女神の機械槍

モンスターハンター関係の二次創作(イラスト・小説)ブログでしたが、最近はオリジナル小説に傾倒中です。

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「GUNNER'S HEAVEN」:Prologe「Overture」(18)-1

場所は峡谷道、時刻は既に朝。
登っているはずの太陽の光を受け、曇天が白み辺りが明るくなるとともに、岩山龍の全貌がくっきりと分かってくる。

おそらくは…全長150m余、最大体幅40m余。
その体躯は、飛竜種のそれに酷似しているが、翼はない。代わりに全身が生命活動の老廃物として堆積した鉱物分によって構成された外殻で覆われ、それはまるで巨大な鋼の鎧と言っても差し支えない。

踏みしめる毎に地響きを起こす様は、この大地ですら脆弱であり、大河によって切り開かれた峡谷ですら手狭である。
力強く歩み続けるその様は、まるで厳峻な絶鋒の脈動のようだった。

だが、その瞳に宿る燐火の輝きは、岩山龍が、まぎれもなく生物である事の証。
まさに、この地上最大の生物と呼称するにふさわしい威容だった。

その巨魁に、細槍を携えて挑む少女が、一人。

「はぁっ! はっ!」

気合いを込めながら、アイアンランスの一撃を繰り出すシェリー。
槍の穂先が、火花を散らしながら、岩山龍の顎下に食い込む。

シェリーは、必死に…。 
岩山龍の「攻撃の気配」に、慎重に気を配りながら、槍を繰り出していた。

ここに至るまで、例の頭を振り回してくる攻撃を、幾度か受けた。
ランスの盾によって、致命傷こそ避けられているものの、構えた盾ごと何度も吹き飛ばされ、気を失いそうになった。

だが、気を失う訳にはいかない。
攻撃を喰らう度、必死の思いで意識を繋いだ。

岩山龍の脅威はもちろんだが、その背後に、例の怪鳥の姿が、ポツポツ見え始めたからだ。
もし、気を失えば、岩山龍に踏みつぶされなくても、あの鳥に喰い殺されるのは間違いない。

シェリーは、こうして戦場で一人戦う事に恐怖してはいたが、家族の名誉と、祖母の思い出を心の張力にして、怯える心を必死に抑え込んでいた。

そうしないと、今すぐにでも、あの軽蔑していた村人達と同じように、自分も無様に逃げ出してしまうかもしれなかったから。

「(…イャンクックの利き足はね、『右足』なんだよ)」

なのに、まただ。
頭の中で、あの青年ハンターの声がする。
だが、この声の正体は分かっていた。

自分の、「心の弱さ」…。
老山龍という、巨大な敵を前にして、誰かに助けてほしいと思っている気持ちが、彼の声となって脳裏に響いているのだ。

「(…イャンクックの利き足はね、『右足』なんだよ)」

確かに、彼がここに居れば、老山龍の弱点を、あっさり看破してくれるかもしれない。
もしくは、あの「アルバレスト改」で、この敵を、一緒に撃破してくれるかもしれない。

そんな夢想にさえ縋りたくなるシェリーだったが、目の前には、岩山龍の巨岩のような口顎が、多大な圧迫感を持って迫ってくる。

「こっ…のぉ!」

全身の力を込めた一撃を放とうとしたシェリーだったが、刹那、背筋が冷たくなる。

…届くと思った槍の穂先は、虚空を突いていた。

岩山龍の顔が、天高く伸びている。
例の頭を振る攻撃だ、と思った次の瞬間には、もう岩山龍の頭は、地面の泥を跳ねながら疾駆してきていた。
間に合わない、と思ったシェリーは、すかさず盾を構え、左手を添えてガードする。

しかし、天空から降る隕石のようなその攻撃は、ガッチリとガードしていたはずのシェリーの体躯を、軽々と吹き飛ばす。
攻撃が来るのが分かって身構えていても、なお気を失いそうなほどの、とてつもない衝撃。

「くっ…!」

無様な格好で泥まみれになりながら、必死に体を起こすと、残り少なくなった回復薬Gを飲むシェリー。

「(…イャンクックの利き足はね、『右足』なんだよ)」

自分だって、何とかしなきゃっていけないのは分かっている。 
この、老山龍の弱点が何かないかと、さっきから、いろいろ試してはいるのだ。

…だが、それが、見つからない。

そもそも、老山龍は、生物であるはずなのに、生物という感じが全くしない。
さっきから攻撃を加えている顎下は、ディキシーと自分の攻撃で、既にズタズタに切り裂かれ、体液も滴っている。
生物なら、これで痛くない訳はなかろう。

だのに、老山龍は、そんな外傷を気にとめる事もなく、無頓着に進軍を続けている。 
痛みを感じる神経がないのだろうか。

村長は、この老山龍には、知性と敵意があると言っていた。
それはシェリーも感じている。
槍でのラッシュを繰り出すと、老山龍は頻繁にこちらに反撃してくるし、かと言って、攻撃を控えめにすると、おかまいなしに進軍してくる。
シェリーを邪魔な敵として認識しているのは間違いない。

しかし、この老山龍の攻撃してくるタイミングが分からないのだ。
嵐のような攻撃を繰り出しても無反応かと思いきや、たった今さっきのように、いきなり機先を征され、攻撃される事もままあった。

モンスターでなら…。 
いや、野生生物でなら、攻撃を喰って痛みを与えられてから、初めて反撃してくる。
それはイャンクックでも、ゲリョスでもそうであり、それが普通の反応だと思う。

だが、この老山龍はそうではなかった。
まるで高度なフェイントを織り交ぜているかのように、攻撃のタイミングを読ませない。

攻撃のモーションそのものは大振りなので、見てから対応はできるのだが、攻撃範囲が広すぎて避けきれないのだ。

もっと、明確な攻撃の予兆、あるいは、安全な立ち位置。
…クックの時のように、反撃を受けるタイミングが事前に分かればと思っているのに、シェリーにはそれがさっぱり分からない。

「(…イャンクックの利き足はね、『右足』なんだよ)」

もしかすると、本当に、踏み出す足が関係しているのでは、と思った事もあった。
攻撃頻度を抑え、老山龍の脚を観察していた事もあったが、全くのランダムだった。 
踏み出す脚と攻撃の関連性は全くないと分かった時に、また絶望した。

「(…イャンクックの利き足はね、『右足』なんだよ)」

だから、この青年の声は、自分の心の悲鳴。
誰かに助けて欲しいと願っている、自分の心の弱さ。
それが、やかましいほどに心に響いてくる。

「バカ、バカ…! あの人は、もう居ないの! 自分で、戦うって、自分で言ったでしょう!? 名誉を取り戻すって、言ったでしょう! なら、戦いなさいよ、シェリー!」

弱さに怯える自分を恥じ、浮かんだ言葉を直接口にする事で、自分に喝を入れる。
肖像画の父の姿を思い浮かべ、必死に槍を繰り出すが、驚くほど槍は通らない。
イャンクックやゲリョスにはあんなに簡単に通っていたのに、ちょっと気が緩んだだけで、岩山龍にはガツンガツンと弾かれる。

その頼りなさに、本当に、父は、こんな槍を使って戦っていたのだろうか、という疑念が黒雲のように沸き上がる。

いっその事、さっきみたいに腹下に潜り込んで攻撃しようかとも思うのだが、あのタッシュの悲惨な姿は見た。 
どういう経緯で腹下に居て踏まれたのかは不明だが、あんな致命的な外傷を負う可能性があるのであれば、もはや、安全に戦える場所とはいえない。

でも、それも怯えなのか。
本当に勇気をもって戦うのなら、命の危険を省みず、腹下に潜り込んで戦うべきなのか。

戦わなくちゃ…!
勇気を見せるんだ…!
行け、行くんだ、シェリー…!

自分を内心でそう叱咤するが、震える脚は全く前に出ない。

「(どうして…!?)」

戦わなくちゃと分かっているのに、手も足も思い通りに動いてくれない。

「(戦わなければ…。 戦わなければ、誰も私を、認めてくれないのに…)」

そう思った瞬間、シェリーの横顔に何かがバチャリとかかる。
驚きに呼吸をした瞬間、シェリーの全身を吐き気と激痛が襲う。
見れば、いつの間にか、複数の怪鳥が、シェリーの周りを取り囲むように旋回していた。

「(しまった…!)」

老山龍の攻撃のタイミングを計るのと、自分の恐怖心を押し殺すのに必死で、この怪鳥の事はすっかり意識から外れていた。

すかさずバックステップで岩山龍から距離を取り、包囲を突破しようとしたシェリーだったが、その逃げた先にも怪鳥が居て、背後から滑空攻撃で転ばさせてくる。

「(まずい、このままじゃ脱出できなくなる…!)」

周囲を見回して視認できた数は5匹だが、時間を掛ければ数が増えないとも限らない。
そう思ったシェリーは、すかさず立ち上がり、目の前の怪鳥に上突きで反撃する。 とりあえず、包囲に綻びを作らなくては…!!
相手に狙いを絞らせないように、細かくステップを刻みながら、攻撃を続けるシェリーだったが、怪鳥は「獲物」のそんな姿を見るや、たちまち攻撃方法を変更する。

「きゃああっ!」

全部のガブラスが、まずは獲物の動きを止めようと、毒液を吐き出してきた。
狙いは雑だったが、数が多い。
四方から吐寫物の混じった毒液を次々と浴びせかけられ、瞬く間にシェリーの上半身が紫に染まる。
急激にこみ上げてくる嘔吐感と、全身を掛け巡る激痛。
逃げなきゃ、と意識の奥底では分かっているが、手足に力を入れても、猛烈な筋肉痛に襲われ、起きあがれない。
瞬く間に体力を奪い尽くされ、シェリーはその場に転ぶように突っ伏した。

「(やだ…。 こんな所で、こんな終わり方を、するなんて…。)」

視界の隅に、あの怪鳥の姿が見える。
そして、ギョオォォ、という不快な声。
歓声なのだろう。 遂に獲物をしとめたぞ、という。

「(いやだ…。)」

不意に、涙が出てきた。
父の名誉を取り戻そうと思って、勇気を振り絞って挑んだのに、老山龍どころか、こんな所で、こんな雑魚にやられるなんて…。

「(いやだ…。 何で、何でこんな、事に…。)」

自分が、たまらなく惨めに思えた。

今まで村の人間から虐げられてきたのはまだ良い。
良いことなど何一つなかったのも、我慢できた。
誰に否定されようと、それでも自分は、ギルドナイトの娘だと信じていたから。
それをこの場で証明するつもりだった。

でも、結局父と母の名誉を守る事はできなかった。
そして、自分の最期が、こんなモンスターの餌だとは。

「(これが私の人生の結末なの)」と自問自答した時に、そうかもしれない、と思った。

だって、そうだろう。
私は、ギルドナイトを自称していた男の娘なのだから。
貴族はおろか、何とも知れぬ素性の娘。
そう、本当の自分は、やはり盗賊や詐欺師、あるいは奴隷の娘だったのかもしれない…。

だから、この結末こそが、自分の運命にふさわしく用意された、最後の頁なのかもしれない。

だけど、シェリーは、その運命を、どうしても受け入れられなかった。

「あの人」と、一緒に過ごした3日間の、輝くような日々…。
都合の良い妄想かもしれないが、あれこそが、自分の本当の生活なのだと思いたかった。
彼がかけてくれた、「自分は弱くない」って言ってくれた言葉を信じたかった。
そして、自分の心の中に残る、傷ついたままの蕾…。

そう、自分には、まだその花が咲く希望が残っていると、信じたかったのに…!!

「(やだ…。 こんなの、嫌だよ…! 誰か、誰か、助けて…!!)」

大腿部と左腕に、鋭い激痛が走る。
鎧の隙間、肌が露出している部分に、ガブラスが噛みついてきたのだ。
肉に牙が深々と食い込み、喰われ引きむしられる激痛に、思わずボロボロと涙が出てきた。

「ぐぅっ…! …だ、」

彼女の苦悶の呻きを覆い尽くすように、全てのガブラスが、シェリーに襲いかかったその時。

「誰かぁっ…!!」


ガガガガ、という機銃掃射が、シェリーのうつ伏せている空間を一斉に薙ぎ払った。

怪鳥の翼がバタバタと音を立ててシェリーの顔に覆い被さってくる中、誰かが胴に手を回し、既に死骸となったガブラスの群れの中から、シェリーを引きずりだし、抱えこんで安全圏へと跳躍する。

その腕の力強さには覚えがあった。
薄闇の中、なお輝く純白の鎧と、翻る深紅のマント。
右脇に抱え込んだ、今も銃口から硝煙を吐き出すその鈍色の重銃は、まぎれもなく「アルバレスト改」。

「…!」

彼女の顔が、一瞬、歓喜に輝く。
間違うはずがあろうか。
彼女が最も望んでいた「その人」を。

だが、次の瞬間、「その人」の姿を見たシェリーの歓喜の表情は、驚愕へと変化した。

彼…「A GUNNER」は、まるで、石碑に花を捧げるかのように、丁寧にシェリーを峡谷道の端へと下ろす。
なるほどその紳士的な仕草は、確かに彼のものだった。
だが、シェリーを救い出した彼の姿は、彼女の記憶とは、全くかけ離れた容姿をしていた。

最初に目に止まり、そして印象的だったのが、まるで世界の全てを憎んでいるかのような、悪鬼のような表情の仮面。
あの人の良い、柔らかく朗らかな笑顔はどこにもない。
そして、助け出された瞬間には気づかなかったが、青年の全身から轟々と伝わってくる、「それ」が彼女を戦慄させた。

「(な、何これ…!?)」

ハンターは素人である自分にですら、分かる。
彼の全身から放たれる、まるで吹き付ける突風のように、圧倒的な量と密度を持つ覇気。
真に強い野生生物だけが持つ、孤高にしてあの独特の雰囲気を、彼は全身から存分に発散させていた。

その凄まじさに、シェリーの背筋がゾクゾクとわななく。
逆らえば容赦なく殺される、絶対に従順であるしかない。
そんな本能の悲鳴が、シェリーの脳髄のどこかで、小さく囁いた。

こ、これが…。
彼の本当の姿、そして「本物の」ギルドナイト。
いくつもの狩り場を生き抜いてきた、真の「モンスターハンター」…。

「何をやってる!? お前一人で『岩山龍』と戦うなんて、無茶にもほどがあるぞッ!」

突然の、彼の雷鳴のような喝に、シェリーの全身は一瞬大きく震えた。

「だ、だって、お父さんの…。 名誉を…。」

…?
 
不意に、シェリーの両の瞳から、再び涙がボロボロと出てくる。

「名誉もクソもあるかッ! 『アイアンランス』如きで、『岩山龍』に勝てるはずがないだろうッ!? 望んで死ににいくようなものだぞ! それとも、そんな過ぎた栄光にすがり続ける事が、お前の望みか? …いい加減、目を覚ませッ!」

雷鳴のような喝を立て続けに浴び、シェリーの全身は、まさに雷に打たれたかのように、軽く痙攣さえした。
そして、訳も分からぬまま滂沱の如く溢れ出す涙。

何、何なの? この涙は…?

「だって…。 だって…。」

後はもう言葉にならない。 

「A GUNNER」は、しばらくその様子を見ていたが、ため息をつくと、シェリーの前に膝をつく。

そして、子供のように泣きじゃくるシェリーの顔を、その両手でそっと抱えると、その瞳を見て、静かに言った。


「…死んでほしくないんだ」

「…え?」

シェリーは、彼の言った言葉の意味が掴めなかった。
それは、単純に命をもっと大事にしろ、という意味なのか。
それとも、ギルドナイトである自分の前では、死者は出させない、という意味か。

…それとも。 彼は、自分に…?

だが、その真意を問いただそうとする前に、彼は立ち上がると、背後を無表情で通り過ぎる巨龍に向きなおり、断言した。

「とにかく、村に戻るんだ、シェリー…。 コイツは、お前等の手に負える相手じゃない」
「…? ど、どういう事…?」
「コイツの名前は、『岩山龍』…。 この村を、過去襲撃した『老山龍』よりも、遙かにやっかいな相手だ」
「ま、待って…! そんな、じゃあ、どうするの!? あなた、老山龍でも厳しい相手だって言ったわよね? それよりもやっかいな相手だなんて…!」

だが、青年は立ち上がると、ポーチから大きめの弾丸を取り出し、手早く弾装に込める。

「心配するな」

そして、リロード。
レバーを引くと、弾装に込められた弾丸が内部でスライドして、薬室に送り込まれ、カシン、というわずかな音を立てて、発射準備が完成する。

彼はシェリーに背を向けたまま、静かに、だが超然と言い放った。

「奴は、俺が倒す」

「…!?」

「だから、お前は村に戻れ」

「…。」

「戻るんだっ! さぁ、シェリー!」

荒ぶる衝動を、無理に抑え込んでいるのが伝わってきた。
野獣のように変わっても、彼の本質は、彼のままだった。

シェリーは、よろよろと立ち上がると、アイアンランスを折り畳んで、村への近道を辿るため、林道へ向かう。

「…死なないで! 絶対に、生きて帰ってきてね!」

青年は後ろ姿のまま、銃を軽く振って応えた。


<続く>
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丼$魔

Author:丼$魔
モンスターハンターをこよなく愛する熱・血・猿。

しかしどういう経緯を辿ったか、最近はオリジナル小説を更新中。

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