など、誰もいないからだ。
強い俺に意見してくれる奴など、誰もいないからだ。

そして最後に、残しておいた村の若い娘たちを、仲間と囲い、存分に弄って全員壊した。

ミリ… ミリミリ…

一人、隙を見て逃げた女が居たので、これも興、という事で「人間狩り」をやった。
俺を差し置いて、部下に生け捕られそうになったので、頭に来て、部下ごと胴体をまっぷたつにしてやった。 

ギシ… ギシギシィッ

あれは…。 あれは楽しかったな…。
もう一度、やりたいな…。

ボギィ、ゴギゴギゴギン、グシャッ


その歪んだ欲望の記憶は、死の直前の走馬燈、あるいは神がギルモア将軍に賜った、最後の慈悲か。

「うおわあああぁぁああぁーっ!!」

その一騎打ちを見ていた周囲の兵士たちから、驚愕と絶望に満ちた、まるで悲鳴のようなどよめきが上がる。

ギルモア将軍は、変形した鎧ごと、背中を垂直に折り畳まれて絶命した。
そして黒騎士は、ギルモア将軍の裂けた腹部に手を突っ込むと、上半身と下半身を力任せに両断した。
その半身を見て、仮面の下で意味不明の笑いを漏らす。

「ふはっ」

「ふははっ」

黒騎士は、遺骸の頭を片手で掴み、頭上に高々と掲げ、敵…いや、味方を含めた、この場の全員に見せつけた。

「うわっはははははははーーーっ!」

ギルモア将軍の遺骸からちぎれ落ちる脊髄。
そして溢れ出る鮮血と臓物。
それを全身で存分に浴びながら哄笑する黒騎士の姿は、もはやこの世のものではないように思えた。

「これだ! これが『力』だ! 比類なき、黒龍の力だッ!! ヴェルド軍よ! 貴様らの未来は、これだーッ!!」

それを見て、ヴェルド軍の兵士全員が、戦意を失い恐慌状態に陥り、我先にと逃げ出し始めた。


シャルルは、その光景を見ながら、顔を伏せ泣いていた。
避けたかった未来が、自分の力不足にとって現実になってしまった、悔恨の涙。

こうなるのは分かっていたのだ。
「あの状態」になった王子に叶う人間など、この地上のどこにも存在しない。

あの時の王子は、もはやすでに「人間ですらない」のだから…!

シャルルの涙は、この乾いた大地に、幾筋もこぼれ落ちては、吸い込まれるように消えていった。

「(申し訳ございません、エイグリル将軍…! 私は、また、王子を『黒龍の力』からお護りする事ができませんでした…!)」


<続く>
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  • posted by  
  •  
  • 2011.03/10 21:41分 
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NoTitle 

し、シグルイ・・・
  • posted by kamiomiya 
  • URL 
  • 2011.04/12 17:10分 
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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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